眠らずのぼっち   作:コーラ味

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すいません、少々忙しく遅くなりました



あ、連載再開おめでとうございます
まじで


第6話

『玉狛支部にいる近界民(ネイバー)から(ブラック)トリガーを回収せよ』

 

そう上層部から命令が下ったのはほんの数時間前のこと。(ブラック)トリガーとは、それ1つで戦局を左右する強力な武器となる。それを後ろ盾を持たない1人が所持している。回収しない理由はない。

 

闇夜を駆けるはA級上位部隊。ボーダー精鋭中の精鋭、トップチームである。

A級1位太刀川隊所属、太刀川慶、出水公平。

A級2位冬島隊所属、当真勇。

A級3位風間隊所属、風間蒼也、歌川遼、菊地原士郎。

A級7位三輪隊所属、三輪秀次、奈良坂透。

 

述べ8人、破格の戦力と言えるだろう。だがこれでも必勝とはならない、(ブラック)トリガーとはそれ程の存在なのだ。

 

「っ止まれ!」

 

今回の編成隊のリーダーの太刀川の号令に瞬時に反応、生身ではあり得ない速度で移動していた集団が停止し同時に屋根を伝っていた者も道路に降りてきた。

彼等が警戒するのは前方にて佇むただ一人。ボーダーS級隊員、迅悠一その人である。

 

「よう、こんな夜更けにどこ行くんだ?」

「うっは迅さんじゃん、久しぶり!」

「当真、冬島さんは?」

「隊長は船酔い。けど後から来るってさ」

「余計なことは喋るな。…迅、どういうつもりだ?」

「分かってるんでしょ?」

 

薄っぺらな笑みを浮かべながらも、左手をエモノの柄に置く迅。未来視のサイドエフェクトを持つ彼相手には謀は通用しない。衝突は回避出来ない、それでも最後通牒として風間は口を開いた。

 

「分かっていると思うが、俺たちと戦り合えば隊務規定違反の罰を受けることになるぞ」

「それはそっちも同じことでしょ?うちの後輩も立派なボーダーの一員さ」

 

模擬戦を除くボーダー同士の戦闘を禁ずる、その規則を逆手にとった防衛手段。余裕を崩さない迅に、内心舌を巻く。

ここで太刀川が一歩前に出た。交代の合図だろう。

 

「いや、お前んとこの後輩はまだ正式なボーダー隊員じゃないぞ。本部での正式な入隊手続きが済むまでは、な?」

「ま、そう来るよね」

「いずれにしてもこのままの状態は危険だ。(ブラック)トリガーを大人しくボーダーに渡さなければ、戦争になるぞ。それともそれがお前の望みか?」

 

半ば脅しを掛けるも飄々とした態度を崩さない迅に、三輪は歯軋りを繰り返す。自らの神経を逆撫でするかのような行動ばかりするこの男を、三輪は嫌っていた。

 

「そっちに色々あるようにこっちも色々あるんだ。戦争なんて誰も望んじゃいないが、かと言って無抵抗って訳にもいかないね」

「俺たち全員を相手に、やるのか?」

「うん」

 

迅は優しい口調ながら断固として譲らない。風間はため息を零すが、内心疑問を抱いていた。なぜ、ここまで平静でいられるのか。

その問いの答えは直ぐに出た。

 

「ま、流石の俺でも風刃使ったところでいいとこ五分五分ってとこだろう。俺一人なら、だけど」

「…っ!」

 

迅の言葉に呼応し、近くの屋根から部隊が登場した。

 

「嵐山隊現着。忍田本部長の命令により、玉狛支部に加勢する!」

「…なるほど、本部長派と組んだのか」

 

感心したかのように太刀川が呟いた。

ボーダーには大雑把に城戸派、玉狛派、そして忍田派の三派閥に分類される。最大派閥である城戸派が大まかな舵を切っているが、今回その他ふた派閥が協力し対立する構図となったのだ。

 

「ナイスタイミング嵐山、助かるぜ」

「三雲くんに借りを返すいい機会だからな!」

 

隊長の熱い意思とは裏腹に、部隊のエースである木虎は如何にも不満です、と言った表情である。彼女自身はあまり乗り気でないのは明白だった。

 

「さて、ここまで来ると分かるだろうけど。嵐山たちがいればかなりこっちが有利だ、俺のサイドエフェクトがそう言ってる。だからさ、引いてくれると嬉しいんだけどな」

「…そりゃ逆効果だ、迅。ここまで本気のお前は久しぶりだな。面白い、予知を覆してやろう」

 

言いながら、スラリと抜かれる攻撃手(アタッカー)用トリガー孤月。白い刀身が持ち主の闘気を伝える。そして、太刀川の腰にはもう一振り。

 

「ま、そう言うと思ったよ」

 

対する迅もまた躊躇いなく鞘から刃を魅せた。瞬間辺りを翠の燐光が照らし出す。S級隊員の迅悠一にのみ所持を許された、唯一つの(ワンオフ)トリガー「風刃」。

 

