面白く書く事ができれば良いのですが。
「ケヒヒヒヒ……」
それなりに値の張ったスケートボードを無造作に放り捨ててドカリ、とソファーに座り込む。今日はかなり滑りまくったからかなり疲れた。
夕日の差し込む家の一室、上着のフードも取らずに顔を隠したまま冷えた水を飲み、届いていた宅配物に目を通す。
「……あん?」
ふと、1つの封筒を手に取る。
上等な羊皮紙を使用した封筒だったが、封は蝋を使用した物だ。
上手く言い表すことが出来ないが、他に比べると明らかに妙な手紙だった。
「……んだよ、コレ」
開封し、入った紙を開く。
すると……
親愛なるレネ·ショーペンハウアー
この度は、貴殿のホグワーツ魔法魔術学校への入学をお知らせでき、嬉しく思います。
必要な本や道具のリストを同封したのでお確かめ下さい。
同封された紙には鍋や教科書、杖といった物品が書かれていた。
ここで大きく首を捻る事になった。
「魔法……学校だと?」
宛てた名前はレネ·ショーペンハウアー……俺の名だ、間違いない。
学校は消えた母親から入学を止められていた……のは置いておくとして、魔法学校ときたか。あまりにもおかしな話だ。
只のイタズラか、と思い手紙を手放す。
「クソ親父め」
ニヤニヤとした顔でそんな侮辱を吐き、もう1枚の手紙を取る。やはり親父からの手紙だ。
「……は?」
笑みは消え失せ、口をあんぐりと開いたまま手紙を取り落とす。その手紙には……
我が息子へ
すまん、すっかり忘れていたがお前にホグワーツからの入学招待状が届く頃だったと思う。11になったんだからな……まてよ、10だったか?
まあそれは置いておこう、お前をビックリさせるために魔法はずっと内緒にしていたんだ!ホグワーツに入学する為に普通の学校へ行かせる訳にはいかなくてなぁ、兎に角母さんは離れられないだろうから俺様が準備の為に迎えに行ってやりたかったが、そうはいかないので代わりを寄越す。
899のカギも同封する、大事に持っていろよ!
お前の愛する父より
数秒間の硬直、立ち尽くす俺。
つまりだ、整理すると……俺は魔法学校に入るということだ。親父はそれを隠していた。
「………………」
纏めてみると、改めて異常な状況に置かれている事が分かる。ドッキリか?手の込んだ冗談?
色々な考えが頭を巡り、自分で何をすれば良いのか分からなくなったしまった。
次の日、午前中ながら俺の目はこれ以上に無いほど冴えていた。勿論、2枚の手紙のせいだ。
取り敢えずメシでもと、着火していないタバコを咥えながら冷蔵庫から豆とベーコンを取り出した直後、ドアのノックが聞こえた。
「まさか……」
食材を冷蔵庫に放り込み、タバコを仕舞ってがちゃりと慎重にドアを開けてみると、相当に年齢を重ねた様な魔女が立っていた。……いやおかしい、魔女なんてこの世に居るわけねえ。昨日の手紙で舞い上がってるだけだ、俺が間違えたのはそれっぽい帽子とローブ着てるコイツが悪いんだ。こういうのはなんと言うのだったか?確か……`干し草の中の針を探す`っつうんだったか。そう、多分それだ。この間実に0.2秒。
「レネ·ショーペンハウアー?」
「……ああ」
「ホグワーツの使いです」
……マジか?マジかマジかマジか!?
