どうぞ…暖かい目で見ただければ嬉しいです。
「千景!?」
「乃木…さん…?」
樹海化した世界に降り立った。思考は虚ろなまま、自分が何を考えているかも分からないままでその場に立ち尽くす。
「もう、大丈夫なのか?」
「ええ…もう大丈夫」
嘘吐き。大丈夫どころか、悪化している気さえもした。虚ろな思考の中で、彼の言葉が何度も頭の中でよぎる。
(まだ…迷ってる)
そんな自分には、もう何もない。やっぱり私は……。
「すまない、いきなりで悪いんだが力を貸してくれるか!?」
彼女を見ることが出来ない。だって眩しすぎる……彼や皆もきっとそうだ。
そんな、弱い私だから。
「なん、でよ…?」
勇者の力さえも。
「なんで!?」
失ってしまうのだ。
「どうして、勇者になれないの……」
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『どうして、私だけ?』昔からいつもそう思って生きてきた。
疎まれて嫌われて、何もかもを否定されてきた。
そんなときに勇者の力に目覚めて、今まで得られなかった称賛も栄誉も愛を手にした。
『もっと頑張れば』
『もっと倒せば』
皆がもっと私を愛してくれる。もっと、もっと、もっと。そう思って頑張ってきた。
でも、現実というのは理不尽なもので。
それもすぐにひっくり返って…また私に牙を向けた。前と一緒、疎まれて嫌われて人の悪意に苛まれた。
すべてを消そうとした。だって私を愛してくれないから、讃えてくれないから、でも、しなかった。いや、出来なかった。
『だって君は他の誰でもない。「郡千景」なんだから』
この言葉を受け入れたい。でも、私自身がそれを怖がっている。自分の中で、答えが見つかっていないから。それに今更間に合うはずもない。
勇者にもなれない。多分私はこのまま何も出来ずに、奴等に食い殺されるんだろう。
(ふふ、自業自得…ね)
誰とも関わろうとせず、勝手に塞ぎこんで、心を通わせることすらしなかった。
私の為にと、手を伸ばし言葉を掛けてくれた人もいた。なのに……そこまでしてもらっても、まだ迷っている。
(どうして、なの?)
なんで皆みたいになれなかったのだろう。答えは出ない、いや見つからない。
虚な意識のまま、その場に膝をついた私目掛けて化け物は一斉に飛びかかってくる。これが、郡千景という哀れな人間の最
「私の、仲間に!!手を出すな!!!」
目の前のバーテックスは乃木さんの刀に断ち切られた。
「私の側を離れるな、千景」
「どうして、なんで……あなたも、私を守ろうとするの?」
理解できない。何故、私なんかを助けてくれるの?こんな、こんな私を。
「決まっている……千景、お前は私の仲間だからだ!」
光の灯った強い目。私の目を見つめ、彼女はそう言った。
「乃木…さん」
「どんなことがあろうと私達は仲間だ。だから…守る!」
化け物に対し、怒気のこもった目を向けながら、勇者は跳躍した。私を、守る為に。
「私は」
(何故、あんな風に出来なかったんだろう)
精霊の影響?
「違う」
育ってきた環境の違い?
「違、う。だって…バーテックスに襲われたあの日、あの日から世界の人々は皆、不幸だもの」
なら、私が彼女や皆のようになれなかったのは。きっと…
「心が、弱かっただけなんだ……」
彼女の、彼の、皆の、強さは戦う強さだけじゃない。きっと心の強さなんだ。
数の多さに、乃木さんが徐々に押され始める。背後から一体のバーテックスが迫る。あのままでは、彼女が危ない。
(叶うのなら、まだ間に合うのなら、私は皆になるんじゃない)
「他の誰でもない、私自身のままで……!」
(乃木さん、上里さん、土居さん、伊与島さん、高嶋さん、そして……天草くんのように!強く、強く!)
