ハリー·ポッターと不遜な悪童   作:麻婆牛乳

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物も人も

「面白えな、こりゃあ!」

 

闇夜そのものと言えるローブを翻し、フードに隠れた顔からギザギザの歯を剥き出して笑いながらダイアゴン横丁へと戻ってきた。

更にこのローブには<物入れ>としての機能が付与されているらしく、ポケットはおろか裏地にまで様々な物を詰め込む事が出来たのである。先程まで着ていた上着に残ったローブ2着、金貨の3分の1程を詰めてみたが、ローブの重量は変わらない。俺はこのローブを大層気に入った。

 

「窃盗には気を付ける事ですね、そのローブは手紙の通り価値が付けられません」

「マジで?アンタ……いや、先生サマ程の年季が入った魔女でもそう思うか?」

「ええ、その通り……さあ、次は教科書です」

 

ある意味で目立つローブで通行人の目を釘付けに、フローリッシュ·アンド·ブロッツ書店と書かれた店の前に立つ。しかし店名は全然気にせず、中に入ってあちこちを見回した。

 

「教科書ってのは全部買うのか?」

「必要のない授業もありますが、兎に角この7年間で使うものは全て購入します」

「そうか……7年間!?」

 

驚く俺に奇怪そうな目を向けるマクゴナガル。

7年間、つまりは18になる迄は学校に通い続けなければならないという事──

 

「……暇潰しになりそうな本でも買うか」

「ホグワーツには図書館があります。それを見てからの方が良いと思いますが?」

「いやいい、2冊位見繕う」

 

そうして数分後、山のように積まれた教科書に加えて<決闘の歴史>及び<多種多様な魔法薬>と書かれた分厚い本を購入し、すぐさまローブの中へと全て詰め込んだ。荷物の気にならない買い物は素晴らしいものだ。

次は鍋を選ぶ番だったが、これは素人目には全く分からなかったのでマクゴナガルに選んでもらう事にした。

 

「あの勝手にかき混ぜる機能の付いた鍋とか、面白えな……」

「あれは客寄せ商品、買うのは富豪や大量生産を要する者、そして愚か者ですね」

「む、俺の事か?」

「いいえ、貴方は目新しい物に目を奪われただけですよ……ふむ、これが良いでしょう」

 

そうしてなんとも飾り気の無い鍋を購入、ローブの裏地に放り込む。何でも入るなコレ。

便利なローブに感心していると、とある店に目が止まった。イーロップふくろう百貨店だ。

 

「ありゃあ……フクロウ専門店か?」

「ええ、興味があるのですか?」

「いやまあ……フクロウだけの専門店ならな、ペット専門店ならまだしも」

「ふくろうは魔法界の連絡手段でもありますからね、見ていきますか?」

 

これに二つ返事で了承し、店内へ足を運ぶ。

その途端、店内の数十匹のフクロウ達がこちらを見て後ずさった。

 

「おーおー、俺嫌われてる?」

「いえ、怪しんでいるのだと思われますね……いらっしゃいませ」

 

店員が困った顔をしながら声を掛けてくる。しかし俺は肩を竦めて首を振った。

 

「こりゃハズレだったかな」

「まあ見ていって下さいよ。マクゴナガル先生といらっしゃったという事は学校に連れていくペット探しですね?」

「は?」

 

学校に……連れていく……!?なんなんだ、学校にペットとか何でもありかよ……とか思っていた所でマクゴナガルが口を開いた。

 

「全寮制の学校ですからね、手紙や荷物を運ぶ為にふくろうを飼うことをお勧めします」

 

全寮制……そうか、ホグワーツは全寮制か。

きっと親父は手紙を送ってくるだろう、それならばフクロウは必要になるかもしれない。

 

「とはいえ、全部ビビっている様だが?」

「……いいえ?」

 

店員は首を横に向けてニヤリと笑う。つられて見てみれば、1羽のフクロウと目が合った。

 

「……へぇ」

 

近寄ってみるが、周りのフクロウは全て逃げていくのに対し、コイツは逃げるどころか俺を見つめたまま動かなかった。

 

「コイツ、くれよ」

「毎度!」

 

こうして1羽のワシミミズクを鳥かごに入れ、飼育に必要な物を一通り揃えて俺とマクゴナガルは店を後にした。流石にコイツはローブに入れる訳にはいかないだろう。

と、マクゴナガルが何かを見つけた様で、そちらの方に歩いていくので後を追った。

 

「フリットウィック先生」

「ああマクゴナガル先生、貴女も案内を?」

 

そう言って軽くお辞儀をしたのは背丈が小さいが小綺麗な身だしなみをしたおっさんだった。先生という事は俺もコイツから学ぶのか。

マクゴナガルは少し話し込んでしまったので、向こうの案内されていた生徒を見やると、家族連れの茶髪の女が俺を見るなりギョッとした顔をしたので少し吹き出しそうになった。

 

「テメェも新入生か?」

「え、ええそうよ……という事は貴方も新入生なの?何故フードを被っているの?」

「別に被っちゃいけねぇ法律はねぇだろうよ」

 

キシシ、と笑ってみれば女は出会いたくなかった、と言いたげな目で俺を見る。あーあ、学校が始まる前から嫌われちまったか?

