天草洸輔は勇者である   作:こうが

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のわゆ編最終回!!


第三十七節 紡がれた想い、託された希望

ゆっくりと瞼が、持ち上がっていく。視界が起きたてで、ボヤボヤしているのと、窓の外から差し込んでくる夕日のせいで前が見えない。

 

「んん……」

「あ、目が覚めた?」

 

視界が、回復してくると最初に見えてきたのはいつもと変わらないが、最近見ていなかった幼馴染みの相変わらずの笑顔だった。

 

「ゆ…うな?なんで……ここに?」

「勉強教えてもらおうと思ってきたらね。ぐっすり眠ってたし、起こすのも悪いかなって思ったんだ……って、大丈夫?体調でも悪い?」

「友奈……友奈だ……」

 

久しぶりに聞く幼馴染みの声と、変わらない笑顔を見て、自然と涙が溢れる。頰に触れると、そこには確かな暖かさがあった。

 

「な、泣いてるの?」

「ご、ごめん。久しぶりに会えたから……。その、嬉しくて……」

「久しぶり?えっ?今日も、一緒に学校行ったよ?」

 

一旦、落ち着いて少し考える。この様子友奈の発言や状況からすると、どうやらあっちとこちらの時間の流れは違うようだ。しかし、結局の所嬉しい気持ちに負けて、考えることを放棄し友奈を強く抱きしめた。

 

「ゆうなぁ……友奈ぁ!!」

「むぐっ!?えっ!?ちょっ……こ、洸輔くん!?」

「ただいまぁ……友奈ぁ……」

 

顔を涙で歪めながら、弱々しくそう呟いた。そんな中でも、右手には、彼女から受け取った大切なお守りが握られていた。

 

こうして、僕は西暦の時代から神世紀へと戻って来ることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

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そんな思い返せば、恥ずかしくて悶えそうになっちゃうくらいのことをやらかした……次の日、学校を休み、僕はある人を家に招き入れていた。

 

「突然、呼んで申し訳ないです。春信さん」

「いや、別に構わないよ。それで、要件は何かな?」

「えと、ですね。とりあえず、僕の勇者システム見てもらってもいいですか?」

「勇者システムを?まぁ、いいけど……ん?戦闘データが、こんな、いつの間に!?洸輔くん、これは?」

「やっぱり、なら話が早いです。実は、それには理由があって……」

 

僕は春信さんに自分に起きたことを話した。理由は単純で、相談しやすそうだなと感じたから、それとあちらの戦いで僕はかなりの戦闘経験をした。もし、そのデータが残されているのなら、話を進めやすいと考えたからである。

 

「えと、つまり、何かい?君は過去に行っていたと?」

「は、はい!そうなんです!」

「うーん……正直なところ、にわかには信じられないことだね」

「ま、まぁ、そうですねぇ〜……」

「と言いたいところだが……僕が覚えている限り、君が依頼としてあの地獄のような世界に行ったのは一度だけ……たった一度の戦闘でここまでのデータが得られるわけがない。それを考えると、過去へ行ったというのは、これだけのデータが集まったことの説明にもなる」

「えっと、つまり?」

「鵜呑みには出来ないけど、一旦信じよう」

 

そう言って、爽やかな笑みを浮かべながら、スマホを僕に手渡してくる春信さん。こういう時の、この人はすごく頼りになるお兄さん感が出てる……まぁ、夏凛が話に出てきたら、妹大好きシスコンお兄さんに早変わりだけど。

 

「それで、洸輔くん。君は、あちらで過去の勇者様たちと共に戦ったんだよね?」

「は、はい。そうですけど……」

「実はね、過去の書物に気になることが書いてあって。それが、西暦の時代、勇者達と共に戦った精霊がいたって話さ」

「ぶふっ!?ふ、ふぇ!?な、なんですか!?その話!?」

「言葉のままだよ。西暦の時代、突然現れ勇者達と共に四国を守る為、白銀の剣を手に神の使いと戦った精霊。しかし、一つの大きな戦いが終わったと同時に忽然と姿を消したと言われている……勇者に並ぶ過去の英雄って奴さ。はは、その顔心当たりがあるみたいだね?」

「心当たりっていうか……絶対、僕ですよ。それぇ……」

 

(記録は残しちゃダメって言ったのにぃ〜〜〜!!ひなたぁ〜)

 

