NSCI600   作:草浪

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NSCI600 #04

 

野分から足柄の車が事故を起こし、自走不能になったと聞き、私と陸奥は大慌てで現場に向かった。

足柄が無茶な運転でもしたのだろう。そう思っていたが野分の慌てようからしてそうでないことはすぐにわかった。そんな中、私の携帯が青葉からの着信を告げた。

 

「もしもし」

 

『青葉です! 黒いランサーに追われています! 叢雲さんが危ないです!』

 

「落ち着け。状況は?」

 

『いま叢雲さんの後ろを走っています! 青葉の後ろには黒いランサーが3台!』

 

「場所は?」

 

『横羽線、東京方向!』

 

その時、電話からゴンッと鈍い音が聞こえたかと思うと、布に擦れたような音が聞こえた。それっきり青葉の声は聞こえない。

 

「陸奥! 摩耶に連絡しろ!」

 

「もうやってるわ」

 

陸奥は携帯を片手に一般道でアクセルを踏み込む。

 

「緊急事態だ。サイレンを……」

 

「あなたねぇ。屋根もない車のどこにサイレンを乗せるのよ。それにこれは私の私物よ……もしもし! 摩耶! いますぐに横羽東京方向に乗りなさい!」

 

陸奥が携帯に向かって叫ぶ。

警官が運転中に携帯を片手に運転してもいいのかと疑問が浮かぶが既に法定速度なんてものはとおに超えている。

 

「陸奥。ついでに高速を封鎖しろ」

 

「摩耶! ついでに高速を封鎖しなさい!」

 

きっと電話の向こうで摩耶が「はぁ!? 何言ってんだ!?」と言っているに違いない。

 

「つべこべ言わずにやりなさい! 日向さんの命令よ! 私じゃないわ!」

 

人のせいにしたな。まぁ、私でもそうする。

 

ーーーー

 

「なんだ……随分と騒がしいな……」

 

雪風を肩に乗せた武蔵さんがそう言うと、横にいた長門さんも不思議そうにパトカーが通り過ぎていく通りを見ていました。

 

「なにかあったのか? 騒ぎになるようなニュースは出ていないが……」

 

「そんなニュースより、ツッタカターの方がはやいんじゃないのかい?」

 

既に出来上がっている隼鷹さんが缶チューハイ片手にそう言います。つまり、私はいま手が塞がっているから見てくれ、ということでしょう。

 

「じゃあ雪風が見ますね。あとツッタカターじゃないです」

 

雪風は鞄から携帯を取り出し、呟きSNSのアプリを押すと、この近くで車が横転する事故があったという呟きがありました。

 

「この近くで横転事故があったそうです」

 

「カァーッ……情けない。私なら絶対にそんな事故起こさないね」

 

隼鷹さんが缶チューハイを飲みながら言います。

 

「朝起きて、すぐに飲み始めるようなやつは事故なんて起こせんだろう?」

 

武蔵さんが呆れたように言いました。

 

「平和になったから朝から気兼ねなく飲めるんじゃないか。もう恐さを忘れる為に飲む酒なんてごめんだよ」

 

隼鷹さんはそう言うと、残っていた缶チューハイを一気に呷ると、美味しそうに一息着きました。そして、近くのコンビニを見つけると寄っていこうと言い始めました。

 

「あまり飲み過ぎるなよ!」

 

真新しい缶チューハイを二本買い、一本を鞄にしまった隼鷹さんに長門さんはきつく言いました。

 

「いいじゃないの。ライブなんだし盛り上がってあげないと……雪風に頼まれて仕方なく最前列のチケットを取った長門さんに申し訳ないじゃないか」

 

隼鷹さんはニヤニヤしながら長門さんを見ていました。

 

「うッ! うるさいなッ! そうだ。私は雪風に頼まれたからチケットを取ったんだ。そうんだろ。雪風!」

 

「はい! 長門さんに頼めば絶対にいい席を取ってくれると思ったので頼みました!」

 

雪風が長門さんに頼んで取ってもらったチケット。それは福永司令と浜野司令のライブのチケット。二人は終戦後、すぐに退役してミュージシャンになっていました。長門さんは浜野司令の追っかけをやっています。だから今回、二人が出演するライブのチケットを長門さんにお願いして取ってもらいました。

 

「おまッ……雪風ッ! 余計なことを言うんじゃない!」

 

「だってライブが近くなると長門さん浜野司令の歌の鼻歌を歌いながら仕事をしているじゃないですか!」

 

「雪風ッ!」

 

長門さんは雪風を掴むと前後に揺らし始めました。結構強い力で揺らされたので思わず武蔵さんの頭を掴んでしまいました。

 

「おいッ! 馬鹿ッ! やめろ! 眼鏡が落ちるッ!」

 

「長門さんに言ってくださぁい!」

 

ーーーー

 

「何これ……何なのよッ!?」

 

私は青葉の車にものすごく煽られている。そして青葉の車は黒い車に煽られている。

 

「すご〜い……」

 

鈴谷はシートベルトを外し、窓から身を乗り出して後ろを見ている。

 

「鈴谷! 馬鹿やってないで大人しく座ってなさい!」

 

「はぁ〜い」

 

鈴谷は渋々といった様子で席の座った。この子状況がわかっているのかしら?

