眠らずのぼっち   作:コーラ味

4 / 10
第3話

次の日の放課後。例によって例の如く、俺は平塚先生のラブコールを受けていた。

 

「さて比企谷、部活の時間だ」

「もしかして先生って暇なんすか?」

「まさか。とても忙しい中君の為に時間を割いているのさ」

 

ありがた迷惑だちくせう。言葉に出さずとも伝わったのか、やはり腕を絡めてそのまま部室に向かう。

 

「…なぁ、比企谷。君から見て彼女はどうだった?」

「急に何ですか」

「忌憚ない意見が聞きたくてね。君の、他とは違う視点から見て雪ノ下雪乃はどう映るのか」

 

そう言われ、昨日の彼女を思い出す。逃げて何が悪いと宣う俺に、真っ直ぐぶつけられた激情の瞳。

 

「…箱入りのお嬢様って所ですか、よくも悪くも」

「ほう、その心は」

「言ってることは正しい、正しすぎるほどに。強すぎる薬は毒と変わらない。自他に厳しすぎて、あれじゃそのうち自滅しますよ」

「…そうか。君もそう思うか」

「だから、俺を入れたんですか?」

「まさか。君にどうにかしてもらいたい訳ではない。それは、我々教師のやるべきことだ。ただ、君自身も少々普通と違うだろう?それで、混ぜたらどんな反応するかなぁと」

「どこぞのマッドサイエンティストか」

「人は誰しも好奇心を忘れられない少年さ」

「少年てあんた性別も歳も真反対じゃ…っ!」

 

ぐにっと腕を曲げられる。痛いは痛いがそれ以上に腕に触れる双丘が凄まじい。なるほど、これは好奇心が唆られる。一体このお山を登った先に何があるのだろうか?

 

ビッグマウンテンを堪能していると、早々についてしまった。

名残惜しいが、ここでお別れだ。さらばおっぱ…平塚先生。

痛みが増した。

 

「うーす」

 

ちらちらと振り返る平塚先生に手を振り、扉に向き直る。もちろんノックを済ませ、ガラガラと開いた。

そこには昨日と変わらない姿で読書をする雪ノ下雪乃の姿があった。

 

「…あら、来たのね。てっきりもう来ないものかと期待していたのに」

「期待を裏切るのは得意でね」

「恥ずべきことをしたり顔で吐くなんて、やっぱり変な人ね」

「そうか?俺としちゃ16年生きてると自分が変だと実感つかないんだが。まあいい、教えてくれてありがとな」

「…」

 

ペースが狂うのか眉を寄せて本に目を向ける雪ノ下。その間に昨日と同じ場所に座る。

大抵の人間はある程度会話をすればその印象や人柄を掴めるものだが、恐らく俺のことを測りかねているんだろう。昨日は俺自身失敗した。もう少しこの少女に対し理解を深めるべきだ。

こちらの決意が伝わったのか、整った顔が再びこちらに向く。

 

「あれだけ罵られてまだ懲りないなんて、もしかしてストーカー?」

 

一瞬で決意が崩れそうになる。帰っていい?ダメ?しってる。

 

「違う」

「なら特殊性癖の方かしら」

「それも違う。おい、なんで俺がお前に好意を抱いている前提なんだ」

「違うの?」

 

小首を傾げる様は大変可愛らしいが、言っていることは可愛くない。

「え?私が可愛すぎるからストーカーしてるんじゃないの?」とか素面で言う奴はじめて見たわ。

 

「なんだってこんな歩く罵詈雑言閲覧何ぞに恋せにゃならんのだ。お前に好きって言うくらいなら妹に言うわ」

「気持ち悪いわ」

 

今のが一番傷ついた。でもま、俺もそう思う。

 

「…私、可愛いから小学生の頃から沢山の異性に告白されたわ」

「続けんのこの話?」

「異性に好かれた分、同性に嫌われたけれど」

「あっそ」

 

グループから弾かれ、物を隠され、会話から外される。

そういった経験なら確かにある。今思えば些細なも感じるが、小学生からすればそれだけでとても傷ついたものだ。

 

