NSCI600   作:草浪

1 / 4
人物紹介

叢雲(ムラクモ600)
艦娘時代は秘書艦を務める。
退役後は鈴谷の秘書として日々走り回っている。
愛車はアバルト595

鈴谷(ムラクモ600)
艦娘時代は叢雲の後輩。
退役後、自分のアパレルブランド「Chee’s」を立ち上げ強引に叢雲を秘書にした。

グラーフ(ムラクモ600)
艦娘時代、ドイツから派遣で来てそのまま居着いた。
叢雲に海外進出のために強引に引き込まれ働いている。
愛車はBMW M2

摩耶(ムラクモ600→NSCI)
不良娘。鈴谷とは一個違い。
退役後は足柄の無茶振りで白バイ隊員になる。
愛車はスズキ GSX−R1000

那珂(ムラクモ600→NSCI)
鬼の四水戦旗艦
そして艦隊のアイドル

野分(NSCI)
艦娘時代は四水戦所属。
退役後も那珂のおっかけをやっている。
日向の設立した海軍特別犯罪捜査局捜査一課七係に引き抜かれ真面目に働いている。
愛車はトヨタ アクア

足柄(NSCI)
飢えた狼
日向に引き抜かれて七係に所属する。
度々問題を起こして日向に謝らせている。
愛車はトヨタ ヴォクシー

日向(NSCI)
七係のボス。
少ない説明で部下を振り回す。
振り回した部下の不祥事でよく謝る。
愛車は日産 チェリー

陸奥
警察官。
それなりの権力がある。
そのせいで日向にいいように使われることがよくある。
愛車は秘密


NSCI600 #01

退役後、私は鈴谷が立ち上げたアパレルブランドで鈴谷の雑用として働いていた。

雑用という言い方は良く無いわね。秘書として。艦娘からただの娘になったのと同じように、私は秘書艦から秘書になったのだ。

 

「しっかし暑いわね……」

 

今年の夏は暑い。ただ立っているだけで汗が出る。

 

「更年期障害ってやつ?」

 

私の対面に座る鈴谷がボソッと何か言った。

あなた、聞こえないように言ったつもりかしら?

 

「そう。あなたはそんなにここの支払いをしたいらしいわね。いいわ。奢られてあげる」

 

「……払えるなら払うよ。鈴谷、今お財布の中に二百円しかないけど」

 

私は思わず頭を抑えた。

確かに、私が暑いから涼みに行きましょうと鈴谷を誘って間宮さんのところまできた。

けど、座って早々、鈴谷は間宮さんに水を頼むとメニューを一切見ようとしない。私がどうしたのと聞けば、お金がないと帰ってきた。

奢ってあげるとは言ったけど、まさか二百円しかないとは……

貰った金を何に使っているのだろうか。

 

「余計に頭がクラクラしてきたわ……」

 

「そんなこと言ったてしょうがないじゃん! 無い物は無いんだから!」

 

「あなた、そんなに何に使うのよ……」

 

「秘密」

 

「どうせ無駄遣いでしょ? 携帯見てて、いいかもと思った服は買っちゃう的な」

 

「……秘密」

 

図星ね。私は知っているわ。

あなたが携帯を見ながらなんとも言えない悔しそうな表情で画面を見ているのを。

 

「お待たせしました。かき氷のブルーハワイとレモンです」

 

間宮さんがお盆に乗ったかき氷を私たちの前に配膳していく。

鈴谷はブルーハワイ、私はレモンだ。

 

「ごゆっくり〜」

 

間宮さんが去っていくと鈴谷は珍しそうに私のレモンのかき氷を見た。

 

「珍しいね。てっきり抹茶とか頼むと思ってた」

 

「そこまで落ち着いてはいないわ。私が普段頼むのは苺よ。抹茶は那珂さんね」

 

「そうなの? んで、なんでレモン?」

 

「日に焼けたからビタミンCをとろうと思ってね」

 

「シロップじゃん」

 

気持ちよ、気持ち。

シロップがかかった上の部分を口に入れる。酸っぱくて甘い。

甘ったるいのが食べられなくなってきている今の私にはこっちの方がいいのかもしれない。

 

「見て見て!」

 

鈴谷がベーっと青くなった舌を出す。

 

