天草洸輔は勇者である   作:こうが

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ついにきましたね…ここからはさらに気合い入れます…。

それではどうぞ!!


第二十一節 あなたの敵

「…すまない…ひなた…待たせた…」

「いえ、私が勝手に待っているだけですから…」

 

検査を終えて部屋から出ると…待合室にひなたがいた。彼女が雑誌置き場に戻した新聞の内容が目に入る。

 

「っ…被害者…また出てしまったな…」

「若葉ちゃんが責任を感じることはありませんよ…むしろ千景さんと若葉ちゃん…二人のお陰で被害は最小限に押さえられているんですから…」

「それと…医者から…切り札の使いすぎだと言われた…」

 

ここ最近のバーテックスの襲撃は凄まじく…三人に続き…友奈も倒れたことを好機とでもいうかのように…バーテックスは数で私達に襲い掛かってきていた。

 

(長引かせるわけには…いかない…だから…切り札の力は必須なんだ…)

 

また…度重なる樹海の腐食によって事故や災害などが多発していた。それだけでなく…大社の情報隠蔽が少しずつ一般の人々へと流れだし…それに対し人々の間では…不安の声が溢れ返り…治安も悪化し始めていた。

 

考え込んでいると…私に続き千景が待合室へと戻ってきた。

 

「どうだった…?」

「切り札を…使うのは控えろと言われた…」

「千景も……か…」

 

千景が顔を俯かせ…苛立たしげにいう。

 

「あいつらは…わかってないのよ…!!だったら、切り札なんて使わないでやるわ……そしたら…どれだけ犠牲が出るか…身をもってしることになる!!所詮…安全な場所にいる人間には……」

「千景…もう言うな」

 

言葉を遮る…。理由は簡単でひなたが悲しそうな顔をしていたからだ。彼女にとって『安全な場所で』という言葉は立場的に聞いてて辛いのだろう。しかし、ひなたは千景の手を握って………

 

「いいんです…吐き出してください。それで少しでも千景さんの気が楽になるのなら…私がいくらでも受け止めます…」

 

それに対して…千景は手を払い冷たく言い放った。

 

「放っておいて…安全な場所にいる巫女には…関係のないことだわ…」

 

病院の出口に向かおうとする彼女の肩を掴む。

 

「おい!!苛立つからと言って人を傷つけていいわけではないぞ!!苦しい状態だからこそ…皆で結束し」

「あなたは…正論しか言わないわね…」

「何?」

「強くて無神経な人間のあなたには…弱い人間である私の気持ちなんてわかるはずがないわ!!」

「こんなに時に弱音を吐くな!」

「うるさいっ!!」

 

体を突き飛ばされる…不意のことで受け身をとることができず…植木鉢が壊れ…その破片で手が傷ついた。

 

「つ……っ!!」

 

すると…千景が逃げるように…病院から出ていく。

 

「待て、千景!お前は…」

 

追おうと立ち上がるとひなたに止められる。

 

「手の治療が先です!!」

「…………」

 

強く止められた私は…踏み止まらざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

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「はぁ、はぁ………」

 

病院から寮へ駆け戻り…ドアを開けると私はベッドに突っ伏した。

 

「ううう…私は…悪くない…私は悪くない!!…病院でのことだって……乃木さんが…あんな言い方をするから…」

 

彼女が怪我をしたのは不幸な偶然から生まれた事故…そう自分に言い聞かせる…。

 

「そう…運が悪かっただけよ…」

『ええ…まったくね。あなたの言う通りよ…』

 

耳元で声が聞こえる…顔をあげると…ベッドの横に人が……自分がいた…。

 

『だって…不自然じゃなかったかしら?』

「え……………?」

『強いはずの乃木さんが…簡単に倒れて…あまつさえ謀ったかのように植木鉢があって…』

「何が…言いたいの…?」

 

その声に引き込まれていく。

 

『きっとわざとよ?わざと倒れて怪我をし…あなたを悪者に仕立てあげようとしたの…』

「なんの…ために…」

『正義の名の元に…あなたを攻撃するため、彼女は昔あなたを傷つけていた奴等と同じよ?つまり…乃木さんはあなたの敵なのよ…』

「あ…ああ……」

『あと…天草洸輔もよ…。あいつも優しい言葉を掛けておいて最後はあなたを裏切る気よ…実際…あんな力を持っていながら…私と高嶋さんが倒れるまでそれを使わなかったんだから…』

「…そ…れは…!」

 

言葉は遮られ…また耳元で『私』が囁く…。

 

『あいつも…あなたの敵なのよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢………?」

 

近くにあったスマホが揺れる…。

 

「………………大社から?」

 

 

 

 

 

 

 

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昨日の件で包帯が巻かれた手を見る。千景との言い合いを思いだし…罪悪感に苛まれた。

 

(あの時の私は…千景の言動に対して…明らかに冷静さを欠いていた…。感情の自制が効かなくなっている気がする)

 

「若葉ちゃん…」

「ん…ひなたか…」

「その…今朝大社から連絡があってですね…。切り札の影響について検査の結果から新事実が分かったそうです…」

 

顔を見るだけで明らかに良い内容の話でないことは分かった。

 

