「それで今日も風先輩がおかしなことを言い出して」
私は『二人』のいる病室で、今日起きたことを話している。これが、ここに来た時の日課になっていた。
「こんにちは〜ごめんね、遅くなっちゃって」
「お、お邪魔します」
「……入るわよ」
「あ、三人ともこんにちは。今日も皆で来てくれたんですね、嬉しいです」
洸輔くんは優しい声と言葉と共に頭を下げる。その姿をみて、私の胸がずきん、と傷んだ。
私達に対してフレンドリーに接してくれていた彼は今はいない。
「あ…あの、」
「ん、どうしたの?樹さん?」
「その、二人のために…押し花、作ってきました。良ければ、その、受け取ってください」
樹ちゃんの指は微かに震えている。『二人』からの拒絶に怖がっているのではなく…きっともっと違うものに、彼女は怖がっているのだ。どうしてか、自分にはそう思えてしまう。
「ありがとう、うれしいよ。樹さん」
「よかった…あ、それと友奈さんにも…」
樹ちゃんは優しく友奈ちゃんの膝の上に押し花を置いた。それでも、友奈ちゃんの目は虚ろのまま、虚構をただただ眺めている。
「友、奈……」
「っ……ちくしょう」
「ごめん、なさい…私が、二人を…」
「東郷、それ以上は言っちゃダメ」
「っ………」
「皆で話し合って…決めたでしょ?誰も、悪くないんだって」
その場にいた全員が、表情を曇らせた。皆で決めた事、皆悪くない、悪くないのだ……だけど、どうしても…私は。
「なんか、悲しい…」
「…え?」
「あ、その…すいません。なんか皆の辛そうな顔を見てたら…ものすっごい悲しい気持ちになりました」
「っ…」
その言葉は紛れもない洸輔くん自身から出た言葉なんだと思った。
私たちは面会が許されている時間まで二人の側に居続けた。
(早く…戻ってきて…二人とも…)
そう願うことしか私にはできなかった。
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何もない…ただただ暗い空間に僕はいた。
(ここ…どこだろ?死んだ…のかな?)
辺りを見回して見ても何もない…。果てのない灰色の空が続いているだけだった。
(みんなは…友奈は…無事かな?)
様々な疑問が浮かび上がってくる。しかし周りは見渡す限りは闇と灰色の空だけ。途方に暮れていると、少し先の所に僅かに灯った炎が見えた。
(なんだろ……あれ)
すがるように火に向かって動き出す。小さく消えそうな灯火を両手で優しく包み込む。
(温かい。それに……どこか懐かしい気がする)
瞬間、火は眩い光を放って離れた。同時に目の前には優しい笑みを浮かべた長身の男性が現れた。
「あなたは……シグルドさん?」
「ふむ、こうして直接話すのは初めての気がするな。天草洸輔」
「なんで、あなたがこんな場所に……」
「ああ、最後の仕事が残っている。貴公をこの空間から連れ戻すという仕事がな」
「でも、あの時シグルドさんはすべてを使い果たしたって……」
鮮明には覚えていないが、確かにシグルドさんの力はあの時…全部消えた。だが、どういう訳か彼はこうして僕の目の前に立っている。
「使い果たしたとも。それと同時に君の中から、私は消えた。しかし、残っているものはある。つまり、貴公が話しているのは当方の残り火ということだ」
「の、残り火……」
「む、わかりにくかったか……すまない、当方はどうも説明が下手でな。詳しく伝えたい所だが、時間がない、先を急ぐぞ」
「えーと……はい」
無言で暗闇の中を歩いて行くと先の方に一筋の光が見えてくる。その光の中からは聞き覚えのある少女の泣きじゃくる声が聞こえた。
「この声って……美森!?」
「貴公とはここで別れだな、さ、行くといい」
「あっ!ちょ、ちょっと待ってください」
「?」
僕の言葉に対してシグルドさんは首を傾げた。そんな彼を他所に、拳を前に突き出す。すると、僕に力を貸してくれた大英雄さんは困ったような顔をこちらに向ける。
「今まで、ありがとうございました。あの時、シグルドさんは僕に不手際がどうとか謝ってきたけれど、そんなの気にしませんよ!だって貴方は、僕に皆を守る力をくれたんですから!」
「フッ……貴公は本当に当方が見込んだ以上の男だったらしい。こちらこそありがとう。当方が生前できなかったことを成し遂げてくれて」
最後の言葉がよく聞き取れなかったが、僕とシグルドさんはお互いの拳をぶつけた。彼は優しげな笑みを最後まで崩す事なく、背を向けると反対方向へと歩き出した。
(ありがとうございました、シグルドさん。貴方の事!僕忘れませんから!)