「やめなさい。はしたないわよ」

 

「叢雲だってやるでしょ?」

 

「やらないわよ!」

 

かき氷を食べるだけでもこのはしゃぎよう。

最近これが当たり前になりつつある。というのも、鈴谷のテンションが高いからだ。

というのも、鈴谷のデザインは若者女子に人気がある。ただ、鈴谷が目標としていたのはそこではない。もう少し上の年齢層がいつまでも自分らしくというコンセプトでデザインをしている。やっとその層から支持を得られ始めたからだ。

私や那珂さんを見てきたからそうなったんじゃないか。

以前、お店に奥さんと来られた指令はそう言っていた。

 

「それで、叢雲くん。この後の予定は何かね?」

 

こいつ……人のお金で食べておきながらなんて偉そうな……

 

「あなたは何もなし。私は今日もグラーフと一緒にドイツに持っていく商材選びね」

 

「じゃあ鈴谷も手伝うよ」

 

「じゃあ選んだ商材の梱包をお願いするわ」

 

「……鈴谷、デザイナー兼オーナーなんだけど」

 

「じゃあ選ばせてあげるわ。倉庫から商材を会議室まで運ぶか、梱包が終わったダンボール箱を車に詰めるか、今のか。どれがいいかしら?」

 

「頑張って梱包する!」

 

「よろしい」

 

もともと手伝わせるつもりでいたのは言うまでもない。

 

 

ーーーー

 

「何だってこんな時間にこんなところで張り込みなんか……」

 

運転席に座る足柄さんが眠たそうにボヤきます。

助手席に座っている野分も正直眠いです。何回も足柄さんに揺すられて起きました。

 

「摩耶さんが陸奥さんに応援を頼んで、摩耶さんが日向さんに応援を頼んで、日向さんが野分たちに押し付けたからです」

 

「そうよね。全部日向が悪いわ」

 

このやり取りも何度目かわかりません。

正しく言えば、まず摩耶さんが銃刀法違反で捕まえた容疑者が自白し、それを陸奥さんに報告しました。白バイ隊員だけでは対処しきれないからです。

陸奥さんがそのことを調べていると、今度は艦娘が絡んでいることがわかりました。そこで次は日向さんに報告、応援を要請しました。

しかし、運が悪いことに、日向さんは足柄さんが容疑者に誤って怪我をさせたしまった為、その報告と事後処理で多忙を極めていました。鳴り止まない内線電話、関係各所へ提出する書類、上からの叱責。

つまり、日向さんは悪くありません。では何故、足柄さんは日向さんが悪いと言うのか。

 

「「眠い」」

 

眠いからです。他の理由なんてありません。

 

「陸奥からの報告書にはなんて書いてあったの?」

 

「それが……字が細くて読めないんです。あと魔法がかかっていて、読もうと思うとドンドン眠たくなるんですよ」

 

「あら……のわっちにしては珍しいわね……いいわ。私が読んであげるわ」

 

野分は鞄から今さっき受け取った書類の入ったクリアファイルを足柄さんに渡しました。

足柄さんは書類を取り出し、しばらく眺めるとすぐにクリアファイルに書類をもどしました。

 

「だいたいわかったわ」

 

「そうですか。それで、なんて書いてありましたか?」

 

「現役の艦娘を見たら捕まえる」

 

「それは野分も知っています。さっき日向さんに言われましから」

 

「じゃあのわっちが知らなそうなことを教えてあげるわ……私達は万が一寝てしまってもいいってことみたい」

 

「何を言っているんですか……?」

 

「あれを見て」

 

足柄さんはそう言うと、建物の陰に隠れている車を指差しました。その車には見覚えがあります。青葉さんのインプレッサですから。

 

「……じゃあ野分は先に寝ます。責任は後に寝た足柄さんってことで」

 

「共犯よ。おやすみ」

 

野分はすぐに眠りに落ちました。

前日、というより今日の朝まで足柄さんの溜め込んだ書類に追われていた野分にはこの硬いシートでも十分です。

 

ーーーー

 

「これで最後か……」

 

グラーフが最後のダンボールに封をした。私はそのダンボール箱に送り状を貼り付ける。

鈴谷は早々に戦線を離れ、夢の中へと離脱した。

 

