本編書き溜め中に思いついたネタを投下していく男。今回の話は、『もしも』天草が郡千景の幼馴染だったら〜?という設定の元お話が進みますのでご注意を。なんと9,000字ぴったり、筆が乗りすぎて長くなっちゃった…許してください。
後、ヤンデレ成分含みます。何故って?僕がヤンデレ好きだからですよ。苦手な方はブラウザバック推奨です。
「後はラッピングして、リボンをつければ〜」
「完成…や、やった」
「お疲れ様!綺麗に出来たね、初めてって言ってたのにすごいよー!」
高嶋さんがまるで自分の事のように喜び、笑顔でそう言う。その笑顔に釣られ、私も笑った。
「全部高嶋さんのお陰……本当にありがとう」
「どういたしまして!でも、私は横で見てたまに助けたりしただけだよ。やったのはぜーんぶ、ぐんちゃんなんだから!」
そう言って高嶋さんはラッピングされきちんとリボンまで付けられた箱を手渡してくれる。不思議と、それが光っているように…見えた。恐らく見えるだけだが。
「……私が、全部」
気持ちを込めて作った。明日は、大好きな彼にこれを渡すんだ。あの村にいた時ではあげたくてもあげられなかった、けど今の私なら。
抑えられないこの気持ちを…形にして彼に贈ることが出来る。とは言ってもだ、初めての事で少し怖い。
(もし、受け取ってもらえなかったら?彼に限ってそれはないと思うけど……でも、この気持ちが伝わらなかったりしたら)
「大丈夫だよ、ぐんちゃん」
不安そうな私を心配してくれたのか、高嶋さんが優しい声で私を呼ぶ。
「高嶋さん?」
「心配ないよ、だってそのチョコにはぐんちゃんの気持ちがギュッと詰まってるんだもん!」
……そうだ、何を怖がっているのか。どこまでも自分に忠実に、自分に貪欲に。彼を誰にも渡さない為に。気持ちを伝えるんだ。
「ありがとう、高嶋さん。私、頑張るね」
私には、幼馴染がいる。
名前は天草洸輔。あの狭い村の中で唯一私の味方でいてくれて、どんな時も私を守ってくれたヒーローみたいな、男の子。
両親の不和が原因でいじめにあっていた時も、彼は味方でいてくれた。いじめの対象である私を助けた事で、周りから酷い扱いを受けたとしても、彼は変わらなかった。
『大丈夫、どんな事があっても僕が君を守るから』
その言葉に、救われた。彼の行動に、幾度となく私は救ってもらった。どこに行くにも彼と一緒、嬉しい時も、辛い時も、どんな時だって彼と一緒にいた。痛みを二人で分け合って乗り越えてきたのだ。
いつしか、私の心にはある感情が芽生え始めた。
(好き、貴方の事が好き)
その気持ちが宿るのは必然だったのだと、今なら分かる。敵しかいなかったあの村で、彼だけが私を支え続けてくれた。自分が傷つくのも省みず。そんな彼に、私は心酔していった。
例え周りからどんな罵詈雑言を吐かれようとも、私は気にしなくなった。何故か、簡単だ。彼が近くにいるから……私の全てが、すぐそこにあったからもうどうでも良かった。
ある時、私は勇者の力に目覚めた。その際に村を出ていかなければならなくなった。村を出て行ける……もう親の顔も村の連中の事も考えなくていいという事だ。内心、嬉しかった。けど、村から離れるという事は彼との別れを意味する。
そんなのは嫌だ、耐えられない、1日…いや1分1秒すら離れるのが嫌。だというのに、別れる?そんなの、耐えられるはずがない。
だが、そんな心配は杞憂に終わる。彼も勇者としての力を見出され、私と共に四国に向かう事となったのだ。大赦曰く、勇者は無垢なる少女にしかなれない特別な存在らしいが、天草くんは特異な体質らしく男でありながらも勇者の力を得ているからとの事だった。
結果として、勇者になっても私達の関係は変わらず続いた。それがどうしようもなく嬉しい。
『私の傍に、ずっと居てくれる…?』
『勿論、離れたりしないよ。これからも僕達は一緒だ』
心地よかった。そう言ってもらえる事が、何よりも心地よくてどんどん私は彼に染まって……いや、既に染まりきっていたのだ。
肥大化した想いは留まる事を知らず、彼と一緒にいた分だけ膨らんでいく。それが原因だろうか、四国に移り住んでから悩みの種が一つ増えた。
四国で出会った少女達の存在だ。あの村では、天草くんも私と同じような扱いを受けていたから、同年代の女子と仲良く話している姿を見なかった。
