転生人生〜俺は人生を楽しむために努力する〜   作:黒猫鈎尻尾

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【二章】二話。人は常に柵に囚われている

 

 食事が終わり、食後のお茶も恙無(つつがな)く終わり、ほっと一安心する。

 

 違和感なく上手く誤魔化せたか? それともフォルネーゼがうまく言ってくれたのかどちらかわからないが。

 それでも変に騒がれなくて済むのはこの上ないことだ。貴族社会だと親の決めつけで悪魔憑きとか簡単に押し通る。

 なるべく違和感なく少しずつ変化をつけさせなければならない。

 

 ズキリッと胸の奥に小骨が引っ掛かったように痛む。

 親がろくでなしならともかく、こういう愛情をたっぷりと注ぐ両親の元に生まれると、これらから子供を奪った気がして胸が痛く感じる。

 

 前の人格を塗り潰して現在の人格が出て来ている訳だから本人ではあるが別人でもあるのだ。

 

 なるべく、いつもどおりに子供らしさを残して、なるべく甘える事を多くすることぐらいしかできない。

 

 それよりも、これからのことを考えなければならない。

 優先順位として第一に家名を汚す行為はしない。

 次に付けるべき力をこの身に養う。

 

 今回は魔法を諦める。魔法で誰かを救うことは今の体では不可能に近い。

 

 転生を繰り返し、蓄積した知識で勝負する他ないだろう。

 錬金術、薬学、毒物学、人体構造学の全てを今の脳に入れる事は不可能だが、どれか一つに絞ってならばできないことはない。

 

 そうと決まれば、現代の知識が必要になる。

 知識とは積み重ねによって蓄積され、進化していくものだが、時代に寄っては退化する事もある。

 現代がどれほどの知識量があり、自分が知らない事を知る必要があった。

 

 幸いにも今回の生では伯爵という貴族位にあるために、屋敷の中にも蔵書が積まれた書庫も存在している。

 まずは書庫の本を読み漁ることに決めた。

 

 書庫の管理は基本的に当主が行う。本は希少価値があるだけではない。

 基本的には徴税や街の名簿等の原本もここにあるからだ。

 

 なんと言って父を説得して、中に入る許可を得ようかと悩んでいた。

 

 だが、後日、そんな悩んでいたことすら馬鹿馬鹿しくなるほど、許可はあっさりと降りた。

 

「書庫を使いたい? 構わないよ。鍵は家令のレイシスが持っているから好きに使いなさい」

「えっ? いいのですか? お父様」

 

「おかしな事を聞くね? 別に構わないさ」

 

 こんな風に簡単に許可が頂けた。家令のレイシスに聞くと、大切な税調書や親書の類は別の魔法で施錠された部屋にあるという。

 流石は伯爵家と言うべきか。男爵や子爵と違ってそれ専門の部屋もあるという。

 

 それもそうかと納得する。男爵や子爵とは格違いに領地が広く、その税調書ですら膨大な数に登る。

 そんなものと色んな本を纏めた書斎に置いたら、きっと紙で溢れ出してしまうに違いない。

 

 書斎通いを始めて、いくつか解ったことがある。今の光暦だ。

 アレク達と旅をしていたのが光歴1512年で、今の光歴は1563年と、60年ほど経っている。

 アレクは生きているかもしれないが、会う気はないし、会った所で説明のしようがない。

 

 知識の更新と同時に体も出来る限り鍛える。

 鍛えると言っても、筋トレが大っぴらに出来るものではない。やたら広い部屋の中で寝る前に、柔軟を中心に体を慣らしていく。

 女性と男性の一番の違いは、柔軟性にある。

 身体の構造上、関節の駆動域は女性の方が広くなっている。

 骨盤の形状の違いもあるが、腕の関節などは男性で曲がらない逆側にもある程度は曲がったりする。

 俗に言う『猿手』と言われる関節の駆動域だ。

 

 筋肉が付き難い分は柔軟性で代用する。

 ストレッチを過剰にすることにより、筋肉を柔軟にして、靭帯も鍛えるのだ。

 

 男の拳が棍棒とするならば、女性の拳が鞭に等しい。

 打撃力はないが、しなやかに放たれる打撃は速く躱しづらい。

 

 それにこの身体には魔力がほとんどないしね。

 

 魔力行使するだけの魔力が多少でもあれば、身体強化で男にも勝る膂力を得られるが、それすらも魔力量的に不可能だ。 

 

 まぁ、これでも人生の中では上位に来るほど恵まれてはいるのだが……

 今までの転生の中で五歳以上までに死んだのが二割、欠損や病気だったのが二割、五歳以上で死が避けられないのが三割だ。

 それぐらいこの世界は行き辛い世界なのだ。

 

 

 親に心配を掛けない程度に、なるべく家族との時間を大切にしながら、日々過ごしてゆく。

 

 そして、来たるべき日に備えねばならない。

 備えねばならないのだが……

 

「はーい。マイラちゃん。次はこれを着てみましょうか!」

 

 今、私は次々と着せ替えさせられていた。

 次で四……五着目だったか?

 別に私としては自分の美を磨く事に否やはない。今までの人生で女に生まれた事は数多くあるし、貴族の子女に生まれるのも初めてではない。

 でも、ひたすら脱いで着てさせられるのは、男じゃなくても辛いものは辛い。

 

「お母様、やっぱりマイラちゃんには赤が似合うんじゃないかしら? 綺麗な銀の髪が一番映えるもの」

「うーん。でも、この緑も捨てがたいのよね。赤のスカーフと赤いリボンで差し色を入れるがお洒落だわ」

 

 今は母と姉と数人のメイドに囲まれて、流行りのドレスを新調しているのだ。

 

 昼に初めて空が茜色に染まるまで、それは続いた。

 肉体的にも疲れたが、何より精神的に疲れた。世の女性はよくこれが出来ると感心する。

 今日一日何もできずに終わった。書庫に籠もりたかったが、母と姉に捕まってしまった。

 

 それにしても、こればかりは女の体は面倒だわっと思うが、また、家族の愛情がそこに感じられて嬉しくも感じる。

 


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