天草洸輔は勇者である   作:こうが

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甘いと重いのダブルパンチ!そろそろ来ますね、一番辛いやつが……心を強く持ちましょう、皆さん。


第十六節 待ってる

「ぁぁ……ダメダ」

 

言葉が出る。でもそこに意思はない。只虚ろな呟きが自身の口から漏れるだけ。

 

考え事をしているうちに、体の半分は黒い沼のような何かに漬かっていた。

 

僕はどうしたいんだろう。

 

ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイわからない抜け出したい抜け出したい抜け出せない……抜け出したくない?

 

「ふ、ふは…ははハ……狂気に…闇に…呑まれ……る……」

 

視界全てが真っ黒なヘドロに呑み込まれ、意識は墜ちた。

 

 

 

 

 

 

 

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「お邪魔します」

「ど、どうぞ……」

 

 昨日出された命令を実行するため、杏の部屋に通してもらう。女子の部屋というのはやはり、こう…緊張するものだ。

 

(郡さんの時とは違った緊張感……はぁ、やだやだ)

 

 杏の部屋は非常に女の子らしく、それに匂いが、ね?凄く良いの。女の子特有の匂いってやつである。

 

「あ、そういえば……これ」

「えっ!?もう読み終わったんですか!?」

「面白くてね〜つい」

「じゃ、じゃあ!帰りに二巻も渡しますね!」

「オッケー」

 

 杏に小説を手渡す、読んだ小説は恋愛物で女の子用かな?とも思ったが案外面白く、昨日夜更かしして全部読んだ。

 

「そろそろ始める?」

「あ、はい!今日はよろしくお願いします!」

「う、うん、その、よろしく」

 

 こうして、僕と杏の勉強会は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「区切りがいいですね。時間も時間ですし、一回休憩しましょうか」

「賛成!」

 

 教えて欲しいと言われたからきたものの、杏に教えるところなんて殆どなかった。(寧ろ教えて貰った部分もある)

 

「洸輔さん、喉乾いてませんか?お茶だしますよ」

「ん~じゃあ頼もうかな?」

「わかりました!」

 

 そう言って台所に向かっていく彼女の顔を見ながら思う。

 

(雰囲気、変わったな……)

 

 最初に見た彼女の顔は恐怖に押し潰されて壊れそうだった。でも……今の彼女は違う。何か強い決意を胸に前に進んでいる、そんな感じがした。

 

「お待たせしました。どうぞ」

「お~ありがとう!」

「……そっち寄ってもいいですか?」

「?ま、まぁいいけど」

「それじゃ、失礼しますね」

 

 杏は僕の横へと腰を掛ける。肩と肩が触れ合い、距離が一気に縮まった。

 

(寄ってもいいかって……近すぎではありませんかね!?)

 

「……」

「……」

 

 声を出すことが出来ない。杏の肩があたっているため、彼女の温度を直で感じる。それに顔も近いから吐息も超近距離で聞こえる。

 

「えと、杏さん?」

「こういうの……憧れてたんです」

「な、なるほど。憧れてたんだね、うん、それはわかった……なので、そろそろ解放していただけると嬉しいんで」

「ダメです♪私が良いって言うまで、このままでいてください」

「そ…それはちょっ」

「このままです!」

「は、はい!」

 

 今日の杏さんは、かなり大胆だったそうな。

 

(あはは……そういう部分でも、変わったのかな?)

 

 

 

 

 

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「もう夕方か。ふぅ〜……途中、死にそうだった」

「ふふ、焦ってる洸輔さん。可愛かったですよ♪ひなたさんの言った通りでしたね」

「堪忍してくれ……てか、あの子が原因か」

 

 「やれやれ」と言いながら洸輔さんは肩を竦めた。彼の弱い部分を見れたからか優越感を感じる。勉強も二人でやったので非常にはかどった。

 

「そんじゃ、僕はここらで帰るとするよ」

 

 この部屋を後にしようと洸輔さんが立ち上がる。ドアへと近づいていく彼の手を掴んだ。

 

「杏?」

 

 不思議そうに洸輔さんがこちらを見ている。私にとっての本番はここからなのだ。

 

(私も、力になりたい。あの時助けてくれた、この人みたいに!)