 

「ま、学校で会ったら宜しく頼むぜ」

「……ええ」

 

表情とは真逆な返答を聞き、マクゴナガルの方を見るとマダム·マルキンの洋装店という看板の掲げられた店の前に立っていた。話が終わるまで律儀に待ってくれている。

そちらに歩きながら手を振り、じゃあなと言ってその場を後にした。

 

「待たせたな」

「構いません、親交を深めるのは良いことですからね」

「深まったのは明らかに溝なんだが?」

「確かに……マグルにとって貴方は余りにも不審な立ち振舞いですからね」

 

マダム·マルキンはてきぱきとマクゴナガルと話している俺の体を採寸し、シャツにズボン、ネクタイや靴まで見繕ってくれた。

その間に「ネクタイの締め方なんて知らない。ネクタイ`で`締めるなら得意だが」等と言うべきではなかった。言った時のマクゴナガルとマルキンの顔で5分間は笑いが堪えられなくなったからだ。

 

「ギャーッハッハッハ!将来が心配だなぁ!」

「……全くです、他の生徒に悪影響が出なければ良いのですが」

 

妙に上機嫌な俺と態度には出さずともげんなりとした雰囲気のマクゴナガルは最後に買い物をする店に辿り着いた。

オリバンダーの店、紀元前382年創業……恐ろしい程昔から存在しているだけあって店は相応にボロっちい。

 

「いらっしゃいませ……おおミネルバ!モミにドラゴンの心臓の琴線24cm、非常に堅い!」

「お変わりなく、オリバンダー」

 

やや困ったようにマクゴナガルは眉を下げた。目の前のじいさんは嬉しそうな顔をしてこっちの方を向いた。

 

「今日はその子の杖選びじゃな?」

「杖腕は右です、お任せしますよ」

 

杖腕?杖腕ってなんだ?と思ったが恐らく利き腕であろう事を察し、右手に持った鳥かごを入り口辺りに置いた。

 

「それでは腕を拝借……ふむ、ふむふむふむ」

「面白え杖を頼むぜ、じいさん」

 

オリバンダーはにっこりと笑い、棚から1本の杖を取り出してこちらに持ち手を向ける。

 

「まずはこれで小手調べ、マツにユニコーンの毛28cm、安定性重視……振ってみてご覧」

 

杖を受け取って無造作に振ってみると、つむじ風が起こって紙が顔に張り付いた。

 

「ぶえっ、風が出た!」

「ふーむ合わぬか……ハナミズキにドラゴンの心臓の琴線26cm、イタズラ小僧」

 

受け取って振ってみるとマクゴナガルのトンガリ帽子が飛んだ。帽子が床に落ち、入り口のワシミミズクがホゥ、と鳴いた。むせた。

 

「リンボクにドラゴンの心臓の琴線28cm、生まれながらの戦士」

 

これまた振ってみると、火の粉が飛んで棚に火がつきそうになったがマクゴナガルが杖を振って消し止めた。

 

「ふむ、ヤマナラシにユニコーンの毛32cm、小さな争い事に向く」

 

3秒後、店は何も見えないほどの閃光に包まれたがすぐに収束していく。オリバンダーはうんうんと頷いた。

 

「成る程、この子は戦闘向きじゃな。しかしこの杖も合っているとは言い難いのう……名前を聞いても宜しいかな?」

「俺か?レネ·ショーペンハウアーだ」

「ほう、エッケハルトの子か!リンボクにドラゴンの心臓の琴線36cm、忠誠の騎士!」

 

オリバンダーは後ろから箱を取り出して、中から彫刻が成された杖を取り出す。

 

「彼の子でありその佇まい、ならばこの杖が正解であろう!レッドオークにドラゴンの心臓の琴線38cm、まことに気難しい!」

 

テンションの高いオリバンダーから杖を受け取ると、その瞬間杖は青い光に包まれ店内が青い炎に包まれる。マクゴナガルが急いで杖を取り出したが炎は虚像だった様で店を焼く事はなく、完全に俺達3人を包み込んだ。

 

「素晴らしい!こんな光景は初めてじゃ!」

 

そう叫んだオリバンダーは俺の手から杖を抜き取ると青い炎は嘘のように消え失せ、箱に仕舞った杖を差し出した。

 

「レッドオークは身軽で器用な所有者に向くのじゃが、ドラゴンの心臓の琴線と合わせたこの杖の所有者は極めて稀。君は特別じゃよ」

「へぇ……嬉しいねぇ」

 

