『少し、話さない?』
郡さんに連れてこられたのは、寮からはそんな離れていない場所にある公園。日が沈んではいないものの、時間的な問題で昼間は賑やかなここも今はとても静かだ。
「座りましょう」
「う、うん」
二人でベンチへと腰を下ろす。なんとなくあの時と似ているなと思った。
「……」
「……あーと」
こうやって、無言になってしまう所も。
「えっと、郡さん?」
「私……決めたわ」
「え?」
「過去と向き合おうと思う、逃げずに正面から」
決意のこもった目、その目が見ているものは過去ではない。それより先の何かを見ているようで。
「今までは向き合おうとしてなかった。どこかで逃げてたのよ」
「……」
「でもね、今日の高嶋さんや貴方、それに皆を見ていたら。私も、一歩前に進もうと思った」
そう言った彼女は、明らかに前とは違って見えた。きっと大事なものを真に理解したのだろう。
「私は、両親とけじめをつける」
「それが君の……郡さんの答えなんだね」
「うん……ほんとはすごく怖い。でも、どんな形であろうと向き合わない限り……前に進めないのも事実だから…その、どう思う?」
「どう思うも何もそれが郡さんの選んだ道なら、それでいいんじゃないかな?」
「選んだ、道?」
「そ、郡さんがいっぱい悩んで考えて考えて……その末に得た答えなら。それはきっと君自身が選んだ道だ」
僕も沢山傷つき悩んだ末にこの世界の皆と向き合い救うという道を選んだ。郡さんもきっと一緒なんだ。
「自分で動かなくちゃ何も変わらない。同じ景色しか入ってこないからさ……その選択はきっと正しいと僕は思うかな」
(実際…皆と向き合ったことで色々と変わったからね)
かなり大真面目な感じで言った言葉だったのだが、何故か郡さんはくすくすと笑い出す。
「ぷっ…ふふ」
「うぇ、な、なんで笑うのさ?」
「ふっ……貴方のまったく根拠のないけど、人をその気にさせる感じ、嫌いじゃないわ」
「褒められてるの?貶されてるの?どっち?」
「安心しなさい、どっちかっていうと褒めてるから」
(最初の頃を考えると、郡さんとこんな風に話せる日がくるとは思ってなかったからなぁ)
「所で、どうして僕だけにそのことを?」
「まず、貴方に相談っていうか…聞いてほしかったの」
「え?なんで?」
「なんでって、その」
郡さんの顔が赤くなっているように見える。夕日のせいだろうか?
「……別に、なんでもいいでしょ?」
「まぁ、力になれたのならよかったよ。それに郡さんとこうやって二人で話せて嬉しかったし」
本心からの言葉と共に彼女に笑顔を向けると、ぷいっと顔を反らされてしまった。
「相変わらず、卑怯な笑顔……」
「ひ、卑怯……」
「ええ、まぁ本人の自覚がないのが一番怖いんだけどね」
「?」
ゆっくりと彼女は立ち上がる。僕もそれに合わせて腰をあげた。
「さて、戻る?」
「先に戻っていて、私は行かなきゃならない所があるから」
「どこへ?」と聞きかけたが、彼女の顔を見て僕は言葉を飲み込んだ。
「わかった、いってらっしゃい」
「ええ…行ってくるわ」
そのまま僕の方を振り返らず…彼女はその場から走り出した。
「頑張ってね…郡さん」
もう夕日も沈みはじめて…辺りも暗くなってきている。
「それにしても、素直じゃないなぁ。普通に言ってくれればいいのに」
『ありがとう』
去り際の彼女の呟きが、僕の耳にはしっかりと届いていた。
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「……」
彼と別れ、私が向かったのはまだ引っ越したばかりの郡家だった。
(にしても……呼んだ癖にその場に置いてくって失礼だったかしら。まぁいいか、相手は天草くんだし)
今から一世一代の大勝負をするというのに、やたらと心は落ち着いている。
「それにしても、久しぶりな気がするわね」
家を見つめながら呟く。あの戦闘のあと…私はほとんど寮にいた。だからここに来るのは久しぶりだ。
「ただいま」
返事はない、玄関を開けてまずは自室へと向かう。
「まずは……」
部屋にある必要な物を、バッグの中へと押し込んでいく。その最中あるものに目が止まった。
「これは、絶対必要よね」
皆からもらった卒業証書を優しくバッグの中へと入れた。
「私の……選んだ道」
震える声で呟いて、両親のいるリビングへと足を向けた。
「千景……帰ってたのか」
ここに来てから、いや、私が勇者になってから……変わらないいつもの光景。
痩せこけたお父さんがいて、横には『天恐』で今にも死にそうな顔で寝込んでいるお母さんがいる。
(皆のいるあの場所へ、皆と一緒にこれからも歩いていくために)
