「食堂からいい匂いがすると思ってきてみれば、二人だったのか。おはよう」
「ん?若葉~おはよう!」
「おはようございます、若葉ちゃん」
早朝の鍛練を終えた私は食堂から香る匂いに誘われ足を向けると、目の前にはエプロンを身につけた天草とひなたがいた。
「天草もひなたもはやいな。花見の準備か?」
「当たり前だよ!てか楽しみで眠れなかったから」
「私は一人でも大丈夫だと言ったんです。でも、洸輔くんがどうしてもというので……まぁ、実際助かってるんですけどね」
「ほう?天草は料理も出来たのか、多才だな」
並べられた重箱(かなりでかい)の中身を見て、そう呟く。その腕前はかなりのものだった。
「それほどでも。あ、あと洸輔でいいよ?僕も若葉って呼んでるし」
「このタイミングで!?ま、まぁ、わかった」
「ふふふ♪楽しみですね、皆でお花見」
「そうだね、ひなた。それと、あの、二人とも……今までごめんなさ」
「ストップだ、洸輔。せっかくの楽しいイベントの前なんだ。そういうのは後にして今は花見のことだけ考えるとしよう」
「若葉………ありがとう。ところでお腹すいてない?空いてるなら何か作ろうか?」
「いや、お気遣いは嬉しいが大(ぐぅ~)」
この時ほど自分の腹を恨んだ事はない。音を聞いた瞬間、洸輔は笑顔をひなたは私にカメラを向けた。
「はは、若葉のそういう可愛らしい所、女の子らしくていいと思うよ?」
「な、か、…かわ…可愛い!?」
その発言に顔が急激に熱くなる。それを見たひなたは先程よりも目を輝かせる。
「ああ♪いいです、いいですよ!洸輔くん、もっと言ってあげてください!若葉ちゃんの恥ずかしがる顔を私に撮影させ」
「ひ、ひなたぁー!!!!!」
朝の食堂に、私の断末魔に近い叫び声が響いていた。
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「間に合ってよかったね〜」
「ホントだね。皆で花見をするってことも達成できたし」
「す、すげぇ~……これ全部洸輔が作ったのか?」
「お店に置いてあるのより綺麗かも」
「あなたって、ホントに何者?」
「そ、そんなに驚かなくても……それに僕だけじゃないよ?ひなたや若葉も手伝ってくれたからね」
重箱の中身を見ながら、皆が口々に呟く。今回のは結構自分のなかでも自信ありの出来だったとはいえここまで驚かれるとは。
皆無事退院することが出来た。なので前に球子が言っていた花見をすることになったのだ。
「花見なんて久しぶりだな」
手を広げると、桜の花びらが落ちてきた。なんとなく、それを見て微笑む。
「洸輔?大丈夫か?」
「あ、ああ、若葉。うん、大丈夫だよ」
「おーい洸輔~早くしろよぉ~」
「皆で乾杯しないと意味がありませんからね」
「それじゃ、若葉さん。お願いします!」
若葉がこほん、と咳払いをする。各々が飲み物を片手に持ち彼女の言葉を待つ。
「えーそれでは、勇者全員の無事退院を祝って!乾杯!」
『乾杯!!』
そこから、本格的なお花見が始まった。
「あれ?球子、確か魚を釣ってくるとかどうとか言ってないっけ」
「ぬぉぉぉ!!そうだったぁ!忘れてたぁぁぁ!!」
「た、タマッち先輩…そんなに凹まなくても…」
「なんか…洸輔に負けた気分…ぬぉ!?このタマゴ焼きうめぇ!!」
『切り替えはや!?』
さっきまでの凹み具合はどこへやら…一瞬で顔が笑顔に戻る。まぁそこが球子の良いところなんだけどね。
「そういえば杏、腕は…おっと危ない」
「あ…ご、ごめんなさい…洸輔さん」
「いいよいいよ、まだ腕の調子悪いなら僕が食べさせてあげようか?」
「ふぇ!?」
「はい、あーん」
「え、えーっと…」
「ほら、遠慮しないで」
「あ、あーん…」
「どう?美味しい?」
「お、美味しいです……ふふ♪」
どうやらかなり美味しかったみたいだ。笑顔で喜んでいてくれてる。
『……………』
「ん?みんなどったの?」
『いや、別に』
「?」
杏以外の皆から何故かジト目を向けられた。どうしたんだろう?すると…友奈からあることを質問される。