「入れ忘れは……ないわね」

 

大きく伸びをする。あとは残りを車に積むだけ。

時刻は午前2時。よくこんな時間まで働いていると思う。普通に考えたらブラック企業よ。ここ。

 

「さて……これで間に合うな」

 

「間に合うも何も……納期はだいぶ先よ?」

 

「ムラクモ達が出掛けている間にビスマルクから連絡があってな。なんでも洋上パーティをするから一着回して欲しいと。サイズは知っているから適当に見繕っんだ。マズかったか?」

 

「はやく言いなさいよ……うちとしてはビスマルクが向こうで着てくれるのならいい宣伝になるわ」

 

「そんなケチなお嬢様じゃないさ。ちゃんとお代を頂いているし、こっちの荷物も一緒に運んでくれるそうだ」

 

「そうなの? それじゃあお言葉に甘えようかしらね」

 

運が良かった。

これだけの荷物を送るとなると輸送費もバカにならない。

艦娘の時のツテを使っていくらか割り引いてはもらっているけど、それでも結構な額になる。

台車に荷物を乗せようとした時、私の携帯が着信を告げた。画面には那珂ちゃんの番号が表示されている。

 

「もしもし、叢雲です」

 

『あっ! 那珂ちゃんだよ! こんな時間にゴメンね!』

 

「大丈夫よ。どうしたの?」

 

グラーフが私のかわりに台車に荷物を乗せている。私は片手をあげてお礼をした。

 

『明日、ビスマルクちゃんの洋上パーティにお呼ばれされてライブやることになったんだけど、何か宣伝する衣装があればと思ってね!』

 

那珂ちゃんはうちの広告塔でもある。

ライブやイベントの度にうちの商品を着てくれている。お金はいらないと言っているのに、いつも代金を支払ってくれている。ただ那珂ちゃんのイメージが若いから受けるのは若い子ばかりだけど。私も那珂ちゃんもいい歳だというのに。

『叢雲ちゃん。何か失礼なこと考えてない?』

 

「滅相もないわ……って明日!?」

 

『あっ、ごめん。もう今日だったね』

 

「どっちでもいいわよ! いや、よくないわよ!」

 

私はグラーフを見た。グラーフは急に私に見られたことを不思議そうに見ていた。

 

「グラーフ! その洋上パーティはいつなの?」

 

「いつって明日だが……あぁ、もう日付が変わっているから今日だな」

 

「どっちでもいいわよ! 洋上ってことは出航するということでしょ? それはいつなの?」

 

「あと四時間後だな」

 

この外人。何を呑気にしているのだろうか。

 

『急すぎた? 駄目そうならあるもの着ていくけど……』

 

「いえ……間に合わせてみせるわ」

 

『ごめんね? 場所は……』

 

「大丈夫よ。うちの外人さんが知っているはずだから。時間がないから切るわね」

 

私は電話を切ると、ガムテープを腕輪にし、まだ組み立てていないダンボール箱と梱包用のビニールを持って部屋を飛び出た。

 

「どうしたんだ!?」

 

グラーフが慌てた様子で私の後を追いかけてくる。

 

「あなたは荷物を車に積みなさい! 私は追加の荷物を作ったらそのまま駐車場に向かうわ!」

 

「りょ、了解した!」

 

ーーーーー

 

窓をコンコンと叩く音で野分は目を覚ましました。

野分は寝ぼけていたのでしょう。無警戒にドアを開け、外に出ました。

 

「動くな」

 

背後から低音の声をかけられ、寝ぼけていた頭も一気に覚醒しました。

 

「そんな呑気に身構えてるとぶっ殺されるぞ〜」

 

この口の悪い感じ。摩耶さんですか。

 

「おはようございます」

 

緊張の糸が解けた野分は大きく伸びをしました。水平線に太陽が顔を見せ始めています。

そういえば、野分は日向さんに言われて足柄さんと波止場まで来ていたのでした。

 

「なんですか。あの大きな船は」

 

暗い時は大きな船が止まっている程度にしか思いませんでしたが、明るくなってから見てみると、装飾された客船、豪華客船と呼べるような大きな船が停まっていました。

 

「ビスマルクの私物らしいな。さっき陸奥から連絡があって、この波止場に入出港する船を調べていたらこの船の名前があったらしい」

 

