慟哭に吠える魔天狼   作:しじる

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第5幕 ナメクジVS

ナメクジと狼の怪物、両者の睨み合いが始まってから数秒。

まだ互いに動き出すことはなく、お互いの出方を伺っている状態であった。

それは生物的本能がそうさせるのであろう、確実に殺すために、一撃で仕留めるために。

その思いで相手の致命的隙を探る、しかし互いにそれは無い。

その結果この睨み合いからの膠着状態。

焦れて先に仕掛けるのはどちらか。

いや、この問の回答などしれたこと。

獲物を逃がされ、腹の中を掻き乱され、挙句こうして自分に勝とうと思ってる狼。

それに苛立ちを抑えられるほど、ナメクジの知性は高くなかった。

結局睨み合いは10秒程持ったが、ナメクジの方が先に仕掛けた。

身体からあの悍ましい触手を、ウゾウゾと化膿した部位から膿が這い出でるように何本も生み出し、それを狼へと伸ばしていく。

しかし先と違うのは、触手の先端には鋭利なナイフのようなものが着いており、突き刺されようものなら致命傷となるのは明らかであった。

碧色の月光に照らされて触手が怪しく煌めき、月光を反射するほどに美しい触手先端の刃。

それは今、狼を解体するべく、紅の夜空の下踊り舞う。

触手1本1本が、互いを切り合うことなく、しかし不規則に押し寄せ、斬撃と刺突を組み合わせて襲い行く。

ある時はムチのようにヒュルルンヒュルルンと風をきって、またある時は風すらも置いて、シャッと狼の喉元へと走らされる。

だがそれが狼に届くことは無い、不規則に向かってくる触手たちを、狼はまるで宙に落ちる落ち葉のように、触手のあいだをヒラリヒラリと交わしていく。

ある時は触手の側部を蹴り軌道をずらして、またある時は触手同士が接触するように調整して。

舞うように、身体を捻り、飛び跳ね、飛び込んで…

一見回避不可能の触手乱舞を次々と回避して、ナメクジへと近づいていく。

恐らく格闘を仕掛けるのだろう、ナメクジには格闘攻撃をされて対処できるような物は無い。

寄られればナメクジは辛い、それを狼は本能で察知しているのだろう。

どれだけナメクジの触手での猛攻がやってこようが、紙一重で回避して、近づいていく。

ナメクジの方もそうやって近づかれると不味いことは把握している。

触手を展開しながらもジリジリと下がっているが、前を見ながらの後退より前進の方が早いのは、全てのものに言える事実。

狼の方が距離を着実に縮め、そしてついには自らの間合いにナメクジを収めた。

 

「GYAAAAAAA!!」

 

狼の雄叫びが響き、彼女の脚部へと力が集中する。

筋肉が収縮膨張し、アスファルトに決して小さくない罅をいれて足底が食い込む。

身体をさらに前傾姿勢にして、さらに深く飛び込んでいくようにする。

そして、火種が到達したダイナマイトのように、強烈な爆発力が彼女の脚から開放される。

ドンッと鈍い音とともに、アスファルトが瓦礫となって大小問わず宙に舞う。

その瓦礫を置いて、狼はまるで雷光のごとき俊足で、ナメクジに防御に回す触手を用意させる暇も与えずに懐に。

表情は全くわからないが、それでもこの出来事に大きな衝撃を受けているナメクジ。

眼前に現れた狼の行動を咎めることは出来ない。

肉薄してからの狼の一手目、力強く踏み込み、腰を捻り、その腰の捻り似合わせて拳をかち上げるように打ち込む。

腰の捻りを加えられ、拳はただ打つよりも重く、抉り込むようにナメクジの腹部と思われる場所へと炸裂した。

ズンッと体の奥底に響くような音とともにナメクジの巨体が軽く宙に浮く。

 

「■■■■!?」

 

嗚咽にも近いナメクジの悲鳴が響き、ナメクジの触手の動きが止まる。

ピンッと触手は全て強張り、その一撃のダメージを物語る。

触覚の目玉は今にも飛び出しそうになり、口からはブブッと黒い液体…恐らく血を吹き出していた。

その浮いたナメクジへと、狼追撃の二手目。

左脇下へと頭を突っ込むように体を捻り、重心を移動させる。

軸足を左から右へ入れ替え、風を切って入れ替えた左足を突き出す。

所謂後ろ前蹴り、螺旋を描いて打ち込まれる。

しかしこのような巨体を浮かせるような存在の蹴りなど、どれほどの威力等かは想像がつくもので。

浮き、怯んで防御手段も取れないナメクジの顔面と思われる部分へとその蹴りが直撃。

瞬間、凄まじい轟音とともにナメクジの身体が錐揉みをしながら吹っ飛び、数十メートルほど先の路上突き当たりのブロック塀へとぶち当たる。

しかしその巨体がブロック塀に当たることが、ブロック塀を作ったものが想定してるわけなどなく、ブロック塀はあえなく倒壊。

ナメクジはブロック塀を砕き貫通し、さらにその先の白い家へと激突。

やはり家の壁をぶち抜いて、その壁の先の一室でようやく止まる。

しかしナメクジは動かない、今の一撃で軽くグロッキー状態になっているようだ。

あの一撃を受けて頭部が砕け散らないことを褒めるべきか、ここまで巨体を吹き飛ばす狼の脚力を恐るべきか。

頭をクラクラとさせながら、ナメクジが数秒後ようやく動き出す。

フラフラと軟体を器用に触手を使って起き上がり、あたりを見回し始める。

狼を探して、また自身の状態把握のため。

しかしその必要はなかった。

ナメクジの探している狼は、ナメクジの顔下。

アスファルトと注目すれば分かるが、ナメクジを吹き飛ばしてからすぐさま追撃のために走ったのだろう、彼女がそこを通ったことを証明するように、アスファルトは無残にも踏み砕かれ、その下の土が剥き出しになっていた。