「人は、誰かを排斥せずにはいられない生き物なのよ」

「そうだな。なら、最初から輪から外れてりゃ…」

 

「だから変えるの。人ごと、この世界を」

 

それは、端的にいって的外れだと思った。お前は何を言っているんだ、とか。あーはいはい厨二乙とか。そう言って、はいおしまい。

それでいいはずなのに。俺は何も言えなかった。

恐らく彼女は俺が、人が物心を持つと同時に捨ててしまう何かを、必死に這いつくばって探っているんだ。

 

「だから貴方のそうやってすぐに諦めるところ、嫌いだわ」

「…」

 

またあの瞳に射すくめられ、固まってしまう。一拍おき目を逸らされ、俺は漸く息を吹き返した。部屋に気まずい空気が流れる。

 

見計らったようにコンコンとノックが聞こえ、おずおずと扉が開かれる。

 

「し、失礼しまーす」

 

入ってきたのは、今時の女の子だ。染められた髪、適度に着崩した制服。うっすらと化粧を施した顔は、彼女自身の魅力をよく引き立てている。そんな、初対面のはずの彼女は何故か俺を見て驚いた。

 

「な、なんでヒッキーがここにいんの!?」

 

えーと、ヒッキーさん呼ばれてますよ?

後ろを振り返るが誰も居ない。いや、居たら困るが。となると…。

 

「もしかしなくとも俺のことか」

「そだよ!比企谷だからヒッキー!」

「何で俺のこと知ってんだよ?つか、お前誰?ていうかそのネーミングはやめい」

「えー!!?」

 

何故かめちゃくちゃ驚くギャル。それはどれに驚いているのか。できれば最後のではないと思いたい。まさか自分のネーミングセンスに絶対の自信がある訳ではないだろう。

 

「はぁ…。2年Fクラスの由比ヶ浜結衣さんね?」

「っ!う、うん。そうだ、です…。あの、雪ノ下さん…、あたしのこと知ってるんだ」

「一応ね」

 

まぁこいつなら自分の学年を全部覚えてても違和感は無い。

って、ああ。

 

「何だ、同じクラスだったのか」

「えぇ?かるっ!?知らないだけでもあり得ないのにそれだけ!?」

「悪いが、人の顔を覚えるのは苦手なんだ。全部じゃがいもに見える」

「病院に行きなさい。勿論精神病院よ」

「やだよ、即入院しちまうだろうが」

「自覚はあるんだ…」

 

絶句するクラスメイトを他所に、俺は雪ノ下に視線を送る。

ていうか、何しに来たんだ?

 

「で、その由比ヶ浜…が、何の用だ?」

「え!えっと、その。平塚先生が、悩みがあるならここに来いって」

「あぁ、そういう部活だったのかここって」

「違うわ」

「「え?」」

 

2人で雪ノ下を見ると、何故かドヤ顔だ。

 

「正確には、お腹の空いた人に魚を与えるのでは無く、釣りの仕方を教えるところよ」

「別にそう変わらんだろ」

「なんか、かっこいいね!」

 

それで良いのかクラスメイトさんよ。

 

「なら、さっさとその悩みってやつを教えてくれ」

「うえっ!?え、えっと。そのぅ…」

 

先程の楽しそうな態度とは一転、なんかうじうじし始め、終いにはこちらをチラチラと見始めた。あーはいはい。

 

「比企谷くん」

「ちょっとマッカン買ってくるわ」

 

こうのは小町から学んだ。なんか、男には分からない女の話って奴だろう。うん、俺まじ要らない。帰って良い?

 

「私は紅茶でいいわ」

「お前すごいな、ここまでナチュラルにパシられんの初めてだわ」

 

 

 

束の間の休息。俺はマッカン片手に寛いでいた。

スマホを開くと何件か着信が来ていた。東さんから、例の件について迅さんの方も進展あり。

ついては翌日からC級含め多人数で大規模な仕事があるらしい。

 

「これで一件落着といったとこか」

 

…いや、これからだろうか。そんな予感をした矢先。

 

 

ウーーーーーーーーーーーーーー!!!!