「と、いうことはビスマルクさんを捕まえればいいということですか?」

 

「短絡的に考え過ぎよ。ビスマルクは今夜開かれる洋上パーティのホストとしてこっちの財閥の重鎮達をもてなすのよ。そんなビスマルクを捕まえたら、私達が何を言われるかわかったもんじゃないわ」

 

摩耶さんは胸の下で腕を組み、携帯で話す動作をしました。

 

「って陸奥さんに言われたんですね?」

 

「そういうことだ!」

 

摩耶さんは指をパチンと鳴らし、野分に人差し指をむけました。

 

「そんなわけで、出航準備とやらでここらの人の出入りが激しくなる。二人じゃ大変だと思ってこの摩耶様が助太刀しようというわけだ」

 

「助かります」

 

野分は摩耶さんに頭をさげた。

摩耶さんはいい加減に見えるけれど頼りになります。パトロールで鍛えられた一瞬の洞察力は野分には到底真似が出来ることではありません。

 

「じゃあアタシも夜勤明けなんだ。車の中で少し寝させてもらうぞ。その為のヴォクシーなんだろ?」

 

「これは足柄さんの私物です。スカイラインは足柄さんが誤って容疑者を跳ねたので押収されています」

 

「あぁ。武装した犯行グループに突っ込んだ車両ってお前らのスカイラインだったのか。テレビで見た時、見覚えのある車だと思ったぜ」

 

「そうです。足柄さんが誤ってアクセルとブレーキを踏み間違えたんです」

 

「そんなババァじゃあるまいし……まぁ、いいや。おやすみ」

 

摩耶さんはそう言うと車の中の扉を閉めました。

しかし、お腹空きましたね。足柄さんと摩耶さんも起きたらお腹を空かせているに違いありません。

ここは後輩として、野分が買い出しに行きましょう。

野分は青葉さんのインプレッサに歩み寄りました。運転席にすぐ横までくると、ドアが少し開けられて青葉さんがヒョコッと顔を出しました。

 

「どもどもッ! 野分さん、偶然ですね! こんなところで何をされているのですか?」

 

「捜査につき、お話しできません。青葉さん。お腹空きませんか?」

 

「青葉は大丈夫です! 張り込み用の食料ならまだ残っているのでよかったら食べますか?」

 

「野分はそれでいいのですが、お腹を空かせた重巡が二人もいるので足りません。よければ近くのコンビニまで行きませんか?」

 

「……青葉は運転手じゃありませんよ? それにここを離れるわけには」

 

「野分はマニュアルなんて運転できません。張り込みなら寝ている二人に任せましょう。きっと一人は起きてますから」

 

「もし離れている間に何かあれば、情報提供してもらいますからね?」

 

青葉さんはため息をつくと、野分に横に乗るように促しました。

 

「お邪魔します」

 

ーーーー

 

朝方ということもあって、道は空いている。

そんな中、捕まるか捕まらないかギリギリの速度で私はアバルトを走らせている。私の焦りとはよそに、横に乗る鈴谷はピースカ寝息をたてて寝ている。

那珂ちゃんの舞台衣装とパーティ用の衣装を用意し、大急ぎで駐車場まで行くと眠たそうに目を擦る鈴谷とテキパキと動くグラーフが社用車のワンボックスに荷物を積んでいた。けど、荷物が多すぎた。助手席を倒し、その上に荷物を置いてもどうしても一個だけ

あふれる。今から箱を開けて詰め替えていては間に合わない。

私はあふれた荷物を自分のアバルトに乗せた。

 

「グラーフ! 道案内は任せたわよ!」

 

「任せろ! この時間帯なら空いているし取り締まりもない! オービスの位置も全て把握している!」

 

そう言いワンボックスに乗り込むグラーフ。私はそこまで飛ばせとは言っていない。

鈴谷は何も言わずに私のアバルトの助手席に乗ると、シートベルトをして、車が動き出す前に寝た。

私は積荷満載のくせにやけに速く走るハイエースを必死に追った。

 

「なんとか間に合いそうね」

 

私はビルの合間から登ろうとしている太陽を見てひとまず安堵した。

 

休みなく走り続け、なんとか船の積み込みの時間には間に合った。はずだった。

 

