〜須美視点〜
「いやぁ〜ギリギリセーフ!」
「セーフ、じゃありません」
「あぅ、すいやせん…」
扉の前で行われているやり取りに、クラス中が笑いに包まれた。そんな中私はジッと銀の方を見つめている。
(また、遅刻……合宿の時もそうだったけど、いや、それより前からか、銀の遅刻の量は異常な気がするわね)
そんなことを考えていると、席についた銀の鞄の中から猫が飛び出していた。……少し、頭が痛くなってきた。
(銀の遅刻の原因はなんなのか、その元を断つ必要があるわね。そうと決まれば、行動あるのみ!)
「と、言うわけでそのっち。あなたにも協力してもらうわよ」
「りょうかぁ〜い……スヤァ( ˘ω˘ )」
そのっちは机に身を預けながら、私の言葉に反応している。うとうとしつつも、私の話はしっかり聞いているらしい。
「わっしー、こうくんは誘わないの〜?」
「(寝てたんじゃないのね)……気持ちは分かるけど、天草くんは観音寺市の方に家があるのよ?そんなに、気軽には誘えないわ」
「皆集まった方がもっとたのしぃよぉ〜?ね、わっしー、ダメ元で誘ってみようよぉ〜」
「でも……」
私がしぶっていると、そのっちがじたばたと駄々をこね始める。
「こうくんとも、遊びたい〜、わっしーはこうくんと一緒に過ごしたくないの〜?」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
「じゃあ、誘おうよ〜わっしーもこうくんと会いたいでしょ〜?」ニヤニヤ
「そ、その顔をやめなさい、そのっち!わかったから、誘うから!」
「やったぁ〜♪」
先ほどまでの不敵な笑みは何処へやら、惚けた笑顔に戻るそのっち。その様子を見て、溜め息をつきながらも天草くんにメールを打った。
〜須美視点out〜
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〜洸輔視点〜
「うぅ〜ん、つ か れ たぁぁぁ〜」
自室に着いたと同時に、ベッドへと倒れ込んだ。合宿が終わった次の日からの即学校……全く、朝から大変だったぜ。特に……友奈が……(何があったかは多くは語らない)
「異変、ねぇ……」
最初の戦闘以来特に何も起きていないせいか、イマイチ実感が湧かない。いやまぁ、中二の僕が小六の頃の僕に憑依している時点で異変っちゃかなり異変なんだけど。
(こう日常を過ごしていると……忘れそうになっちゃうよなぁ)
「……ん?メール?」
ベッドに寝転がりながら、通知を確認する。差出人は_______。
「鷲尾さんから?うん、うん……えっ!?鷲尾さんから!?」
まさかだった、あの三人の中でも最も距離があるように感じていた鷲尾さんが僕にメールを飛ばしてくるとは。
「少しでも、合宿で近づけたってことかな……」
そう考えると、無性に嬉しくなった。テンションが上がった僕はメールの内容をすぐに確認する。
「折角誘ってくれたんだ、行くしかない!よし、今週の日曜は大橋方面へレッツゴー!」
自分でも引くくらいの、謎テンションになってしまっているが気にしない。
そして、日曜当日。電車を使い、大橋の方へと向かった。
「天草洸輔!二人の呼び声に応え、たった今参上しました!」
「こんにちはー、こうくーん。へいへい〜♪」
「こんにちは〜園子、鷲尾さんも」
駅でわざわざ待っていてくれた二人と合流した。相変わらずのテンションの高さの園子とハイタッチしつつ、鷲尾さんにも挨拶する。
「ごめんなさい、天草くん。遠いのに、呼び出してしまって」
「気にしなくていいよ、寧ろ誘ってくれてありがとうね。鷲尾さん」
「い、いや、別に私は……」
「わっしーもこうくんと一緒に過ごしたかったんだってぇ〜。勿論、私もだけど〜」
「そのっち!?」
「そうなんだ、僕も鷲尾さんや園子と会いたかったから嬉しいな」
「っ〜…」「さっすが、こうく〜ん♪」
僕の言葉を聞くや否や、鷲尾さんは顔を俯かせ園子は目を光らせた。そんなに変なこと言っちゃったかな?