消える前に、しっかり忠告したのに……まぁ、春信さんの喋った内容を聞いてみると、僕の名前や勇者って部分は隠されているみたいだし……まぁ、いいけども。

 

「大赦内でこの話を信じているものは少ない。そんな精霊はいるはずないってね。僕も、どっちかと言われれば信じてはなかった。でも、君の話を聞いて納得したよ……あの書物に載っていたのは精霊ではなく、過去に飛んだ君ってことだね」

「ま、まぁ……そういうことですね」

「凄い経験をしたね、洸輔くん。過去に行っただけでなく、初代勇者様達と共に四国を守る為に戦ったなんて」

「えっ?鵜呑みにしないんじゃ?」

「まぁ、その予定だったけど……さっきまでの君は嘘をついてるようにも見えなかった。そう考えるのなら、君は過去に飛び未来を変えた、ということかな?きっと、矛盾を生じさせない為に、微量な変化は起きていると思うな」

「微量な、変化……ゆ、勇者部は?」

 

不安になって、僕が勇者部のことについて話す。ある程度すると、春信さんが微笑んだ。

 

「うん、心配はいらないよ。僕の知っている勇者部と君の知っている勇者部に、矛盾してる部分はないね」

「よ、よかったぁ~」

「にしても、ホントに過去に行ったとはね。タイムリープやタイムトラベル……それらの考えはその人自身のものによるし、結局どれが正解とかはないから何とも言えないな。まぁ、でも、変化前の世界と今の世界を、比べる方法がないから不安な部分はあるかもだけど……君の話を聞いた限りじゃ、矛盾や差異はないと思うな」

「は、はぁ……っていうか、ちょっと楽しんでません?」

「あはは、ごめんごめん。少し、興奮しちゃったよ。まさか、そんな貴重な話を聞けるとは思ってなかったからね」

「ま、まぁ、そうかも知れないけど……」

「そんな不安そうな顔しなくても、大丈夫さ。多分、君は分かってるはずだよ……勇者部が自分にとってどういうものかをね。だから、僕に相談したんじゃないのかい?」

「!?……あ、ありがとうございます!」

「いいのさ、君には無茶を頼んだしね。悩んだ時は、勇者様達ほどじゃなくても、相談に乗るさ」

「は、春信さん……ただのシスコンって訳じゃなかったんですね!」

「ただのシスコンってなに!?っていうか僕はシスコンなんかじゃないよ!ただ、純粋に妹である夏凛が大好きなだけさ!」 

「それを、世間ではシスコンって言いますね」

 

僕が、半分呆れながら空になったコップを片付けるためにその場から立つ。

 

「なんと言われようと、僕が夏凛のことを好きなのは覆らないからね」

「なんの話ですか……」

「あ、そうだ、洸輔くん!これから時間はあるかな?」

「えっ?が、学校休んでるので……大丈夫ですけど」

「なら、案内したい場所があるんだ。付いてきて」

「は、はぁ……??」

 

頭に?を浮かべながらも、春信さんに言われた通り車に乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたよ」

「ここは…」

「これまで、四国を守るために戦ってきた勇者様、そして、巫女様達の名前が刻まれている場所だよ」

「っ!?ってことは……」

「君の話を聞いてここには行かせるべきだなって思ってさ。ほら、行っておいで」

 

春信さんに促されるがまま、車から降りて、僕は、ゆっくりと歩いていく。そこは、ひどく静かで僕の足音だけが響いていた。

 

「……あっ」

 

やがて、お墓に刻まれた名前を見て、立ち止まる。

 

「もう、会いに来ちゃったよ。若葉」

 

『乃木若葉』と刻まれている墓の前で手を合わせながらそんなことを呟いた。その横には、『上里ひなた』と刻まれている墓があった。

 

「はは、ひなたったら、若葉ちゃんの隣じゃなきゃ嫌です~とか言ったのかな?」

 

すると、ある一つの墓が目にはいってきた。そこには『白鳥歌野』と書かれていた。

 

「……白鳥さん、あなたが若葉に紡いでくれたものは、今もしっかりと受け継がれていますよ。今、四国があるのはあなたのお陰です、本当にありがとうございました」

 

話したこともなければ、会ったこともないけど……この人も僕らの未来を作ってくれた人でもある。だから、これだけは言いたかった。

 

そのまま、他のメンバーにも挨拶するために一つ一つのお墓を見ていく。

 

まず目に入ったのは、『土居球子』と刻まれた墓。なんか、皆よりも、大きめ?気のせいかな?