 

『緊急警報、緊急警報。(ゲート)が市街地に発生します。

市民の皆様は直ちに避難して下さい。繰り返します、市民の皆様は直ちに避難して下さい』

 

「…厄日だ」

 

思わず呟いてしまった。だってねぇ、昨日の今日でこれだと身が持たん。それに昨日の仮説の通りなら間接的には俺のせいってことだ。

 

「なら、俺がどうにかしないと」

 

他人の事なんざ知ったこっちゃないが、自分の事には責任を取る。

それが、比企谷八幡の数少ないモットーだ。

 

「トリガー起動(オン)

 

 

 

まず何処に発生し、何が何体か。

答えは直ぐに出た。自販機の向かいの窓、グラウンドの真上だ。

そこから見える黒い稲妻と共に現れた異形の怪物。

虫の様な形態のトリオン兵「モールモッド」。それが、3体。

バムスターと呼ばれる捕獲用とは異なり、モールモッドは攻撃用。

それは良い。俺だってA級の端くれ、その程度同時だろうが倒せる。

 

問題はここは学校で、そして生徒の避難の完了がまだ終わっていないということ。

 

そしてもう1つ。

 

「落ち着け!落ち着いて地下室(シェルター)へ!大丈夫、訓練通りにやれば問題ない!」

「平塚先生!」

 

人の流れをかき分け大声で避難を呼びかける女史の元へ急ぐ。

先ずは情報が欲しい。

 

「っ、比企谷、その格好は!?」

 

今の俺は、制服姿と異なっていた。黒ジャケットに、灰色のベルトポーチを腰に巻き、野外用のパンツを履いている。

胸にはボーダーのロゴがあり、反対に部隊を示す肩には何も描かれてはいない。特徴らしい特徴のない、ボーダー隊員の服装だ。

 

「避難の状況は?」

「あ、あぁ!西棟東棟恙無く進んでいる。この分なら大丈夫だろう。だが問題は」

「特別棟ですか」

 

そこまで言って、血の気が引いた。俺が5分前に居たあそこは、生徒のパーソナリティを尊重する為、放課後は人気のなくなる特別棟に存在する。

そこから地下室(シェルター)へ向かうのに最短ルートは、この渡り廊下を通ることだ。だというのに、2人の姿を見ていない。

 

「先生、雪ノ下達は?」

「っ!?雪ノ下と由比ヶ浜は職員室に来て、調理室の鍵を借りて行った!」

 

俺は返事も出来ないまま、強化されたトリオン体にて駆けた。

 

 

 

「ゆ、雪ノ下さん…っ!」

「大丈夫、何も心配は要らないわ」

 

怯える彼女をそっと寄り添って安心させる。それでも、体の震えが止まることはない。理由は、頭を撫でる私自身の手もまた小刻みに震えているから、か。

 

油断していた。楽観視していた。もう4年前のような、いきなり怪物に襲われる様なことはないと、根拠も無く信じていた。

ボーダーだって人の集まり。そして、人である以上誰だってミスはする。だからこそ、自分はそうならないと決めていたのに。震えは収まらない。

 

ガシャ!バリンッ!

 

「ひっ」

 

壁が破壊され、窓が割れる。同時に、2本の鎌が見えた。

昆虫の様な外見は生理的嫌悪を抱かせ、何より鋭利な刃が死というストレートな恐怖を与える。

 

巨体が挟まり入口で身動きが取れなくなっているが、時間の問題だろう。ミシミシと音を立てて、見る間に扉が無くなっていく。

 

「由比ヶ浜さん。今の内に別の扉から出ましょう」

 

幸い、教室の扉は2つあった。もう1つから逃げ、モールモッドの居ない方向へ逃げればいい。

だというのに。

 

「こ、腰抜かしちゃったぁ…」

 

涙目で囁く彼女は床にへたり込み、脚を無駄に揺らすだけ。

背負って逃げるか?否。雪ノ下雪乃という少女は、致命的に体力が無い。

ならどうする、どうすれば良い?答えはでな…。

 

「お、おいてって」

 

雪ノ下は、弾かれたように相手の顔を見る。

笑っていた。泣きながら、笑っていた。強い、ふとそう思った。

 

「…」

 

一瞬、迷った。迷ってしまった。その事に自己嫌悪する。

昨日と今日、彼に懇々と説いて起きながら、いざとなったらこれか。

本当に、どうしようもない。

 

ガシャン!