それとおかしいことがある。走らせれば走らせるほどに車の台数が減っていく。それに電光掲示板。いつもは渋滞情報をこれでもかと表示させて私を萎えさせているのに、今日はどれも真っ黒。何も表示させていない。

そして更におかしいことがおこる。

深緑に塗られた装甲車が料金所のバーを突き破って合流してきた。

 

「そこまでするって……私がいったい何をしたっていうのよ!」

 

「……あの車、どっかで見たことある気がする」

 

鈴谷がそう言うと、装甲車は車を左端に寄せウィンカーをたいた。「お先どうぞ」の意味だ。横に並んだら幅寄せされて私のアバルトがペシャンコになるんじゃないか。私はそんな気がした。

 

「……一気に抜けるわよ」

 

アクセルをガンッと床まで踏み込む。

1.4Lターボの心臓が軽い車体を強烈に引っ張る。装甲車を抜く瞬間、鈴谷が「あっ!」と声をあげた。

けど抜けなかった。装甲車は横に並んでいる。

 

「叢雲! 叢雲!」

 

「何よッ!?」

 

「叢雲さんッ!!」

 

鈴谷に呼ばれ、横を向いた瞬間聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「神通ッ!?」

 

「そうだよ! あれ、神通さんの車だよ!」

 

鈴谷が嬉しそうに手を振る。

 

「あなた、今そんな状況じゃないでしょッ!!」

 

神通の怒号が聞こえる。私も同じことを鈴谷に怒鳴りつけたい。

鈴谷はビクッと体を震わせると、そそくさと窓を閉めた。

 

「叢雲。はやく行こう。神通さん、怒ってる」

 

「私はこの状況でも能天気なあなたに怒りを通り越して呆れつつあるわ」

 

「どんな状況であれ、鈴谷はあの人より怖いことを知らない」

 

私の那珂ちゃんと同じね。

そんなことを考えていると、神通は私の車までギリギリに寄せ、コンコンと窓を叩いた。

これがゆっくり走っているならまだしも、私はアクセルを床までベッタリと踏み込んでいる。正直、ものすごく怖い。

 

「鈴谷、窓を開けなさいッ! はやくッ!」

鈴谷が渋々窓を開けると、神通は無線機を投げ入れてきた。

それと同時にすっと離れる。

 

『摩耶から連絡を受けて駆けつけましたが……どういう状況ですか?』

 

「野蛮な車に追われているのよ。理由はよくわからないわ!」

 

『つまりぃ……後ろの車を全部始末すればいいってことだね!』

 

私の背筋に嫌な汗が流れる。この声は聞いたことがある。忘れようとしても絶対に忘れられない声。

 

「那珂さん!」

 

『那珂ちゃんッ!!』

 

無線機からプンプンという効果音が聞こえてきそうなほど機嫌のいい那珂ちゃんの声。

どうしてあなたがここにいるの、そう言いたいけど、このままじゃ青葉まで片付けられてしまう。

 

「那珂ちゃん! 黒い車だけよ! 青い車は青葉だからね!」

 

『りょうか〜い♪』

 

那珂ちゃんがそう言うと、神通はスッと車を下げた。私の車に青葉が続く。

青葉の車を抜かせた神通はスッと青葉の後ろに入った。

そんな神通の車を黒い車達は両側から抜きにかかった。

 

『じゃあ神通ちゃんは右の車を、那珂ちゃんは左をやるね』

 

『わかりました』

 

無線から二人のやりとりが聞こえたかと思うと、神通の車の両側のドアが同時に開いて何かが飛び出した。神通の車はそのままもう一台後ろにいた車を巻き込んで派手に横転する。

サイドミラーで何があったのかを確認する。運転席側のミラーには黒い車の上に乗る神通、助手席側には川内と神通の中間ぐらいの長さの黒髪をした川内型、那珂さんが同じく黒い車の上に乗っている。

二人とも、同じように運転席側の方で屈むと、右腕を大きく振り上げた。

 

「すごーい……映画のロボットみたい……」

 

きっと鈴谷の頭の中には殺戮ロボットの映画の主題歌が流れているんでしょうね。

「……すごーい、青葉が運転しながらカメラ構えてる」

 

今の鈴谷の声は呆れたようなものだった。

お願いだからよそ見して私の車に突っ込まないでよね。

けどとりあえず一安心ね。那珂ちゃんと神通が来た。訳のわからない暴走車両を止めてくれる。そう思っていた。

 

「……嘘」

 

鈴谷が手で口を塞いだ。

その動作だけは見えた。私はサイドミラーに視線を移す。

さっきまでそこにいた那珂ちゃんと神通がいない。黒い車は平然と走っている。

 

「いったい何があったの……?」

 

「わからない。炸裂音が聞こえたと思ったら二人が落ちたの……」

 

炸裂音、あの二人が消えた。

行き着く答えは私には一つしかない。

 

「嘘でしょ……」

 

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