天草洸輔は勇者である   作:こうが

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 深夜の投稿……遅くなってすいません。カロリーがたけぇですぞ、今回のお話、では本編…どうぞ。


第十五章 人類の味方

『腹部にダメージを負って…』

『ほぼ完治不能の傷だったんだぞ、なのに……』

『普通の人間の治癒能力を遥かに凌駕している…これは』

 

 脳裏によぎるのは医師達の会話。目の前ですやすやと寝息をたてながら、ベッドに横たわっている少年に目を向ける。

 

「……貴方は一体」

 

 何度目か分からなくなる程呟いた言葉。徐々に浮き彫りになってきた事実に、頭を抱える。

 

(天草洸輔……この子は、人間ではないのかもしれない)

 

 病院に運ばれてくる前、彼の体はいつ死んでしまってもおかしくない程に衰弱し、弱りきっていた。

 

(腹部にみられたあの傷……人間の治癒能力では、とてもじゃないけど…治しきれるはずがないのに)

 

 しかし、瀕死状態であった彼の体は突然、何もなかったかのように……修復されていたという。なんの予兆もなく、本当に、何もなかったかのように。

 

(神樹様も…彼について詳しい事は話してくださらない)

 

 時々、意味深な神託を伝えてくるだけ。根幹となる部分について一切触れられない為、手詰まりの状態にある。

 

 挙句、先日に起きた突然の襲撃等。イレギュラーの連続で、大赦内部は軽い混乱状態に陥ってすらいる。この子についても、様々な仮説や意見が飛び交い、あまり穏やかではない状況が続いている。

 

 でも、あんな風に彼女達と笑い合える彼が……

 

「敵だ、なんて事は絶対に…そう、絶対ないわ」

 

 あの時の真っ直ぐな瞳と言葉、あれが嘘だったとは私には思えない。

 

「……早く目を覚ましなさい、貴方を待っている子達がいるんだから」

 

 この子が目を覚ましたら、真っ先にあの三人に伝えないといけないわね。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 

 

 

 水底に沈んでいくような、重い感覚。深く沈むほど目に映るものは朧気になり、身動き取れなくなっていった。

 

 どこからか、声がする。身動きは取れない為、視線だけを動かすと見知った二人の少女が目に映る。

 

「……ミノ、さん?」

「銀。どうしたの?」

 

 言葉を投げかけていく二人。けど、かつての明るく返事してくれた彼女はもう、そこには……。

 

「銀…?銀!!」

「ミノさん!」

 

 何度も何度も、声が枯れるまで……世界を滅ぼそうとする敵が引き返してこないように、壁を強く睨みつける少女が……もう一度、こちらに振り返ってくれる事を信じて。

 

これが、彼女の最期だよ。君の元いた世界で、刻まれた一つの正史だ。

 

 「なら、僕がどうにかしなきゃ…助けなくちゃ、ダメだ……三人が笑っていられるように」

 

 呟きながら手を伸ばそうとすると、もう1人の僕から突きつけられた事実を思い出し、その手が止まる。

 

 この異変の原因。過去に行き、若葉達を助けて歴史を変えた。それにより起きた、この時代の異変。そして彼や完成品がいる原因は───僕ということ。

 

 そして、歴史を変えた事で、この先もっと酷い結果が生まれる可能性だってあることを告げられた。

 

「どう、すれば……くそ」

 

 瞬間、世界が変わる。場所は……僕の部屋。僕はベッドに腰を下ろしている。対して、『天草洸輔』は僕を見下げるように目の前に立っている。

 

簡単だよ、助けなければいい。もう、君は十分に救ったのだから。この世界に飛ばされた時、言われたろう?影響を与えてはいけないって

 

「……だから、黙って見てろって?目の前で友達が…死ぬのを?」

 

ああ、その通りだよ。何故なら、それこそが彼女に定められた運命なんだから

 

「なに、それ?定められた…運命?は?」

 

君自身が理解しているはずさ。これ以上、君が介入する事はより混乱を招くだけだって

 

「……やってみなくちゃ、分からないだろ」

 

強がりを言うのはやめなよ。それに、どうにもならない。もしも、仮に君が三ノ輪銀を助けたとしても、その先に待っているのは正真正銘の地獄だ。

 

もう、この世界は本来のルートに進んでいない。君が生み出してしまった副産物達がいるからね

 

それを排除する為だけに、君はこの時代に送られたんだ。だから、勘違いしてはいけない。君の仕事は、彼女達の事を助けることなんかじゃなく、異変を取り除く事だけなんだから

 

「……待てよ」

 

何かな?

 

 『天草洸輔』を見上げ、睨みつける。話していて、やっと確信した。こいつは……。

 

「いい加減、正体現したらどうなの?()()()()

 

へぇ、気がついた…いや、気づいてたのかな?

 

「その話し方、やめてください。すごい不快です」

 

仕方ないだろ、君を依り代としているんだから。これは私の意思じゃなく、仕様なんだ。許して欲しいね

 

 心底嫌な気分だった。その話し方も、姿が僕である事も、何も悪びれもせず、僕の前に現れた事も。

 

君にそんな目を向けられるような事をした覚えはないんだけどね。何か、悪い事をしちゃったかな?

