では、本編をどうぞ。
「……ホントに大丈夫なんですか?」
「うん、ちょっと痛むけどこれくらいなら余裕だよ」
ひなたからの言葉に笑顔で答える。勇者服を身に付けたお陰でなんとか体を動かして、跳躍しながら壁へと向かっている。ぶっちゃけ、体は軋んでいてかなり痛い。でも、そんなことも言ってられないのだ。
(急がなくちゃ!若葉が身を投げ出してしまえば、手遅れになる!!)
最初は、ひなたが僕の身を案じて大社に頼み、車で壁の近くまで行ってくれると提案してくれたが断った。その気持ちは嬉しいけど、刻一刻と時間は迫ってきているのだ。だったら、肉体が人間離れした勇者になって飛んでいった方が速い。
「……洸輔くん」
「心配しなくても、大丈夫だって。ほら、今だってこんなに動けてるんだから」
「心配するに決まってます!だって、全員の中で最も体の損傷がひどいってお医者さんが言ってたんですよ!?もう、いつもいつも心配掛けて!!」
背中越しにポカポカと殴られる。ちょっと待って、ひなさん!いつもならいいけど、今は駄目だって!しかし、いつもいつも迷惑かけているのは事実なんだよなぁ。
そんなことを考えていると、壁が見えてきた。目的地へと着地し、そびえたつ壁を僕は見据える。
「ここから先は、僕が行くよ。壁の外では何が起きるか分からない。体もこんな感じだし、いいかな?ひなた」
「はぁ……結局一人で行くんですね?」
「……ごめんよ」
「いいんです。きっとそうなるだろうなって思ってましたから。その代わり、目的をしっかり果たしてきてください!あと、終わったらここまではちゃんと戻ってきて…そのあとは倒れても私が責任をもって、連れて帰りますから」
「助かるよ、ありがとう。ひなた」
「構いませんよ、勇者を全力で支援する。それが巫女である私の役目ですからね!」
そう言いきったひなたに、軽く手を振って即座に足に力を込め壁を登った。
結界を越えると、
「そこまでだよ。止まるんだ、若葉」
「はぁ……やはり、彼に伝えない方がよかったか」
その言葉と同時に青い鳥が光出す。光が収まると、そこには鳥ではなく、淡い光に包まれた若葉がこちらに背を向けたっていた。
「それは?」
「投げ出すにはこちらの方が適しているからな。まぁ、この状態の持続時間はそんなに長くないんだが」
「そう、なら、こちらも手短にそして、単刀直入に言うよ。自分を生け贄にするのはやめるんだ、若葉。僕は君も救いたい」
そう呼び掛ける。しかし、彼女の背中はこれ以上踏み込んでくるなと言っているように感じた。
「大社に奉火祭の記録を残させるためにある程度時間を取ろうとしたのが失敗だったな。こうなるなら、早めに終わらせておけばよかった……」
「……」
「戻ってくれ。ここからは事の発端である私が全てを終わらせる」
彼女には、彼女の思いがある。でも、僕にも僕の思いがある。だから、どんなに拒絶されても僕は踏み込む。
「自分を犠牲にして?そんなの、嫌だよ。だって、君は西暦の勇者達を守れって言ったじゃないか。そこには、若葉も入ってるんだ!それが、300年後の君だろうが、過去の君だろうがね!!」
「優しいんだな……君は。でも、どうする気なんだ?彼から聞いたなら知っているだろう?この役目は私にしか出来ないことなんだということも」
「確かに、僕じゃ君の代わりをすることは出来ない」
「なら……」
「でも、もう一人の『僕』なら出来る。そうすれば、君が犠牲になることはな」
「それでは、意味がないんだ!!」
怒号を発すると共に、若葉がこちらへ顔を向けた。そこには、涙が浮かんでいる。
「それじゃ、意味がない!!その方法を取ってしまったら……私は君にも……彼女達にも、何も償えない!!!」
「どうして、そこまで……」
「私は、目の前で大事な仲間達を失った。最初は、球子と杏、次は千景、最後は友奈と、一人……また一人と仲間を失った!!何も出来なかったんだ!!友達が、仲間が、奪われたのにだ!!!」
全てを吐き出すかのような叫び。何も言える言葉が浮かんでこない。一度、溢れだした叫びは止まらない。
「それだけじゃない!!私は、ひなたまで苦しめた!!彼女は奉火祭の生け贄に選ばれるはずだった。だけどひとりになってしまった私を気遣って、他の巫女達を犠牲してでも、残ってくれたんだ。忘れもしない…あの時のひなたの表情と涙を!!だから、奉火祭にも手を出そうと思った!今のひなたに、そんな思いをさせたくないから!!」
