病院のとある一室、僕はベッドに身を預けながら…背中に修羅を纏ったひなた様に睨み付けられていた。
「では、弁明を聞きましょうか?」
「えっ……き、聞いてくれるということは許してくれると!?」
淡い希望にすがるかのように彼女を見つめる。そうは問屋が卸さないとひなた様は目をカッと見開き、僕の耳を強く引っ張った(超痛い)
「許しません!聞くだけです!!」
「痛い痛い!ご、ごめんなしゃい〜!!」
「はぁ、洸輔くん……自分を犠牲にするやり方は感心しませんよ?」
「べ、別にそんなつもりは」
村での一件の後、世間では僕に対する悪い噂が流れている。恐らく、僕が村人に対して怒鳴ったのが原因なのだろう。
「嫌だったんだよ、皆のことをあんな風に言われたのがさ。だから、後悔はしてない」
ただ、悔しかった。皆が、郡さんが、あんな風な言われているのが。本当は僕もあそこからすぐに離脱しようとは思っていたけど、我慢できなかったのだ。
ため息をつきながらも、ひなたは優しげな表情を作る。
「わかりました、そこに関しては目を瞑りましょう。私たちは、真実を知っていますから。……で す が!まだ、十分に治りきってない体で病院から抜け出した!そこは許しませんからね!」
あまりの剣幕に体が震えた。怪我は完治したものの、医者の方からは安静にしてろと言われていた……にも関わらず、抜け出したことがひなた様の逆鱗に触れたみたいであった。しかし、余分だとわかっていても言いたくなってしまう。
「で、でもさ?ひなた、行っていいって……」
「約束は?(阿修羅)」
「そうでしたぁ!ほんとすんません!!!」
深く深く頭を下げる。いろいろなことでひなた様を心配させてばかりなので素直に謝った。そんな中で扉が開かれ若葉がやって来た。その顔はひどく疲れている。
「はぁ……」
「こんにちは、若葉ちゃん」
「辛そうだけど、大丈夫?」
「あ、ああ、二人とも。すまない……少し疲れていてな」
「しょうがないですよ、この前はずっと叫び通しだったんですから」
「……」
若葉は大社から提案された人々への信頼回復と士気をあげるため演説を行ったらしい。昨日からその演説はテレビで流され、意気消沈とした人々の心の光になっていた。それ事態は、良い事なのだが。
「私の中では、人々を騙してるという感覚がどうしても拭えない」
「情報統制……ってやつだね。必要なことだとしても、気持ちのいいものじゃない」
「ああ。それに千景のことも心配だ」
「きっと、きっと、大丈夫ですよ」
「郡さん……」
郡さんは、今勇者システムを剥奪され謹慎中の身にある。それについても、僕は大社に対して疑問を持った。最悪の場合だが……大社には、僕の考えにある『強行手段』をとらなければいけないかもしれない。
(また、怒られるかもしれないけど。郡さんにもう一度、会わなきゃ)
暗い雰囲気が部屋を包みこみだすと、突然横から元気な声が響いた。
「ふわぁー!よく寝た!!んっ?皆暗い顔してどうしたんだ?」
「んん……もう、朝?」
『?????』
急なことで三人で固まる。一瞬時が止まり、やがて……。
『ええええええええええ!!!???』
三人同時に叫んだ。
「うわぁ!?な、なんだよ、急に!?」
「?……むにゃ、もう少し」
「よかったです!二人とも!」
「目を覚ましたんだな!!」
「あはは……ホント、よかったなぁ」
その日、長い眠りから球子と杏が目を覚ましたのだった。べ、別に泣いてなんてないんだからね!