けど、今は違う。乃木さん、土居さん、伊予島さん、上里さん、高嶋さん……高嶋さんは良いとして、他の四人が天草くんと仲良く会話しているのを見る事が増えた。特に、乃木さんと天草くんは話が合うのか仲良さそうに話をしている光景をよく見る。
(嫌だ)
と思った。彼が他の子と仲良くしている姿を見ると、酷く心が冷めきっていくのが分かった。
彼女達にその気はないのかもしれない、だとしても嫌だった。
私だけを見て、私だけに振り向いて、私だけに声を聞かせて、私だけの傍にいて欲しい。独占したい、彼の何もかもが欲しい。
(ずっと…ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと……傍にいて)
そう、だから…決めた。この日に全てを伝えるって。バレンタイン、好きな人に想いを伝える日、あの村にいた頃は出来なかった方法で彼を、私のモノにするのだと。
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2月14日、今日は世に言うバレンタインデーである。なんか偉そうに世にいうとか言ったのは良いものの、実はどういう日かしっかり理解している訳じゃない。好きな人にチョコをあげる日……そんくらいの認識しかないという始末である。
「……チョコ、か」
欲しいか欲しくないかで言われれば欲しい。僕だって一端の男……村にいた時はそんなイベントを楽しむ暇なんてなかったからアレだけど、今なら……そう考えた時に真っ先に浮かんでくる女の子がいた。
「千景は…くれたり、するのかな」
郡千景、幼馴染の女の子。僕にとっての大事な人。
勇者になる前、僕と彼女はとある小さな村に住んでいた。その中で彼女は村八分のような扱いを受けていた。それが、どうしても見過ごせなくて……僕は彼女を守った。そんな事をしたら、どうなるか分かっていたはずなのに。
酷い仕打ちを受けた。殴られ、蹴られ、傷だらけにされる毎日。それでも、僕は彼女の傍にいた。
何故なら、あの子が笑ってくれるからだ。かつては人形のように表情を変えなかった彼女が、僕と一緒にいる時だけは笑ってくれた。
その時、思ったんだ。この子の笑顔を守り続けよう、と。彼女の笑顔を僕が守り続ける、もう誰にも彼女を脅かさせはしない。
守り、守られる。お互いがお互いを支え、助け合う。辛い事を分け合いながら、二人だけで進んでいく。そんな、関係性。
と、いった感じの彼女と僕の関係は村を出た今でも変わらず続いている。苦楽を乗り越えた仲であり、言ってしまえば…友達、というには近すぎる関係性である事は間違いない。
何より、だ。
(四国に来てから、あの子前以上に距離が近いんだよね)
四国に来てからというものの千景の距離感が前よりも近い。その、物理的にも精神的にも。
この前なんか、鍵を掛けておいたはずなのに朝起きたら布団の中で一緒に寝てたし(皆がいる女子寮とはそこそこ離れた距離にあるのによくやる。てかどうやって開けたのかほんとに気になる)、隙さえあれば皆のいる前でピッタリと引っ付いて離れないし、なんならハグも要求されるという始末。
一番アレなのは、女の子と関わっている時だ。僕が他の子と仲良くしている場面に出くわすと彼女からとんでもない殺気が放たれる。そりゃ、もうすごい殺気が。目も笑ってないからヤバい。
正直挙げたらキリがないほど、そういうエピソードは尽きない。それらの事が、彼女からのチョコを期待してしまう要因の一つであるとも言える。
(まぁ、なんであれ……誰から一番貰いたいって聞かれたら千景なんだけどね)
なんて考え事をしながら歩いていたら、思ったよりも早く学校に着いてしまった。一人で何をして皆を待とうかなと考えつつ、教室に入ると先客がいた。
「おはよ、若葉」
「ん、天草か。おはよう」
凛とした瞳がこちらに向けられる。彼女は乃木若葉、四国に来てから出会った少女だ。僕達、他の勇者をまとめるリーダー格。超がつくほど真面目で真っ直ぐな彼女のあり方は僕も尊敬している。
「いつにも増して早いね。どうかした?」
「あ、あぁ、実は一つやり忘れていた課題があってな。早めに来てやろうかと」