 

ここに来て2体目が、もう1つの扉から覗き込んできた。もう逃げ道はない。

 

「っ!」

 

由比ヶ浜さんを引っ張り部屋の奥に逃げるが、気休め程度。遂に扉を破壊しきったモールモッドは、2体同時に調理室へ侵入してきた。

 

「ひっ」

 

思わず漏れる、紛れもない恐怖。呼吸が乱れ、水の中の様に息継ぎがうまくいかない。目の前に、容易く自分を殺せるだろう存在がいて、じわじわと近づいてくる。

せめて目は晒さないようにと思って、前を見据えた。

4本の刃が迫る。

 

あぁ、それでも、やっぱり。

こわいなぁ。

 

 

「メテオラ」

 

轟音。瞬間衝撃が調理室を満たす。当然こちらも煽られるが、元々壁際に居たお陰かそれ程でもない。だが、爆風に寄って飛散したコンクリート片が凄まじい速度でこちらにやってきた。それに反応する間もなく。

 

「シールド」

 

目の前の、黒い服の男によって防がれる。半透明な翠色の膜、恐らくあれが『シールド』なのだろう。

 

「あー。すまん、遅れた」

 

そういって振り返る彼は独特の雰囲気を持った、少年だった。

名前を知ったのは約1年前、とある事故で、だ。

 

だが本格的に知り合ったのはつい昨日。

死んだ目と、捻くれた精神。彼の拒絶心や、のらりくらりとした態度に苛つき、罵倒して、面と向かって嫌いとまで言ってやった。

勿論今でもそう思っている。

 

そんな彼からは、日頃あった気だるい空気は搔き消え代わりに鋭い眼光を備えていた。

 

「ひ、比企谷、くん?」

「何驚いてんだ。最初に言っただろ、俺ボーダーだって」

 

確かに言っていた。言っていたが、その後の会話の方が印象が強く、すっかり忘れていたのだ。だが頭をガリガリかきながら面倒臭そうにこっちを見る彼を見て、つい軽口を叩いた。

 

「あれは、女性と会話したという事実が欲しいが為についた嘘かと思っていたわ」

「お、調子戻ってきたな。そうそう、その方がお前らしい」

「はぁ…」

 

うんうんと頷き一切狼狽えない様子に溜息が出た。思えば初対面から今に至るまで此方の罵倒で怒ったり引いたりするところを1度も見ていない。

初めてだった。こういう類の人は。

 

「で、お前はいつまで惚けたんだ由比ヶ浜」

 

ハッとして、隣を見る。そうだ、すっかり忘れていた。彼女は大丈夫だろうか。

 

「…へっ?ヒ、ヒッキーいつのまに着替えたの?」

「天然か」

 

此方も此方で大分トリップしているらしい。目をパチクリさせている。けど、そこには先程までの怯えた様子は見られ…。

 

グワシャ!

 

「きゃああ!」

 

またもや現れた異形に、由比ヶ浜さんは悲鳴を上げてこちらを抱きしめてくる。

現れた怪物は、2体とも健在だった。身体中にヒビが入り、動くたびにギシギシと音を立てているが、それでもこちらに向かってきた。

 

「比企谷くん!」

「大丈夫、こっちは片付いた」

 

思わず叫ぶが、対する彼は何処吹く風。余裕を一切崩さない。

その様子に憤りすら覚えて。

 

カチリ。

 

先程同様、轟音衝撃。しかも今度は1度で終わらず、2度3度4度と繋がる。目の前で起きる衝撃等は全て彼が防いでくれたおかげで、何が起きたのか観察できた。

 