 

「……貴方、僕を盾にしていたってホントですか。勇者として選んだんじゃなくて、ただの駒として!道具として!僕を使っていたって!」

 

あぁ、本当だよ?

 

「………は?」

 

 ケロッとした様子で神樹は告げる。止まってしまった僕の事など、気にも留めない神は大仰な仕草で問いかけてくる。

 

でも、今はそんな事よりももっと大事な事があるはずだけど?

 

「大事な…事?」

 

うんうん、君がもしも、三ノ輪銀を助けてしまった場合に起きる事ってやつさ。どうやら、言葉だけでは伝わらないみたいだし、私の力で少しだけ見せてあげようと思ってね。それじゃ行くよ〜

 

「ま、待て話は」

 

 言葉が言い終わるよりも先に、奴の手が僕の頭に触れられた。瞬間、景色はまた一変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 樹海…のように見えるが、あまりにも荒廃し過ぎている。綺麗な景色…とは言えない奇妙な場所ではあったが、もっと色があったはずだ。

 

 しかし、今自分が見ている樹海は樹々はズタズタに引き裂かれ、色を失った……崩壊しきった異空間と化していた。

 

 自分の顔に、嫌な汗が浮かぶ。よく分からないが、この光景から今すぐにでも目を離したいと心が訴えていた。

 

「あいつは!?おい、どこだ!」

 

 飄々とした神はいない。とりあえず前へと進む、奇妙に焦げ臭い薄闇の中をゆっくりと進んでいく。

 

「…嘘、だろ」

 

 思考が真っ白になる。その光景は、僕の心を抉るのには十分すぎる光景だった。

 

「…園、子?」

 

 だらん、と壊れた人形のように動かなくなってしまっている少女達を。

 

「鷲尾、さん?」

 

 見つけた。すぐに駆け寄り、抱き抱えるが二人は…もう…。

 

「どうなってんだよ…意味分かんないよ!おい!見てるんだろ!出てこいよ!」

 

 この光景を見せている張本人からの返答はなく、返ってくるのは静寂だけだった。

 

 相当気が動転していたのだろう。いつもなら気づける筈の、殺気に僕は気づく事が出来ず。

 

「…が…ぅ…」

 

 こちらの腕を切り落とそうと振り下ろされた()()()()()()()による斬撃をもろに食らった。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!!い、ぐぅ…ぁあ」

 

 強烈な痛みは切り落とされた腕の部分のみならず、体全体に伝わる。痛みまでも再現されているなんて……本当に、最悪だ。

 

 そして、何よりも最悪なのは。

 

「どう、して…?」

 

 僕の腕を容赦なく切り落としたあの…斧は。嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だよ、そんな事あるわけが。

 

「……なんで、君が」

 

 紅蓮のように赤い装束は黒に染まりきっているが、返り血?のようなもので赤黒い、色へと変貌している。表情は無、瞳は虚で……。

 

 こちらを見下ろすように、彼女は立っている。僕の血で染まった斧を、こちらに振り上げながら。

 

「ねぇ、なんとか言ってよ!()!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、世界が変わった。視界には僕の部屋が映っている。そして、あの神の姿も。

 

はい、おしまい。と、言う感じでもしも君が三ノ輪銀を助けた場合、過程はどうなるかは分からないけど、こういう結末を辿る可能性が……って、聞いているのかい?

 

「……聞い、てるよ」

 

 吐き気を抑え、ベットに腰を下ろす。正直立っている程の余裕はなかった。

 

聞いているのなら良しとしよう。流石の君もこれで分かってくれたよね、私が影響を与えてはいけないって言った理由が

 

「あんたが、こちらを揺さぶる為に作った嘘じゃないのか…?」

 

疑り深いなぁ、言っておくけどそれは無いよ。そもそも、嘘なんかつく必要はないのさ。もし無理にでも従わせたいなら、勇者システムを介して、君をいつでも操り人形に出来るし

 

 無垢な笑顔をこちらに向ける神に嫌悪感しか感じない。これが、神樹様だなんて、とてもじゃないけど信じられなかった。

 

私は神という位置にいる。申し訳ないけど、人間である君達よりももっと多くの事は見ている。そして、価値観や論理観においても、人間と神は違うんだ

 

「だからって…あんなの」

 

うーん、他人の心配ばかりするのはいいけど。自分の事ももっと考えた方がいいんじゃない?