大人の本気のドッキリとでも考えた方が余程正気の筈だが、ここまで真に迫ると流石に疑うより強い感情が生まれる。
「……ショーペンハウアー?」
「……サイッコーだぜ親父ぃ……!」
気の赴くまま、思い切り胸の内をぶちまけた。
「私はミネルバ·マクゴナガル、副校長兼変身術の授業を受け持っています」
「あー、あの、マジで魔法ってあんの?」
部屋に招き入れたホグワーツの使いマクゴナガルの自己紹介に対して問い掛ける。するとマクゴナガルは眉を潜めた。
「エッケハルトから聞いてないのですか?」
「ああ……コレだ」
マクゴナガルに昨日の親父の手紙を渡す。読めば読むほどマクゴナガルの眉間のシワがマリアナ海溝に近くなる。
「学生時代からちっとも変わってないのですね……エッケハルト」
「もしや親父にも魔法を教えていたのか?」
「ええ、その通り……何事にも非常に適当で放浪癖があるという点で有名でしたね」
「まあそうか、俺だって顔すら覚えてない」
ウンウンとにやつきながら相槌を打つ。物心ついた時から親父を見たことはない。息子にすら会ってないのは放浪癖で済ませて良いものか。
「待ってください、トルーディは……貴方の母親は4年前に失踪した筈です。その年齢でずっと1人で過ごしてきたと?」
「そうだが?まあ、このトシでも雇ってくれる`いい職場`もあったしな……多分、親父はおふくろが失踪した事すら気づいてないぞ」
「………………」
信じられない、といった目で見つめられる。
まぁもう慣れたし、金は送られてくるから問題なく生きてはいけた。遊ぶ金が足りなくてグレーなバイトをしてやりくりしているが。
「礼儀がなっていないと思っていましたが……むしろ、その程度で済んで良かったですね」
「おっと、コイツは失礼」
「私はこの状況を知っているのである程度なら許容はします。が、他の先生の前ではしっかりと礼節を弁えるのですよ」
これには少し驚いた。マクゴナガルはかなり厳格なイメージがあったが融通が効く。顔だけを見て決め付けただけだったが。
「では、行きましょうか」
「あぁ?何処にだ?」
「ダイアゴン横丁、ロンドンへ」
昨日の今日だがやはり驚く、ロンドンはイギリスにある筈だ。かなり移動時間がある……少なくとも1,000kmは離れている。だが断る気は更々無かった。
「気が早えな……遠出の準備をしてくる」
「その必要はありません、普通の外出の準備で構いませんよ。この手紙に書いてある鍵も忘れずに持っていく様に」
「はあ?」
間抜けな顔で返事する。が、思い直して言われた通りに準備する。1分も掛からない。
「それでは私の腕をしっかりと掴んで、決して到着する迄手を放してはいけませんよ」
「……ああ」
これまた言われた通りにする。というのも、今からやろうとしている事に興味津々で心臓が跳ね回りそうな程鼓動が激しい。
「しかし、今更ながら何故自室でフードを被っているのですか?」
「暗いのが好きなんだよ」
「ふむ……まあ良いでしょう」
その瞬間、景色が……言い表せないような目まぐるしい変化を遂げたかと思ったら、急に眩い光が輝き、咄嗟に目を閉じた。
「うおっ!?」
続いて落下する様な感覚に見舞われ、手をついて跳ね起きる。見回してみると、知らない大通りに立っていた。
「……なあ、まさかとは思うが……ここはロンドンか?」
「ええそうですよ。ダイアゴン横丁、必要な物はここで全て揃うでしょう」
あっさり答えるマクゴナガルには目もくれず、目をギラつかせながら大通りを見回す。異常だった、よく分からない物のビン詰めや妙な形の鍋っぽいものが並ぶ店やら、俺よりも2回りは小柄なのに顔はそれなりの年齢を重ねている通行人に至るまでが興味を引いた。
「見て回りたい気持ちは分かりますが、先にやることがあります。着いてきて下さい」
「……ああ」
間違いない、瞬間移動といいこの街並みといい、魔法は存在すると認めざるを得ない。
だがここに来て驚きよりも大きな感情が芽生えていた。それは歓び──
「今までの生活も悪くはなかったが……俺はこれから魔法を学ばせて貰える訳だな?」
「そういう事になります。優良な模範生となる事を期待していますよ」
「ク──クケケケケケッ」