「やがて、人間としての生を終えた私は精霊になった!最初は、過去を受け止め未来の勇者達の為に、動こうと思った!でも……駄目なんだ!!一人でいると、ふとした瞬間に浮かんでくる!!無力だった自分の過去が!!そして、私は過去に戻って、皆を救うという方法をとろうとするようになった!その結果、関係のない君までも苦しめてしまった!!」
きっとこれが、彼女が今まで溜め続けてきたものなんだろう。ははは……と乾いた笑いを浮かべながら、虚ろな目で若葉はこちらを見つめる。
「結局、全部自己満足なんだ。私はそんな自分自身を許せない。だから、自分を生け贄にして全てを終わらせる。それが、私にとっての『償い』だ」
「それでも、僕は君を助けたい」
「っ!!言っただろう!!それでは、意味がないと!!私が生け贄にならなければ!!皆に償……」
若葉の言葉を遮って、彼女の体を強く抱き締める。
「………え………?」
「よかった。触れることが出来たね」
「何……を?」
「辛い時とか寂しい時は、こうしてもらうのが一番なんだよ?付き合いの長い幼なじみが教えてくれたんだ」
「離せ!!私は寂しくもなければ、辛くもない!!」
「もういい……もういいんだよ……若葉」
「やめろっ……。離……してくれ……」
「辛かったんだよね?一人でずっとそこまでのことを抱え込んで」
「私は……」
一人だったんだ。精霊になってから、ずっと。誰にも相談できず、誰にも打ち明けられず、ただ、抱え込むしかなかった。あの独白を聞いていれば、嫌でもわかる。若葉がどれだけ辛かったか。この世には、一人を好む人間はいくらでもいるのかもしれない。だけど、『孤独』に耐えられる人間はいない。
300年という途方もない時間の流れが、彼女を押し潰していったんだ。
(なら、今僕がするべきことは……)
一人の勇者として、人間として、彼女に寄り添おう。
「若葉は真面目だからね。すべてを償おうとするのは君らしいと思う。でも、その真面目すぎる心は他人も自分も傷つけてしまう。君が犠牲になってしまったら、皆はきっと悲しむよ」
「でも……私は……何も出来くて」
「そんなことないよ。300年もの間、皆のことを想い続けていたんでしょ?それだけじゃない、皆を守るために過去にも介入した。そして、僕達の生きている時代まで思いを紡いだ。十分、出来てるよ」
「恨んでないのか?私を……?」
「なんで、恨む必要があるの?」
「勝手に別の世界に送って苦しめたんだぞ!?」
「そりゃ、僕だって聖人じゃないから、思わないことがないわけじゃない。でもね、そのお陰でこの時代の皆に会えた。それに、勝手に苦しんでたのは僕自身だし」
「で、でも、私は……」
子供が、駄々をこねるかのように反論してくる若葉の目を見て、僕は伝える。これくらいしか、僕には出来ない。
「あーもう!でもでもって、うるさい!言わせてもらうけどね!!そんなに長く皆のことを、思って行動している人に償えだなんて誰も言わないよ!!だって、君の行動の根底は、すべて皆のためなんだろ!?ならもう十分、君は償えてるよ!!僕がそれを言っていいのかは分かんないけど、少なくとも僕はそう思う!」
「っ!!」
「もう一つ!何よりも言いたいことがある!」
「……?」
さっきまでの勢いを無くし、あやすかのように頭を撫でながら、優しく呟いた。
「300年もずっと一人で、本当によく頑張ったね、若葉。大丈夫、今は一人じゃない。僕がいるよ」
「うぅぅ……うぁぁぁ」
同時に若葉の目からは、涙が溢れだしていた。子供のように泣きじゃくる彼女を、先ほどよりも強く包み込むように抱き締めた。
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すごく懐かしい、これは過去に感じた人の温もり。
昔、私が人間だった頃……よく感じていたもの。でも、一人でいる内に、忘れてしまったもの。
まただ、またやってしまった。直っていなかったな……一つの目的に囚われて、周りが見えなくなる癖。
(私が、こんなだから……皆やひなたに心配ばかり掛けたんだったな)
何度も、皆に言われて気づかされたはずなのに。いつの間にか、孤独と過去に押し潰され見えなくなってた。
(償うことに囚われて、自分を見失っていた)
そもそも、なんで私は……あの時、ジークフリートにあんなことを言った?あそこで、何も言わなければ天草洸輔がここへ、来ることはなかったのに。
(私は、心の何処かで……助けを求めていたのか?)