両チームリーダーの抜刀が、争奪戦開始の合図となった。

 

 

開始と同時に風間隊が前に出る。木虎と時枝による射撃も意に介さず、戦いの要たる迅に襲い掛かった。

彼等の武器はスコーピオン。刃の形を変化させられ、更に手以外からも出せる。奇襲にはうってつけのトリガー。

 

が、ここに至っては「受太刀に弱い」といった弱点のほうが目立つ。敵である迅の武器は見た目上孤月とそう変わらない。硬度に違いがあるかはわからないが、スコーピオンの方が脆いのは自明の理。

それを証明するように、風間隊歌川はスコーピオンを折られ肩からトリオンを噴出させた。

カバーに入るのは太刀川の、上段の構えから袈裟斬り。予知せずともあらかさまな真正面からの挑発に、乗る。

ガン!硬質な物質同士がぶつかる音が、深夜の住宅街に響いた。何千何万と聞いた心地よい感触。太刀川は知らず知らずに笑みを浮かべる。

 

一歩下がり、構え。今度は左手を刃に添え、居合のような体勢をとる。迅と嵐山は直ぐに気づく。孤月の攻撃範囲を広げるオプショントリガー施空、その予備動作である。

この攻撃は威力、射程が大きい分予備動作も比例する。故に簡単に避けられる。

後退しながらの嵐山による砲撃(メテオラ)、戦いは一種のインターバルに入った。

 

 

 

「まぁ、分断を狙ってくるだろうな」

 

迅の言葉に誰も異論を挟まない。ある程度戦術を齧ったものならば誰しもが予想できることだからだ。

 

「どうする迅。固まっていくか?」

「どうせなら乗ろう、そっちのが都合もいいし。俺の方は太刀川さんと、風間隊だろうね。嵐山たちは三輪隊を頼む」

「分かった」

 

了承の意を示す嵐山だが、ここで時枝が口を挟んだ。

 

「当真さんの話によれば、冬島さんが今向かっているそうです。頭数で負けている相手に、ワープまで使われたら面倒ですよ」

「たしかに、厄介なことになりますね」

 

A級2位冬島隊は、戦闘員2名という少数精鋭部隊。狙撃手(スナイパー)1位の当真勇を特殊工作兵(トラッパー)である冬島慎二がサポートしワープを用いることで攻撃力、機動力を向上させる。他にも敵対者を襲う様々なトラップ。恐ろしいのはそれでランク2位にまで成り上がったという事実。

そして今回彼が補佐するのは1人だけでは無くなる。相対する敵の全てがその恩恵を預かれるのだ。

 

だが迅はニヤリと笑みを零す。

 

「大丈夫。冬島さんは来れない」

「何故ですか?」

「乗り気じゃなかったけど、まさかここまでやってくれるなんて流石だよ。この勝負、俺たちの勝ちだ」

 

『こちら比企谷。冬島慎二(ターゲット)戦闘不能(ダウン)を確認、合流地点に向かう』

 

「「っ!」」

 

突然入る通信に身構える時枝と木虎。反面嵐山は事情を聞いていたのか、顔を明るくした。

 

「来たんだな、比企谷!」

『はいはい来ましたよ。ったく、時間外勤務の癖に給料も出ないたぁ、いつからボーダーはブラックになったんですかね?』

「悪かったよ、今度ぼんち揚げやるから許してくれ」

『マッカン、箱で』

「…糖尿になるぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

戦闘中にも関わらず和やかに会話する男共に、木虎は驚きの声を上げる。今回迅の要請を受けたのは自分達嵐山隊だけでは無かったのか?

疑問をそのままぶつけると、迅はぽりぽりと頭をかいた。

 

「ダメ元で声かけたんだ、比企谷にも」

狙撃手(スナイパー)個人2位の、比企谷八幡さんにですか?」

「あ、面識無かったっけ?」

「いえ、あるにはあるんですが。あの人、本部で殆ど顔を見ないので何処かの支部かと」

「普通に本部所属だよ」

「なら何故?」

 

嵐山隊が広告塔として常にさまざまな場所で忙しくしている、というのもあるが、それにしても彼との遭遇率は異様に低い。理由は本人から帰ってきた。

 

『サイドエフェクトの関係でな。俺の防衛任務のシフトは殆どが深夜から明朝にかけてなんだ』

「そう、ですか」

 

木虎はそれ以上の追求を辞め、口を噤んだ。サイドエフェクトはその人に対し必ずしも祝福を与えるものではない。B級2位の影浦雅人が良い例だ。気分悪そうに医療ルームに入って行くところをよく見かけた。

 

「良く言うよ。単純に人付き合いが面倒なだけだろ?」

『そうとも言う』

「…」

 

額にアオスジを浮かべる木虎に、フォローの達人たる時枝が肩を叩く。そうだ、今はそんなことをしている場合ではない。

 

