天草洸輔は勇者である   作:こうが

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もう少し……もう少し……頑張るんだ…おら…(涙目)





第二十四話 他の誰でもない

「はぁ~リハビリ生活は退屈だなぁ~」

「こればっかりはしょうがないよね〜」

「ほぉ~病院を脱走しているやつの台詞とは思えんなぁ?」

「うぐっ……仰る通り」

 

 随分と耳に痛い話だ。あれだけの大怪我をした且つ、ひなたや若葉からも注意をされたのに未だに繰り返している……咎められても仕方ない事だ。

 

「ま、いいけどな。止めたとこで無駄だろうし。でも無理はだめだぞ?」

「ありがとう、球子も無理はしないでね?」

「何を言うか!体ならこの通……」

「体のことじゃなくてね。精神面でのことだよ」

「ナンノコトカチョットワカンナイナァ~」

「分かりやす!?…ほら…球子は精霊をかなりの回数使ってたでしょ?だからさ」

「ちょっ……」

 

 球子の頭に優しく手を置いて撫ではじめる。照れているのか顔をちょっと赤くさせている彼女は可愛らしかった。

 

「一人で抱え込んじゃだめだよ?僕自身も人のこと言えないんだけどさ。少しでも頼ってくれたら嬉しい」

「ひっ、卑怯だぞ。そういう所がずるいって……」

「どうしたの?」

「な、なんでもない!てか、洸輔は行くとこあるんじゃないのか?」

「そうだね……あ、球子、出来ればこの事は」

「わーってるよ、杏から聞いたからな!黙っててやる」

 

 ホントにこの二人にもお世話になりっぱなしだな、と自重気味に笑う。

 

「ありがとう、球子!行ってくるね!」

「おう!行ってこい!」

 

 ドアを開いて病院の中を警戒しながら進んでいく。

 

 体も…もう問題はない。どちらにせよ、病院から目的地までそんなに遠くはないから大丈夫。

 

 若葉とひなたはそっとしておいた方がいいと言ってた。でも、僕は散々遠ざけてきてしまった。だからこそ、多少強引にでも向き合いたいのだ。

 

「自分勝手だよなぁ……」

 

 これまた自重気味に呟く。向かうべき場所はたった一つだ。

 

「失礼します。こんにちは、郡さん」

「また来たのね……」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 『わからない』それしか言えないくらいに理解できなかった。

 

 彼には今すべてがある。逆に今の私には、すべてがない。なぜそんな人間に構うのか。

 

「これ、一緒にやろう?」

「嫌、出ていって」

「で、でも…」

「嫌って言ってるのっ!」

 

 何故そんな笑顔を向けられるの?鬱陶しい、うざい、邪魔……私の中にある何かが、彼に怒りの感情を抱いていた。

 

 最初の頃に感じた鬱陶しさを久しぶりに感じた。最初話した時もそうだった。どんなに無下に扱っても……こちらに接しようとしてくる。

 

 彼は私に何度追い返されても、家にやって来た。酷い言葉を掛けたりもしたのに、それでも彼はやめなかった。

 

 

 徐々にその感情が、薄れていくのを感じた。どうして薄れたのか、それもわからない。だから、苛立つ。

 

 結果として、私は彼の粘り強さに負けた。

 

「さてっと……今日こそ勝つからね!」

「結果は分かりきってる。負けたらここに来るのも、もうやめて…」

「んー考えとく」

 

 嘘だ。何を言ったところで彼はここに来るのをやめない。自分でも、そんなことわかっているはずなのに。だって、彼はそういう人だから。いつまでも思考と心が虚ろで自分が何をしたいのかわからない。

 

「よっし!負けないよ!」

「っ……無駄だって、言ってるでしょ」

 

 前よりは動きはましになったかもしれない。だけど、正直な所、相手にならない。打ちのめされても、彼は笑顔だった。

 

「さすが、郡さん。だけど諦めない!もう一回!」

「何度やったって無駄よ、どうしてわからないの……?」

 

 彼の行動に苛立ちが募っていく。その後も対戦は続いたが、彼は一勝も出来ていなかった。

 

「もう一回!」

 

