アイドルマスターの世界で、信仰対象としてアイドルを   作:だんご

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別に布教したくなくても、周りが「これ美味しいから食べてみろ」みたいなノリで布教する件

 命尽きた後、魂は漂白される。

 

 記憶を失い、自我を失い、個を失って生命の輪換に戻る。そしてある時をさかいとして、新たな生命として無垢なる個の存在が誕生するのだ。

 

 しかし己を失うことに、古より多くの人間は恐怖を覚えていた。

 それは聡明な王も、真理を探求した哲学者も、神を信じ敬う者も、苦を厭う出家者も、理を知る賢人も変わらない。ありとあらゆる無数の人々は、己を失うことに恐怖を覚えたのである。

 

 【『私』という存在が「私」に変わるのであれば救いである。】

 

 【何故ならば、それは変化であり、進化であり、退化であるからだ】

 

 【つまり今の「私」は、過去の『私』がいるからこそ存在できる。それは自身の存在の証明である。人は歴史を無くして個を保てない。人は継続的存在でなければ個を保てない】

 

 【個体的実体的な我(アートマン)を持ち、生存欲(カーマ)に知を振り向ける人は生命の存続を望む。己という、我という生命の存続を望む】

 

 【仮に死を切望したとしても、それは己という存在の死に他ならない。つまりここで望まれるものですら、我への欲望と業なのだ】

 

 【ああ、私は───我の存続と業の存続を望む】

 

 しかしそれは叶わない。それは世界の摂理に反している。

 

 そもそも人という存在の器は、己の業と生命を超えた時間を生きることに耐えられない。

 魂の漂白はある一面から見れば無慈悲な摂理である。しかし、ある一面から見ればそれは紛れもない人の為の救いであったのだ。

 

 さて、ある命の話をしよう。

 

 それは終わりを迎えていた。どんな終わりだったかはどうでもいいはなしだ。それこそ寿命で死のうが、トラックとの衝突で死のうが、チーズが頭にぶつかって死のうが構わない。

 

 問題はそれがあるべき生命の総体、輪廻の輪に帰れなかったことである。

 

 神を信じるものであれば、神の手違いと言うかもしれない。神の気まぐれ、遊びと言うかもしれない。

 神の存在を否定するものからすれば、それは世界の稀有なエラーであるというかもしれない。

 

 そしてそれは異なる次元へと飛び、異なる世界の輪に飲み込まれ、そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『おいおい、面白そうなことになってるじゃないか』

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■?■■■■■■■、■■■■■■■■■■■……。』

 

 『b;f興味深e。少df@td、覗tpwmo49』

 

 『─────!────♪』

 

 

 

 

 ───外なる神々に見つかってしまった。

 

 神に見初められることは不幸か幸福か。それは経験がない私達にはわからない。わかるはずがない。 

 

 しかし、ああ、この生命は間違いなく不幸である。他ならぬ、神に愛されてしまった彼女自身がそう思っているのだから。

 

 「あら、武内くんじゃないの。久しぶりね。調子は如何?」

 

 そして彼女の周りにいる者達もまた、彼女からすれば不幸である。いや、彼女は自分以上に彼らのことを不幸だと思っている。

 

 「ふふふ、そう。良かったわ。そういえば、新しいアイドルプロジェクトに関わっているんですって?確か……シンデレラガールズだったかしら」

 

 外なる神々は、人が救いを求めるような神々ではない。

 

 「へぇ……。あ、ごめんなさい。貴方の目が、また以前のようにまっすぐ前を見ている。きっと素質ある、それでいて良い子たちなのね。アイドルと共にプロデューサーも成長していくものよ。私はそんな武内くんの姿を見れて嬉しいわ」

 

 人々が救いを求める神は「サルベーション」の存在だ。

 苦しみの海を彷徨う一匹の魚を、その両手ですくい取ってくれる大きな存在なのだ。

 

