眠らずのぼっち   作:コーラ味

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難産。


第2話

学校を出て15分弱。

そこに比企谷家の新たな住まいがある。といってもマンションだが。

 

「たでーま」

「およ?」

 

扉を開けると、奥から妹の声が聞こえてくる。

リビングに行けば、薄着のまま寝そべりながらペットのかまくらをうりうりしている少女、比企谷小町がいた。

将来美人になると確信をもって言える、自慢の妹だ。

 

「お帰り〜お兄ちゃん。今日は遅かったね、寄り道?道端でバムスターでも見つけた?」

「なんでハムスターみたいになってんだよ。あんなのがうじゃうじゃいるとか世紀末かよ」

 

だが、少々頭が弱い。濁点1つでここまで違うのは珍しいもんだ。

まぁここ三門市の人はもうバムスター、捕獲用トリオン兵など見飽きているのだろう。慣れとは恐ろしいものだ。それが良いことか悪いことかは置いておいて。

 

「お兄ちゃーん、次のシフトはー?」

「来週の火曜、勿論午前零時から朝6時まで」

「えー!小町オペ出来ないじゃん!」

「略すな、医者かお前は。いいんだよ、学生の本分は勉強だ」

「うー!もう、お兄ちゃんのバカ!」

 

ぷい、と顔を背けかまくらに抱きつく我が妹の幼い仕草に、つい苦笑してしまう。

小町の言うオペとは、オペレーターのことであって勿論手術のオペではない。彼女もまた、ボーダーで働く隊員なのだ。といっても部隊には入っておらず、専ら俺専任のオペレーターとして所属している。

 

4年前、生家といえる場所は大規模侵攻の際トリオン兵の餌食となった。その際父親を失った比企谷家は、母の仕事に加え長男たる俺がボーダーにて働きに出ることで生計を立てている。運良くAに上がれたことでお給料も増え、3人分の食費は賄えている。

 

が、丁度1年ほど前に小町から提案というより宣言があったのだ。「私もボーダー入る!」と。

 

正直、悩みに悩んだ。ボーダーに入るとは、即ち近界民(ネイバー)と戦うということだ。自分の妹を、そんなものに巻き込んで良いのか。

自分のことを棚に上げて何を言ってるのかとは思うが、それはそれだ。俺は、親父に顔向け出来ないようなことはしたくない。

 

俺は母と相談して、結果。戦闘員ではなくオペレーターとして、平日は午後12時以降はシフトは入れない、といった条件でボーダー入りを許したのだった。

とはいえ、小町より年下の子がバリバリ戦闘員として働く中、彼女についた条件では部隊にも入れず、曖昧なまま俺のシフトに合わせ働いて貰っていた。

小町自身は子供扱いと思って気に入らないらしいが。

 

しかしすぐに俺の方に向き直り、にひっと笑う。可愛い。じゃなくてなんだ、もう機嫌がなおったのか?

 

「そうだ、今度春秋さんが焼き肉するから来いって!」

「あー、まじか」

「嫌な顔しないの!誘ってくれた春秋さんに失礼だよ!」

「うぐっ」

 

違った。俺を弄れる案件を思い出しただけだ。

 

B級東隊の隊長、東春秋。元Aランク1位の部隊を率いた彼は、「最初の狙撃手(スナイパー)」と呼ばれ、現在の主力狙撃手(スナイパー)殆どが彼から狙撃の技術を教わった。かくゆう俺も例外ではない。

 

ボーダーに入ったばかりの俺には頼れる伝手も無く。取り敢えず一通りのトリガーを試すべく狙撃の練習ルームの扉を叩いた。

その際東さんにレクチャーをされ、以来現在まで親交のある数少ない人だ。

 

俺が精鋭と呼ばれるAランクでありながら、部隊もつくらずふらふらと出来てるのは、東さんの提言があったからである。小町の件もまた、相談に乗ってもらったりもした。

 

東春秋は俺の恩人であり足を向けて寝れない存在だ。

ならばそんな方からのお誘いは断ることの出来ない、いわば絶対遵守(ギアス)である。

たとえそれが、ぼっちの苦手な飲み会でも。

 