 何度だって立ち上がってくる。その姿に私の中で何かがキレた。

 

「いい加減にしてよ……」

「え?」

「何が、何がしたいのよ!?」

 

 コントローラーを床に叩きつける。物が離れた手を強く握り、彼に言葉を吐く。

 

「わからないっ!!私には……わからない!」

 

 今の私には、何も信じられない。高嶋さんに会う勇気もないし、彼女の所に行く資格もありはしない。

 

「……僕は今まで君達と向き合うことから逃げてたんだ。だから、今度こそしっかりと向き合いたい。そう、思ってる」

「だから……?」

「郡さんとは、ゲームを通じて向き合いたい。君が僕にそうしてくれたように」

「なに、よ。それ」

 

 彼は強い人間だからそういうことが言えるんだ。私のように弱い人間は……そんなことを言えない。

 

「私の気持ちなんて…分かってないくせに…!!心を見てもないくせに…過去を知らないくせに!!」

「そう、だね……確かに、僕が郡さんのすべてを理解することは出来ないかもしれない。君が今まで感じた痛みを癒すことも…過去を消すことも…僕にはできないよ」

 

 そうだ、だから…さっさと私の事なんてほっといてどこかへ。

 

「でもね、すべて理解できなくても、見ることが出来なくても、君と向き合って心を感じることで寄り添える」

 

 そんなのは幻想だ、心を感じるなんて無理に決まっている。けど、彼はまたしても笑顔で、手を差し出してくる。

 

 

「一緒に行こう?郡さん」

 

 

(幻想よ、そんな言葉)

 

「む……無理よ」

 

 反射的に彼の手を払う。耳元からまたあの声がする。

 

(あなたは、皆のように強くなれない。あなたは乃木さん、上里さん、土居さん、伊与島さん、高嶋さん……そして、彼のようには絶対になれない)

 

「私はあなたのように、皆のように強くないの。だから、皆の所には戻れない……戻る資格なんて、ない…」

 

(そうよ、あなたは誰にも)

 

 頭を抱え、崩れ落ちる。さっきまでの怒りは消えたが…今度は自分に対する嫌悪感に支配される。聞こえてくる声に自分をどんどん食い殺されていってる気がした。

 

「うぅ……私っ……私はぁ」

 

(あなたには、何も)

 

 

 

「ぇ……?」

 

 

 

 

 体を温かな何か包み込まれる。同時に、声が聞こえた。今までとは違う優しい声。

 

 

 

 

 

「それで、いいんだよ?郡さん」

 

 

 

 

 高嶋さんと似た……いいや、これは似ているけど違う。天草くんから感じる人の温度。変わらず優しい声で彼は続ける。

 

「だって君は他の誰でもない、郡千景なんだから……」

「っ……」

「それにさ、強いから仲間なんじゃない。君だからなんだ、郡さん」

 

 彼は、何かに視線を向けた。私もその方向へ目線を向ける。そこには………伊与島さんの命令で受け取った宝物。皆から私への思い詰まった卒業証書だった。

 

「君を傷つける人間もいる。でも、それ以上に……君を大切に思っている人達がいるんだ。それを忘れないで」

「ぁ……ぁ……」

 

 段々と瞼が重くなってきて、体が急激に重くなる。彼に何か言葉を掛けられていたが……私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

『僕や皆は、いつも君のことを思ってるよ。待ってるからね、千景』

 

 

 

 

 

 

 

(そんなモノは、紛い物よ。耳を傾ける必要はないわ)

 

 

(私、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。そこには彼はいない。ただ体には毛布がかけられていた。

 

「な、何が?」

 

 さっきまでのは一体なんだったのだろうか?辺りを見回してみても……いつもと変わらない部屋が視界に映るだけだった。

 

「どうして……これが」

 

 何故か手元には、スマホが握られていた。

 

 

(、夢だったの?)

 

いくつも疑問が頭の中を駆け巡る。そんな私を引き戻すかのように……スマホから、アラーム音が鳴りはじめる。

 

「……」

 

 部屋には……無機質なアラーム音だけが響いていた。




はぁホントに…書いてるとあっという間ですね。次も頑張ります!あと銀ちゃん誕生日おめでとう〜!
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