 「アイドルの取材……。ええ、今は有名ではないかもしれないけれど、きっと貴方のアイドルのところにはこれから沢山の記者が来るでしょうね。放ってなんておけなくなるはずよ。貴方がそこまで言うアイドル達ですもの。これは新しい時代がまた来るのかもしれないわね」

 

 呼び名は神であろうが、仏であろうがなんでもいいのだ。それが先祖でも良い、玉ねぎだって構わない。私を救ってくれるもの。共にあるもの。導くもの。

 言葉を超えた意思の交わりの中で出会う大きな存在、それが救いを求める「サルベーション」の存在なのだ。

 

 

 「……へ?え、あ、私?私が、貴方のアイドルたちを取材するの……?えーと、うーん、あ、そうか。そうよね、私はアイドルの取材もしてて、それで武内くんとも知り合ったんだっけ。ああ、それでかぁ」

 

 

 では、外なる神々はどうなんだろう。救いを与える神々ではないというのだろうか。

 

 

 

 「嘘、真っ先に私の取材を受けてくれるの?……信用できる方だからって、もう、相変わらずポエマーね、武内くん。女泣かせかしら。いや、ごめんごめん、本気にしないでって」

 

 

 

 否、救いを与えてくる。彼らは神々であり、人を超えた存在である。人々の願いなど小さなもの、人々の救いなど容易いもの。彼らは確かに救いを与えてくれる。

 

 

 

 

 「でも、ごめんなさいね。以前は確かにアイドルの取材や記事を書いていたけれど、最近はもう止めたのよ。いや、本当にごめんなさい。せっかく素晴らしいご紹介を頂いたのに……」

 

 

 

 

 私の言っていることがおかしい、と。救いを与えてくれるのであれば、外なる神々も「サルベーション」の存在と同じではないだろうか。なるほど、それは確かに一理ある。

 

 

 

 

 

 「ど、どうしたのかしら。そんなに驚く必要はないんじゃない?」

 

 

 

 

 

 しかし、私が言ったことをもう一度思い出してもらいたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 「…………ぷ、あははははは。うん、そうよね。確かに昔の私はそうだったわ。日高舞に魅せられ、765プロに魅せられ、私はアイドルが大好きだった。輝いている子も、才能がある子も、未熟な子も、沈んでしまった子も、みんな私は大好きだった。ああ、そうか。確かにそうだった。私はアイドルを愛していたものね。君と居酒屋で延々と終電までアイドルについて語り合った事を思い出した。懐かしいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 私は外なる神々が、『救いを与えてくれない存在』だとは決して言っていない。ああ、もっと私は率直に言うべきであった。回りくどい言い方をするべきではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「でもね、武内くん───」

 

 

 

 

 

 

 

 『救いを求めてはいけない存在』と私は言いたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 アイドルが好きな人。そしてアイドルを目指して頑張る人が大好きな人。

 相浦さんという女性記者を説明するには、これ以上の言葉はいらないのかもしれない。

 

 知り合ったのはひょんな出会いでした。右も左もわからない新米プロデューサーの私と、業界でようやくやりたいことができるようになってきた女性記者。

 

 自販機の前で出会い、挨拶代わりの自己紹介を済ませた後、お互いがアイドルに関わっていると分かって話し込んでしまいました。先輩に怒られるまで、あの時は語り合ってしまった。それほどまでに相浦さんもアイドルが好きであり、輝きに魅せられた人だったのです。

 

 立場は違ってもアイドルに関わり、その姿を応援する者同士。支えていきたいと願う者同士。

 相浦さんは朗らかな笑みで笑いながら「お互いに頑張っていこう」と手を差し出し、私もその手をとって堅く握りしめた。

 

 順調ではなかった。誤ってしまった事もお互いに数え切れないほどにあった。後悔で目の前が真っ暗になってしまった事もあった。

 しかし、相浦さんも私もアイドルが好きであることに変わりはない。

 昔ほど時間が取れなくなった今では、遅くまで語り合うことはできなくなってしまった。それでも時たまあった際には相浦さんと近況を話し合うことはできた。

 その中で私は感じていた。私と同じように、相浦さんもまたこの胸に秘めた想いは年月を重ねるほどに堅く、大きくなっていっているんだと。

 