「他に誰が呼ばれてるか分かるか?」

「えっと〜。駿くんに、出水さんと米谷さんとか」

「1人だけ名前呼びの緑川については後で詳しく聞くとして、まぁそれくらいな別に」

「あ、あと三輪さん!」

「小町、俺その日はお腹痛くなる予定だから行けんわ」

「馬鹿なのお兄ちゃん」

 

白けて見られるが、それでその魔の宴を回避できるなら安いものだ。

三輪秀次は東さんがAランク部隊だった時の隊員らしく、俺と同様弟子なのだろう。

だが、俺はあいつが苦手だった。自他に厳しいところや、なによりあの執念と言うべき憎悪が。

まぁ苦手じゃない人のが少ないんだけどね。

 

「取り敢えずその件は保留にしといて、さっさと宿題済ませるぞ」

「そうやって有耶無耶にするんだね」

「それは言わない約束さ」

 

 

その日の深夜、俺はボーダー本部にいた。シフトは入っておらず完全なるプライベートである。

ランクに限らず、部隊を組んだ者には隊専用の部屋が与えられる。

俺は例によってチームに所属していないが、倉庫に使用されていた通常より一回り小さい部屋を貰っていた。

 

ノートパソコンを開き、コンピュータにアクセスする。今調べているのは、ここ1、2週間の(ゲート)発生履歴。

 

現在、ボーダーではある問題が起きていた。イレギュラーゲートである。近界民(ネイバー)がこちらの世界にやって来る際使用する(ゲート)

今までは発生を阻止することは出来なくとも、ボーダー本部から円形状に伸びた立ち入り禁止区域に誘導することで、被害を抑えられていた。だが、こちらの誘導を無視して発生する(ゲート)がここ最近になって現れるようになったのだ。

 

今のところは近くにいたボーダー隊員が何とか間に合い被害は出ていないが、安心はできない。死者が出る前に打開策を見つかなければならない。

 

本来この仕事は上層部の管轄なのだろう。ならば何故俺がこうして動いてるか、というのには理由があった。

1つは、まぁ普通に危険だから。たまたま開いた(ゲート)が俺のマンションの近くだったらと考えるだけで震えが止まらない。こうして何かに打ち込んでいたほうが気が紛れるというものだ。

 

2つ目。そもそも俺はボーダーを信用していない。

勿論給料を貰い、こうして働いている以上それ相応の感謝はしているし、組織運営の為に努力する。

だが、漠然とした疑問があった。

 

4年前の第1次侵攻。近界民(ネイバー)の存在が公になった事件。未曾有の大災害になるところを救い、現れた謎の一団。

それが界境防衛機関「ボーダー」。

 

なら、その前は?

 

ボーダーの技術は当たり前だがトリオン、近界(ネイバーフッド)に依るものだろう。トリオンはトリオンでのみ干渉できる。

つまり、最低でも4年前の侵攻以前から彼らは近界(ネイバーフッド)のことを知っていて、その技術を所持していた。

そしてそれを公開することもなく黙っていた。

 

三門市民からすれば、なんの警告も無しに蹂躙が起き、未知の怪物に街を破壊されるのだ。怖かっただろう、泣き叫んだだろう。

そんな時、颯爽と現れた彼らは、住民にとって正にヒーローのように感じることだ。

 

その後市民の信頼を勝ち取ったボーダーは恐らく、否間違い無くあったであろう日本政府の干渉を退け、近界(ネイバーフッド)の技術を独占、この街のど真ん中に城を築いた。

 

九分九厘俺のこじつけであり被害妄想だ。

感じるもなにもボーダーは実際に人々を救っているし、今なお安全の為24時間体制で動いている。

 

ならばやはり間違っているのは俺の方だろう。ひん曲がった根性と、燻った反骨心が、ボーダーという組織に不信感を抱かせているのだ。

何か狙い、目的があってしたことだと。

 

 

「それはそれとして」

 

今優先すべきはイレギュラーゲートの原因の解明と、その解決。

気になるのは、誘導できる(ゲート)もあるということ。

いきなり全ての(ゲート)が誘導不可能になったのなら、誘導装置が壊れたか、あちら側からジャミングを受けたか。

そうでないとと言うことは誘導できるものと出来ないもの、この違いが分かれば解決の糸口に繋がる。

 