「それにしても…ホントに料理上手なんだね!誰かに作ってあげてたりしてたの?」
「あ~っとね、世話の焼ける幼なじみが居てさ、その子に……うん、そうだね…」
「どうしたの…?急に…?」
話の途中で勝手に納得している僕を見て郡さんが怪訝そうに視線を向けた。そろそろ…僕のほんとのことを話してもいいかもしれない。
「皆…ちょっといいかな?」
「ん?なんだ?洸輔?」
「洸輔くん?」
「いや…なに…ちょっと僕のことを知ってもらいたいなぁって…」
(散々遠ざけてきたからね…もういいだろう…)
「あなたの…こと…まぁいいんじゃない?聞いてあげなくもないわ…」
「はは、ありがとう郡さん。さてと…どこからいこうかな?」
そこから色々と僕についてのことを話した。聞いていくにつれて皆の顔が変化していく。
「はぁーーー!?たいむりーぷぅ!?」
「そ、そんなことが…」
「…私達を守るため…」
「300年?300………ふにゅう…」
「ゆ、友奈さん!しっかり!」
「つまり…そちらでも勇者として戦っていたと?」
「ま、まぁ…そういうことになるかな」
すごい動揺ぶり( ̄▽ ̄;)、まぁ僕も(結城の)友奈が突然こんなこと言い出したら…多分まず頭を心配する。すると若葉が…
「しかし…それを信じるのならば、私達の戦いは決して無駄ではなかったということだな」
「え?それはどういう…」
「簡単な話だ…洸輔、お前がいるということは私達はこの世界を…想いを…その時代まで紡げたということだからな」
「若葉……」
そう言い切った若葉の姿はとても凛としていて綺麗だった。ついつい感動しちゃったよ…だって…まさかそんな簡単に受け入れられるとは思ってなかったから…。
「ありがとう…若葉…」
「その…なんだ、別にそんなに気にすることじゃない。思ったことを言っただけだからな」
「…でも…男は勇者にはなれないんでしょ?…なぜあなたは…なれたの?」
「あ~それね…実は僕さ…神樹様に選ばれたっていうよりも…精霊さんに選ばれたって感じなんだよね…」
「????ぐんちゃん…意味わかる?」
「わ、私にも…何がなんだか…」
「あーつまり、精霊さんの力を体に纏わせることによって…勇者として戦えてるってこと…になるのかな?」
「あなたも…あんまり把握してないのね…」
「う、面目ない…」
痛いところを突かれた。そうなのだ…ぶっちゃけて言えば僕自身もまだ詳しいことは分かってない。まぁでも…
「僕は色んな人達に助けられて…今ここにいる。それだけは確信を持って言えるかな」
手に持った押し花を握る。この約束のお守りが…僕と勇者部の皆や…この子達を…繋いでいてくれてるんだ。
「…ホントに…大事な物なのね…」
「まぁ…ね、皆との大切な繋がりだからさ…」
「なぁなぁ!もっと聞かせてくれタマえよ!その…勇者部?のことを」
「私も気になります!」
「私も私も!」
「うん、気になることがあったらどんどん聞いて。全部答えるからさ」
(…ああ…すごく安心する…)
そこからも…僕のことや神世紀のこと、皆のことも話をした。その時間はとても…暖かくて…勇者部と同じくらいに……心地のいいものであった。
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「あ、頭がパンクしそう…」
「あはは、そりゃそうなるよね」
球子が頭を抱えた状態から動かなくなってしまった。まぁ、当たり前だね……僕も以下略。
(隠しているのも少し寝覚めが悪かったし、とりあえずは話せてよかったかな)
「幼なじみが私とそっくりな友奈ちゃん、だから……洸輔くんは私を名前で呼ぶのに抵抗があったんだね」
「そういう事、かな。その…さ、嫌だったんだよね。どこかで、君と彼女を比べてる自分がいるのがさ。でも……もう気づいたから」
「気づいた?何に?」
「僕にとって結城友奈も高嶋友奈も大事な人。比べる必要なんてなかったんだってね」
「大事な人、かぁ……なんか洸輔くんらしくていいね!」