過去の皆を、救ってもらおうなんて思っておきながら私自身が、救ってもらいたかったのかもしれない。
(きっと、そうだな……そうでなければ、あんなに彼に向かって自分の想いを、叫ぶ訳がない)
それだけではなく、彼の最後の言葉を聞いて……涙が止まらなくなってしまった。
その暖かさが、その優しさが、私をいつも支えてくれた親友とすごく似ていたから……
(償うつもりが、救うつもりが、彼女たちだけでなく、私まで
ああ、そうだった。いつの間に忘れていたんだろう?一人ではないというのは、こんなにも暖かいものだったんだなぁ……。
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親指で、彼女の涙を拭き取る。さっきよりも、どこか表情が柔らかくなっている気がした。
「落ち着いた?」
「ああ、すまない。それと……その……ありがとう。えっと」
「洸輔でいいよ」
「……わかった、洸輔」
「もう、自分を犠牲にしようとしちゃダメだよ?」
「そう……だな。何よりも私は、もう君に説得されてしまったよ。しかし、それに関しては、洸輔も人のことを言えないんじゃないか?」
「ぬぬっ……うん、言い返せないかも」
すると、若葉は笑みをもらした。その笑みを、見て救えたのだと安心した僕は釣られて笑顔になった。
「さてと、あとは……」
炎で包まれた地獄へと、目を向ける。これが、最後だ。これでやっと、全てを救える。
「ふぅ」
体に力を込めて、装束を黒へと変化させる。目を瞑って『僕』に呼び掛ける。
(準備は、いい?『僕』?)
『やっとか?あーそうだった。その前によ、「俺」。バルムンクを片手に持って前に翳してくんねぇか?』
(へ?えっと、こう?)
『よし、それでいい。動かすなよ!』
頭の中の声が途切れた瞬間、黒く染まったバルムンクから、『僕』が現れた。
『さて、これが「俺」の最後の仕事ってとこか』
「本当に、いいのか?折角、生まれたのに」
「若葉っ!?見えてるの!?なんで!?」
『単純な話だ、同じ精霊だからだろ?』
「あ、そういうことか」
一瞬で納得させられた、まぁ、もう半分自棄だけど。若葉からの、質問に彼は口の端を吊り上げながら答えた。
『どうせ、「俺」があっちの世界に戻ったとしても、春信の野郎に消されちまう。「俺」は不具合だからな。だから「俺」はそいつに言ったんだよ。どうせ、消えてなくなるのなら、
「本当に、本質は変わらないんだな」
『自分でも、呆れるほどにな。そうそう、消える前にあんたに良いこと教えてやるよ』
「?」
『そこにいる馬鹿は、ホントに底が見えねぇほどお人好しでどうしようもない自己犠牲野郎だが、絶対に仲間やら友達やらを見捨てねぇ一途な野郎だ。だから、またあっちに戻って一人でいるのが辛くなったらよ。そこにいる馬鹿に会いに行け、退屈しねぇぞ?』
「……ああ、ありがとう」
『へっ、気にすんな』
にやっと意地の悪そうな笑みを、作る『俺』。若葉から視線を外し、僕の方に向き直る。
「馬鹿馬鹿言い過ぎ。軽く傷つくんだけど?」
『事実だろうが?悪意の集合体の俺に、一緒に行こうなんて言うやつを馬鹿以外の何で表せっての?』
「うっ……」
『ま、そう言う俺も俺だな。そんな野郎に手を貸そうとしてんだからよ』
「本当の本当に、いいの?」
『さっき若葉にもいった通りだ。覚悟は出来てるさ』
「で、でもさ……」
『硬く考え過ぎだっての。いいじゃねぇか、お前は俺との約束を守ったんだからよ。そのご褒美だと思えば』
「まだ、最後までじゃ」
『十分だ。ここから先は、俺の仕事さ』
そう言って、灼熱の世界へ身を投げ出すためにゆっくりと歩き始める『僕』をもう一度呼び止める。
「ねぇ、『僕』」
『なんだよ?』
拳を前に突き出す。それを見た彼はにやけ顔を作りながら、僕に言った。
『それ、好きなのか?』
「嫌だった……かな?」
『いーや、悪くねぇ。寧ろ好きだね』
お互いの拳を、ぶつけ合う。始まりはどうあれ、彼もジークさんやシグルドさんと同じ、僕に力を貸してくれた精霊の一人だ。
「ありがとうね、『僕』。色々あったけど、最後は助けられたよ」
『礼を言われるほどのことを……と言いたい所だが、素直に受け取っとくよ。あと、色々と悪かった』
「気にしなくて良いよ。じゃあ、さよならだね『僕』」
『さよならだぁ?違うだろ』
「へっ?」
もう一人の『僕』は胸に手をあてながら、こう言った。
『