 確かに、互いに、深めあい、認めあっていた。はずであったのだ。

 

 「もう有象無象のアイドルは、ぶっちゃけどうでもいいの」

 

 何を言っているかわからなかった。

 

 言葉の意味自体はわかる。耳に聞こえた通りに受け止めればいい。別に英語やドイツ語で言っているわけではない。日本語で言っているのだから意味はわかる。

 

 そう、言葉通りに、耳で聞いた通りに受け止めればいい。────それがどうしても、私にはできなかった。

 

 「相浦……さん?」

 

 「ん、どうしたの?」

 

 「有象無象とは、どのような意味なのでしょうか。いえ、そもそも……。今、貴方は……なんと言ったのですか?」

 

 何かの間違いであって欲しい。私の聞き間違いであったはずだ。

 現実を受け止めきれない私の頭の中は、そのような思いがただひたすらにぐるぐると回り続けていた。

 

 相浦さんがアイドルを例えて「有象無象」などと言うはずがない。輝きを、可能性を、その溢れんばかりの頑張りを愛していた彼女の口から、そのような言葉が生まれるはずがない。

 

 そう、私は思っていた。いや、信じたかったのでしょう。

 

 相浦さんは狼狽える私を見て首を傾げると、心配そうに「大丈夫?」と此方の身を案じてきた。

 その姿は以前の相浦さんと変わりはないものであった。優しく、暖かく、元気で、そんな姿のままで彼女は───。

 

 「有象無象っていうのは、別に変な意味じゃないの。一番素晴らしいアイドルを見つけた、だから他のアイドルはもう目に入らなくなったってことなのよ。私は幸せものなの。本当に、素晴らしい、あの方に出会えたんだから」

 

 私の希望を殴り、砕いたのである。

 

 何故、どうして。戸惑いが胸の中をぐるぐると渦巻く。

 

 今目の前にいる彼女は、私が知っている相浦さんに間違いない。それはわかる。しかし、何故だろう。相浦さんの内側が、まるで別のなにかに変わってしまったかのように思えてならなかった。外側だけはそのままに、別人になってしまったように見える。

 

 どうしても、過去に「アイドルが大好きだ」と笑っていた相浦さんの姿を、今の相浦さんに重ねることができなかったのだ。いったい、この僅かな間でどうしてここまで変わってしまったのだ。

 

 唖然とする私を置き去りに、彼女は嬉しそうに言葉を紡いでいく。紡がれる言葉が私の耳に暴力的なまでに飛び込んでくる。

 

 「だからもう、他のアイドルはどうでもいいのよ。興味がどうしても持てないっていうか、編集長にも引き止められたんだけど……結局は担当を外してもらったわ。むしろ、彼女を知ってしまったらその小ささになんていうのかな、哀れさっていうのか、その程度で頑張ろうとする健気さっていうのか……。うーん、うまく言葉にできない。ごめんね。ただもうあの頃と同じように記事は書けないのよ」

 

 私は人は変わるものだと思う。それは人である限り避けられないものだと思う。

 考え方も、生き方も、生き続ける限り人は変わり続けることができる。

 

 それがこの人の選んだ道であれば、私は仕方がないのだと思いたい。別の道に進み、もうすれ違うこともないのだと知っていても、その道を進む相浦さんを邪魔したいとは思えない。むしろ、応援して見送ってあげなければならないとさえ思う。

 

 しかし、それでも私は一縷の望みにかけたいと思った。

 

 何故なのかはわからない。しかしこのまま彼女を進ませてしまったら、何か彼女が取り返しがつかない結末を迎えてしまうのではないかと考えてしまった。

 

 不思議だった。そんなことを考えたのは生まれて初めてかもしれない。ただ、どうしようもなく嫌な予感を感じてならなかったのだ。

 