自身に降り掛かるであろう最期に恐れながらも、震える手に力を込め彼女の体を押した。
「っ!ち、千景!」
化け物の口が、私の体を捉えた。でも、自然と恐怖はない。これが、最期だとしても…私は。
「違う、君をこんな所で終わらせたりなんかしない」
優しい声、けど言葉は厳しい。閉じていた目を開けると、目の前で化け物が半分に裂かれていた。
私を守るように、化け物達の前へと彼は立つ。
「貴方も…なの?」
「まだ、果たせてない約束がある」
「天草……私とひなたが言ったことをホントに守らないな、お前は」
「はは、それに関してはホントにごめん。しっかり怒られるから許して?」
軽口を叩き合いながらも、隙は一切見せず私を守るように二人はそこに在る。その姿は『勇者』そのものだった。
「説教をしたいのは山々だが。今は、千景を守ることが先決だ」
乃木さんの言葉に彼は強く頷いた。そんな彼に、躊躇いながらも疑問を飛ばした。
「どうして、そこまで…するの?」
「言ったはずだよ。君は僕にとっても皆にとっても大切な仲間だから」
「大切、なの?こ、こんな、私が…?」
「郡さん」
彼の温かな手が私の頭に乗っけられる。その手はすごくあったかい。
「この世にはね、大切じゃないものなんてないんだよ?」
「…ぇ」
「誰にだって大切なものはある。だから、大切な郡千景という人間を僕達は守る。……周りを、見てごらん?」
言われた通り、周りを見る。そこには…
「遅れてすまん!千景、大丈夫か?」
「ここからは任せてください!私たちが守ります!」
「ぐんちゃんにはこれ以上手を出させない!」
土居さんと伊与島さん、そして高嶋さんが私を守るように立っている。皆が…
「土居さん、伊与島さん……高嶋、さん?」
「お、お前達まで!?っ〜!全くもう…帰ったら全員説教だぞ?いいな?」
「えぇぇぇぇ!?」
「うう、わかってけどぉ…」
「あ、あはは…」
「まぁいい。今は奴等を片付ける!いくぞ、洸輔と友奈は千景を安全な場所へ!球子と杏は援護を頼む!」
『了解!』
乃木さんたちは敵の方へと向かっていき、高嶋さんが私を抱えて、天草くんがそれを守るように先導してくれている。
「ごめん、ぐんちゃん。守るって言ったのに……」
「高嶋、さん」
「でも、もう離さないから!大丈夫!」
(どうして、気づかなかったんだろう?)
全部失ったと勝手に思い込んで、何もないと塞ぎ込んだ自分。でも、見てみなさい、貴女の前に広がる世界を。
(何もなくしてなんかいなかったんだ……)
勝手に諦めていた私を離さないでずっと思っていてくれた。みんなと過ごした時間が、私を繋ぎ止めてくれていたんだ。
(皆は、仲間は、私を愛してくれていた…)
「今更…気づくなんてね」
「ぐんちゃん?」
「よし!ここらへんは敵はいないから大丈夫だ……どうしたの?」
「高嶋さん、それと貴方も」
『?』
「ありがとう。私、皆のこと……好きよ」
私の言葉を聞いた瞬間、二人は満面の笑みを浮かべた。相変わらずの眩しい笑顔だ。
「私もだよ!ぐんちゃん!ぎゅ〜!」
「もちろん、僕もね」
「天草くんは……好きではないけど嫌いじゃないって感じ」
「えっ、僕だけ?」
「大丈夫だよ!嫌われてはないからね!」
「それあんまりフォローになってないよ!?」
二人の会話を聞いていると、意識が遠退き始めた。でも、自然と恐怖はない。むしろ安心する。
(もう、手放さない……この大切な場所を)
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「ここ……は?」
目を覚ます。辺りを見回すと、そこは病院の一室だった。同時にドアが開かれる。
「はぁ~、怖すぎ。余裕で失神しかけたわ……って郡さん!?大丈夫!?」
「あ、貴方こそ大丈夫なの?」
「ああ、うん。体は完璧に大丈夫だよ。今、若葉とひなたの説教を受けてきてねぇ……ま、散々病院抜け出したからしょうがないんだけどさ」
「そう…なんだ」
抜け出した……私の家に来てくれていた時のことだろう。
「…皆は?」
「球子と杏、それと友奈は脱走しちゃったから…リハビリに専念中。若葉とひなたは僕の説教が終わったら今回のことを大社に報告しにいくって」
「そう…なのね……」
「郡さん?きついならまだ寝てた方がいいんじゃ?」
「いや、別に、そんなことは……」
なんだろうか…どう切り出していいかわからない。色々と言わなくちゃならないことはあるのに…。
「えっと、その……今まで、ごめんなさい」
「別にいいんだ。郡さんのためだからさ」
「それでもよ。ホントに、ありがとう……」
これは…心の底から出た言葉だった。もう一つ…言わなきゃならないことがある。
「ホントに…私は…私のままでも…いいの?」
すると、彼は優しい笑顔をこちらに向けた。
「当たり前だよ。だって僕達は他の誰でもない…君を待ってたんだから」
「っ…」
「僕の方こそ、これからまた色々と迷惑掛けるかもしれないけど、改めてよろしくね。郡さん」
(ホントに……)
その言葉を聞いて、彼のいつも通りさに呆れた。でも、それと同時に笑みも零れる。
「あなたって、ホントに変な人……」
「やっと、笑ってくれたね」
「え?」
「郡さんの笑顔、僕はすごく好きだよ」
「っ!?よ、余計なお世話よ……」
突然の言葉に、顔が熱くなる。まだこの感情がなんなのか、私にはわからない。
「ほぉ~どこに行ったかと思ってきてみれば、千景をたぶらかしてたのか~」
「球子、いつの間に!?てか人聞きの悪いこと言わないでよ!?」
「ぐんちゃーん!!よかったぁー!」
「タマッち先輩~友奈さ~ん待ってくださいよ」
「うるさいぞ!病院では静かに……って千景!目を覚ましたんだな!」
「よかったです!千景さん!」
「…皆…」
病室に集まってきた仲間達を見て、もう一度微笑む。
(ここが、私の居場所なんだ……)
次は花見だ…ちょっとほのぼのに軌道修正しないとね…。
ここからはぼちぼち番外編あげていきます!