「それで、冬島さんはどうなったんですか?緊急脱出(ベイルアウト)したならここからでも見える筈ですけど」

『いや、本部出る前に捕まえた。医療スタッフに扮して酔い止めって騙して睡眠薬飲ませた』

「何してるんですか貴方は!?」

 

予想外にもほどがある手段をとる先輩に、木虎は我慢できずに大声で叫んだ。時枝は咄嗟に周囲を索敵、敵がまだ来ていないのを確認する。

 

『なんだ、下剤の方が良かったか?』

「そういうことじゃないですよ、バカですか比企谷先輩!」

『俺に言わせりゃ緊急脱出(ベイルアウト)による戦闘不能も薬物での体調不良も大差無い。つまり騙される冬島さんが悪い。勉強になっただろ、知らない人から貰ったものを飲んだり食べたりしちゃいけませんって』

「最低です!」

 

軽蔑した。木虎藍は少々ナルシストな面が見受けられるが、その本質は正義に属するものであり、何より自らに自信を持っている。トリオンが少なく苦労した事も、それに腐らず並々ならぬ努力を積み重ねた事も、全て彼女の実力に繋がっているのだ。

だからこそか、そんな人の努力を嘲笑うかのようなことを平然と行う彼の言動に虫酸が走った。

 

「あー、木虎。気持ちは解るがその辺で…。今にも三輪隊が来そうだしさ」

「迅さんも迅さんです!こんな人に頼らなくても私たちだけで充分でしょう!?何で呼んだんですか!」

「うおっこっちきた。でも、木虎は今回あんまし乗り気じゃなかったような…」

「それとこれとは話は別です!」

「落ち着いて木虎」

 

どうどう。暴れ馬を宥める際の掛け声を言う時枝に、フシャーと威嚇する木虎。

 

『はぁ…。取り敢えず迅さん、離脱して下さい。俺は、嵐山隊の援護にまわります』

「り、了解。じゃ嵐山頑張ってな、…色々と」

「おう任せとけ!」

「援護なんていりません!比企谷先輩は今すぐ帰って貰って結構です」

『そうかよ。じゃ連携なんざ捨てちまうか。俺も勝手にやらして貰うぜ』

「え、あっちょっ」

 

ぷつっと切られる通信に木虎は狼狽える。食い下がってくるものとばかり思っていたため、何の躊躇もなく「連携を捨てる」という彼に驚いた。だが此方から通信し直すのも負けたようで癪だ。

悶々としているとパン!と手の叩く音が聞こえ、嵐山准が真剣な顔で見ていた。

 

「さ、これでトラップの懸念は無くなった。木虎、彼のやり方に文句はあるだろうけどそれはこの戦いが終わってからだ。いいな?」

「…はい、分かりました」

「よし。行くぞ!」

 

 

 

 

迅対太刀川、風間隊、そして狙撃手(スナイパー)3人。

前衛に太刀川と風間、その援護として歌川、菊地原、後衛に当真と奈良坂、古寺。

 

戦力差7倍、圧倒的である。それでも攻め切らないのは、迅が(ブラック)トリガーを所持しているからではない。抜きはしたが、「風刃」の真価たる能力は発揮されておらず、只のブレードとしてのみ使用されている。ならば何故か。

単純に迅は常に後退し続けているからだ。決して深追いせず、自分の安全を確保した上でのみ戦っている。

 

「面倒だな」

「ここまで当たらないのも悔しいですね」

 

奈良坂と古寺は呟く。迅のサイドエフェクトは狙撃手(スナイパー)殺しといっても過言ではなかった。精密であればあるほど、相手は避けやすくなるのだ。現に、1人完全にやる気を無くしていた。

 

「当真さん、あんたも撃ったらどうだ。当たらずとも牽制にはなる」

『あ?嫌だね。外しちまうなら兎も角、外れると解ってて撃つくらいなら死んだほうがましだ。奈良坂、そんな覚悟もないからお前は3位なんだ。ってことで、俺は三輪んとこ行くわ』

「なに!?」

 

言葉と共に屋根を下りる当真勇。未来を読める迅に、狙撃は効かない。しかし当たらない弾を撃つのは誇りが傷つく。妥協点としてもう一つの戦場へ向かうことにした。

 

「いいよ奈良坂。アイツはその方が活きる駒だ。しっかし、冬島さん遅いな…」

『あー、それなんですが太刀川さん。隊長、また医療ルームのベッドで寝込んでるそうです』

「あれ?大分良くなったって聞いてたけど。まぁいいか」

 

ここで太刀川の頭から冬島という札は捨てられる。来るか分からないものをアテにするのは愚策だ。それより、今ある戦力でどう勝つか。

 

「どうした、迅。以前の様なプレッシャーが感じられんぞ?」

「やる気無いんですよ。単なる時間稼ぎ、こうしてる間に玉狛の人たちが近界民(ネイバー)を逃してるんだ」

「いや、違うな」

 

菊地原の考えを否定し、風間が口を開く。迅の狙いを理解したのだ。

だがここで暴露されると、プランAは潰えることになる。

そう彼に教えた。だから、ここでくる。

 