「トラップ?」

「あぁ。ワイヤーに炸裂弾(メテオラ)…爆弾仕掛けて誘った。ぶっちゃけ範囲に重点置いてるからそんな威力ないけど、装甲の薄い腹から重ねりゃいける。…まぁ調理室もぶっ壊れたけど。弁償とか考えなくていいよね?」

「なるほど…」

 

既に半壊していた2躰が、最早木っ端微塵だ。代償として、調理台もまた外装が剥がれ落ち、机と椅子がぐしゃぐしゃになっている。

それでも、今度こそ完全に停止した。

 

「由比ヶ浜さん、もう終わったわよ」

「ふぇ?」

 

頭を私の胸に擦り付け、必死に目を瞑っていた彼女に声を掛ける。

予想より幾分か幼い声が返ってきたが、ストレスで幼児退行してしまったのだろう。いつもこんな返答をしているとは思いたくない。

 

「お、終わったの?」

「いや、まだだ」

 

咄嗟に彼を見る。まだだと言うのか、もう疲れた。

そんな言葉が通じたか、初めて見る笑み------苦笑だったが------を浮かべる。

 

「さっき開いた(ゲート)からは今のやつが3体出てきてた。つまり」

「あと1体足りないと」

「問題はもうひとつある」

 

それは何?

そう言おうとして突然、由比ヶ浜さんごと壁際から前に投げられた。

同時に後ろから聞こえる破壊音。

 

「っっ!」

 

最後の1体、それは丁度私たちの背後から現れたのだ。

 

 

 

マジで間一髪。ここまできて怪我させたら根付メディア対策室長辺りにぶっ殺される。つまり俺が死ぬ。

 

障害物両断の為行われた鎌による攻撃。壁の端に現れた刃の先に気付けたお陰で、どうにか2人を範囲外に移動できた。

 

代わりに、利き手をやられたが。

 

「ヒッキー、み、右手が!?」

「ダイジョーブ、その内生えてくる」

「うぇ!?そうなの」

「嘘だわ、信じんな」

「え、え、え?じゃあ」

「生える訳じゃないが元に戻る。そもそも今はトリオン体つって、本物の肉体じゃない。ほら、血が出てないだろ?痛覚もないし、特に不便はない」

 

最後は嘘である。緊張感を捨てないため、痛覚はオンにしてある。

現在進行系で切断された痛みを味わっているが、そこは油断した俺のミスだ。甘んじて受けよう。

それよりも。

 

「さっさとここから離れて地下室(シェルター)に迎え。次は庇えるか分からん」

「そうも行かないわ。由比ヶ浜さんが腰を抜かしてしまっていて、まだ立てそうに無いかも」

「…マジ?」

「ええ、まじよ」

 

ジーザス。

言ってる間も斬撃を躱す。だーくそ、バランスが取れん。もっと片腕とか、片脚の練習しとくべきだった。

 

「っ、炸裂弾(メテオラ)は!?」

「ダメだ、お前らと距離が近い!」

「…なら、他にないの!?」

「言っただろ、問題がもう1つあるって」

 

 

「俺、そもそも狙撃手(スナイパー)なんだよ」

 

そう、俺のトリガー構成は多対一を想定した完全遠距離型。

(メイン)トリガーに狙撃銃、炸裂弾(メテオラ)ワイヤー(スパイダー)、シールド。

そして(サブ)トリガーには、バッグワームタグ。バッグワームタグとは、バッグワームというトリオンを消費してレーダーから見えなくなるという効果を持続且つ省エネ化したもので、代わりに4つある空きスロットの全てを埋めてしまう。

中々のピーキートリガーだが、ぼっち隊員には超必須アイテムなのだ。けど、やっぱり4つは多いと思うの。

 

完全遠距離にして隠密前提。一発撃ったら即撤退。

追いかけてきたらシールドで防ぎつつ、トラップで迎撃。

脚が止まったらまた狙撃。そうやって、逃げて隠れて煽ってを繰り返す。これが、俺の戦闘スタイルだ。自分でも卑怯って思う。

 