 「相浦さん。アイドルの頂について二人で話した時がありましたね」

 

 何かを伝え無くてはならない。そう思った時、自然と口から飛び出してきたのは懐かしい昔の記憶。

 

 二人で語り合い、言葉が尽きなかったあの夜の話だった。

 

 「その時、私達の答えは同じでした。最高のアイドルが生まれたとしても、それはそのアイドルが可能性を切り開き、花開いた姿なのだと。一人一人がその可能性をもっており、一人が一人が全く違う魅力ある素晴らしいアイドルになれる。だから日高舞さんが誕生しても、人々はアイドルに見切りをつけることはなかった。また生まれる新たな可能性が、新たな光があるのだと信じていたからだと私は思うのです。貴方も同じだったはずです、相浦さん」

 

 相浦さんの顔が驚きに染まる。目を見開き、口をぽかんと開けて此方を見ている。

 

 「相浦さん、貴方が出会ったその人は確かに最高のアイドルなのかもしれない。そして私達が出会ったアイドルは最高のアイドルにはなれていないのかもしれない。しかし、皆が等しくその最高のアイドルになれる可能性と、素晴らしい光を私達は見続けてきたはずです。そんな有象無象という言葉で、悲しいまとめ方をしてはいけないはずです」

 

 届いて欲しい、その一心で私は言葉を絞り出した。

 

 「だから────」

 

 「日高舞、日高舞?あーそうか、なるほどなぁ」

 

 突如、感じた違和感に声が喉に詰まった。詰まってしまった。

 

 「私はね、武内くん。私達の中でどうしようもないすれ違いが起きていると思っていたの。決して埋まらない溝のようなものよ。それがなんだろうとずっと考えていたのだけれど……」

 

 鳥肌がたった。

 言葉にならない悍ましさ、理由がつかない本能的な恐怖心が心の底から沸き起こってくる。

 そして、その原因が目の前の相浦さんにあるのだと解った時。

 

 彼女は……。

 

 空虚な瞳で……。

 

 冷めた瞳で……。

 

 理性をどこかに失ったように興奮し、嗤っていた。とても楽しそうに。嬉しそうに。

 

 「君の中の最高のアイドルも、その程度で収まっているんだね」

 

 一歩、相浦さんが足を踏み出した。私は本能的に、一歩、足を下げる。

 

 「可哀想だ、可哀想だよ武内くん!?」

 

 ばっと突き出された相浦さんの両手は、私の肩の掴み取った。私の方が体格も大きく、彼女は力で劣るはずなのに、凄まじい力をもって彼女の顔の前に身体が引き寄せられた。

 

 ほんの少し前にでれば、キスをしてしまうほどに近い距離。目と目が見つめ合い、彼女の喜色に濡れた顔を直視してしまう。

 胸が飛び跳ねた。呼吸が、うまくできない。ロマンス的なものではない。彼女の異常な姿に、これまで見たことのない人の見せる表情に、私はきっと怯えきっていたのだろう。

 

 「それは悲劇だ、あの人を、あの方を知らないばかりにまだそんなところに立ってしまっている」

 

 これは、なんだ。

 何も考えることができない。気が押されて思考することが叶わないのだ。ただただ、唖然となり、圧倒される。

 

 「日高舞程度ならそう思ってしまっても仕方がないんだよ武内くん!?可能性?他のアイドルの見せる輝き、魅力?至高のアイドルの前ではそんなものどうでも良くなってしまうんだ、そうだ、君は見てはいないのだ、だから知らないのだ!あの人の、あの方の、神の奇跡をぉ!!!」

 

 その時、私は初めて知った。『狂気』だ。これは『狂気』なのだ。

 

 これまで幾度となくその言葉は耳にしてきた。小説、ドラマ、歌など、いろいろなところからそれを知ることはできた。しかし、実際に直面するとそれらの場面で使われる『狂気』は、あまりに弱いものであったと知った。

 