代金は8ガリオン、これまで買った物の中で一番高額だったが全く惜しくない。細長い箱を前ポケットに押し込んでオリバンダーに向き直る。

 

「あんがとよじいさん、長生きしろよ」

「ありかとうございました」

 

キチンと礼を返すオリバンダーを尻目に、鳥かごを持って店を出た。

これで買い物は全て終わりであり、欠伸を噛み殺しながらマクゴナガルに問いかける。

 

「買っておいた方がいいものとかあるか?」

「そうですね……持ってはいないでしょうから羽ペンやインク等の筆記用具等の小物は買っておいた方が良いでしょう」

 

そうして俺は筆記用具店で必要な物を購入し、それとは別に好奇心に負けて魔法薬材料店に入っていた。様々な物がビンに入って並ぶ光景に俺のテンションは昂っていた。

 

「すっげぇ!魔法使いの店みてぇだ!」

「まごうことなき魔法使いの店ですよ」

 

よく分からん蛇の脱け殻や酢漬けナメクジ、乾燥した草等使い方が分からなくても見ているだけで面白く、目を輝かせて店内を歩き回った。

 

「コレ買ってもいいのか!?いいよな!?」

「構いませんが……魔法薬を外で作るのは禁止されていますよ?」

「大丈夫!並べて楽しむだけだ!」

「………………」

 

呆れ顔のマクゴナガルを無視して次々と購入していく、こういう怪しげな物は見ているだけでも楽しいものなのだ。

ついでに騒いだせいで嫌そうな顔をしていた店員も、店を出る頃には大量購入のお陰でとても嬉しそうな顔になっていた。

 

「それでは最後に、ホグワーツへの行き方を教えて終わりにしましょう」

「ん?この辺じゃないのか?」

「ええ、ここからは少し離れていますからね。よく見ていて下さい」

 

そう言いながらマクゴナガルは杖で壁を軽く叩くと、ひとりでに煉瓦の壁が開いていく。煉瓦の向こう側は妙な雰囲気の酒場と繋がっていた。

 

「隠れた道か、面白えな……」

「おや先生、また新入生の案内ですな?」

「ええ、まだ数名は案内する予定です」

 

店主にそれだけを言い残してマクゴナガルはさっさと歩いていく。酒場の空気が苦手か、合わないのだろう。

俺は店をぐるりと眺め、店主に聞いてみた。

 

「ここの客は全員魔法使いなのか?」

「今のところはな、存在さえ知っていればマグルでも入ることは出来るがね」

「マグル?なんだそりゃ」

「魔法使いじゃあない者の総称さ、先生が待っているから行っておいで」

 

入り口の方を見るとマクゴナガルがこちらを見て待っている、とことん律儀な性格だ。悪い悪いと謝罪しながら外に出ると、車やスーツを纏った通行人が行き交う、見慣れた光景があった。

 

「向こうの方にキングス·クロスという駅があります。そこからこの切符で列車に乗ってホグワーツまで一直線です」

「……あれ、この切符おかしくねぇか?」

 

手渡された切符には9と3と4が妙な配置で刻印されている。行き先も書いておらず、どう見ても切符には見えなかった。

 

「その切符を持って……そうですね、9番線と10番線の間で他の生徒達を待っているのが良いでしょう。この格好で駅まで行くのは人目を引きますからね」

「もう今更じゃねえか?」

 

そう、もう俺達は大通りに出ている。運が良いのか誰にも見られている様子は無いが。

 

「ここなら大丈夫です。この<漏れ鍋>は知っている者にしか認識できませんからね」

「……つくづく便利だなぁ」

 

嘘みたいな実体験の数々、これを毎日経験すると思うと……笑みを溢さずにはいられない。

1日でも早く、ホグワーツとやらに行きたくて仕方がなかった。

 

「では、腕を握って」

「ククク……あいよ」

 

鳥かごを抱え、片手でマクゴナガルに掴まる。この瞬間移動はもう驚く事はなかった。

……鳥かごの中で硬直する友人を除いては。

家に到着して時計を確認すると、まだ昼間になろうとしている所だった。

 

「9月1日、ホグワーツ行きの列車は切符に書いてある時間通りに発車します。少々遠いですが大丈夫ですか?」

「ああ、前日に移動してロンドンのホテルにでも予約して泊まるさ」

「それでは最後に、魔法を使いたい気持ちは分かりますが、こちらで魔法を使うと魔法省から厳罰を下される事となります。隠れて使おうとしても分かるので絶対に使用してはいけませんよ?」

「………………………………………………………………………………ああ」

「……絶対に守って下さいね?」

 

滅茶苦茶悩んだ末に返答した俺を見て、心配そうな顔を残してマクゴナガルは消えていった。

今日は8月2日、長い長い1ヶ月の始まりだ。

 


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