比企谷提督と千葉鎮守府   作:血塗りの晶

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熱出てて辛い……(ワクチンのせい)
遅くなりましたが、どうぞ。


24.叢雲は全てお見通し

俺が千葉鎮守府に着任してはや一月が過ぎ去った。

叢雲に教えられながら覚えた執務を日々こなし、朝早くから起床して、夜は決まった時間に就寝する。まさにハイスピード社畜ライフを送っている俺。

執務が激務なため、当然学校に通うことはなくなった。……おい、今ちょっと韻踏んでなかったか?中々いい感じじゃないか?……すみません。冗談です。

 

まあ、とにかく、俺の生活は千葉鎮守府に適したものへと完全にシフトしていた。学生気分でいた過去の俺はもうほとんどいない。目の前の仕事をひたすらに片付けることに必死すぎて、そんな余裕すらないからだ。マジでブラック。専業主婦を夢見た未来ある学生だった俺が……休日返上でヒイヒイ言いながら働くことになろうとは、いったい誰が想像しただろうか。

 

 

「……ダメだ。やはり俺が鎮守府の運営をしているのはまちがっている」

 

 

「はぁ、また始まったわ。提督の屁理屈ポエムが」

 

 

本日は、朝日が眩しい快晴の日曜日。

……そう、俗にいう休日出勤というやつである。……そもそも、俺は鎮守府にて寝泊まりしているので、休日出勤という言葉には若干語弊があるかもしれない。正しくは、永久出勤とでも言っておこうか。もう本当に号泣案件である。

 

愚痴りつつ、執務を進める俺を冷めた目で見ながら、完璧に仕事をこなしているのは、我らが鎮守府の頼れるエースである叢雲。執務に出撃にと忙しい毎日を送っている彼女であるが、常に仕事を高水準でこなしている。

時々サボりながら、死んだ目をしている俺とは真逆の存在。

 

 

「なぁ、休みはないのか。連日働いていると曜日感覚もクソもなくなってくるんだが」

 

 

労基に引っ掛かりそうなくらいに休みがない。そのことを叢雲に伝えると、肩をすくめて叢雲は動かしていたペンを置く。

 

 

「……そうね。いくら提督といえども息つく暇さえないというのは、ちょっと哀れに思うわ」

 

 

「お前も休みのないブラック社員の一人だがな」

 

 

「私は慣れてるからいいのよ」

 

 

どうでもいいという叢雲の態度は、本当に仕事に生きているというが伝わってくる。

 

 

「仕事ばかりしてるとそのうち後悔するぞ。お前も堕落する楽しさを知れ」

 

 

「私には必要ないわ。……私は艦娘。深海棲艦と戦うためだけに生まれてきた存在なのだから。アンタと私は違うのよ」

 

 

そう告げる叢雲は、どこか寂しさを漂わせる姿であった。

艦娘と提督は違う。その事実を認識していないわけではない。彼女たちには戦う力があり、俺みたいな非力な一般人とは責任も心持ちも全く違うのだろう。けれども、艦娘である彼女たちと共に鎮守府での日々を過ごす中で、艦娘という存在がただの兵器であるとは考えられなくなっていた。

一人一人にちゃんと感情があり、人間と同じように好きなこと嫌いなこと、喜怒哀楽だってちゃんとある。

 

もし世界が平和になり、深海棲艦という敵がこの世から姿を消したら、艦娘である彼女たちはどうなるのだろうか。役目を終えたからと夢みたいに消え去るのだろうか。きっとそんなことはないのだろう。

平和になった後の世界でも、彼女たちはちゃんと生きていかなければならない。その命が尽きるまで。

それなのに、来る日もくる日も仕事ばかりに明け暮れている艦娘が突然その仕事から解放されたらどうなってしまうだろうか。

 

 

答えは、人生の意味を見失う、だ。

 

 

「あのな、叢雲。俺が偉そうに言えたもんじゃないが、未来のこと……それこそ、10年、20年後のことを考えた方がいいんじゃないか。その時仕事がなくなっていたら、お前は何をしているんだ?一つのことに打ち込むってのは立派なことだが、擦り切れるまで努力を続けるってのは良くないと思うぞ」

 

 