大英雄の背中を見届け、僕は光の中を走り出した。
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「勇者は傷ついても傷ついても決して諦めませんでした」
今、私が読んでいるのは次の演劇で使う台本だ。病院の中庭にあるベンチで、車椅子に乗った友奈ちゃんと横に座っている洸輔くんに読み聞かせる。
「すべての人が諦めてしまったら…この世に悪が栄えてしまうと思ったからです」
今日まで来る日も来る日も二人のお見舞いに出向いた。
「勇者は自分が挫けないことが、皆を励ますのだと信じていました」
みんなの後遺症は治っていって……あとは洸輔くんと友奈ちゃんだけだった。
「そんな勇者をバカにするものもいました。それでも…勇者は挫けませんでした」
いつだって、太陽のような笑顔で私や皆を照らしてくれた友奈ちゃん。
「皆が次々と魔王に屈し…勇者は一人ぼっちになってしまいました。一人ぼっちになっても勇者は諦めませんでした…」
どんなときでも、側にいて守ってくれると誓いそれを守ってくれた洸輔くん。
「諦めない限り……希望が終わることはないから…それでも…それでも…私は…」
今まで溜め込まれていた涙が溢れだす。涙で台本がくしゃくしゃになっていく。それでも涙は止まらなかった。
「それでも…ぅぅ……私は…大切な…二人の友達を…失いたくない…」
いつの間にか溢れだした感情は止まらず、溢れ出す。
「やだぁ…やだよぉ……寂しくても……辛くても…ずっと一緒にいてくれるって…言ってくれたじゃない…」
台本に顔を埋ずめて私は泣きじゃくる。二人のことを思い浮かべる度に心が締め付けられる。
突然……私の両腕を温かい感触が包んでいった。
「っ…!?」
私が顔を上げると涙を流しながら私の方を見ている洸輔くんと友奈ちゃんの姿があった。
「ああ…ああ!もちろん。これからも一緒さ、美森」
「私たちは、いつだって……側にいるよ」
「ぅぅ……友奈ちゃん!洸輔くん!」
二人の手を強く握る…。両手から伝わる温度にまた涙を流してしまう。
「聞こえてたよ…ずっと。東郷さんの声も…みんなの声も…」
「…ずっと呼び掛けてくれてたね、本当にありがとう」
「本当に…本当に…よかったよぉ……おかえり…おかえり!二人とも!」
すると二人は顔を見合わせて笑顔で私に答えてくれた。
「ただいま、東郷さん」
「ただいま……美森」
秋の風が、そんな私たちの頬を優しく撫でた。
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僕と友奈が勇者部に復帰して数日がたった。
風先輩と夏凛の眼帯は取れて、車椅子生活だった美森は地に両足をつけて歩くようになり、樹ちゃんは声が戻ったため今は歌手になるという夢を歩み始めている。
僕と友奈も徐々に体の機能が戻っていき、学園祭で行われた演劇も大成功を収めた。(多少アクシデントが起こって友奈が転倒したりしたけど、特に怪我はなかった)
その後にみんなで撮った写真を見て僕は微笑んだ。
(みんな…本当にいい笑顔だな…)
あの戦いは確かに辛いことばかりだった…。でも僕はそれだけじゃないような気がした…得たものもあったのではないかと…。
(ま、そんなに深く考えてないんだけどね)
「コラー!洸輔!しっかり話聞いてんの!?」
そんなことを考えていると風先輩からお叱りを受けてしまった。
「も、申し訳ないです…」
「たく…最近腑抜けてんじゃないの?洸輔ったら」
「そういう夏凜さんも…この前遅刻してきませんでしたか?」
「ち、ちが!あ、あれは…そう!ヒーローは遅れてやって来るってやつよ!」
最近では樹ちゃんが、夏凜を弄ることが多くなってきた。もうどっちが上級生がわかったもんじゃない。
「にぼっしーちゃん!言い訳は良くないよ!そこは素直に認めなくちゃ!」
「そうよ、夏凜ちゃん。大和撫子として自分の罪は受け入れるべきよ」
「ちょ…なんでいつの間にか私が説教受けてるわけ…?」
「あんたら!アタシの話を聞けーーー!!!」
友奈と美森が夏凛を焚き付けて、それに対して風先輩がギャーギャー言っている。
とても騒がしくて楽しいこの空間が僕は大好きだ。
もしかしたらここから先にも何か理不尽な現実や悪意が僕たちを襲ってくるかもしれない…。
(でも皆がいれば大丈夫…)
そうして今日も僕や勇者部の皆は穏やかで優しい日々を過ごしていく。
この終わらない明日が続く世界を……。
ここまで付き合ってくださった読者様にまず感謝感謝を!
かれこれ1ヶ月は書き続けてきましたが…まさかここまで色んな方に観覧していただけるとは正直思ってませんでした!(いろいろと読みづらかったりしたかもしれないのに…)
ゆゆゆ編はこれにて閉幕………しませんのよ…これが!
散々後半はシリアス書いてたのだ…ほのぼの回書いていきますよぉー!
皆様がくれた感想やお気に入り登録!すごく励みになりました!(ほんまあざっす!!)
もうのわゆ編を書くことも決定していますので…そちらも読んでいただければ幸いでございます!
長文失礼いたしました!それでは最後にもう一度ゆゆゆ編の最後まで見ていただきありがとうございました!!