「……叢雲?」

 

車から降りた私は名前を呼ばれた。

正直、今は困る。知り合いと話し込むなら全てが終わってからにして欲しい。

私は振り返り、声の主を見た。

 

「……足柄?」

 

そこには妙高型重巡洋艦三番艦の足柄っぽいのがいた。

向こうも私のことを不思議そうに見ている。

それもそのはず。私と足柄には艦娘時代も顔見知り程度の付き合いしかない。

 

「……んで、こっちは鈴谷?」

 

「そうよ。この寝坊助は鈴谷よ」

 

「あんた達、こんなところで何してんの?」

 

「それはこっちのセリフよ」

 

いまいち会話が噛み合わない。

それもそのはず。あまり話したことのない人と久しぶりにあった。けれど、私としては呑気に話し込むわけにはいかない。それに向こうは何故か私のことを怪しんでいるようにも見える。

 

「……あなたもパーティに出席するのかしら?」

 

「あなたもってことは、あなたは参加するのね?」

 

言葉遊びをしている場合じゃない。けれど、何か含みのある言い方に余計なことは言えない。

 

「しないわよ。ちょっと向こうで話を聞かせてもらえないかしら?」

 

「嫌よ。私には時間がないの」

 

私は話を強引に打ち切り、トランクを開けて荷物を取り出そうとした。けど、荷物に伸ばした腕は足柄に力強く握られ届かなかった。

 

「いったいわね! 何すんのよ!?」

 

バッと足柄の方に振り返ると、足柄は睨むように私を見ていた。正直怖い。こんな目を見るのは艦娘の時以来だ。

足柄は空いている手で何かを取り出し、それを私に提示した。

 

「海軍特別犯罪捜査局です。叢雲さん。よければお話をお聞かせ頂けないでしょうか?」

 

「特捜が私に何の用よ……」

 

しばらく足柄と睨み合っていた。けど、その均衡は寝坊助によって破られた。

鈴谷は助手席から飛び出すと、私の腕を掴んでいた足柄の腕を掴み、足柄を睨んだ。当然、足柄も鈴谷を睨み返す。

 

「おばさん。その手を離してよ。鈴谷達は急いでるの。話ならあとでいくらでもしてあげるからさ」

 

「あら? お嬢ちゃんは今の自分の立場がわかっていないようね。これ、立派な公務執行妨害だけど?」

 

「別になんでもいいよ。鈴谷達は悪いことしてないし」

 

「なんだ? なんかあったのか?」

 

足柄の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

このガラの悪そうな口の利き方は……

 

「「摩耶?」」

 

私と鈴谷の声がハモる。

私は足柄から視線を外し、足柄の背後を覗き込むように見た。

 

「叢雲さん! それに鈴谷も!」

 

「何、あんた達知り合いなの?」

 

足柄は振り返り、摩耶を見た。摩耶は頷くとこちらに歩み寄ってきた。

 

「艦娘だった時に同じ鎮守府だったんだ。足柄。手を離してくれ。その人たちはチャカを振り回すような人じゃない」

 

「「チャカ?」」

 

また私と鈴谷の声がハモる。足柄は私の腕を離し一歩下がった。

かわりに摩耶が前に出てきて、私と鈴谷に挨拶をした。

 

「お久しぶりです。元気そうで何より」

 

「あなたも海軍特別捜査局の人間なの? チャカって何?」

 

私がそう言うと、摩耶は首を横に振った。

 

「アタシは同業だけど所属は違います。チャカについては……まぁそのうち話すとして、荷物を改めさせてもらってもいいですか? 疑ってるわけじゃないんですけど、そうしないとあれが納得しそうにないんで」

 

「おばさんの次はあれ扱いですか」

 

足柄は不機嫌を隠そうとしない。まぁ、私もあまり面識のない子におばさん扱いされたら気分良くないけど。

 

「鈴谷達、急いでるの。これをあの船に積まないといけないんだから」

 

「すぐ終わらせるって……もし間に合わなかったらうちの上司と向こうの上司に頼んで出航遅らせてもらうからさ」

 

「ならいいけど……いったい何なのよ……」

 

摩耶は何も答えず、ダンボールの中身をあらためた。

中に摩耶達が探しているものなんてあるわけない。なのに、摩耶は顔をしかめた。

 