 

 自分の、事。確かに、色々考えなくてはならない事は多いが。

 

特に、君の体についてをね

 

今、自分の体に異変が起きてる事は君自身がよく分かっている筈だ。人間以上の治癒能力、身体機能……あらゆる面で、自身の身体は変化している事がわかる筈だ。

 

 確かに、この世界に来てから、少しずつ自分の体に何かが起きてるのは分かる。けど、それも神樹の仕業かと。

 

いいや、それに関しては私じゃない。必然なのさ、君がそうなるのは。何故なら、君は3回もその身に精霊を落としているんだからね

 

しかも、その内2回は憑依ではなく一体化している。結果、今の君の身体は半分が人間、そしてもう半分は精霊の……半人半霊と化しているんだ。

 

「…半人半霊、?」

 

そう。元々、私は最初から結城友奈の盾として君を使おうとした。だが、それは君の体に宿った精霊によって阻止されてしまったんだ。君は私の手を離れ、他の勇者達と同等の力を振るった

 

だが、それが良くなかった。私が君を使おうとしたのは悪意からじゃない。君を崩壊させない為なんだ、私の手を離れた不完全な勇者、適正値がどんなに高くとも副作用は避けられない。

 

そこに加え、人間の身でありながら何度も精霊をその身に憑依させた。その精霊達は、どれも強力な力を持った存在ばかりだ。知っている筈だ、君は。乃木園子から聞いただろう?

 

「……精霊を憑依する事は自らの半身を、侵すようなもの。僕は、いずれ僕ではなくなるかも知れない…?」

 

その通りだ。今の君は、徐々に過去に憑依した精霊達の力に呑み込まれつつある。いや、書き換えられてると言った方が正しいかな?

 

「つまり?」

 

君は、例え三ノ輪銀を助けられたとしても自分自身の崩壊からは逃れられない、という事さ

 

「……」

 

辛いだろう。だから、私は君に提案する。君が生存できる、唯一の道を

 

「……それ、は、なに?」

 

簡単だよ、私に全てを委ねればいい。そうすれば、君は一生生きていられる。そして、君の願いである他人を守り続ける、という夢を永遠に叶え続けれるんだ。さぁ、どうだろう?

 

 こちらに、手が差し伸べられる。ここで、手を握ってしまえば…楽に、なるのかな?もう、これ以上……。

 

 いいや。そんなの、生きてる…とは言えない。

 

「……断る」

 

どうやら……彼らの言う通り。君は中々頑固らしい。

 

「(彼ら…?)知ったような口を…そういうの、本当にやめてください」

 

随分嫌われたものだね。ま、ならここまでとしようか。初めて、こういう形で話をしたが……思っていたよりは楽しかったよ

 

「そうですか、僕は最悪の気分です」

 

神に対しての物言いとは思えないな、けど悪くない。やはり君は面白い

 

「っ…もう、二度と僕の前に現れないでください」

 

安心するといい、君のこれからの行動次第では…望み通り、これが最初で最後の邂逅になるだろうからね。

 

「どういう意味、ですか?」

 

さぁ、それは君自身で確かめるといいよ。後、忘れないようにね、私は神で、君は人、その間には大きな溝があるという事を

 

「……あんたは、僕の味方なんですか?それとも…」

 

 それに対し、神は心底愉快そうに笑いながら答える。

 

私は人類の味方、さ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 目が覚めた。周りを見渡し、ここがどこなのか確認する。

 

「…ここは、病院か」

 

 少し怠さを感じるものの、それ以外には気にかかる所はない。

 

「色々、ありすぎたな」

 

 もう一人の僕の事、完成品の事、先程の夢、そして過去に運ばれる前に起きた出来事。あまりにも……僕一人では抱えきれない。大きな、出来事。

 

 けど、今の僕にはこれを他人に話す術はない。こうしている今も、僕という人間はあいつに監視されている。

 

「そういえば……腹の傷」

 

 服を捲って見てみると、傷は完全に無くなっていた。これが、神樹の言っていた人間ではなくなっているということの証明。

 

「クソッタレ……」

 

 静かに呟く。冷静を装ってはいるが…心の中はぐちゃぐちゃだ。けど、弱音ばかりを吐いてはいられない。

 

 一人考え事に浸っていると、静かに病室のドアが開く。見知った顔が視界に映った。

 

「目が、覚めたのね。天草くん」

 

 一度は驚いた表情を浮かべたが、すぐに心配そうな表情を向けてくれる。

 

「……安芸先生、ありがとうございます」

 

「いいのよ、学校は違えど私にとってはあなたも大事な生徒の一人だもの」

 

 ニコッと優しい笑みを浮かべる安芸先生。合宿の時にも思ったけど、この人は本当に優しい人なんだなと改めて感じた。

 

「起きたら、真っ先に連絡してくれって……三人からは言われてるけど、もしあなたがゆっくりしたいと言うのなら」

 

「いいえ、早く会いたいです。三人の顔が、早く見たい」

 

「そう、分かったわ」

 

 どうしてか、無性に三人に会いたかった。どこかで彼女達と会うのを怖がっている自分もいる筈なのに……それでも、あの三人と早く話がしたいと僕は強く思っていた。




 これ書いてて思ったんすよ、この(天草擬態)神樹……マーリンっぽいなぁ〜!って。まぁ、色々全然違うけど意識して読むと不思議と櫻井さんボイスが聞こえてきますよ。

 所で、天草くんボロボロになりすぎじゃない?大丈夫?
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