それが、言い終わったと同時に彼の姿はもうそこにはなかった。
「はは、参ったなぁ……それを君に言われるなんて」
「彼は、本当に『悪意』から生まれた存在だったのか?」
「さぁね。でもこれだけは言える。彼もこの世界で出会えた一人の仲間だって」
「そうか……む?時間、切れか」
振り返ると、若葉の体が淡く光りだす。
「若葉?」
「安心してくれ、君より一足先にあちらへ戻るだけだ。多分、洸輔……君もその内こんな感じで、西暦から消えるだろう。やり残したことは、やっておくんだぞ?」
「ああ、そうだったなぁ……」
分かっていたけど、そういうことなんだ。目の前にいる若葉を救って、『僕』が代わりになった。全ての終わり……それは、この世界で共に過ごした彼女達との別れを意味する。
「あ、そうだ。一つ質問があるんだけど」
「なんだ?」
「この〜腕のことなんだけど、何か分かる?」
「それは、君が彼の存在を完全に憑依させたのが原因だろうな」
「……もっと分かりやすくお願い」
「今までの洸輔は、彼の切り札のみを使える程度の一時的な憑依だった。だが、君が最後にやったあれは、違う。あれは、彼の全てを纏ったんだよ。結果、肉体がその不可に耐えきれずそういった形で後遺症が残ったんだろうな」
「つまり、キャパオーバーを起こしたってこと?」
「無意識の内に肉体が、リミッターを解除した結果だな。大丈夫だ、もうじき戻るさ」
「なるほどね」
そんな話をしていると、もう若葉の体は半分以上消えかかっていた。
「頃合いだな」
「みたいだね」
「最後にもう一度言わせてくれ。助けてくれて、本当にありがとう、感謝している」
「いいってば。今度はあっちで会いにおいでよ、いつでも歓迎するからさ」
「ああ、ありがとう。ではまた会おうな、洸輔」
視界が白に染まった次の瞬間には、さっきの『僕』と同じように彼女の姿はなかった。
「さぁ、戻らなくちゃな。これ以上遅くなると、ひなたに怒られちゃう……あれ?」
視界がぐらつく、体が重い。あー、無理して動いたのが今さら効いてきたのか。
「駄目だって……戻るって言っちゃったんだから……こんなところで、倒れる訳には」
そう言った所で、体が言うことを聞くはずはなく、どんどん意識も虚ろになってくる。
(くそ、こんな……せっかく救えたのに……)
体が、地面に吸い込まれるように落ちていく。すると、地面に触れる寸前である男の声が聞こえた。
『さぁ、もう一踏ん張りだ。天草洸輔』
その声が、聞こえた瞬間、体に少し力が戻る。声の主はすぐにわかった。
「ありがとうごさいます。ジークさん」
そう呟きを、漏らし結界を出てひなたのいる場所足を向けた。
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「……」
壁を、見つめながら彼の帰りを待つ。待っている最中に何度も自問自答を繰り返した、行かせないほうがよかったかそれともこれで良かったのか。
(あんな、状態で何かあったら……)
嫌な想像が横切ったため、頭を振ってそんな考えを頭から消す。
「まだ、私、あなたにただいまっていってもらってないですよ……?」
ポツリと呟く。
「お願いですから、私におかえりって言わせてください……」
もう一度、呟く。すると……
「そうだったね。まだ、言えてなかったよ」
「!?」
声がした方に、振り返るとそこには洸輔くんが笑顔で立っていた。すぐに、フラッと倒れ出した彼に駆け寄る。
「結局、フラフラじゃないですか?まったく、何度心配掛ければ気がすむんですか?」
「えへへ……毎回ごめんね。ひなた」
「やるべきことは、終わりましたか?」
「うん、全部終わった。もう、大丈夫だよ」
その言葉を聞いて、安心する。自然と腕に力がこもり、彼の体を強く抱き締めた。彼の体から直に体温を感じると、何故か涙が溢れてきた。
「よかった……本当によかった!!洸輔くん!!」
「いてて、ひなた……嬉しいけどちょっと痛いかも……少し、力緩めてくれないかな?」
「嫌です!もう、離しませんから!!」
「ありゃりゃ、それは困ったな……あ、そうだ、忘れてたよ。ひなた」
「何ですか?」
一拍置いてから、洸輔くんは笑顔で私に言った。
「遅くなったけど、ただいま」
それに私も、笑顔で返す。
「はい、お帰りなさい。洸輔くん!」
のわゆ編もあと、2話くらいで終わりですね(´ω`)いやぁー案外あっという間だったぁ~。
では、次回もお楽しみに(^ω^)
感想まってます(^-^)/