「こいつの狙いは…っ!?」

 

風間の背後から飛来した弾丸は、彼の左脚を破壊した。バランスを崩し倒れる風間に続けて二撃目…は、太刀川に斬り捨てられる。

だが続けての三射目は、距離の離れた狙撃手(スナイパー)に向けて撃たれた。位置を知られていると判断した奈良坂と古寺は即座にトリガーをシールドに変更し、場所を変える。

 

「狙撃だと!?」

「佐鳥、じゃないよね。嵐山隊は三輪隊が引き受けてる。なら玉狛の人たち?」

「木崎さんじゃないよ」

 

歌川と菊地原は動揺しながらも風間を庇い射線から逃れようとするが、迅がそれを許すわけもない。菊地原の腕を斬り捨てながら反論。返す刃で風間を狙うが、太刀川が割って入る。

 

「お前の相手は俺だろう?」

「えぇー、面倒だなぁ」

「太刀川、そのまま迅を任せた。奈良坂、相手の頭を抑えろ!」

『了解!』

 

指示の前から狙撃方向に銃口を向け牽制していた奈良坂だったが、相手が見えない。既に移動したのか、隠れているのか。

 

「月見さん、相手の位置は!?」

『ずっと探っているけど、レーダーには一度も映ってないわ。1人もね』

「なんだと…」

 

あり得ない。バッグワームを使用しているのだろうがそれでも戦闘中ずっと装着しているにはトリオンが足りない。

 

「僕が行きます」

「待て、菊地原。それは悪手だ」

 

菊地原は迅から距離を取り、バッグワームを起動したところで、体勢を立て直した風間が止める。

 

「なぜですか、風間さん」

「それは…」

 

再びの狙撃、今度は別方向から。警戒していた歌川の頭を狙うが、それて右肩を穿つ。

 

「ちぃ!」

「けど、下手くそですね」

 

まさかB級を連れてきたのだろうか。絶好のチャンスだというのに、外した。風間の脚もダメージではあるが緊急脱出(ベイルアウト)とは程遠い箇所だ。

 

「違うな、そういう指示を受けたんだろう。そうだな、迅?」

「さぁてそれはどうかな」

 

曖昧な言葉で濁す迅だが、最早確信した。だが悠長に話す時間は無い。相手の居場所も解っていないまま、トリオンも漏出し続けている。今出来ることといえば、

 

「へー風間さん、上手いこと考えたね」

「単なる応急処置だ」

 

スコーピオンを板状にし、左脚からの漏出量を減らす。これで、活動限界までの時間はある程度長引くだろう。それでももう玉狛まで行くほどは残っていない。

風間隊で無事なのは1人も居ない。太刀川が無傷なのが救いだが、彼1人で(ブラック)トリガーを相手取るのは不可能だ。

狙撃手(スナイパー)も場所を変えるため移動している、援護は望めない。

 

「…認めよう、こちらの「おいおい風間さん、何言ってんだよ」…太刀川」

「まだ負けちゃいないさ、そうだろう当真?」

 

瞬間、彼らの頭上を一発の弾丸が通過した。

 

 

「なん…だと…っ」

 

まさか捕捉されてるとは思わなかった。某死神漫画の御家芸を言ってしまうほど驚いた。コンマ1秒、避けるのが遅れていたらやられていた。現に左肩から先の感覚が無い。これ後からめちゃくちゃ痛いやつだが、甘んじよう。俺のスタンスは「見つかったら負け」なのだ。

この戦闘、勝とうが負けようがもう個人的には死んだも同然。

 

しかし役目は果たさなくてはいけない。依頼内容は「トップチームの撤退、妥協して撃破」である。撃破の方が手っ取り早いが、依頼主(クライアント)の要望は極力応えるのがベストである。

 

「それはそれとして」

 

場所が知られたのならもう俺に出来ることはない。嵐山隊の方は行こう。当真さんが戻ってきたのならあっちは狙撃手(スナイパー)が居ない。

痛いところを突くのは俺にとってマナーに等しい。

 

 

 

「やはりか…」

 

狙撃が止んだ。倒したなら緊急脱出(ベイルアウト)の光が空に見える。当真が外すわけもないし、恐らくどこかに手傷を負わせたはずだ。

 

「レーダーに一切映らない狙撃手(スナイパー)、奴ならばバッグワームタグを(サブ)に付けていたな。つまり、お前は本部長派の嵐山隊だけでなく無所属で無派閥のために自由に動ける人材。

比企谷八幡も応援として呼んでいたということ」

「あっちゃー。当真が帰ってくるのはちと読み流したな。けど、やっぱりいい腕してるよ、アイツは」

 

「…比企谷か」

 

種明かしを始めた攻撃手(アタッカー)たちをスコープ越しに見つめながら、奈良坂は襲撃者の名を当てる。

たしかに奴ならばあり得る。嵐山のように律儀に姿を見せる訳もなく。不意打ち、騙し討ちは当たり前。

 