「それがわかんねぇから苦労してんだけど」

 

はあぁぁ、と大きく息を吐く。度重なる労働に体が甘味を欲しているのだろう。休憩しようと、部屋を出て自動販売機に向かう。

スポンサーたる大手企業により、飲食等様々なサービスが施されたボーダーだが、俺はここにも不満があった。

マッカンが無いのだ。

 

我がソウルドリンクたるMAXコーヒー、略してマッカンの存在は、ぶっちゃけ地域によっては全く知らない人も多い。お陰で俺は家の箱買いから持ち歩くか、普通の微糖を買うしかないのだ。

 

「缶コーヒーつったらマッカンは常識だろ、バーローめ」

「いやいや、どこの常識だ」

「うお!」

 

後ろから聞こえた声に、内心めちゃくちゃ驚いた。

急いで振り返って見ると、

 

「あー、東さん」

「久しぶりだな、比企谷」

 

ローテンションロングレンジロン毛、ダブロンどころかトリプルロンを兼ね備えたお方、B級暫定9位、東隊隊長東春秋さんがそこに居た。分からないって?麻雀だよ、面白いから覚えて損はない。

 

「今日防衛任務だったんですね」

「まぁな。そういうお前は、また訓練か?こんな時間じゃなくて、狙撃手(スナイパー)の合同訓練に来いっていつも言ってるだろ」

「いや、俺人が多いと集中できないタイプなんで」

「…まぁ無理強いはしないさ。お前のやりたい様にやればいい」

「すんません」

 

いつもの御言葉を頂き、正直罪悪感で胸が締め付けられる。今ですら返せないほどの恩を貰っているのに、これ以上足を引っ張るような真似はしたくないが、やはり気がひける。

それに合同訓練に参加しないのは俺自身考えがあってのことだ。

 

「それで、小町ちゃんから話は聞いてるか?」

「ええまぁ。焼肉ですね…。それなんですけど、あー、俺は不参加ってことで…」

「そうかい、それは残念だ。今回は俺の奢りにするつもりだったんだが」

「ぐっ」

「あぁ、三輪なら来れないそうだ。丁度防衛任務らしくてな」

「いや、それでやっぱり行きますって言ったら俺結構のクズじゃないっすか」

「別に気にしないさ。誰だって苦手な人間はいる」

 

どこまでこの人は寛容なんだよ。ここまでくると最早ビビるまである。

 

「その為にも、今回の件を片付けないとな」

「イレギュラーゲートですね。実は今調べてた所です」

 

そう言って、今洗ったデータを見せる。こと戦術面でも東さんは優秀だ。彼ならば何かしらの共通点を見つけ出せるかもしれない。

 

「ふむ…。イレギュラーゲートと普通の(ゲート)の違いか」

「それを見つける為に、今迄の発生箇所と時間を洗い出したんですが、やはり何も分からずじまいで」

 

防衛任務後で疲れている筈なのに、真剣に話に付き合ってくれる東さんには感謝してもしきれない。

 

「うーんこれは難しいな」

「えぇ、誘導できないこと以外は特に違いは無いので。現れるトリオン兵もバムスターやモールモッドといったもので、幸いB級隊員で対応可能な…」

 

ちょっと待て。イレギュラーゲートの被害は、ゼロだと?

今まで開いたイレギュラーゲートは、全て幸運(・・)にも近くにいた隊員が処理している。

逆だとすれば?イレギュラーゲートが開いた所にボーダーがいたのではなく、ボーダーの、トリオン能力の高い人間がいたからイレギュラーゲートが開いたのでは?

 

トリオンとは見えない臓器と呼ばれている。詳しいことは俺も分からないが、無意識に流出したトリオンを吸い、ゲートを開く。そういったトリオン兵がいたとすれば?

 

俺はすぐさまこの仮説を東さんに話した。

 

「なるほど、筋は通る。あり得るな」

「それなら…」

「あぁ、明日俺から上に話してみよう」

「お願いします」

 

それでは失礼します、そう言って部屋に戻る。この仮説の信憑性を上げるため、他のデータを集めるのだ。

 

光明が見えた。ならばその光に向かって進むのみだ。

 

 

 

 

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