これは…誰だって救いたいと思ったはずです。
とりあえず、本編にいきましょう!
「またかよ」
黒い沼のようなものに飲み込まれていくこの感覚は昨日も感じたような気がした。
昨日から、もう自分が何を考えているのか自分でもわからない。頭が痛い……吐きそう、おかしい、苦しい。
(彼女達を守るためには力さえあればいい?そうすれば……皆を守って……守る?なんで?どうして?)
「必要ない。だって僕の目的は勇者部の皆の元へ帰ること……
ただそれだけなんだから」
胸の辺りがズキズキするのはきっと気のせい。そう、気のせいだ。
「……」
いつも通りの授業。僕は右手に握りしめた押し花を見つめる。
(友奈、美森、風先輩、樹ちゃん、夏凜、園子……安心して。絶対に帰ってみせるから)
そんなことを心の中で呟くと、聞き飽きたアラーム音。光が見えてきた。
「ーーーーーー」
「ーーー」
周りから何か声が掛けられている気がした。でも、言葉は聞こえない。
(いいや……僕がすべきことは)
僕は勇者システムを起動し……装束を身につけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだよ、今までにない事態とか言ってた割には大したこと無さそうだな」
タマっち先輩が余裕そうに旋刃盤を持つ。皆もそれぞれの武器を握り始めた。若葉さんが皆に向かって指示を促す。
「油断は禁物だぞ、球子。それと今回は杏の提案で出来るだけ切り札の使用を控えようと思う」
事前に伝えていた通り若葉さんが皆に注意を呼び掛ける。すると千景さんから訝しげな視線を向けられた。
「状況次第では使わざるを得ないときも……ある」
「で、でも、大社からもそう言われてますし」
「アンちゃんに賛成っ!使わないに越したことはないよ!ね?ぐんちゃん?」
「……まぁ、高嶋さんがそういうなら」
「洸輔くんもそう思うよね?」
「ああ……そうだな」
タマっち先輩だけでなく……皆も精霊の力を酷使し疲弊している。
「では、今回は基本的に近接が主軸のメンバーで敵を叩いていく。友奈と千景は左右の敵を頼む…私と天草で敵の中枢を迎撃するからな」
「りょーかい!」
「……任せなさい」
「球子と杏の二人は後方支援を優先して、私たちの援護を頼む」
「おうよ!」
「はいっ!」
役割分担を終えて…皆がそれぞれの武器を再度構える。
「そんじゃあよ!これに勝ったら皆でお祝いにお花見しようぜ!」
「楽しそうっ!今なら桜が綺麗だしぴったりだね!」
「……桜……まぁ、いいんじゃない?」
「私も、料理用意するね」
「じゃ、じゃあタマは魚を釣ってきて焼く!」
「なんでそこで張り合うのよ……あとそれ、お花見じゃないし」
「それまで、作戦の方針も決まったところで。そろそろ気合いを入れよう。敵が来たぞ」
若葉さんの言葉と共に全員が動き出す。そんな中…最前線に立つ洸輔さんに視線を向けた。
「お願いします、無理だけはしないで…」
「大丈夫だって!タマだっているしな!昨日も言ったが、杏も皆もタマが守ってやるからな。安心しとけ〜」
「ありがとう、タマっち先輩」
「シッ!それじゃ、やるか!」
タマッち先輩の掛け声に力強く頷き、視線を敵の方に向けた。
(やらせはしない。私だって……守ってみせます)
「敵は前より少なめだな!」
「うん、これなら皆大丈夫」
戦況は優勢、敵の数も少ないため皆切り札を使わなくても対応できている。
(あとは……)
融合しようとするバーテックスを次々と矢で撃ち落としていく。融合進化体を阻止すれば皆が切り札を使わずに戦闘を終わらせることができる。
「杏!あっちだ!!」
「っ……数が多い」
「仕方ない。切り札を使うぞ!」
「ま、待って!!」
切り札を使おうとするタマっち先輩を止める。これ以上無理をさせるわけにはいかない。
「タマっち先輩は手を出さないで」
(願うは殲滅。あらゆるものを凍らせる雪と冷気の具象化にして、死の象徴……全てを凍てつかせる為に、来て!雪女郎!!)