「Chee’sの洋服がこんなに……? これ、なんですか?」

 

「何も、うちの商品よ」

 

「うちの商品?」

 

摩耶は訝しげに私を見た。いまいち言っている意味がわからないと言った様子だ。

 

「あっちの車の積荷も全部うちの商品だよ!」

 

鈴谷が自慢げに言う。様子を見ていたグラーフが車から降りてきた。

 

「降ろすか?」

 

「降ろして頂戴」

 

グラーフの問いかけに足柄が答えた。

グラーフは私の方を見ていた。私は頷いて了承した。

 

「……こっちも洋服ばかりね」

 

「失礼ですけど、叢雲さん達、何してるんすか?」

 

摩耶がそう言うと、鈴谷はポケットから名刺入れを取り出した。

鈴谷がポケットに手を入れたことで、足柄と摩耶は一瞬だけ警戒を強めた。

鈴谷はそんなことは一切気にせず、一枚名刺を取り出して摩耶に渡した。

 

「うちの商品って……これ、鈴谷がデザインしてんのかッ!?」

 

摩耶が驚きの声をあげた。

 

「ふふぅ〜ん! そうだよ!」

 

「おい、マジかよ……アタシも何着か持ってるぜ……」

 

「なに二人で盛り上がってんのよ……」

 

足柄が呆れたような声を漏らす。それに対して更に呆れたのが摩耶だ。

 

「いま若者の間で人気のあるブランドだよ。足柄はそんなことも知らないのか……いや、知るわけないか」

 

「ちょっと! なんかすごい失礼なんですけど?」

 

「何でもいいから、はやく終わらせて頂戴」

 

私がそう言うと、足柄は業務的に中をあらためたはじめた。一方、摩耶は一枚一枚吟味しながら目を輝かせていた。となりで鈴谷が商品説明をしている。

もう時間がないっていうのに……

その時、やかましい低音を響かせている車が近くに止まった。

 

ーーーー

 

いろいろ買い込んだせいで時間がかかってしまいました。

波止場に戻ると、足柄さんと摩耶さんがワンボックスから荷物を降ろし、中をあらためていました。

 

「何をやっているんですか?」

 

青葉さんの車から降り、足柄さんに声をかけると、不機嫌そうな足柄さんが振り返りました。

 

「荷物検査」

 

足柄さんは短くそう答えると、作業を続けました。

 

「えっと……叢雲さんに鈴谷さん、グラーフさん……ですよね?」

 

「そうよ。あなたは野分ね」

 

クリーム色の小さい車に寄りかかって腕を組んで作業を見ている叢雲さんが不機嫌そうに答えました。名前と顔を知っている程度の認識しかありませんけど、なんで不機嫌なんですか。足柄さん、いったい何をしたんですか……

 

「どもども! 青葉です! みなさんお久しぶりです!」

空気を読まず、青葉さんが元気よく答えました。

 

「手伝います」

 

野分はそれ以上何も言えず、手の付いていないダンボールを開けて中身をあらためました。

中身は……

 

「Chee’sの洋服? これも……これも……」

 

「うちの商品よ」

 

近づいてきた叢雲さんが答えました。

「いいなぁ……欲しいなぁ……」

 

野分は小さく呟いたつもりですが、足柄さんには聞こえていました。

 

「知ってるの?」

 

「那珂さんがよく着ているブランドです」

 

「よく知っているわね」

 

叢雲さんが関心したように言いました。

対して、足柄さんは少しガッカリしたような。

 

「アオーバ。いい趣味じゃないか」

 

「この子ですか?」

 

「そうだ。パワーはどれぐらい出てるんだ?」

 

「計ってませんけど、300そこそこは出てると思います」

 

「四駆だと少なく思えるな」

 

「何を言いますか。これぐらいが丁度いいんです。というより、最近の二駆が馬力出過ぎなんですよ」

 

青葉さんとグラーフさんが盛り上がっています。

叢雲さんは盛大なため息をつきました。けど、今度は足柄さんが羨ましそうに二人を見ていました。

 

「手、止まってるわよ」

 

叢雲さんに指摘され、足柄さんはため息をつき、いやいやという様子で作業を再開しました。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。