「へー、珍しい。昨日忙しかったとか?」
「まぁ、そうだな。その…少し、準備する事があったからな」
なんだろう。なんか、いつもハキハキとしている若葉にしては歯切れが悪いと言うか…どこか余所余所しい。
「ねぇ、若葉」
「な、なんだ?」
「なんかやけにソワソワしてるけど……なんかあった?」
「いや!別に、そんな事は!」
あからさま過ぎないかな。でも、うん、なんというかこういう若葉は新鮮で面白いかも。
「その反応、なんかありました!って言っちゃってるようなもんだと思うんだけどなぁ」
「ぐっ……いや、なんだ、ほら、今日はバレンタインデーだろう?」
「うん」
「その、バレンタインには……ぎ、義理チョコと呼ばれるものがあると聞いた」
「あー、あるらしいね」
聞いた事はある。好きな人に向けてあげるのが本命チョコ、お世話になった人、友達等にあげるのが義理チョコと言うらしい。友チョコ、なんてのもあると聞くが違いはわからぬ。
「で、それがどうかした?」
「……これを、受け取って欲しい」
そう言って差し出されたのは何やら綺麗に包装された箱だった。とりあえず、それを手に取り、受け取る。
「…えと、これって?」
「お前には世話になっているからな。初めてのことだったが…日頃の礼も込めて、作ってみたんだ。まぁ、ひなたに助けてもらいながらだが……」
頬を掻きながら恥ずかしそうに若葉は言う。え、てことは手作りのチョコをもらえたってこと!?僕が!?
(うわ、なんだろうこれ…すごく嬉しいぞ。初めて貰えたけど、そうか…こんなに嬉しいものなんだ、初めて知ったな)
「あ、ありがとう!嬉しい!」
「そこまで喜んで貰えるとは…」
「そりゃ、喜ぶよ!だって初めてだもん、人からこうやってプレゼントを貰うの!………あ、開けてもいい、かな?」
若葉が小さく頷く。許可を得たので、では開けさせていただく。て、手作り…ほ、本当に手作りだ!わぁ、すごい…美味しそう。
「その、出来れば味に対する意見も貰えると嬉しいのだが」
「つまり…食べていいと?」
「まぁ、そうだな。いちおしっかり確認はしたんだがやはりこういうのは渡された本人からの意見を聞いた方が早いしもし天草が食べたいというのであれば」
「では、頂きまーす!」
なんかすごい早口で喋ってる若葉をよそに、チョコを一つ口にした。
「お、美味しい!」
「…ほ、ほんとか?」
「ほんとほんと!すごいよ、若葉!初めてって言ってたのにこんなに美味しいものを作れるなんて…本当に嬉しいよ、改めてありがとうね!」
「……そうか、良かった。頑張って作った甲斐があったというものだ」
嬉しそうに微笑む若葉。それに釣られて、僕も笑う。あまりに美味しかったのもあって食べる手が止まらなかった。結果、本人の前で全部食べ切ってしまう事態に……ま、若葉も気にするなって言ってくれたから、そこまで気にしなくて良いか。
朝から良い事があって上機嫌に自分の席に戻り、授業の準備やらなんやらを済ませようとバッグを机の上に置く。やがて、ひなた、球子、杏と続々と面子が揃っていく。そろそろ、千景も来る頃だろうか。
そんな風に考えていたら、千景が教室の扉を開けて入ってきた。
「おはよう、千景!」
「……ええ、おはよう」
そう短く返して、千景は隣の席に着いた……あれ、なんだろう。なんか、ちょっと怒ってる?少し違和感を感じて、彼女の顔をじっと見てしまう。
「どうしたの?」
「あ、ごめん。ねぇ、千景…違ったら良いんだけど、なんかあった?」
「いいえ、特にないけど」
今の彼女の表情からは先程のような違和感を感じない。やっぱり気のせい…だったのかな。
「そういう天草くんこそ、何かあった?」
「え…僕?」
「……ええ、だって……やけに楽しそうよ。今日の貴方」
こちらの全てを見透かしているかのように、彼女は笑う。その笑顔を見て、反射的に若葉から貰ったチョコの箱を自身のバッグの奥の方へと押し込んだ。
「そう、かな…いつも通り、だと思うんだけど」
「……ふーん」
もしかして、さっきの現場……見られてた?いや、そんな事はないはずだ。だって、千景は今さっき教室に入ってきた。だから、さっきの若葉とのやり取りは…見られていないはず。別にやましい事をしてた訳じゃないけど、今考えてみたら結構…ヤバいのでは?