『当真くんが戻って来たと解った途端三輪くん達の方へ向かった辺り、彼の意地の悪さが出てるわね』

「月見さん…、比企谷のこと嫌いなんですか?」

「いいえ?褒めてるのよ。東さんの姉弟子としてね」

 

そうとは思えない言葉だが、実際月見は褒めていた。東の正当後継者といえる月見に対し、比企谷は我が道を往くといった具合だ。

しかし東の教えをないがしろにしてるのではなく自分なりに飲み込み、武器としている。それが今回の行動でよく理解できたためである。

 

「そして、お前の狙いは俺たちの撃破ではなく撤退。そちらの方が本部との軋轢も小さくなるからな。そう看破した途端、奴に脚をやられた。恐らくあそこで言えばお前にとって不利益となる、そう奴に教えたのだろう」

「流石風間さん、全部お見通しかな」

「皮肉か?」

「じゃあ風間さん、あの時僕を止めたのは」

「奴のトリガーにはメテオラとスパイダーがある。そこら中に即席のトラップが仕込まれていただろう。それも、緊急脱出(ベイルアウト)しない程度に程々の威力に調整されたな」

 

舐められている、そう感じた。だが、この戦況で何を言っても負け惜しみにしかならない。ここからどう逆転するか。

そう風間が考えていると、未だ迅を釘付けにしていた太刀川が声を上げた。

 

「当真、そのまま比企谷を追え!三輪の邪魔をさせるな。風間さん、やれるな?」

「…ふん。誰に向かってものを言っている。歌川、菊地原、隠密トリガー(カメレオン)を起動するぞ。奈良坂と古寺はなりふり構わず隙があれば撃て。俺たちに当てても文句は言わん」

 

このままジリ貧に陥るよりも、短期決戦にて決着をつける。不退転の決意を固めたトップチーム等に、迅は大きく息を吐いた。

そして、「風刃」に光の帯が生まれる。

 

「っ!」

「さて、ラストスパートだ」

 

 

『待てよ比企谷。偶には俺と遊ぼうぜ』

 

オープン回線越しに語りかけられ、一瞬体が硬直する。もう場所がバレた?いや、違う。適当に足止めの台詞を吐いてるだけだ。構わず移動する。

 

『…やっぱ止まっちゃくれねぇか。流石だぜ比企谷、俺の一番して欲しくないことをやりやがる』

 

失礼な。俺は常に相手のことを考えているだけだ。他意はある。

 

『けど今更行ったってもう決着ついてるかもしれないぜ?なら、お前の行動は無駄だ。それよりお前も気にならねぇか、ボーダーで一番の狙撃手(スナイパー)は誰なのか』

 

全っ然興味ない。材木座の「これで解る、我渾身の最強トリガー!」なる講座くらい興味ない。誰も参加してなかったし。

 

『前から不満だったんだよ。ボーダーでの成績なんぞより、こういうマジな実戦でこそはっきり解るってもんだ』

 

知らんがな。俺を巻き込むな、奈良坂と勝手にやってろ。

 

『お前はどうだ、本当に興味ないのか?』

 

ないね。

 

『お前の妹に「お兄ちゃん、一番なの!?凄いね!」って言われる絶好のチャンスなのにか?』

 

…。

 

 

 

 

「…当真先輩って馬鹿なんですか?」

「俺に聞くなよ。それに、アイツには効果的だぜ?さぁ、どう出る」

 

つい、目の前の敵に聞いてしまうほど木虎は目を据わらせていた。それを間近で見ていた米屋もつい苦笑する。

空きマンションの屋内で戦闘を繰り広げていた2人だが、そこでいきなり通信が入ったのだ。2人共屋内のため戦況が分からず睨み合ったまま聞いていると、どうやら当真勇が比企谷をどうにか足止めしようとしているらしい。

先まで一切影も形もなかった比企谷は、どうやら迅の方にいたらしく。そこから此方に向かう途中だった。そこへ当真が追撃を任された、ということか。未だどちらも落ちていない、ここまで長く緊張感の漂う空気はランク戦でも稀であった。

だというのに、当真からの妙な台詞にがっくしと肩を落とす。そんな言葉で靡く人間がどこにいるというのだ。全く、阿呆らしい。

 

『…いいぜ、受けて立つ』

 

いた。

 

「…はぁ!!?」

「うはははは!流石シスコン、馬鹿丸出しだ!!」

 

意味が分からない、そんな表情の木虎と爆笑する米屋。腹痛ぇ!と叫ぶ米屋は隙だらけだが、ショックのでかい木虎は動けない。まさか、でも、えぇ!?頭の中でパニックを起こしていた。

 

「あぁ、木虎は知らなかったっけ?比企谷って、重度のシスコンなんだよ」

 

仮にも仲間であるボーダー隊員に薬を盛り、恐らく此方が優勢だったと言うのに、「妹に褒めて貰える」などというあり得ない理由で勝負に乗る。木虎の中で、比企谷八幡という隊員の株は凄まじい速度で急降下していた。

 