周りを……吹雪が包んでいく。それはバーテックスを包み込むと、化け物たちは次々と凍死していく。
「さ、寒い~」
「何も…見えないわね」
「皆さん…危険ですから動かないでください」
「杏、大丈夫なのか!?」
「今まで一度も使ってなかったから皆よりは安全………だと思う」
「すごいなぁ…あいつらどんどん凍ってくぞ!」
吹雪が止む…目に見えてきたのは固まった状態で地面へと落下していく化け物達だった。
「やったなぁ!杏!ほとんど片付いたぞ…あとは残りの奴等を…」
タマっち先輩の言葉が止まる。私達が見上げる先には…
「前の奴と同じくらいでかい……ヤバイぞ…あいつ…」
見た目だけでわかる…今までの進化体とは別格であることが…。実際…雪女郎の吹雪が全く効いていない。その姿に私とタマっち先輩は固まることしかできなかった。
「この数は不味いね…」
「迷っている暇は…どうやらなさそうだな」
「使うわ…切り札…」
「ま、待ってください!!」
不測の事態に対応するために…皆が精霊を纏わせていく。洸輔さんも…次々と現れる進化体達に対応していた。自分の無力さを噛み締める。
(結局…皆に使わせてしまった…)
「杏!!!」
「え……きゃっ!」
針が私に向かって飛んできたが…タマっち先輩にギリギリの所で助けられる。
「ひやひやしたぁ…大丈夫か?杏?」
「ありがとう…タマっち先輩……っ!?」
「お、おい!?その腕!!」
自分の左腕が針にカスっていたのか…傷ができている。それだけではなく…何か得体のしれないものに蝕まれている感覚に襲われた。
「あの針…毒があるみたい…」
「っ…野郎……!!」
「大丈夫…右腕だけでも戦える」
「杏……はぁ~わかった!なら同時にいくぞ!!」
「うん!」
タマっち先輩は唸りながらも、私の意思を尊重してくれた。
「最大!!火力だぁー!!!」
旋刃盤の炎とクロスボウから放たれた吹雪が蠍のような形の進化体に命中する。しかし………
「マジかよ……」
「全然、効いて……ない」
精霊を憑依した状態の勇者が二人がかりで攻撃しても、びくともしない。その様子を見て背筋が凍り付いた。
「くそ!一旦距離をとって……ぁ」
タマっち先輩が何か言おうとした瞬間…頭上からの突然の打撃に…私は意識を失った。
「う…………」
重い瞼を上げて…目を開く。
「強化が、解除されて?」
「お、おお、杏。目、覚ましたか……」
「……?」
目の前には進化体の針を旋刃盤を盾として使いながら、私の前に立つ、タマっち先輩の姿があった。
「タマっち先輩!?」
「っ!?ちったぁ、加減しろっての……逃げろ、杏」
「何言ってるの!?逃げるなら…一緒に!!」
「そいつは無理だな……足がもう動かない。だから」
視線を向けると、タマっち先輩の足が地面にめり込んでいた。でも、と私は叫ぶ。
「できるわけないよ!!」
「っ……このままだと、二人とも死ぬぞ!!」
「嫌!絶対逃げない!!」
「たくっ……強情な妹だことで」
(なんとしても倒す!タマっち先輩が守ってくれるなら、私が倒してみせる!!)
クロスボウを構え、矢を撃ち出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「動かないなら、守るしかないよな!!」
(タマは杏の盾!絶対傷つけさせるもんか!!)