 

「一つ、質問いいですか?」

「何?」

「何を、そんなに悩んでいるんですか?」

「ふむ、それは……どういう意味かな?」

 

 洸輔さんの目付きが変わる。先ほどのような優しさを微塵も感じさせない冷たい目。それを見て、怯む。

 

(怖がっちゃダメ!ここでこの人の手を離しちゃいけない)

 

「遠征が終わった辺りから、洸輔さんがすごく辛そうに見えたんです。それに思い詰めているようにも感じました」

「そんなことないよ〜、いつも通りさ」

「本当にそうですか?じゃあ、なんでそんなに辛そうな顔をしているんですか?」

「っ!」

 

 私の言葉を聞いた瞬間、彼の目から鋭さが消える。左目を押さえ、涙をこらえているのか。少し弱々しさの交ざった怒鳴り声をあげる。

 

「……何がわかるの?君に……僕の何が!」

「わからないから、教えて欲しいんです!言葉にしなければ、伝わらないことだってあるから」

「っ……ふざ、けるな。なんなんだ、人の心なんて……見えるものじゃないだろ!?なのに、なんで」

「わかってます。人の心の状態なんて目に見えるものじゃないことくらい。だから貴方の想いを……悩みを吐き出してください。見ることは出来なくても感じることはできるんですから!」

「…うるさい」

 

 彼の右目から一つの涙が零れる。目を真っ直ぐ見つめて彼が最初私に掛けてくれた言葉を口にする。

 

「怖くても、自分にとって守りたいものがあるのなら、前を向いて一歩を踏み出してごらん。その一歩は、きっと君の力になるから…ですよね?」

「……」

 

 この言葉を掛けてくれたときの彼が、『本来』の彼なんだと思う。あの時の目と、背中を見て、そう感じた。

 

「貴方はあの時、手を差し伸べてくれた。だから今度は私が!貴方に手を伸ばす番です」

 

 優しく微笑んで、彼に向かって手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 しかし、私の手が握られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「やめて、よ……」

「洸輔さん?」

「お願い、もう、やめて?僕は、君や皆が思っているほど、強くもないし優しくもないんだ。僕は、君たちのことを信用していない、信頼してない。僕は君たちのことをあっちに帰るための……道具としか思っていないかも…しれない糞野郎なんだ…」

 

 溜め込んだものが溢れるかのように彼は呟く。そのまま私の方を振り向かずに部屋を後にした。出て行く時の彼の背中はすごく弱々しく…今にも壊れてしまいそうだった。

 

「こ、洸輔さん!」

 

 彼に向かって私が一番伝えたかったことを叫ぶ。

 

「私、待ってます!洸輔さんが、いつか自分のことを話してくれることを!私も皆もずっと…待ってますから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~その日の夜~

 

「電気消すぞ〜」

「……うん」

 

 タマっち先輩と一緒に布団へ入る。二人で寝るのはもはや習慣にすらなりつつある。

 

「なぁ、杏?」

「ん?」

「洸輔と…その、何かあったのか?」

 

 急な指摘に動揺する。

 

「なんで……分かったの?」

「そりゃ、タマが杏の姉だからーっと言いたい所なんだがなぁ……あいつが杏の部屋から出てくんのを丁度見かけたんだよ」

「……そう」

「あいつ、今にも死にそうな顔してた……んで、何があったんだ?」

「……洸輔さん、一人で何か抱え込んでいるように見えたの。だから、相談に乗ろうと思ったんだけど…」

 

 結局のところは何も分からなかった。少しは、吐き出してくれたんだとは思う。でも、根本的な部分がわかっていない。

 

「タマはあんまりそういうの分かんないなぁ……悩む前に忘れちまうし!」

「ふふ、タマっち先輩らしいね」

「だろ?まぁ……でも、人だからな。悩みごとの一つや二つあるんだろ?だったら!悩みごとの分だけタマが支える!皆も!洸輔も!杏もな!」

「うん、ありかとう。タマっち先輩」

「当然だ!何故ならタマ達は宇宙一の姉妹だからな!」

 

 そう言って私を抱き締めてくれる。私はこれがすごく好きだ。

 

「タマっち先輩」

「ん?なんだ?」

「次の襲来の時には、無理をし過ぎないでね」

「あー神託のことか?そんなのよゆ」

「ううん、そうじゃなくて切り札のことだよ?タマっち先輩、最近調子よくないでしょ?」

 

 タマっち先輩の動きが止まる、どうやら図星らしい。

 

「切り札は人の身に何をもたらすか……どんな悪い影響がでるのかそれも分かってないし、まだ解明もされてないから……」

「わかったから…そんな顔すんな。みんなで力を合わせりゃきっとなんとかなるさ…な?杏?」

「……うん」

「それにしても…杏?随分洸輔のこと気にかけてんじゃん?なんか他に理由でもあんのか?」

「ぅ…そ、そういうタマっち先輩だって!洸輔さんに可愛いって言われて赤くなってたじゃん!」

「そ、それとこれとは話は別だろ!?」

 

 タマッち先輩と一緒に過ごした事で、少し心に光が戻ってくる。洸輔さんにも……こんな気持ちをもう一度、思い出して欲しい。

 

 その時が来るまで、私は…待ち続ける。




天草くん…頑張るんだ…(ゲス顔)

さて…とこっからが正念場ですな!!

皆さんのお気に入り登録や感想を糧にして頑張っていきたいと思います!

それでは…また!!
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