『そう言うだろうと思ったぜ。…俺の白鷺(イーグレット)とお前の夜梟(ナイトアウル)。どちらが上かいっちょ勝負といこうか』

 

そこでぷつんと切られる通信。戦いが始まったのだろう、1位と2位の戦いが。しかし最後に気になることを言っていた。

 

「ナイトアウル?」

「比企谷の狙撃トリガーだよ。実質あいつしか使ってない、使う意味がないからな」

「それはどういう意味?」

 

つまりだな、そう言いながら槍を構える米屋に、木虎も腰を落とした。

 

「あとは本人から聞きな!」

「話しかけたくないわ!」

 

 

ボーダーに存在する狙撃手(スナイパー)用トリガーは全部で3つ。

射程に秀でた白鷺(イーグレット)

弾速に秀でた雷光(ライトニング)

威力に秀でた朱鷺(アイビス)

 

だが何事も例外は存在する。俺の夜梟(ナイトアウル)もまたその一つ。こいつの特性は「完全マニュアル」。3つのステータスの内どれを優先するのかを1発1発変更することができる。

射程に特化させ白鷺(イーグレット)に似せるか、はたまた弾速と威力を掛け合わせ雷光(ライトニング)朱鷺(アイビス)の中間のような狙撃を行うか。

 

無論弱点も点在する。例えば威力に全振りしたとしてもオリジナルたる朱鷺(アイビス)を超えることはない。リアルタイムで設定変更を行うため装填にある程度時間が掛かるし、消費トリオンも他より膨大だ。

癖も強い。狙撃手(スナイパー)なら分かると思うが、狙撃銃には其々癖が存在する。コンディションと言うべきか、本当に緻密で細かいところでズレが生まれるのだ。それは、コンマ1ミリという狙撃の世界では致命的である。

 

そもそも他の狙撃銃と2挺持てばいい話である。実際他のボーダー隊員はそうしている。奈良坂とか3つとも持ってるし。俺のようにトリガー構成に空きのないものしかこれは必要ない。

 

それでも俺がこれの開発を頼んだのは、1人で戦うという決意表明。その現れだからだ。

 

「さて、どうしたもんか」

 

緊急脱出(ベイルアウト)をさせたら負け、しかし此方がしても負け。だが時間は俺の味方だ。迅さんが太刀川さんたちを撤退に追い込むまで時間稼ぎに徹すればいい。そんなことをボーダー第一位狙撃手(スナイパー)様が許すわけないが。

 

狙撃手(スナイパー)同士の戦闘はとても静かなものだ。相手が射線に入るということは、つまり相手の射線に入るということ。

どちらが先に見つけるか、ちょっとした隠れんぼみたいなものだ。したことないけど。

そのまま待ちに入り、相手の行動を待つ。時間が経てば経つほどこっちが有利になる。

嵐山隊対三輪隊。その横数百メートルで、俺対当真さん。

 

 

ここで想定外のことが発生した。

ここら一帯で数少ないマンションから、音を立てて2人の隊員が飛び出してきたのだ。米屋と、木虎か。既に米屋は致命傷を負っていた。

それを下から攻撃するのは、射手(シューター)ナンバーワンの出水公平。木虎を襲う寸前、フォローに入った時枝のシールドに塞がれる。

しかしここで時枝の頭を穿つのは、当真さんの狙撃。俺を足止めすると見せかけて既にあっちと合流していたのか。

 

久しぶりにしてやられた。これは俺も本気にならざるを得ない。

素早く装填を済ませ、設定を施す。弾速に全振り、次点で射程。攻撃力は皆無だが、それでいい。これは相手のトリオン体を撃つ為の弾丸ではない。

 

そうして、木虎に向けられた第ニ射に空中でぶち当てる。左腕が無くとも何ら支障はない。あの日以降片腕片脚の訓練を積んだからだ。

 

「っだと!?」

 

出水の驚く声を尻目に、俺は素早く移動する。同時に時枝と米屋の緊急脱出(ベイルアウト)による光が見えた。

 

「絢辻、聞こえるか?」

『はい、聞こえてますよ比企谷くん』

「すまん、俺のミスだ。当真さんを抑えきれなかった。時枝に謝っておいてくれ。それと狙撃ポイントを割り出してこっちに送れるか?」

『了解しました。それと、謝罪の件は特に必要ないと時枝くんも仰っています』

「いや、俺自身が我慢ならん。小町に怒られちまう」

『結局危惧しているのはそこなんですね…』

 

半ば呆れた声を出す嵐山隊オペレーターの絢辻遥。ボーダーにもファンが多いと聞く。だが、一度彼女の絵を見た俺はクトゥルフ神話を連想させられた。彼女は海魔を生み出す能力を持ってるのだ。

ジル・ド・レェかよ。

 

「で、佐鳥は何処だ?」

『ひ、比企谷先輩やりますねぇ!弾当てとかまじかっけぇっす!』

「そういうのいいから。お前も仕事しろ」

『辛辣ぅ!』

 