そんな言葉を発しながらもこっちを振り返らないマクゴナガルを見て笑いを漏らす。期待なんてしていないのかマニュアル通りの言葉だからか。そうこうしている内にある建物の前で立ち止まった。
「グリンゴッツ銀行、まずは勉強に必要な物を揃える為にお金を引き出します」
「あー、滅茶苦茶言いにくいんだが……持ち合わせはあんまりないぜ?」
「問題ありません、鍵はありますね?」
そう言われて上着のポケットから親父から送られてきた鍵を取り出す。
「恐らくエッケハルトが必要な額を用意してくれている筈です、金庫を見てみましょう」
「あの親父が?残してくれている?」
「少なくともあの文章を見る限りでは貴方を愛している筈、であれば心配はいりません」
「俺のトシすら曖昧なのに?」
「………………」
これにはマクゴナガルも何も言えなかった。簡単な話、そういう面で親父は信用が無い。
「ご用件は?」
「金庫へ」
「畏まりました」
入り口近くで待機していたしわくちゃ顔の小人の後に続く。無愛想ながら礼節は完璧だった。まるで俺と正反対だ、等と考えながら小人達のお辞儀を尻目に、エレベーターから降りて暫く歩くと妙な空間に出た。
妙な乗り物の左右にはレールが敷かれており、暗くて奥は全く見えない。
「番号は?」
「あー、899だ」
恐らくコレだと思われる番号を伝えると小人がガチャリと装置を動かし、足場がゆっくりと奥へ向かって動き出す。
「……スッゲェ……」
「………………」
思わず漏れた感嘆の声にマクゴナガルは反応しなかった。
と、小人がこっちに向かって手を差し出す。
「鍵を拝借」
「あ?ああ」
その小さな手に鍵を乗せる。よくよく見てみると小人と言うには指が長い……小人と言うよりかは別の種族なんじゃあないか。
足場が止まると同時に小人は重厚な扉の鍵を開き、俺達の方に向き直る。金庫の中へと先に進んだのはマクゴナガルだった。
「へぇ、これは……」
「………………」
俺も無言で金庫の扉をくぐると、中は小ぢんまりとした空間となっており、中央に金貨の小さな山が置いてあった。
見たこともない金貨だった。こっちとあっちでは通貨がまるで違うという事か。小人も中へと入ってきて口を開いた。
「730ガリオン、この金庫の持ち主は毎月10ガリオン程づつ入金に来ておりました」
「中々の大金ですね、エッケハルトとしては上出来な額を……おや?」
マクゴナガルが部屋の奥を見る。
よくよく目を凝らして見ると、何やら金貨の向こう側に黒い物が見えた。薄明かりで照らされてはいるが、それでも何があるのか分からない程真っ黒な物体だった。
「なんだコリャ?」
拾い上げてみるとそれは布だった。それも3枚ある。ある程度明るい場所に持っていっても見た目が分からない。光を全て吸収してしまう程の黒さだったのだ。
「その形は……ローブの様ですが」
「ローブ?」
言われてみれば確かに、この大きさは恐らく衣類だという事が分かった。着てみるべきだろうか?等と思いながらもう一枚のローブを手に取ってみると、はらりと紙が1枚地面に落ちた。
それはまたしても手紙であり、クソ親父の直筆で書かれていた。
愛する息子へ
入学祝いにこのローブをお前に託す。俺様の自作だが、値段の付けられない改心の出来だと自負している。どうか大切にしてくれ。
短い文章だったが俺へのプレゼントだという事が分かった。手紙をマクゴナガルに渡すと表情を和らげ、嬉しそうに口を開く。
「着てみなさい、きっと良いものですよ」
「そうか?そんじゃあ早速……」
いそいそと上着を脱いでローブの袖に手を通す。あまりに黒いせいで袖が何処にあるのか分からず苦労したが、なんとか着用出来た。
「どうだ?変じゃないか?」
「ええ、ええ、よく似合っていますよ。どこからどう見ても魔法使い見習いですね」
「見習い、か……ケケケケ」
その感想は当たり前だった。明らかに俺の身長で身に付けるには大きすぎるローブだったから、フードも袖もかなり大きいのだ。しょうがねえなと思いながらローブのポケットに手を突っ込んだその時──
「は?」
「え?」
ポケットの内部で擦れる筈だった布が無く、手が空を切ったのだ。
展開が早いですが、これもまた仕方がない。
一人称視点なので情報は少しずつ段階を踏んで開示していきます。