『腹部にダメージを負って…』
『ほぼ完治不能の傷だったんだぞ、なのに……』
『普通の人間の治癒能力を遥かに凌駕している…これは』
脳裏によぎるのは医師達の会話。目の前ですやすやと寝息をたてながら、ベッドに横たわっている少年に目を向ける。
「……貴方は一体」
何度目か分からなくなる程呟いた言葉。徐々に浮き彫りになってきた事実に、頭を抱える。
(天草洸輔……この子は、人間ではないのかもしれない)
病院に運ばれてくる前、彼の体はいつ死んでしまってもおかしくない程に衰弱し、弱りきっていた。
(腹部にみられたあの傷……人間の治癒能力では、とてもじゃないけど…治しきれるはずがないのに)
しかし、瀕死状態であった彼の体は突然、何もなかったかのように……修復されていたという。なんの予兆もなく、本当に、何もなかったかのように。
(神樹様も…彼について詳しい事は話してくださらない)
時々、意味深な神託を伝えてくるだけ。根幹となる部分について一切触れられない為、手詰まりの状態にある。
挙句、先日に起きた突然の襲撃等。イレギュラーの連続で、大赦内部は軽い混乱状態に陥ってすらいる。この子についても、様々な仮説や意見が飛び交い、あまり穏やかではない状況が続いている。
でも、あんな風に彼女達と笑い合える彼が……
「敵だ、なんて事は絶対に…そう、絶対ないわ」
あの時の真っ直ぐな瞳と言葉、あれが嘘だったとは私には思えない。
「……早く目を覚ましなさい、貴方を待っている子達がいるんだから」
この子が目を覚ましたら、真っ先にあの三人に伝えないといけないわね。
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水底に沈んでいくような、重い感覚。深く沈むほど目に映るものは朧気になり、身動き取れなくなっていった。
どこからか、声がする。身動きは取れない為、視線だけを動かすと見知った二人の少女が目に映る。
「……ミノ、さん?」
「銀。どうしたの?」
言葉を投げかけていく二人。けど、かつての明るく返事してくれた彼女はもう、そこには……。
「銀…?銀!!」
「ミノさん!」
何度も何度も、声が枯れるまで……世界を滅ぼそうとする敵が引き返してこないように、壁を強く睨みつける少女が……もう一度、こちらに振り返ってくれる事を信じて。
「なら、僕がどうにかしなきゃ…助けなくちゃ、ダメだ……三人が笑っていられるように」
呟きながら手を伸ばそうとすると、もう1人の僕から突きつけられた事実を思い出し、その手が止まる。
この異変の原因。過去に行き、若葉達を助けて歴史を変えた。それにより起きた、この時代の異変。そして彼や完成品がいる原因は───僕ということ。
そして、歴史を変えた事で、この先もっと酷い結果が生まれる可能性だってあることを告げられた。
「どう、すれば……くそ」
瞬間、世界が変わる。場所は……僕の部屋。僕はベッドに腰を下ろしている。対して、『天草洸輔』は僕を見下げるように目の前に立っている。
「……だから、黙って見てろって?目の前で友達が…死ぬのを?」
「なに、それ?定められた…運命?は?」
「……やってみなくちゃ、分からないだろ」
「……待てよ」
『天草洸輔』を見上げ、睨みつける。話していて、やっと確信した。こいつは……。
「いい加減、正体現したらどうなの?
「その話し方、やめてください。すごい不快です」
心底嫌な気分だった。その話し方も、姿が僕である事も、何も悪びれもせず、僕の前に現れた事も。
「……貴方、僕を盾にしていたってホントですか。勇者として選んだんじゃなくて、ただの駒として!道具として!僕を使っていたって!」
「………は?」
ケロッとした様子で神樹は告げる。止まってしまった僕の事など、気にも留めない神は大仰な仕草で問いかけてくる。
「大事な…事?」
「ま、待て話は」
言葉が言い終わるよりも先に、奴の手が僕の頭に触れられた。瞬間、景色はまた一変する。
「……ここは?」
樹海…のように見えるが、あまりにも荒廃し過ぎている。綺麗な景色…とは言えない奇妙な場所ではあったが、もっと色があったはずだ。
しかし、今自分が見ている樹海は樹々はズタズタに引き裂かれ、色を失った……崩壊しきった異空間と化していた。
自分の顔に、嫌な汗が浮かぶ。よく分からないが、この光景から今すぐにでも目を離したいと心が訴えていた。
「あいつは!?おい、どこだ!」
飄々とした神はいない。とりあえず前へと進む、奇妙に焦げ臭い薄闇の中をゆっくりと進んでいく。
「…嘘、だろ」
思考が真っ白になる。その光景は、僕の心を抉るのには十分すぎる光景だった。
「…園、子?」
だらん、と壊れた人形のように動かなくなってしまっている少女達を。
「鷲尾、さん?」
見つけた。すぐに駆け寄り、抱き抱えるが二人は…もう…。
「どうなってんだよ…意味分かんないよ!おい!見てるんだろ!出てこいよ!」
この光景を見せている張本人からの返答はなく、返ってくるのは静寂だけだった。
相当気が動転していたのだろう。いつもなら気づける筈の、殺気に僕は気づく事が出来ず。
「…が…ぅ…」
こちらの腕を切り落とそうと振り下ろされた
「がぁぁぁぁぁぁ!!!い、ぐぅ…ぁあ」
強烈な痛みは切り落とされた腕の部分のみならず、体全体に伝わる。痛みまでも再現されているなんて……本当に、最悪だ。
そして、何よりも最悪なのは。
「どう、して…?」
僕の腕を容赦なく切り落としたあの…斧は。嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だよ、そんな事あるわけが。
「……なんで、君が」
紅蓮のように赤い装束は黒に染まりきっているが、返り血?のようなもので赤黒い、色へと変貌している。表情は無、瞳は虚で……。
こちらを見下ろすように、彼女は立っている。僕の血で染まった斧を、こちらに振り上げながら。
「ねぇ、なんとか言ってよ!