なんて一人で焦りまくっていると、いつの間にか千景が僕との距離を詰めてきていた。さっきまでは少し離れた位置で聞こえていた声が、今は耳元で聞こえる。
「嘘吐き」
短く、それだけ、たった一言だけ。彼女は僕の耳元で呟いた。それだけだ、それだけで、僕の思考は真っ白になった。
「……放課後、時間あるわよね。いつも通り、私の部屋に来て……色々とやりたい事が…あるから」
「……わ、分かった。そ、それじゃあ…いつも通りに」
「……ええ、いつも通りに……ふふ、放課後が楽しみ……ね?天草くん」
それだけ言って、千景は僕の方を向いてニコッと小さく笑うと隣の席へと着いて準備を始めた。
(……やったな、これ)
先程、彼女が見せてくれた笑顔を思い返す。僕にしか見せてくれない笑顔……でも、良い笑顔とは裏腹に、彼女の目の奥には一切光が刺していなかったのを、僕はしっかりと見てしまったのだ。
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あぁ、心底自分に嫌気が刺す。縛りすぎるのはよくない、のかもしれないと考え、登校くらいは別々にしようと考えたのが失敗だった。バカな事を考えたものだ、甘い…やっぱりずっっっと、一緒にいるべきだったんだ。
いつもより早く、少しだけ早く、学校に向かった。そうしたら、見てしまった。
乃木さんが、彼に、バレンタインのチョコをあげている所を。
誰か一人くらいは、いや、もしかしたら皆が彼にチョコをあげるかもしれない。その可能性は加味していた。だか、よりに寄ってそれが乃木さんだなんて。
いや、それだけならまだいい。まだ、いいのだ……問題はその後だ、あの二人の雰囲気……なんだ、あれは。
彼の、あの人の、あの表情はなんだ。あれは、私の知らない彼の表情……私、の知らない。
「……どうして、よりに寄って…貴女が、それを奪うの」
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
呼吸が粗くなっていく。自身の内側からドス黒い感情が湧き上がってくるのを感じる。
(私が一番私が一番彼のことを知っていて彼と一番近くにいて彼の事を一番愛しているんだ)
起きてしまった事はしょうがない。そう、しょうがない事だ。大事なのはここからどうするか。
簡単だ、塗り替えれば良い。
乃木さんの味を、私の味で塗り替える。もっと甘く、蕩けるような味で彼を塗りつぶすんだ。
貴方は私のモノだと。私以外に目移りしてはいけないのだと。私だけを、見てくれるように。
あぁ、そうだ…だから、わからせてあげなきゃ。改めて、天草くんに、教えてあげるんだ。
貴方の事を、本当に、心の底から愛しているのが誰なのかを。
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「入って」
「うん…お、お邪魔します」
千景の部屋へと足を踏み入れる。いつもの二人でゲームをやる為に来るわけではなく、今日は…まぁ、もう目的が違う。
重苦しい雰囲気、正直な事を言うと、ここに来るまでも大分辛かった。無言で何か話しかけても、彼女はにっこりと微笑むだけだった。目は全く笑っていないのがまた辛かった。
とりあえず、千景の指示でベッドに腰を掛けた。そして、僕の目の前に千景が立っているという構図。
「……」
「……」
重い、暗い、辛い。三拍子揃ってしまっている現状、何か言葉を発したいのは山々だが…余分な事を言って彼女を刺激してしまうのは尚のこと良くないので
「……乃木さんのチョコ、美味しかった?」
「え」