お調子者ツイン狙撃手(スナイパー)、佐鳥賢。軽口とは裏腹に、俺はこいつのツインスナイプなる技術を評価していた。邪道なところがいいね。

 

「もう迅さんところも決着がつくだろう。俺たちは緊急脱出(ベイルアウト)されなきゃ勝ちだ」

『それじゃ駄目です!』

「…木虎か」

 

焦るような木虎の反論に、内心辟易とする。時枝の緊急脱出(ベイルアウト)が自分のせいだと考えているのか。だとしたらそれは間違いだ。

しかしそれを言って止まるやつではないのは、テレビを見て理解していた。雪ノ下と同じくプライドが高く、負けん気が強い。こういう類には下手に押さえつけても逆効果だ。

 

整理しよう。今こちらでは嵐山隊の嵐山准、木虎藍、佐鳥賢、そして俺こと比企谷八幡。万能手(オールラウンダー)2人に狙撃手(スナイパー)2人。遠距離向きのパーティだ。

対するは太刀川隊の出水公平、三輪隊の三輪秀次、冬島隊の当真勇。

射手(シューター)万能手(オールラウンダー)狙撃手(スナイパー)が1人ずつ。やや遠距離寄りの中距離か。

 

嵐山さんは足に鉛弾(レッドバレット)をつけている為動きは鈍い。

どこかで追いつかれるだろう。ならば陣形に誘い込む。

 

「なら、俺に作戦があります」

 

 

 

「比企谷ぁ!?あいつ来てんのかよ!成る程、さっきの狙撃もあいつの仕業か。ったく、東さんみたいなことしやがって」

「比企谷っ…!」

 

当真勇からの情報に出水公平は大げさに驚く。先の狙撃は佐鳥かと思っていた。しかし、予想外の返答が返ってきたためである。

 

比企谷八幡。ボーダーA級にして部隊に所属しない唯一の隊員。故にランク戦にも出ず、A級で最も知名度が低く情報が少ない。そんな彼が何故迅に協力するのか。

 

そこまで考え三輪秀次は思考を閉ざした。どうでもいい、奴は敵だ。ならば打ち果たすだけである。

 

「おっと、レーダーに映った」

 

出水の言葉に、三輪も自分の索敵を行う。丁度自分たちと玉狛支部の直線上に、1つ。嵐山だろう。佐鳥と木虎はバッグワーム、比企谷はバッグワームタグで隠れている。

 

「どうする、完全に罠だぜ?ちょっと時間掛かるが迂回した方がいい」

『その時間はあんまり無い。太刀川さんたちは不利っぽいし』

「んじゃむざむざ蜂の巣にされろってか?当真さん何か考えでもあんのかよ?」

『それを考えるのは三輪の仕事だろ』

「…こうして悩ませ、焦らせるのも狙いの1つでしょう。なら、直ぐに行動するべきです。当真さん、2人の狙撃手(スナイパー)をお願いします、いざとなったら俺がカバーに入るので。出水、お前は嵐山さんと木虎だ」

『了解』

「はいよー」

 

そのまま、放棄地帯を走る。レーダーに映る反応は微動だにせず、接敵まで後30メートルを切ったところで、出水は大きく跳んだ。

目標、公園の真ん中にいる嵐山准。

 

炸裂弾(メテオラ)!」

 

出会い頭の爆撃が嵐山に襲いかかる。豊富なトリオンにものを言わせたゴリ押し。単純明解な分威力も高く、シールドを構えていた嵐山にすらダメージを与える。が、耐えきった。

 

「うお、やるなー」

「すぐに退くぞ。深追いせず木虎の奇襲と狙撃を警戒する。このまま嵐山さんを削りきる」

 

言いながら、建物の陰に隠れる。

公園の隣にはマンションがいくつもあるため、狙撃手(スナイパー)には絶好の場所と言える。何処から撃たれるか分からない。

比企谷のせいで木虎はまだ無傷のままだ、こちらも警戒がいる。

 

変化弾(バイパー)

 

死角から攻撃するため、弾道を操作できるキューブを生成する出水と、鉛弾(レッドバレット)を拳銃に装填する三輪。これなら狙撃手(スナイパー)の脅威に晒されずに済む。

 

「嵐山さん!あんたの部下はどこだ!?」

「それは言えないな!」

「ふん、まぁいい。1人ずつ潰していくだけだ」

 

『あー、カッコつけてるとこ悪いが、もう終わりだ』

 

真上からの狙撃と奇襲。陰に隠れた建物、敵はそこに潜んでいた。

木虎が飛び降り、着地前の足蹴りが出水の右腕、狙撃は三輪の左腕をそれぞれ奪った。木虎の右脚にはスコーピオンが纏わせてあり、それが攻撃力を強化したのだろう。

 

「な、に!?」

『ここに隠れると思ったよ。嵐山さんを攻撃できて、かつ狙撃を受けにくいここにな』

 