「お父さん、それにお母さん。聞いてほしいことがあるの」
「なんだ?突然……」
一度、大きく深呼吸をしてから両親に言葉を投げ掛ける。
「私、この家を出るわ。一端距離を置きましょう」
「は?何いってんだ?千景?」
「そのままの意味。私は一度、この家を出る。そう言っているの」
「な、何のために!?」
「もう一度、お父さんとお母さん……二人と向き合うため」
多分、今話そうとしたところで何も解決しないだろう。だって……ここにいる全員が冷静な状態じゃないから。
なぜなら、彼の中で私は『娘』ではなくただのどうでもいい存在だと気づいたから。もしも、彼が一度でも私の見舞いに来てくれたんだとしたら……こんなことはしなかっただろう。
そう、私自身も冷静ではないのだ。この家にいる皆が冷静ではない。なら……いっそのこと。
「だからお互いに冷静になって、向き合って話ができる日が来るまでは家を出ようと思う」
「何言ってんだ?なぁ?お前は何言ってんだよ?」
「お母さん……勝手に決めてごめんなさい。でも、必ず戻るから……だから、お母さんも負けないで」
寝込んでいるお母さんの手を掴む。握った手は意外に温かくて……温もりを感じた。
「身勝手だって……思うかもしれない。でも、私がいない間、お母さんをお願いね。お父さん」
それだけ言って立ち上がり歩き出す。
出口へと向かった私に対して、お父さんが殴りかかってきた。
「勝手に……決めてんじゃねぇよ!!!」
「もし……」
そんな彼を真っ直ぐと目で見つめて、言葉を紡ぐ。
「もしも貴方の中で、私をまだ娘として見てくれる心があって……その拳を振るわずに『家族』として話せる時が来たのなら……その時は、いろんな話をしましょう」
「っ!!」
振るわれた拳は私の顔の手前で止まる。なぜ止まったかなんて分からない。お父さんは手を力なく下げると、その場に座り込んでしまった。
「また、会いましょう。お父さん、お母さん」
静まり返った廊下を歩いて玄関へと向かう。
「っ……」
突然、視界がぐらつきはじめる。張りつめた緊張の糸が解けて、体が一気に重くなる。
「まだ…」
地面へと体が落ちていく。意識が遠退く中、寸前で誰かに支えられるような感覚がした。
「あ……あたた、かい」
小さな呟きを最後に、私は意識を手放した。
「……ん」
目を開く。何故かいつもより目線が高い気がした。状況が飲み込めない私をよそに、聞き覚えのある声がする。
「目が覚めた?」
「…え…なんで…あなたが?」
「心配だからついてきたんだ。そしたら案の定家から出て来てすぐに、倒れそうになってる郡さんを見つけたって訳」
「た、倒れた?」
「うん、タイミングが良くてよかった。ギリギリの所で支えられたからね。それにしても、荷物多いね?けっこう重いや」
「……」
改めて周りを見渡す。目線が高いのは彼におんぶされているからだった。もう辺りも暗くなっていて街灯が道を照らしている。
「も、もう…大丈夫よ…下ろして」
「無理はしちゃだめ、また倒れたら困るでしょ?寮につくまでは僕の背中に乗っかってて」
「……ほんと、お節介なんだから」
「それほど郡さんのことが心配なの」
「ふん……」
どこまでお節介なんだと思った。でも、それと同時に彼の優しさに胸が温かくなる。
「また、助けられちゃったわね……」
「僕が助けたのは最後だけさ。それまでは、郡さんが頑張ったんだから
、気にする必要はないよ」
彼はそう言うと、またあの時のように笑顔を向けた。
「ねぇ」
「なに?」
「そろそろ、その郡さんっていうの…やめて」
「へ?いや、でも」
「皆が名前呼びなのに……私だけ名字とか、なんか変な感じだから。千景でいいわ」
「了解。じゃあ僕のことも洸輔で」
「それは……ちょっとハードル高い」
「えぇ〜、んーなら天草でいいよ?」
「わかった。ねぇ、天草くん」
「どったの?千景?」
「ふふ、呼んだだけよ」
「なっ!そ、園子みたいなことしおって……」
「?」
からかうと彼はぶつぶつと何かを呟いた。やがて、前を向きながら……私に彼は語りかける。
「僕も……負けないように頑張るよ」
「十分負けてないと思うけど……」
「千景を見て改めて思ったんだ。もっと、色んなことに挑戦しようってね。過去も未来も僕がやらなくちゃならないことは変わらないから」
「そんなに焦らなくても大丈夫。だって、あなたはここにいるもの」
「千景……ありがとう」
彼に体を預けながら、寮までは色々話つつ帰路を歩いてもらった。
寮に着くまで、私は彼の背中の温度を感じ続けていた。
次は番外編(絶対)出す予定です。とりあえずあげれてよかった……。
感想お願いいたします。
ぼちぼちと遅れを取り戻していきますねぇ~!