自転車で坂を降りていくと風と樹が住んでいるマンションの前に着いた。
「………」
スマホを起動させ、今日届いたメールの内容を確認する。
『犬吠埼風を含めた勇者達の精神が不安定である。三好夏凜あなたが皆を監督し、導きなさい』
「たく、なにやってんのよ。部長」
その中でも酷いのが風なのだ。この前なんて話し掛けたら「ええ」と「そうね」しか言ってなかった。顔も死んでいて目も虚ろだった。多分精神的に一番危ないのは風だろう。
「しっかりしなさいよ……バカ」
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もう何度目かもわからないメールの内容を大赦に送りつける時、一本の電話がかかってくる。
「はい、犬吠埼です」
『突然のお電話失礼いたします。ボーカルオーディション責任者の藤原と申しますが、犬吠埼樹さんの保護者の方ですか?』
「は、はぁ……そう、ですが」
かかってきたのは、身に覚えのない人からの連絡だった。
『この度犬吠埼樹さんに二次選考の詳しい内容についてお伝えするためにお電話させていただいたのですが』
「え?その、まず、なんのことですか?ボーカルオーディション……って」
『あ、ご存じなかったんですか?犬吠埼樹さんには一次選考のためデータを送っていただきまして見事一次を突破して二次選考に…』
「い、いつ頃ですか!?」
『えっと、3ヶ月ほど前ですね』
「………………は?」
そのままアタシは持っていた受話器を手から離して、樹の部屋へと向かう。
「樹!いないのー!」
部屋に入ったが樹はいなかった。ぐちゃぐちゃと散らかった机の上には色々なことが書き留められた一冊のノートが置いてあった。
『声を治すためにやることと治ったらやりたいことリスト』
『よく寝る』
『たっぷり寝る!(だから朝起きれないことは仕方がない)』
『栄養のあるものを食べる(お姉ちゃんは食べ過ぎ(^_^;))』
『勇者部のみんなといっぱい話す!』
『クラスのみんなといっぱいおしゃべりする!』
『歌う!!』
「っ……」
視線を少し横に移すと、パソコンにボーカルオーディション用ファイルというものを見つけた。一瞬躊躇ったがそれをクリックすると音声が流れた。
『えっと……これでいいのかな…?あれ?え?も、もう録音されてる!?あ、ボ、ボーカリストオーディションに応募しました!犬吠埼樹です!』
優しい声で樹は自分の事を語っていた。勇者部のことや姉であるあたしのこと、そしてそれに対して付いていくだけで精一杯だった自分のこと。
『でも、わたしはお姉ちゃんの隣に立ちたかった。だからこれからはお姉ちゃんの後ろを歩くんじゃなくて自分で歩くために!私自身の夢を…私自身の生き方を持ちたい!そのために歌手を目指しています!』
(いつ……き……)
『そして大好きな歌をいろんな人に届けたい!そうおもってます!』
(夢…………樹の夢を………アタシが………)
「うう………うぁぁ…」
堪えていた涙が溢れだし嗚咽が漏れる。かなり前のことように感じるがいつだか、樹と帰り道にした会話を思い出す。
『お姉ちゃん、わたしねやりたいことができたよ』
『ん?なになに?将来の夢でもできたの?お姉ちゃんに教えてよ』
『うーん……秘密』
『えーいいじゃないのぉー!誰にも言わないからー!』
『それじゃあいつか…教えるね?』
すべてアタシが奪ってしまった…樹が目指した夢も持ちたかった生き方も姉であるアタシがすべて。勇者として戦わせて、声を供物として捧げられて、せめてそれを知っていれば樹を勇者部には入れなかった。
(知っていれば…………アタシは………)
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
今まで溜め込んだものを吐き出すかのように叫んだ。アタシは勇者服を身につけてあることを決意した。
「大赦を潰す…………」
そこからアタシは跳躍し、大赦を目指す。心の中は黒く濁った怒りの感情で支配されていた。
(潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す!!!)