「武内くん────人と神を比べてはいけないよ?」

 

 どこまでも深い瞳。まるで宇宙のように、どこまでも広がり続ける世界を幻視する。

 そしていつのまにやら、彼女の言葉に聞き入ってしまう自分がいた。心が引きずられ、持っていかれそうになる。自分がわからなくなる。自分の意思が消えてしまう。

 

 「武内くん、さぁ、良かったら一緒に行こう。私が『みせて』あげるから」

 

 ────呑まれる

 

 そんな言葉が一瞬頭を過ぎり、すぐに消えた。

 相浦さんはニッコリと微笑むと、私の手を取り、優しく握る。

 

 その時であった。

 

 「あれ、プロデューサーさん?」

 

 世界に色が戻った。

 

 無意識にかけられた言葉の先を見ると、此方を見て嬉しそうに微笑み、駆け寄ってくる島村さんの姿があった。

 そこで私は気がつく。今、私は何をしようとしていた。どうしようとしていた……ッ!?

 

 握られた手に気づき、言葉にならない恐怖を感じてそれを振り払った。

 相浦さんは驚いたように一歩、二歩と後ずさる。私もなんとか気を振り絞り、凍りついた身体を動かして後ろへと下がった。

 

 彼女の私を呼ぶ声によって、私はなんとか正気を取り戻すことができたらしい。しかし、島村さんが今ここに現れなければ、私はどうなっていたのだ。

 

 「相浦さん……何を……」

 

 例えるような言葉が見つからない。まるで一人孤独に樹海を彷徨うような緊張感、そして未知への恐れを私は相浦さんに感じている。

 

 思わず顔が強ばんでしまった。睨むような形になってしまったが、相浦さんはそんな私を見てため息を吐き出した。

 それが相浦さんが私に何かをしようとし、失敗したように見えたのは私の思い込みが激しいからだろうか。警戒心を緩めない私を見て苦笑しながら、相浦さんは島村さんの方へ視線を移し────。

 

 「……佐藤様

 

 呆然と、愕然としながら立ち竦んだ。

 

 相浦さんが発した言葉は、とても小さな声だったので何を言ったのか私は聞き取れなかった。しかし彼女は何かを確認し、驚き固まっているように見える。

 突然の変わりように、恐怖よりも困惑の思いが勝ってきた。島村さんの存在が彼女に何か大きな衝撃を与えたのだろうか。

 

 「プロデューサーさんですね!こんなところに会えるなんて奇遇です!……あ、ごめんなさい。お話中でしたか?」

 

 島村さんが私の目の前に来てからも、相浦さんの視線は動かない。ある一方にしっかりと固定されており、瞬き一つもせず彼女は見続けている。

 

 心配そうに此方の様子をうかがう島村さんの姿に、気持ちをなんとか落ち着けていく事ができた。相浦さんが関心を私から失い、異常なまでに張り詰めていた空気が元に戻っていくように感じたからだ。

 

 「……島村さん、ありがとうございます」

 

 「え、あ、はい!どういたしまして!」

 

 「此方の方は、私と親しくしているマスメディアの方なのですが……」

 

 注意をやや払いながら相浦さんを見るも、彼女は完全に此方から興味が離れている。自分の言葉が耳に入っていない様子が見て取れ、今も何かをじっと驚いた顔のままに見つめていたのだ。

 

 島村さんもその様子には不思議に思ったらしい。戸惑いながらも挨拶を相浦さんにしているが、彼女は島村さんに少しも意識を向けていない。

 

 いったい、なににそこまで心を奪われているのか。

 警戒を解かないまま、おろおろとしている島村さんへ口を開く。

 

 「……島村さんは、ここでいったい何を?」

 

 「実は、友達とお買い物に来てて……ほら、あの子です!七枝ちゃん!」

 