どんどん激しさを増していく攻撃を旋刃盤で防いでいく。それと同時にピシピシと何かが砕けてきている音が聞こえた。
「まじか……頼む、もってくれ……!旋刃盤!!」
しかし、そんな自分の叫びも虚しく盾は砕け散った。
(まずっ…)
針が腹部へと突き刺さる寸前、横から何かに押されたような衝撃を与えられて、体が横にずれた。杏と二人で、地面を転がる。
「うわっ!」
「きゃっ!」
杏の短い悲鳴が上がった。状況が理解できない中、顔に向かって赤い何かが飛んできた。
「は……?」
飛ばされた方向へと視線向けると、先ほどまで自分が盾で受け止めていた鋭利な針によって背後から刺されたのか……腹部を貫かれてぐったりとしている洸輔の姿があった。
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「消えろ」
進化体に囲まれたが相手にもならなかった。今までと違って敵に苦戦も何もしない。
『そりゃ、お前が受け入れたからさ。だからそれほどの力が出せるんだよ。さぁ、もっと力を楽しめ』
どこからか聞こえてくる言葉に頷く。敵がいないかと、周りを見渡す。その時、真っ先に目に入ってきた光景があった。
「杏……球子?」
二人が身動きを取れずにバーテックスの鋭利な針に襲われている。盾として構えていた球子の旋刃盤に皹が入りはじめているのも。遠巻きからだが見えた。何故だか、手が震え始めた。
『……助けよう、だなんて考えるなよ?お前にもうそんな考えは必要ない』
この言葉をどこかで受け入れている自分もいれば、否定している自分もいる。気付けば、持っていた剣を放り投げ二人の方に向かって走っていた。
『ちっ、やっぱりこんなもんか』
呼吸が乱れる。何故、こんなに焦っているのかわからないのに。足は動き続けた。
(間に合えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!)
球子の盾が砕けたと同時に二人を押すことに成功する。しかし、代償として僕の体は針によって貫かれた。
腹部に針が突き刺さっている状態から、大きく上空へと持ち上げられる。次の瞬間、ゴミを捨てるかのように僕の体は針から引き抜かれ、地面に捨てられた。体から力が抜けていく。
「うぁぁぁぁぁぁ!!!」
「お前が……」
「お、おい?洸輔……?」
「う、嘘……いや、いやぁぁぁぁぁ!!!」
遠くでは咆哮が聞こえ、近くからは杏と球子の声が聞こえる。教室にいたときは聞こえなかったのに。
(ああ)
その時、気がついた。
(今さら……思い出したよ)
この世界に来て、唯一偶然じゃなかったこと。
(ホントぉに……バカだなぁ。僕は)
あれだけ、守る必要がないと思っていた癖に。自分を犠牲にしても、彼女達を守ってしまった。
「あ、ん…ず……」
「だ、ダメ!目を……目を閉じないで!!」
「洸輔!死ぬなんて…タマは絶対許さないからな!!」
二人が涙を流しながら、僕に呼び掛けてくれている。そんな、二人に手を伸ばす。
(僕は、この子たちのことを『大切』に思っていたんじゃないか。だから、自分を犠牲にしてまで……馬鹿だな、気づくの遅いよ……)
「昨日は、ごめ…ん…ね?あ……ず」
「洸輔さん!」
「もう……小説、借りられそうに、ない……や」
「っ…うぅ…」
「馬鹿!!目ぇ閉じるな!!」
「たま…こも、ごめん……ね」
死ぬのかな、僕。あぁダメだ、血、止まらない。体から力がどんどん抜けていく。
「み……な、ごめ…」
心配してくれた皆に答えることも出来ず、むしろ傷つけてしまった僕を…許して欲しい。
二人の声すら、もう聞こえない。
全ての音が途切れて、目も開かなくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「え…?」
それは突然、視界に映った。体を地面に横たわらせ…鮮血で染まっている。天草洸輔の姿。
(何?あれは…何?)
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
咆哮が聞こえる、その声は高嶋さんから発されたもの。
「っ!お前が……」
私自身も鎌の持つ手に力が籠り、咆哮に近い声を上げる。
「来い!!酒呑童子!!!」
横では、高嶋さんが今まで見たことのないような姿へと形を変えていた。
「うおおおおおおおお!!」
「……死に、なさい!化け物!」
高嶋さんは拳を、私は鎌を憎き化け物に対して振るう。
(なんで、なんで…私はこんなに怒っているの?)
そんなとき彼のある言葉が私の脳裏をよぎった。
『それにさ…大事なのは、いつも一緒にいることじゃなくて…いつもお互いのことを思っているかじゃない?』
自分が理解できていないのにも関わらず、一度爆発した感情は止まらなかった…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…嘘だ………」
鮮血に染まっている天草を見ながら…呟く…。頭が回らない…。
「私は…」
今まで感じたことのない恐怖が私を襲う。友奈が最高位の精霊を纏い…進化体を攻撃し…千景も狂ったかのように…鎌を振るっていた…。
「どうしたら…いい…?」
リーダーであるにも関わらず…そんなことを…譫言のように呟いていた……。
シリアス…全開。