未だ姿を見せず淡々と話す男に、徐々に理解が追いつく。読まれていた、ということだろう。だがまだ勝負はついていない。三輪はすぐさま近距離戦に備えて孤月を抜く、が。

 

「まだだ!」

『いいえ。三輪くん、作戦終了よ』

 

ここでオペレーターからもストップが掛かる。味方からの言葉に、流石に足を止めた三輪。タイミングを見計らった月見が落ち着いた声で語りかける。

 

『太刀川くんと風間隊はトリオン切れで撤退したわ。奈良坂くんと章平くんももう撤収済みよ』

「……っ!!」

「くああー!負けた負けたー!」

「ま、しょうがないか」

 

戦いが終わったのを知ったのか当真も姿を現わす。嵐山は自分の隊員達全員に労いの声を掛けていた。

 

「5位のチームに負けたのは落ち込むなぁ」

「うちの隊は広報の仕事を加味した上での5位なんです。そこらの5位と一緒にしないで下さい」

「かぁー腹立つ!で、いつまで隠れたんだよ、比企谷!顔くらい見せたらどうだ?」

『…』

「無視かよ、さっきまでドヤ顔で喋ってただろうが!」

 

叫ぶ出水を尻目に、三輪はやり切れない怒りを抱く。なぜ、邪魔をする。理解出来なかった。

 

「嵐山さん、あんたらは解ってないんだ。身近な人間が殺されてからでは遅い。迅は甘すぎる。いつか、必ず後悔する」

「後悔なら、あいつだってもうしてるだろ。あいつの母親も、師匠の最上さんだって失ってる、近界民(ネイバー)によってな」

「…!」

「その上で、あいつは動いてる。だから協力するんだ。…さ、帰る前にこの重り、外して貰えると嬉しいんだが」

 

「くそっ!!」

 

 

争奪戦は迅さんの勝利だ。俺の勝利ではない。先述の通り、俺は既に死んだ身だ。あれではだめだ。更に研鑽を積まねばなるまい。

それより今漸く理解できた。俺が三輪秀次を苦手としている理由。

 

『いつか、必ず後悔する』

 

あいつは俺だ。正確には、『比企谷小町』を喪った(比企谷八幡)だ。成る程、知りたくもないイフを見せられるのは耐えられない。

他人に勝手に自分を投影して、勝手に同情して、勝手に嫌悪する。

ああ、俺はなんて嫌な人間なんだろうか。それでもこのままでいなければならない。

 

『いやー、助かったよ比企谷。お陰でプランAのまま無事終えることができた』

「そうですか。あんたが満足ならそれでいいですよ。それで、例の報酬の件ですが」

『うん?あ、マッカンのこと?ったくお前もよっぽど「そっちじゃねぇよ」…あぁ、分かってる』

 

嵐山隊の手前、そういった報酬で動いていると誤魔化したが、この俺がそんな軽いもののために本部に喧嘩売るような馬鹿な真似するわけがない。というかよくあんなので嵐山さん納得したな。そんなに俺がお人好しに見えたのか?

 

俺がボーダーに入ったのは金のためでもあるが、それ以上に大きな理由があった。

 

「例の大規模侵攻の時、小町を最も安全な場所に避難させる優先権」

『解ってる。俺のサイドエフェクトで洗い出した、絶対に被害を受けない場所を後でそっちにデータで送るよ』

「有難う御座います」

 

命は1人1つ。誰しもが平等に与えられたものだ。今回の俺の行動で、被害を受けるべきでなかった人間が傷つくかもしれない。

だがどうでも良い。俺は俺のしたいようにやる。

 

『けど、先に言っとくぞ比企谷』

「なんですか?」

『お前の気持ちは痛い程よく分かる。俺だってこのサイドエフェクトが発現してから必死に奔走したからな。それでも、俺は母親も、最上さんも救えなかった。未来は絶対じゃない、お前の行動で逆に小町ちゃんが危険に陥る可能性だってある。それを、よく分かっててくれ』

 

お前はおれのようになるな。そう言っている気がした。

 

「了解しました」

『それともう一つ』

「…何ですか?」

『もっと、彼女を信じてあげたらどうだ?』

「あんたには関係ない話だ」

『そうか、余計なお世話だったな。悪い』

 

 

通信も切られ、完全な静寂が訪れる。ほかの隊員も全員撤退したらしい。真夜中、廃墟にて佇む俺はまさに死人だ。

 

「草木も眠る丑三つ時」という言葉がある。人も動物も、植物すら眠ってしまう時間帯。そして、その時に活動を始める闇に潜むものたちが居ると昔から言い伝えられていた。

ならば眠れない俺は、逆説的にそんな奴らと同類ということだろう。

 

 

今この時も敵は動いているかもしれない。見ず知らずの人間を奴隷にする為にこの街を襲い、策を練り狡猾な罠を張り人を殺す。何から何まで最低な行為だ。そんな者を相手にすると思うだけで恐ろしい。

 

それでもやることは変わらない。敵の情報を集め考えて、対処する。幸運にも俺はその時間が他の人よりも少しだけ多いのだから。

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