 島村さんは楽しそうに名前を呼びながら、その人物の方へ向き直る。ぶんぶんと手を振り、此方へ来るように声を高くして名前を呼んでいるようだ。

 私はここで相浦さんが見ている方向と、島村さんが見ている方向が全く同じであることに気がつく。ふっと顔を動かし、二人と同じ方向を見つめた。

 

 「急に走り出して、どうしたんですか卯月ちゃん……。え、あ、この前のマスコミ」

 

 目を疑った。

 

 そこにいたのは、端正厳飾の美しい少女であった。

 

 島村さんと同じぐらいの年齢。真っ白で陶磁器のように細く、すらっと長い手足。濡烏色の黒髪は艶があり、太陽の光を反射して光り輝いている。ツンとした鼻は高く、ぷっくらとした唇。パッチリとして美しい黒真珠のような瞳は、驚いたように此方を見つめていた。その美しい姿に、思わず目を奪われ立ちすくむ。

 

 そしてなにより、目の前の少女は人を引きつける大きな力を持っているように思えた。

 見ただけで精神が落ち着き、何故か安心できる。そしてギュッと意識を惹きつけて離さない。これまで見たことのないような存在感。ひと目見ただけで感じるその素質に、私の顔は釘付けになった。

 

 この時、私が違和感を感じられたのは、ひとえに相浦さんのおかげであったのかもしれない。

 彼女があそこで私の注意と警戒、心を研ぎ澄ましてくれたからこそ、私はその違和感を強く感じたのだろう。

 

 彼女は綺麗すぎた。美しすぎた。そしてその人を惹きつける力はあまりにも大きく、どうしてか人間から離れすぎているように感じたのだ。

 まるでおとぎ話から抜け出してきたような人物を、無理やりに現実に当てはめたようにさえ感じてならない。

 

 そして驚く。これほどの人物にどうして自分が、ここまで近づくまで気がつかなかったのだろう。

 素晴らしいアイドルは、そこにいるだけで空間を装飾していく。その空間にいれば、人は誰でもその存在の中心に自然と気が惹きつけられるものだ。

 演説をする英雄に心を奪われるように、彼らは人が心を奪われてしまうような、人間の本能的に抗いがたい魅力を持っているのである。

 

 彼女ほどの人間であれば、自分が間違いなくその存在に気がつかされていたはずだ。それ以前に、周囲の人々はどうしてここまで無関心でいられるのだろう。

 これほど美しく、その気配をむき出しのままにしている少女に、我々以外の街中の人々はまるで興味を覚えていない。一瞥もしないまま、すぐ彼女の横を通り過ぎていくのだ。

 先程の私のように、彼女の存在に気がついてすらいないのではないだろうか。だとすればこれはいったい……。

 

 「……ん?もしや貴方は、卯月ちゃんのプロデューサー?え、本当ですか。嬉しい、まさかあの人に会えるなんて。いつかは会えると思っていたのですが……嬉しい」

 

 何故か彼女は嬉しそうに、楽しそうに微笑む。

 そして鈴が転がるようなはずんだ、空間に透き通った声で私に話しかけてきた。

 

 「私は佐藤七枝。卯月ちゃんの友人です。よろしくおねがいしますね」

 




 主人公「アニメPやんけ!やばい!テンション上がる!」

 以下、適当話。
 FGOが嫌いな人は、どうか少しの間だけ許して欲しい。

私は激怒した。

 ヴラドに捧げるはずであった塵をなんとなく刑部姫に捧げ、オールスキルマにした矢先にスカディとかいうぶっ壊れが来やがったからである。でも刑部姫は私的にはカワイイから問題はない。刑部ちゃんかわいいやったー

 そしてWIKIの刑部姫のコメント欄は阿鼻叫喚と化した。友人の刑部姫ラブもこれには激怒するかと思ったが、やつは「これで真の刑部姫が好きが残る」とニッコリしていた。そんな友人を思い浮かべながら相浦さんを書きました。
 モバマスやデレマスは普通に楽しんでます。

 CoCっぽく、クトゥルフらしい感じを表現できたかわからないけど頑張りました(おい

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