 

「いつもその明るさで、僕や皆のことを引っ張っていってくれたよね?何度も助けられたよ、その明るさに……ね」

 

その横には……『伊予島杏』と書かれた墓があった。杏は、控えめだな、彼女らしい。

 

「思い返せば、あの世界で一番最初に話したのって君だったね。まさか、自分が言った言葉で励まされるとは思ってもみなかったよ。にしても、ホントにいつも一緒だね……二人らしいや」

 

次に『高嶋友奈』と刻まれた墓。皆の中心、って感じはいつ通りだ。

 

「君はすごいよ。その優しさでどんな人でも包み込む。その優しさのお陰で、僕は自分を取り戻せたよ」

 

『郡千景』……名前を見ると、あの世界から消える寸前に触れた唇の感触を思い出して、顔が赤くなった。

 

「何だかんだで、君とは一番色々あった気がするね?あの時は油断したけど……もう、そうは行かないからね?」

 

一人で、皆のお墓に一言ずつ呟いた。僕しかその場にはいないはずなのに、何故か、そこに皆がいるような気がしてきた。

 

「あれ?何で……」

 

皆の名前を、見るたびに西暦で過ごした記憶が脳裏をよぎっていく。すると、僕の目から突然涙が溢れた。

 

「あー、何で泣いちゃうかなぁ……こんなの、一回出たら中々止まらないじゃん」

 

ぶつくさ言いながら、両目から流れる涙を拭きながら、体の向きを変えた。

 

「皆に会えてよかった……それじゃ、またね」

 

そう言って、春信さんの待つ入り口の方に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また次の日。今日は、勇者部の面々で園子の家で本の整理を手伝っていた。小説のネタの為に実家から、届けてもらったらしい。

 

「にしたって、ありすぎでしょ!?何よ、この数!?」

「図書館みたい……」

「なんか、目が回ってきたよ~」

「友奈ちゃん、大丈夫!?任せて、今すぐα波を送るから!」

「久しぶりだな。この感じ……」

「ん~?こうくん、どうしたの?」

「あ、ああ、何でもないよ」

 

久しぶりの雰囲気に、幸福感が募っていく。ダメだ、これ、一瞬でも気を抜いたら泣いてしまいそう。(てか、すでに一度泣いてる)

 

「本当に大丈夫なんでしょうね?なんか、挙動不審よ、あんた」

「さっきも、突然泣いてたし……」

「起きた瞬間、私に抱きついてきたりとかもあったよね?」

「……抱きついた?洸輔くんが?友奈ちゃんに?」

 

(あ、これ、ヤバいやつだ)

 

友奈の発言に、美森の目から光が消える。それだけでなく、周りの皆さんから悪寒を感じる。

 

「うん!こう、ギュ~って!」

「へぇ~?」

「それは、また……ねぇ?」

「どういうことかしら?洸輔くん?」

「え、ええとぉ……あー、そうだ!まだ、入り口の方に本とか色々残ってますよね?僕、取って来ますー!!」

「あっ!逃げた!!」

「安心しなさい、樹。どうせ、またこの部屋に戻ってくるんだから……詳しい話はその時に、ね?」

「風先輩の言うとおりよ?樹ちゃん?……ふふ」

 

(い、一旦逃げられたけど……こりゃ、ダメだね。あの感じだと、言い逃れは出来なさそうだなぁ)

 

ドア越しに聞こえてきた会話を、聞いてそんなことを思う。

 

(友奈、美森、風先輩、樹ちゃん、夏凛、園子……また、皆とこうやって過ごせている)

 

こうやって勇者部のメンバーと過ごせて嬉しいという気持ちの方が、大きかった。

 

「さて、本を持ってかなくちゃね。にしたって、ほんとにいっぱいあるなぁ……なにこれ、『勇者御記』……って、下にも、なんかある?」

 

『勇者御記』と書かれていた本を手に取ると、その下から黒い箱が見える。

 

「わ、若葉ちゃん秘蔵コレクション?もしかして……まだ、なにか」

 

黒い箱を出して、中身を見る。すると、あり得ない量の写真が詰め込まれていた。その中には、もう一つ封筒のようなものが入っていた。それには、『天草へ』と書かれていた。

 

「僕へ?」

 

封筒を開くと、中には一枚の写真と手紙、そして、黒が特徴的な押し花が入っていた。

 