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暗い暗い部屋……下から聞こえてくるのは『天恐』が悪化した母の悲鳴とそれを止めようとする父の叫び声。
そして、部屋の中で響いているのは乃木さんの演説とそれに対する人々の称賛の声と拍手。
(惨め、ほんとに……惨め)
私たちの家族は村を出て引っ越した。しかし、何も変わっていない。変わったのは、家と家具だけ。
何もかもが奪われた。外に出ようとしても、謹慎中の為、出られない。勇者システムも剥奪された事で、正真正銘私には何も無くなってしまった。
(もう戻れない、高嶋さんの…彼の…皆の所にも……)
私のような人間は、こういう場所に閉じ籠っているのがお似合い。うすら笑いを浮かべながら、そうやってどんどん塞ぎこんでいく。
「……あれ?」
ふと、下からの音が突然途切れたことに気がつく。少し間が空き、部屋のドアがノックされると、扉が開かれる。
「失礼します……郡さん?今、大丈夫?」
「っ!?なんで……なんで、あなたが!?」
「実は、折り入って郡さんに頼みが……」
「な、何よ……」
そこに現れたのは天草洸輔……私がこの前、武器を向けてしまった人。
『今度は!僕が君の笑顔を取り戻す!!』
彼はあの時そう言ってくれた。多分この人は、それが叶えられるまで私のことを気にかけ続けてくれるんだろう。
(でも、今の私には……)
怖い、今の私にはそれが堪らなく怖かった。だって人には必ず裏があるから、それが彼にないとも限らない。だから、怖い。
「一緒にゲームをやってほしいんだ」
「は?」
「いや〜……一人だとクリア出来ない所があってさ。もし嫌なら攻略法だけでも……」
予想外の言葉に変な声を出す。彼は最初に話したときのように笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。
「……攻略法は教える。でも、それが終わったら……さっさと出ていって」
「わかった!えっとね、ここなんだけど……」
そこから彼にクリア法を教え、すぐに切り上げる。正直、彼の行動すべてが鬱陶しく感じた。内心は頭がおかしいんじゃないんだろうかとも思った。
「これで……いいでしょ?」
「うん!ありがとう!じゃあ、またね!」
「また……って」
立ち上がり、ドアへと近づいていった彼はドアノブに手を掛け背中をこちらに向けながらあることを呟いた。
「今度は一緒にゲームをやろうね!」
そう言った彼の横顔は笑顔だった。
「なんなのよっ……なんで、なんで……そうやって、私の心をざわつかせることばかり」
彼が出ていった後の部屋で、私の中でさっきまでとは違うよくわからない気持ちが渦巻いていた。
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「また、脱走ですか?」
「常習犯みたいに言わないでよ……杏」
「ひなたさんから聞きましたよ。無理はしちゃだめです!」
杏にジト目を向けられる。それもしょうがないことで、郡さんの家に行くためにまた病院を抜け出したんだから。
「でも、郡さんに約束したんだ。今度は僕が笑顔を取り戻すって」
「気持ちはわかりますけど……ひなたさんの気遣いも無下にしないであげてください。本気で心配してるんですから」
「っ〜……それを言われると弱るなぁ」
「まぁ……でも」
杏が正面から僕のお腹辺りに手を回し、抱き締めてくる。突然のことに戸惑いが隠せない。
「あ、杏…なにやって」
「そんな……あなたの背中と言葉に私は救われたんですけどね」
「え……」
「罪悪感は拭えないですけど、少しの間協力します。きっと千景さんもあなたのことを待ってるはずですから」
「ありがと、今の自分に出来ることを全力でやるよ。皆が僕にしてくれたようにね」
彼女の頭を優しく撫でる。この子にも僕は酷いことを言ってしまった。
(だから、今度こそ心の底から寄り添おう)
そう心の中で呟くと、同時に病室のドアが開かれた。
「おーい!杏ぅ~!タマは終わったから次は杏の番だ………………え?」
『あ』
なんだろうか、なんか……なんかこれすごいデジャブを感じる。てゆーか、もう何となくだけども次の展開が読めてきた。
「お前ら………なに病室でイチャコラしてんだぁ!球子クラッシューー!!!!」
「ぐほぉ!!!なぜ僕だけ!?」
「当たり前だ!だいたい!こういう時は全部洸輔が悪い!!」
「そんな理不尽な!?」
「た、タマッち先輩、落ち着いて…」
「杏も杏だ!このやろー!!」
杏も僕もタマッちパイセンからの洗礼を貰ってしまったが……こんな風に彼女たちと関わっていれるのが僕はすごく嬉しかった。
(僕が戻れたように。まだ君にも帰るべき場所はあるんだよ、郡さん)
まじ読んでくれてる皆様には感謝の言葉しか出てこないっす…。
それでは…またお会いしましょう!