「乃木さんのチョコよ、美味しかったのかって聞いてるの」
少し圧のある口調で千景が聞いてくる。こういう時は、誤魔化すのはよくないのでしっかり答える。
「うん、すっごく…美味しかった」
「そうでしょうね。だって、食べた後の貴方すごく幸せそうだったもの」
全部見られていたというのか……いつ、と気にするのは今更遅い。こんな状況になっている時点で、そんな事はもう意味がないのだから。
「羨ましいわ……乃木さんが、貴方のあんな幸せそうな表情と声を、二人きりの教室で、聞いていたなんて」
目線はこちらに向けたまま、彼女はそう吐き捨てる。羨ましいと言葉では、言っているが声色からはそんなものは感じられない。まるで、全てに興味がないような…そんな風に聞こえる。
「……私も、貴方のそんな顔や声が聞きたくて…頑張って、チョコを作ったけど…どうやら、要らなかったみたいね…」
「ち、千景の…チョコ?」
僕が言葉を発すると待ってましたと言わんばかりに千景はうすら笑いを浮かべながら、僕に顔を近づける。
「……ええ、そうよ……私が、貴方の、貴方だけの為に…作ったチョコ」
「僕の為に…そっか、作って…くれたんだ…嬉しいな」
「……欲しいの?」
「うん、欲しいよ。勿論…若葉から貰ったチョコも嬉しかったけどさ、誰から一番チョコを貰えたら嬉しいかって聞かれたら、千景から貰えるチョコだって答えるもん」
瞬間、彼女の動きが完全に止まった……と、思ったら、突然…僕に背を向け出した。
「……私が、一番…一番…天草くんにとっての、一番は…私…そう、そうなの……ね。ふふ……ふふふふ」
心の底から、喜ぶような声がする。
「……じゃあ、あげる。私の、バレンタインチョコ」
背を向けた状態のまま、先程までとは打って変わり優しく落ち着いた声色で、彼女は言った。
「ほんとに!?や、やったー!」
「ふふ……でも、少しだけ待っててもらっても良いかしら。少し、準備したい事があるの」
「いいよ、で、どう待ってればいいかな?」
「そうね…じゃあ、私が良いって言うまで目を瞑って待ってて」
言われた通り目を瞑る。ワクワクしながら、彼女が良いと言うまで待つ。
「良いわよ、天草くん」
「待ってた……って、えっ、あ」
指示があったので目を開いた。すると、それとほぼ同時のタイミングで千景の手が頬に触れる。その直後、事件は起きた。
「ん…」
「!?」
何が起きたのかわからず、思考が真っ白になった。唯一分かるのは、口に広がる甘い何かの味……昼間に、自分が口にしていたものと、恐らく一緒の…
やめて、と声を上げる事も引き離そうと抵抗する事すら出来ない。その隙に千景がこちらの体を押し倒し、ベッドへと倒れこむ。
首元に手を回し、完全にこちらの動きを封じ込めている。力では圧倒的にこちらの方が強いはずなのに、抗えない。
彼女の目がじっとこちらを見つめている。その目には、恐らく、僕しか映っていない。僕も同じ、彼女しか映っていない。
「…ぷ、はぁ…」
数分後、舌なめずりをしながら口を離した千景の体が離れる。その時も、彼女は僕だけを見つめていた。
「ハッピーバレンタイン……どう?私のチョコ、美味しかった?」
「…な、なにを」
「バレンタインのチョコよ。折角、食べさせてあげたのに……味、わからなかった?」
「いや、分かった…けど、その」
「あぁ、もう少し味わって食べたいのね。そう言うことなら、最初からそう言いなさいよ」
言い終わるのとほぼ同時に彼女が口の中にハート型のチョコを放り込む。すると、千景はその顔を近づけてくる。
「ちょ、待って!」
「嫌」
「即答!?いや、だって別に口移しじゃなくても…」