「この写真、あの時皆で撮ったやつ……手紙と、それに、これ……押し花?」

 

手紙には、一人一人からメッセージが寄せられていた。

 

『洸輔はさみしがりやだからな!タマや、皆に会えなくても泣くんじゃないぞ!』

 

「ふふ、余計なお世話だよ。そっちこそ、僕に会えなくて泣かないでよ?球子」

 

『本当に、ありがとうございました。洸輔さんのこと絶対に忘れません!』

 

「僕の方こそ、絶対忘れないよ。杏」

 

『幼なじみの友奈ちゃんや勇者部の皆と仲良くね!笑顔を忘れずに!!』

 

「友奈の笑顔には敵わなくても、僕も負けないくらいに笑い続けるよ」

 

『私は、いえ、私達は遠く離れていてもあなたのことを強く思ってるわ。だから、あなたも思っていて』

 

「千景……僕も君や皆のことをずっと思ってる。思っている限り、心はいつだって繋がってるからね」

 

『洸輔さん、ごめんなさい。記録は残すなと言われましたが、どうしてもあなたという人が、私達を助けてくれたということを残したかったんです』

 

「ひなた……驚いたけど、君がそこまで僕のことを思って残してくれたなら、構わないよ」

 

『お前は、助けてくれただけでなく色々なものをくれたな、洸輔。だから、皆で考えて押し花をプレゼントすることにした。300年もかかったが、受け取ってくれ』

 

「こちらこそ、返せないくらいに色々なものをもらったよ、若葉。黒か……多分、最後に使った勇者服の色をイメージしてくれたのかな?ふふ、もう一人の僕も喜ぶと思うな」

 

右手に、握られた黒色の押し花に視線を向ける。

 

「ありがとう、皆、大事にするね」

 

『私達の想いと、希望託したぞ。洸輔』

 

過去からの、思わぬ贈り物に動揺しつつもその場から立ち上がり勇者部の面々のいる部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「す、すいません、遅くなりました」

「あ、戻ってきた」

「やけに、遅かったわね?」

「もしかして、何かあった~?こうくん?」

「ま、まぁそんなところかな」

「さて、じゃあさっきの話の続きを……」

「ちょ、ちょっとまった!美森!」

 

不穏な気配が、美森から漂い始めたので途中で遮る。

 

「なにかしら?洸輔くん?」

「その前に、ちょっと聞いてほしい話があるんだ……っ!?」

 

その時、窓の外の方に青い鳥が見えた。その鳥は僕の方をじっと見つめている。

 

(ふふ、もう会いに来ちゃったの?若葉?)

 

僕が胸の内で、そんなことを呟くとまるでそれが聞こえているかのように、青い鳥は笑顔で頷いた。

 

(そっか……なら、見ていてよ。僕と皆のことをね)

 

「おおーい?こうく~ん?」

「どうしたの?洸輔くん?」

「あ、う、うん!大丈夫だよ」

「で?洸輔、話って?」

「まぁ、そのここ最近、僕がちょっとおかしいのとそれに、関連したことをちょっと……ね」

「どういうこと?」

「その、黒い箱が関係してるんですか?」

「うん、そんなとこ」

 

皆の質問に答えながら、先ほど受け取った押し花を握りしめた。正直、話すか話さないか迷っていたけど、やっぱり、話すことにした。

 

(隠すってのも、なんか変だしね)

 

僕の大事な仲間達に伝えたい。過去で出会った大事な仲間達のことを。

 

何より、皆が紡いでくれた想いと託してくれた希望を皆にも伝えたいからね。

 

僕は右手にある黒い押し花を握りしめ、西暦で起きた一つの奇跡の物語について話を始めたのだった。




はい!まずは、のわゆ編を完結まで、付き合ってくださってくれた皆様……また、ゆゆゆ編からここまで見てくださった皆様にはさらに深い感謝を!!

途中、何度も悩んだりして完結まで行けるか不安でしたが、なんとかこれました!(駄文は相変わらずですが……)

のわゆ編もこのまま閉幕するつもりはなく、ちょこちょこ番外編も出す予定です!

お気に入り登録、評価も自分が思った以上に増えて、嬉しすぎます……ほんまありがとうございます!!

次は、わすゆ編か……皆さんの期待に答えられるようがんばります!!

それでは、最後にのわゆ編完結まで見てくださって本当にありがとうございました!

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