だがやはり効果的ではある。ランク戦外では緊急脱出(ベイルアウト)も数えるほどだ。そもそも部隊同士の戦うランク戦出たことないけど。

 

閑話休題。

 

狙撃手(スナイパー)として尖りまくった俺は、逆に言えばその弱点もまた巨大なものとなっている。

しかも、他の狙撃手(スナイパー)の行える「味方の助け」というコマンドの抜け落ちた不良品なのだ、この比企谷八幡君は。

 

迫ってくる相手ならばまだやりようもあるが。このモールモッドは完全に懐に入った。自爆覚悟の炸裂弾(メテオラ)も撃つには彼女たちに当たる可能性が五分五分といったところか。賭けは嫌いだ。よって却下。

狙撃銃を瞬間装填し発射。狙撃銃は貫通力に長け、核に当てれば一撃で倒せるだろう。この距離、外すこともない。だがそれは利き手が健在ならの話。左手は、それほど熱心に練習していない。こんな事なら佐鳥の助言をきちんと聞いときゃ良かった。

まぁ、バッグワームタグを着けてる以上ツインスナイプなる物は到底不可能だが。

もし外せば一瞬で真っ二つだ。それは良い。俺が緊急脱出(ベイルアウト)した後、痛みで悶えまくるだけだ。

だが、今俺の後ろには一般人がいる。もし失敗すれば、2人がこの世から緊急脱出(ベイルアウト)することになってしまう。

当てれば良い。だが外したら?これは成功率7割5分ってとこか。

 

おっけー。1番確実性の高い策にしよう。

ここまで大体15秒。まだまだ思考の回転が遅い。もし敵の増援があればやられていた。

 

悩んだ末、出した答えは。

 

「ワイヤー?」

 

スパイダーでした。

ぶっちゃけモールモッドの行動パターンはとっくに読みきっている。

構造上、必ず生まれる死角に潜り続ければ、倒さずとも延々とこいつの周りをダンスできる。が、そろそろ他のボーダー隊員も来るだろうし片付けなければ。お前本当にA級?とか言われたら返す言葉がない。

 

攻撃を避けながら左手に作った糸を足、鎌、胴体とどんどんつけていく。もがけばもがくほど雁字搦めになってゆく姿は、虫型と相まって蛹になっていくようだ。

 

1分しないうちにギッチギチの巨大な繭が誕生した。結構トリオン使ったな。

 

「あー、疲っかれったぁ」

 

体を伸ばすと、パキパキと音を立てた気がした。本当に立ててたら活動限界だ。

 

「終わったの?」

「ヒッキーなんか動きキモかった」

 

途中から完全に余裕を取り戻していた雪ノ下と、今更ながら歩けるようになった由比ヶ浜さん。てゆか、貴方そう言うこというの?

 

「おい、1番の安全策に対してなんつー言い草だ。お前は俺に感謝して、このモスラ様に一日一回祈りを捧げるべきだね」

「捧げる対象はこっちなのね」

 

興味深そうにモスラ(仮)を見つめる雪ノ下。やめろ、本当に蛾になって出てきたらどうするんだ。

 

「ね、ヒッキー」

「あん?」

 

「ありがと」

「…はいよ」

 

…今日という日が厄日というのは変わらないし、これから先更に面倒かつ面倒な事態が起こるのは分かっている。

 

「比企谷くん」

「何だ?」

 

それでもまぁ、取り敢えずは2人とも無事。

 

「助かったわ。正直、貴方のことを見誤っていた」

「ありがとう」

 

「…どういたしまして」

 

俺は2人の可憐な少女の笑顔を独占できた。それで良しとしようか。

…いや全っ然良くねぇーわ。これは手当出して貰わんと割に合わん。

 

地下室(シェルター)に無事着き、平塚先生からの愛のコブラツイストを堪能し、ボーダーから回収班が到着するまで。

俺はボーダーの組織金から如何程せびろうか悩んだのだった。




比企谷の戦闘体の格好はあれです。FGO2章のカルデア極地用制服の男バージョンをイメージしてくれりゃいいっす。てきとーに。

なんか最終回っぽいけど、続きます。


多分。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。