「ううん、ダメ。口移しじゃないと意味がない……口移しでないと、乃木さんの味を…塗り替えられない」
抵抗虚しく、また唇と唇が触れ合う。不思議な感覚、まるで彼女と一つになっているかのような、そんな感覚。
「……はぁ……大好き…大好きなの」
離れた唇がまた触れ合う。さっきまでよりも、濃密に……激しく…甘い…甘い、甘くて…おかしくなりそうだ。もう、抵抗する気も湧いてこない。
(いや)
そもそも、最初から抵抗する気など無かったのだ。もしかしたら、こうなる事を望んでいたのかも知れないと、思えてくる。
「…もっと…お願い…私だけを、私だけ」
また、甘い味。止まらない…次がどんどん欲しくなる。ぐちゃぐちゃだ、全てが…彼女の、郡千景の味に塗り潰されていく。
「…ずっと、一緒にいたいの…だから、お願い…私だけの貴方に…なって…」
それは良いかも知れない、と思った。ずっと傍にいると言ったのは僕自身だ。彼女もずっと一緒にいたい、と言うのであれば僕と彼女は同じ想いであるという事だ。何を拒む必要があるのだろうか。いや、ない。
唇と唇が離される。お互い、粗い息を吐き、火照りきった顔のまま…見つめ合う。
「……チョコ…美味しかった…」
「…食べきるの…早いのよ…もう、無くなっちゃったじゃない」
「ありゃ…そりゃ、残念だな…もう少し…君の味…欲しかったんだけどな…」
言い終わるよりも早く、千景が僕の体を先ほどまでよりも強い力で抱きしめてきた。温かい、離したくない…なんて事を考えてしまう。
「…そう言う所、ほんとずるい……」
「えへへ、ごめん…」
「もう……愛してるわ、天草くん……貴方は、どう?」
「僕は……」
「……嫌い?私の事」
「そんな事、ある訳ない」
「愛してる?」
「……うん」
「相思相愛…ってことね。じゃあ、良いわよね。私、我慢してきた…でも、今日全部伝えるって…決めちゃったから…ね?」
そこから先の事は、詳しく覚えていない。
唯一覚えているのは、脳が蕩けそうになるほど、甘い時間を郡千景という少女と一緒に過ごした、という事だけだった。
「……これからも、ずっっっっっっと傍にいて……私の、勇者」
天草洸輔
もしも、の世界でも神様に目をつけられ半分人外化させられてるやべー奴。千景にとっての精神的支柱になり過ぎた結果、ヤッベェーイ!女へと昇華させてしまった大戦犯。タチが悪いのはこいつ実は……というかガッツリ満更でもない。しかもこいつも大概病んでいるというね。いいぞ、もっとやれ。
郡千景
村での辛い出来事、その全てから自分を守ってくれた天草の事を好きになり過ぎた事で、依存&拗らせが悪化しこうなった。ある時期まではツンが強かったが、自分の周りにライバル(他の西暦メンツ)が登場してからはガンガン好意を表に出すようになった。ただ、少しつめが甘……いや、甘くないね、やることやっちゃってたわ。若葉に対してのライバル心が原作以上に度を越している為、中々ヤバい。
高嶋友奈
ぐんちゃんの恋路を応援する最強のサポーター。もしも世界でも千景の心を開いた人物の一人であり、大事な友達。『まだ』天草に好意を持ってないから大丈夫。うん、大丈夫。………大丈夫?
またしても何も知らない若葉さん
またしても何も知らない若葉さん。お世話になったからという理由で、『手作り』の義理チョコをあげたらめちゃくちゃ嫉妬された女。解せぬ。
需要はあるのだろうか、と思いましたが個人的に結構気に入った設定なので好評だったり機会があったりすればまた書いてみようかなと思います。わー、ヤンデレって最高だよねぇ!
本編の書き溜めも良い感じになってきたので頑張ります。そろそろ出したい。