「精霊を宿すと…肉体だけでなく、精神的にもダメージを受けるそうです…その結果攻撃性の増加や自制心の低下などが起こり…最終的には…言動にもそれが現れると…」

「では…千景や私は…」

「はい…だから杏さんは切り札の乱用を注視していたんでしょうね…」

 

その時…私のスマホが着信した。画面を見ると公衆電話からの着信だった。

 

『もしもし!若葉ちゃん!?ぐんちゃんはそこにいる!?』

「友奈!?」

 

電話に出ると…未だ寝込んでいるはずの友奈の声が聞こえた。

 

『精霊のこと聞いて、若葉ちゃんとぐんちゃんが心配で、でも抜け出せないから…それでぐんちゃんが電話に出なくて!!』

「お、落ち着け、友奈!」

 

その声はひどく焦っていた…、状況が飲み込めないため彼女を宥める。

 

「精霊のことは私も聞いた…安心してくれ、私は大丈夫だ。友奈自身はどうなんだ?」

『う、うん…体はもう大丈夫だよ…面会謝絶が長引いているのは…精神面での問題があるからだって…』

「っ……」

 

(いつも前向きな友奈でさえも…それほどの影響をうけているのか……)

 

『ぐんちゃんの所に行きたいけど…私…スマホも取り上げられて…監視もついちゃってるから…』

「わかった…千景のことは私に任せてくれ…」

『若葉ちゃん…うん…。もし何かあったら…ぐんちゃんを助けてあげて…お願い…』

「ああ…だから友奈は」

『え…嘘…』

「………友奈!?どうしたんだ!?」

 

突然友奈の声が聞こえなくなる…不審に思い呼び掛けると…予想だにしない人物から反応が返ってきた。

 

『話は聞かせてもらったよ…郡さんの所には僕が行く!』

「なっ!?天草!?」

「え……洸輔くん…?」

 

私だけでなく…ひなたも目を丸くして驚いていた。

 

 

 

 

 

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「…アホや…」

 

顔を片手で覆う。正直自分のアホさ加減に呆れてきた。

 

「早く起きて皆と話をしようと思ってたのに…あの時に眠らず起きているべきだった…」

 

(皆いるかなぁ……ん?)

 

すると…先の方にある曲がり角から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「友…?」

『もしもし!若葉ちゃん!?ぐんちゃんはそこにいる!?』

 

咄嗟に身を隠す。壁に背中を預けながら…友奈の言葉を聞いていく。

 

(郡さんに…何かあった…?)

 

どうやら電話に出ているのは若葉のようだった。聞いていくと連絡しても応答しない郡さんを心配し…彼女は若葉に電話を掛けたらしい…。

 

思い返してみれば…遠征の辺りからの彼女は『僕』と対峙していたころの僕に似ている気がした…。

 

(とりあえず!)

 

「ちょっといい?友奈?」

「え…嘘…」

「話は聞かせてもらったよ…郡さんの所には僕が行く!」

 

友奈が握っていた受話器を手に取り…そう宣言する。横では幽霊をみたかのような顔をしている友奈がいる。そして…

 

『なっ!?天草!?』

『え……洸輔くん…?』

「ひなたもいたんだ。なら話が早い。郡さんは今どこにいるか教えて!」

『だ、だが…お前…体は…』

「それよりも!」

『…今…千景は高知にある実家へ帰っている…』

「高知…ね…わかった!!」

『お、おい!まて!洸』

「よし!…場所はわかった!あとは…」

 

電話を切って走りだそうとすると…友奈に抱きつかれる。

 

「目を覚ましたんだね…よかったぁ…洸輔くん…」

「おっとと…心配かけたね…友奈。それと…今まで色々ごめん…」

「ううん…いいの…無事でよかったぁ…。アンちゃんとタマちゃんは…?」

「大丈夫…ぐっすり眠ってるから」

「そうなんだ…」

「それじゃ…行かなくちゃ」

「で…でも洸輔くんも体が…それにスマホだって…」

 

そう言われた僕はポケットからスマホを取り出す。

 

「安心して…僕が郡さんを助けにいくから…友奈は無理をしないこと」

「こ、洸輔くんの方がよっぽど無理してるよ」

「僕はこの通り!もう大丈夫さ!おっと…ばれちゃったみたいだね…」

 

実は病室で自分の体につけられていたなんか計測器的なのを全部引き剥がしてたのだ…まあ…つまり…脱走してきたってこと。

 

僕らを見つけた看護師さん達がこちらに向かって走りよってきている。

 

「それじゃ…行ってくるよ!友奈!!」

「うん…お願い…洸輔くん」

 

彼女の祈るような声を聞きながら…勇者服を身につけ、病院の窓から飛び降りる。

 

(あとで…若葉とひなたに叱られるの覚悟しないとな…)

 

多分あの二人のことだ…「そんな体で無理をするなんて!」って怒ってくるに違いない…。

 

「それも悪くないかも…」

 

そんなことを呟きながら…跳躍する。

 

(高知…は…あっちだね!)

 

郡さん…僕は覚えている…あの人が一度僕の笑顔を取り戻させてくれたことを…なら今度は…

 

「今度は…僕が君の笑顔を取り戻す!!!」

 

風に乗り…さらに加速した。




自動車学校でちょっと忙しいけど!頑張って書いていきます!

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