「あ、ありがとう?」
彼女の言葉に首を傾げつつもお礼を言う。今でも重なるところはあるけど…もう大事なことに気づいたから大丈夫。
(でも…もし二人の友奈が揃う日がきたら…ちょっと問題があるな…その名前の呼び方で(笑))
僕がそんなことを考えていると…友奈が皆の方に真剣な顔で呼び掛ける。
「えと…洸輔くんに続くって訳じゃないけど…私も自分のことはなしていいかな?」
「そういえば友奈さんが…丸亀に来る前のことはあんまり聞いたことがありませんね」
「確かに、友奈さんは聞き上手ですからね。他人を優先して聞き手に回ることの方が多いですし」
「えへへ…ありがとう…でも本当はね…そんなに褒められたことじゃないんだ…」
少し…友奈の顔が寂しげな表情へと変わる。
「よく…皆のことをきにかけてるとか、気遣いが上手って言われるけど…ただ嫌なだけなんだ…気まずくなったり…言い争ったりするのが辛いから…だから自分を出せなくて…」
「でも…今は話そうとしてくれてる…」
「郡さんの言う通りだよ。友奈、ここには君の話を遮る人なんていないよ」
「ああ、友奈聞かせてくれ」
「私も友奈さんのこともっと知りたいです」
「タマも気になるぞ!」
「友奈さんのこと…教えて欲しいです!」
皆が友奈の方に視線を向けた。その姿を見て…友奈は笑顔を作り出す。
「ぐんちゃん…洸輔くん…皆…ありがとう!!それじゃ…」
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『私は勇者、高嶋友奈。奈良県出身。誕生日は一月十一日。血液型はA型で、趣味は…武道かな?あと美味しいものを食べるのも好き』
『勇者になる前…小さい頃は、よく自然の中で遊んでたよ。家の近く神社で、かくれんぼしたりしたんだ。そのことで神主さんに怒られたりもしたっけ』
『だからかな?神社とか神主さんってすごく身近だから…そのせいで大社の雰囲気とか、そういうのを受け入れているのかもしれない』
『そんな私が勇者に選ばれたときはビックリしたなぁ。だって私は皆に比べて特に得意なこととか…誇れるものとかなったから…だから勇者になったときは…どうして私なんだろうって考えたなぁ…戦うのも怖かったし、でもそれ以上に誰かが傷ついたり家族を失ったりするのが怖かった。私は…本当はね…怖いから戦ってるただの臆病者なんだ…』
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「ふぅ~以上!ごせいちょうありがとうございました!」
友奈は話終わるとすぐに笑顔へと戻る。
すると…郡さんが…突然友奈の手を握って言った。
「ぐんちゃん?」
「高嶋さんは臆病者なんかじゃないわ…むしろそれは私のこと…でも…あなたはそんな私の背中をいつも押してくれた。だから…あなたは臆病者なんかじゃない…」
「千景…ああ…そうだな。千景の言う通りだ」
「同感だよ…僕も友奈には何度か助けられたからね」
「それに…友奈さんのこともっと知れた気もしますし」
「確かにな!」
「右に同じです!」
「皆ぁ…ありがとう!大好きだよ!!」
桜の木の下には…皆の笑顔が咲いていた。
そのあとも花見は続き、皆で色々なことを話した。すべてが新鮮で…とても大切なものに感じた。
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…夕方…
花見が終わり…皆が自分の部屋へと戻っていく。しかし…私はある人の元へと向かっていた。
(…迷惑…かしら…)
インターフォンを鳴らして…返事を待つ。やがてドアが開いた。
「あれ、郡さん?どうしたの?」
私が向かったのは…天草くんの所だった。
「少し…時間もらっても良いかしら…?」
「え…?いいけど…って、ちょっ!?」
多少強引だが…彼の手を引いて…歩きだした。
さて…千景ちゃんは何する気なのかな?
そして…洸輔くんフラグは順調に立てていくう!(なんなんだ…お前は)
では次の回でお会いしましょう!