「そ、それじゃ、ぎ、銀の家に向かいましょうか…」
「あのー鷲尾さん。なんか、顔赤いけど大丈夫?」
「大丈夫、問題ないわ!さ、い、行きましょ〜!!!」
て、テンション高いなぁ。相当楽しみなんだなぁ〜銀のストーk……尾行。僕も銀の事、知りたいから楽しみだけど。
「こうくんこうくん」
「何?」
「もっと、楽しませてねぇ〜♪」
「えっ?うん、が、頑張る?」
園子の言葉の意味が分からなかったが、首を傾げつつも了承する。こうして、僕らの銀尾行作戦が始まった。
「さて、そろそろ銀の家ね。二人とも、準備はいい?」
「できてるよ、ほら、園子。蟻さんとの対話は後々」
「えぇ〜しょぼーん〜…」
「拗ねない拗ねない。ほら、行くよ?園子」
「はぁ〜い♪」
「天草くん、すごいわね。そのっちとの関わり方がよくわかってる」
鷲尾さんの言葉を聞いて、苦笑いを浮かべる僕。まぁ、あっちでは何度も園子に遊ばれたからね。三人で、軽い雑談をしつつ歩いているとある場所に着いた。
「ここが、三ノ輪さんの家ね」
「うわぁ……銀の家も、中々でかいなぁ……」
「さて、早速様子を」
「あ、もしかしてピンポンダッシュ〜?」
「そんな恐ろしいことは却下よ。そんなことよりも、これを使うの」
僕が銀の家の大きさに驚愕していると、鷲尾さんが何やらすごい機器を取り出した。いや、これもう、ストーk…。
「あ、わっしー、こうくん!見てみて!」
園子が、指を刺した方向には銀がいた。赤ちゃんをあやしている?
『おい、泣くな〜。お前はこの銀様の弟だろ?』
『ふぇ…』
『こらこら、泣くなって。泣いていいのはお母ちゃんに預けたお年玉が帰ってこないと悟った時だけだぞ?』
『うぅ…あぅぅ……』
『うーむ、愚図り泣きが始まってしまったか……どうしよ、ミルクやおしめじゃないだろうし……あ、もしかして、お前さんが欲しがってたのはこれか?』
『あ、あぅ〜♪』
『お〜泣きやんだ!偉いぞ、マイブラザ〜。にしても、甘えん坊な弟だよなぁ……よし、大きくなったら舎弟にしてやろっと♪』
『姉ちゃーん!買い物はー!?』
『はーい!ちょっと待ってねぇ!』
「わぁ〜♪ミノさん、すごい〜♪子守りもお手伝いやってるよ〜」
三ノ輪家の一部始終を見ていた園子が、目を光らせながらそう言った。驚いた、銀に弟がいたとは……通りで面倒見がいいわけだ。
「あんな小さな弟達が居たのね。遅れたらしているのは、世話が大変という事なのかしら?」
「結構、大変そうだよね…僕、兄弟いないから分かんないけど(二人ほど厄介な幼馴染がいるが…)」
「どうやら買い物に行くために動き出したみたいね。行くわよ、二人とも」
「「了解!」」
鷲尾さんの指示と共に、銀の尾行は続く。銀を追っていって着いたのはイネスの手前。
「ん?ねぇ、二人とも。あれって…」
「あれは、道を尋ねられたのかしら?」
「おお〜ミノさん優しぃ〜♪」
どうやら、道に迷ったお爺さんを先導しているようだ。その後も、銀はお婆さんに道を教えてあげたり、倒れていた自転車を直したり、飼い犬を離してしまった飼い主さんを助けてあげたりなど、次から次へと銀は問題を解決していった。
「もしかして、銀ってかなりの巻き込まれ体質?」
「確かにぃ〜次から次だもんねぇ〜」
「う〜ん、私からすれば巻き込まれているというより、放っておけないって感じな気がするけど…これも、勇者だからなのかしら」
鷲尾さんの言葉を聞いて、納得した。確かにそっちの方がしっくり来る。銀は、きっと困っている人を放っておけないタイプなのだろう、そういうところ、ちょっと友奈に似ている。
〜洸輔視点out〜
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〜鷲尾須美視点〜
あれからも、銀は色々なことに巻き込まれていた。どうやら、目的地はイネスらしく銀はさっきまでのドタバタ具合を感じさせないような、何食わぬ表情で入っていった。
「な、なんというかすごいなぁ……銀は」
「えぇ……事件に巻き込まれる確率が高すぎるわ」
「大半はさっきわっしーも言ってたけど、放っておけないって感じだったけどねぇ」