また、世界が変わった。視界には僕の部屋が映っている。そして、あの神の姿も。
「……聞い、てるよ」
吐き気を抑え、ベットに腰を下ろす。正直立っている程の余裕はなかった。
「あんたが、こちらを揺さぶる為に作った嘘じゃないのか…?」
無垢な笑顔をこちらに向ける神に嫌悪感しか感じない。これが、神樹様だなんて、とてもじゃないけど信じられなかった。
「だからって…あんなの」
自分の、事。確かに、色々考えなくてはならない事は多いが。
確かに、この世界に来てから、少しずつ自分の体に何かが起きてるのは分かる。けど、それも神樹の仕業かと。
「…半人半霊、?」
「……精霊を憑依する事は自らの半身を、侵すようなもの。僕は、いずれ僕ではなくなるかも知れない…?」
「つまり?」
「……」
「……それ、は、なに?」
こちらに、手が差し伸べられる。ここで、手を握ってしまえば…楽に、なるのかな?もう、これ以上……。
いいや。そんなの、生きてる…とは言えない。
「……断る」
「(彼ら…?)知ったような口を…そういうの、本当にやめてください」
「そうですか、僕は最悪の気分です」
「っ…もう、二度と僕の前に現れないでください」
「どういう意味、ですか?」
「……あんたは、僕の味方なんですか?それとも…」
それに対し、神は心底愉快そうに笑いながら答える。
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目が覚めた。周りを見渡し、ここがどこなのか確認する。
「…ここは、病院か」
少し怠さを感じるものの、それ以外には気にかかる所はない。
「色々、ありすぎたな」
もう一人の僕の事、完成品の事、先程の夢、そして過去に運ばれる前に起きた出来事。あまりにも……僕一人では抱えきれない。大きな、出来事。
けど、今の僕にはこれを他人に話す術はない。こうしている今も、僕という人間はあいつに監視されている。
「そういえば……腹の傷」
服を捲って見てみると、傷は完全に無くなっていた。これが、神樹の言っていた人間ではなくなっているということの証明。
「クソッタレ……」
静かに呟く。冷静を装ってはいるが…心の中はぐちゃぐちゃだ。けど、弱音ばかりを吐いてはいられない。
一人考え事に浸っていると、静かに病室のドアが開く。見知った顔が視界に映った。
「目が、覚めたのね。天草くん」
一度は驚いた表情を浮かべたが、すぐに心配そうな表情を向けてくれる。
「……安芸先生、ありがとうございます」
「いいのよ、学校は違えど私にとってはあなたも大事な生徒の一人だもの」
ニコッと優しい笑みを浮かべる安芸先生。合宿の時にも思ったけど、この人は本当に優しい人なんだなと改めて感じた。
「起きたら、真っ先に連絡してくれって……三人からは言われてるけど、もしあなたがゆっくりしたいと言うのなら」
「いいえ、早く会いたいです。三人の顔が、早く見たい」
「そう、分かったわ」
どうしてか、無性に三人に会いたかった。どこかで彼女達と会うのを怖がっている自分もいる筈なのに……それでも、あの三人と早く話がしたいと僕は強く思っていた。
これ書いてて思ったんすよ、この(天草擬態)神樹……マーリンっぽいなぁ〜!って。まぁ、色々全然違うけど意識して読むと不思議と櫻井さんボイスが聞こえてきますよ。
所で、天草くんボロボロになりすぎじゃない?大丈夫?