そして、まだ走ったことにより生まれたエネルギーを止めてない。

足は次の地面をふむために中に浮き、右腕はナメクジへ追撃するために螺旋を描いている。

その事にナメクジが気づくことは、殴られるまでなかった。

勢いと体重、そして腰の捻りが乗り、さらに重くなった拳が、ナメクジの腹部を捉える。

その一撃、今度は腹部の筋肉を貫き、ナメクジの臓器へと到達する。

ズブリと筋が断絶され、脂肪を切り裂き、人間の知らないナメクジの臓器が殴られ潰れる。

黒い血液が、貫かれた部位から止めどなく溢れ続け、辺りの地面を真っ黒に染めていく。

 

「■■■■■■■■■■■■■!?!!!?」

 

ナメクジの絶叫が、流れる血液のように辺り一帯に響き、しかしナメクジはそこで逃げるように下がらない。

むしろ腕を引き抜こうとする狼へと反撃の一手を繰り出すため、腹部に力を入れて、筋肉に力を入れて収縮させる。

そのためか狼は思ったより拳が深く突き刺さったこともあるのだろう、拳を抜けずに四苦八苦していた。

力任せに引き抜こうとしても抜けず、腰を捻って反動をつけても抜けない。

抜こうと足掻き、防御が疎かになる、その瞬間にナメクジは合わせるように触手を狼を弾き飛ばすように丸く固め、デコピンをするように狼へと触手を大きく薙ぎ払った。

風を切る爆音とともに、触手は狼の顔面へと直撃を食らわせ、脳が揺らされたのか、狼がふらつき膝をつく。

追撃とばかりにナメクジの触手は鋭い爪部分をギラつかせ、狼へとそれを突き立てた、

狼の肩、腰、胸それぞれに触手の鋭爪が突き刺さり、ナメクジと同じく黒い血液が辺りに飛び散る。

小さく狼が呻き、しかし狼は怯むことがない。

突き刺さった拳はまだナメクジの腹から抜けていない、しかし狼ここで思考を反転させた。

それは本能に教えられたことだろうか、引き抜くということを放棄して、逆にさらに突き刺したのだ。

腕がさらにめり込み、肩までぬっぽり突き刺さり、さらにナメクジの臓器を滅茶苦茶に入った腕で引き裂いていく。

ナメクジは当然たまったものではない。

臓器を滅茶苦茶にされ、平然としていられる生命体はおらず、ナメクジも堪えきれず腹部の筋が緩み、ついに狼が抜けるような緩さになる。

それは一瞬のことであったが、狼には十分すぎる時間であった。

滅茶苦茶に引っ掻き回した臓器をいくつもの手で鷲掴み、一気に腕と一緒に、腰を捻り、引き裂くように抉り引き抜いた。

ドバッどころの騒ぎではない、形容できない不快な音とともに腕とナメクジの臓物は引き抜かれ、狼の手に収まらなかった部分はアスファルトに転がり落ちた。

 

「■■■■■■……!?」

 

ナメクジの口部と腹部からはおびただしい血が吹き出し、ついには狼に突き刺していた触手すら引き抜き、自身の腹部に空いた大穴を塞ぐために回す。

それがいけなかった。

 

「Woooooo!!」

 

雄叫びと共に、狼が跳躍する。

臓器をぶちまけ、それで止まることはなく、狼はその隙を消すため跳躍したのだ。

そしてこの跳躍は次の攻撃のための一手。

高く、およそ数十メートルほど飛んだ狼は口を大きく開き、ナメクジへ向かっで落ちていく。

ナメクジはそんな狼よりも自身の致命打に気が向かっていて、それに対処しない。

ナメクジがそれに気づいたのはもう手遅れになってから。

狼の口はナメクジの首と思われる部分へと、落下の勢いを合わせて食らいついていた。

黒い鮮血、食い込むナイフのような牙の数々。

ブシュリと血が止まらず吹き出続ける。

ナメクジの絶叫が街に響く。

食らいついた狼を振り払うように体を震わせる。

しかし先程の致命打は、ナメクジの力を奪い尽くし、その震えはもはやただの身震い程無かった。

それをいいことに狼はやがて自分から体を錐揉み回転させ始める。

何回も何回も回転し、ナメクジの肉がどんどん捻られ細く薄く…

僅かでコンマ数秒で、肉の引き裂かれていく音が響きだし、そしてついにはナメクジの首の筋は狼によって食いちぎられた。

それは腹の致命打を超える致命傷。

声帯ごともぎ取られたのは、悲鳴すら上げずに、ナメクジは大きくのけ反り、喉から血を吹き上げ、ついに倒れた。

ズズーンと身体をアスファルトに伏せ、暫しすればその肉体は淡い青の炎に包まれ、やがてあとかたもなく消えていった。

それを見てナメクジの肉を食って満足な狼は、碧色の月へと勝利の雄叫びをあげるのであった。

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