そのっちの言葉に肯定の意味を込めて、強く頷いた。そうして、銀に置いていかれないように、様子を伺いながら私達はイネスの方へと向かっていく。すると______。
「大変だ!!子供が!!」
背後から、そんな声が聞こえた。その声に驚き振り返る。
「何!?」
「わ、わっしー!あれ!」
そのっちが指差した先には、小さい子が転んでしまったのか道路でうずくまっている姿が見えた。近くにボールが落ちている…転がってしまったボールを取ろうとして飛び出した…?トラックも止まる気配がない。
(誰か……ううん、私が…遠くない。走れば届く!でも……でも、下手をしたら死んで……)
私が一歩を踏み出せずにいると、横にいた誰かが動いた。動いたのは、天草くんだった。
「っ!!間に合ってくれ!!!」
「あ、天草く…!?」
そこからの流れは、一瞬だった。いや、そう感じただけかもしれない。トラックに轢かれそうになり、泣き出してしまっていた子供を天草くんが即座に抱き抱え、ギリギリの所で助けることに成功した。そんな光景を、私とそのっちは黙って見ていることしかできなかった。
「も、もぉ〜!本当に怖かったんよ〜!」
「ご、ごめんごめんって!叩かないでって!」
そのっちが天草くんを、弱めではあるが叩いていた。あの後、トラックの運転手は居眠り運転をしていたらしく、通報を受けやって来た警察に連れていかれていた。子供は転んだ時に出来た擦り傷以外に外傷はなく、天草くんも無事、けが人は誰も出なかった。
「鷲尾さん〜!園子とめてぇ〜!」
「ねぇ、天草くん……」
「ど、どうしたの?」
「なんで、そんな風に笑えるの?もしかしたら……し、死んでいたかもしれないのに……」
すごいと思った、かっこいいとも思うあんな場面で自分を省みず、名前もしらない誰かを救いに行けるのは。でも、同時に『怖い』とも感じた。
「え、と……」
「わっしー?」
「ごめんなさい……別に攻めている訳じゃないし、説教しようと思ったわけでもないの……ただ、……」
さっきの天草くんの行いは、きっと正しい事なんだろう。でも、私の中に何かが引っかかっていた。
そんな私の手を、天草くんが握る。
「ごめんね、怖い思いさせて」
「……」
「それでも、放っておけなかったんだ……何より」
天草くんは優しい声でそう言う、握ってもらった手が暖かい。先ほどよりも、手の震えが収まっていった。私の『怖い』という感情は、すこしづつ消えていっていた。
しかし、それは彼の次の言葉と表情でまた_________。
「誰も傷つかなかったし誰も何も失わなかったでしょ?」
「っ……!」
そう言った彼の表情は『笑顔』だった。声が出なくなった。さっきまで消えかかっていた恐怖が戻ってくる。何故かは、分からないが私はその時天草くんの事を『歪』だと思ってしまった。
正しい事、人を助けるという行為は正しい事なのかもしれない。そうだとしても、彼のこれはそれだけで表現していいものなのか。
私達と同じ、勇者に選ばれた男の子。でも、今の言葉は……初めて勇者に選ばれた子が、出せる言葉なのだろうか。『自己犠牲』、でも、天草くんのこれは……そんなものをとうに越してしまっている気がした。
「わっしー……大丈夫?」
「あ、う、うん。大丈夫……よ」
そのっちが心配そうに、私の顔を覗き込む。なんとか、言葉を捻り出したが……その時の私はどんな顔をしていただろう。
瞬間、周りから音が消える。私達以外の人は、皆止まっている。どうやら、御役目の時間のようだ。
鈴の音が聞こえる。
「樹海化……来たのね」
「む〜、ミノさんを追いかけようと思ったのにぃ〜、何よりせっかくの日曜日が〜」
「本当だよねぇ〜全く、休日くらい来ないでほしいもんだよ」
三人でスマホを取り出し、勇者になる為のアプリを起動させた。視界が光に包まれる中、天草くんの先ほどの言葉と表情が脳裏に蘇ってくる。
『誰も傷つかなかったし誰も何も失わなかったでしょ?』
(天草くん、あなたは________)
洸輔くん、前に東郷さんに言われた言葉、忘れてないかい?()