すると正面から夏凜がアタシに向かってくる。アタシの道を塞ぐ形でアタシの前に立っている。
「待ちなさい!風…あんた何するつもりよ!?」
「大赦を潰すのよ……」
「何を…言って…」
「だから!!邪魔するなぁーーーー!!!!」
「ぐっ………!」
「そこをどきなさい!!」
夏凜に対して大剣を振りかざす。夏凜もさすがに危険を感じたのか刀でそれを受け止めてくる。
「大赦は…アタシ達を騙してた!後遺症が治らないことを知っていながら……アタシ達が供物として勇者になることを知っていながら!アタシ達を!生け贄にしたんだ!!」
「そんな適当なこと!」
「適当なんかじゃない!アタシ達の前に犠牲になった勇者がいたんだ!」
「うぁ!」
夏凜の手が緩んだ隙をついて吹き飛ばす。
「くっ………」
「そして…今度はアタシ達の番…」
アタシが…アタシ自身が…最愛の妹の夢を打ち砕いた…。
「なんで!なんでこんな目に遭わなきゃいけない!!なんで樹が声を失わないといけない!」
「っ………」
「なんで夢を諦めなきゃいけない!!」
夏凜の持っている片方の刀を弾き飛ばす。体勢を崩した夏凜はそのまま地面に膝をついて崩れ落ちる。
「だから大赦を潰す!!もう邪魔しないで…これ以上邪魔するのなら怪我じゃすまないわよ!」
「どく……わけないでしょ……」
立っているのもやっとのくせに、夏凜はアタシにまだ刀を向けてくる。
「忠告は……したわよ…」
「っ…うう…」
そのままアタシは夏凜に大剣を振りかざす…しかしその刃が夏凜に当たることはなかった。アタシと夏凜の間には勇者服を身につけている洸輔がいた。
「…もう……やめてくれ…風先輩」
「洸輔……あんたも…アタシの邪魔を…するのかぁ!!!」
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夏凜に振りかざされそうになった剣をギリギリのところで止める。
「…もう……やめてくれ…風先輩」
「洸輔……あんたも…アタシの邪魔を…するのかぁ!!!」
風先輩の顔は、憎悪や怒りそれらの負の感情に支配されていた。勇者部の部長をやっているときの風先輩は今はいない…。
「そこを!どけぇぇぇぇ!!!!」
「嫌です!!風先輩が誰かを傷つけている所なんて見たくない!!」
「こんなことが……許せるかぁ!!!」
風先輩が放ってきた斬撃をかわし、夏凜を抱き抱え一旦距離をとる。
「洸輔……」
「ごめん…遅くなって…でも大丈夫…あとは任せて…」
夏凜を少し離れた位置に横たわらせる。その隙を狙って風先輩が僕に剣を振り下ろしてくる。
「なんで……なんで邪魔するのよ!!大赦はアタシ達を騙してた!報いを受けて当然なのよ!!」
「そんなことわかってます!」
僕だって許せない、園子を騙しただけでなく…僕達勇者部のことを騙してた大赦は許せるわけがない…。
(でも!それでも!僕は!!)
「僕は…風先輩が誰かを傷つけている所を見たくない…だからあなたの前に立ってるんです!!」
「うるさい!うるさい!!全部アタシのせいじゃない!」
「そんなことない!!」
「だって知っていれば!アタシはみんなを巻き込まなかった!!」
風先輩は感情を爆発させながらも、僕に対する攻撃を緩めない。グラムでなんとか防いでいるが防ぎ損ねた攻撃がバリアに影響を与えていく。
(やっぱり…紛い物と本物じゃ差は出るよね…)
もう一撃でもくらえば…僕のバリアは砕け散る。その状態で一撃でも受けてしまえば致命傷どころの騒ぎじゃない。死だって覚悟しなきゃいけない。
(だから……だからどうした!!)
「そうすれば!!少なくとも樹は…みんなは…傷つかずにすんだんだぁぁぁぁ!!!!」
「うぉぉぉぉ!!!」
風先輩が振りかぶってきた大剣を僕もグラムで迎え撃つ。衝撃によって二人の距離が開く。
「風先輩…そんなのちがいます!」
「何が!違うんだぁぁぁ!!!!」
吠える先輩に対して僕は笑顔で答える。
「だって風先輩と…勇者部と出会わなければ、みんなとこんなにも楽しくて大切な思い出を作ることはできなかった…。確かに失ったものだってある…でもそれ以上にいろんなものを僕はもらいました…」
「ぁ………」
「だから…もう他人も自分自身も傷つけるのはやめてください…」
「う…うう…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
すると風先輩は剣を手から離して、涙を流しながら崩れ落ちた。そんな風先輩を僕は優しく抱き締める。
「なんでよぉ……どうして…アタシなんかの為に…そこまで…」
「風先輩が僕たちのことを大事に思ってくれているように…僕やみんなも風先輩が大事なんです…。」
「っ……」
「それに…あなたの妹は…誰よりもお姉ちゃんのことを大事に思ってくれてますよ…」
「え……」
風先輩の頭を優しく撫でながら…いつの間にかの背後にいた少女に役目を譲るため僕はその場から離れる。
「いつ………き…」
樹ちゃんは風先輩を抱き締めると携帯に言葉を打ち込み風先輩に見せる。
『わたしたちの戦いは終わったの。もうこれ以上何も失うものはないから』
自分の夢が潰えてもなお、打ちのめされず真実を受け入れた。樹ちゃんはメールに再度言葉を打ち込んでいく。
『勇者部のみんなに出会わなければ、歌いたいという夢も持てなかった。わたしは勇者部に入ってホントによかったよ』
「ごめん……ごめんね……いつきぃ…」
樹ちゃんの心からの祈りは風先輩に届いたのだ…。
次は前の番外編の続き出しましょうかね…?
UAとか感想とか一気に一万件とかいかないかな?(なわけ)