説教めいたことを言い、はっと我に帰る。

なんとも俺らしくない。人生だ未来だと似合わないことをペラペラと喋ったと思うと恥ずかしさが一気に込み上げてくる。

 

くそっ、叢雲がしんみりした感じで社畜宣言するから思わず、仕事をしないことの大切さを説いちまったじゃねぇか。ていうか、真面目に働いている奴に働きすぎは良くないなんて、よく言えたな俺。

 

 

「……いや、悪い。失言だったわ。忘れてくれ」

 

 

慌てて、今の言葉を訂正するが叢雲は首を横に振る。

 

 

「……別にいいわよ。多分、アンタの言っていることは正しいと思うし」

 

 

「いやでもな……真面目に働いてもいないやつにそんなこと言われたら腹とか立つだろ」

 

 

俺だったら、そいつに対して当てつけとして鬼のような仕事を振ってやるとか微妙に辛い嫌がらせしちゃいそうになるぞ。なんなら、俺の分の仕事全部押し付けるまである。

俺はこんな風に自己中心的な考えを持っているが、叢雲は違うようだ。

 

 

「腹なんて立たないわよ。……確かにアンタは、集中が切れると挙動不審になるし、資材の管理とかは嫌がってこっそり他の艦娘に仕事流したりするのはあまり感心できないけど」

 

 

「ちょっと待って、なんで俺が資材の計算を他の子に任せてること知ってるの。怖いんだけど」

 

 

予想外のカミングアウトに動揺するが、叢雲は視線すら向けてこない。

 

 

「そんな些細なことはどうでもいいのよ」

 

 

「いや待て、全然些細なことじゃないから。えっ、なに?ここって監視カメラでも付いてんの」

 

 

「あーもう、話の腰を折るんじゃないわよ。アンタがそういう感じの性格だってことは私自身も把握しているつもりなの。今更ちょっとやそっと楽をしようとしたところで細かく注意しようなんて思ってないわ」

 

 

そう言い切ってから、叢雲は俺が片付けた仕事の書類をこちらに見せてくる。

 

 

「なんだよ……」

 

 

「この書類。……その、よく出来てるわ。最初に比べたら見違えるほどに良くなってる」

 

 

何が言いたいのか分からない。

 

 

「だからなんだよ……」

 

 

「私が言いたいのは、アンタは良くやってるってことよ。まともに仕事をしていないと自称している割には、頼んだことはちゃんと終わらせてる。提督、アンタは不真面目なんかじゃないのよ。信頼してるわ」

 

 

驚くことに叢雲は俺のことを高く評価してくれているようだ。

 

 

「それに、近頃は仕事が終わった後もこっそり何かしているみたいだし」

 

 

は!?

叢雲は、さも冷静にそう言う。

確かに俺は、演習に向けて下準備をしていた。誰にも気付かれないように、こっそりとだ。俺だけが知っているべき計画を叢雲は既に周知している。

 

 

「……なんで、そんなこと知ってんだよ」

 

 

「偶然よ。意図して尾行したとかそんなことしていないもの」

 

 

その言葉に信憑性はあまり感じられなかった。

しかし、そんなことの真偽に関しては、はっきり言ってどうでもいい。重要なのは、叢雲が俺がコソコソ動いていることを把握しているという事実のみだ。

 

 

「……見逃してくれないか」

 

 

「嫌よ。鎮守府内の艦娘全員に教えようかと思っているわ」

 

 

「おい、それは本当に……」

 

 

計画をバラそうという叢雲の言葉に思わず語気が強くなる。しかし、叢雲の表情は普段見せないような悪戯っ子のような不敵な笑みがあった。

 

 

「……どうしても、バラされたくないんだったら。条件があるわ」

 

 

これはフリではない。完璧に脅しである。まさか、艦娘に弱みを握られて脅される提督がこの世に存在していたとは……そう、俺だ。

彼女よりも立場が高いのは俺の方。言わないようにと命令して、口止めをするのは容易にできる。しかし、それを知らない叢雲ではない。

 

こいつ、俺がそういうことをしないと確信して言ってんな。

 

まあ、これは図星である。

流石に世話になった叢雲を提督という権限で縛りつけようとするほど恩知らずではない。つまり、俺はこの要求を鵜呑みにしなければならないということだ。なんとも情けない。しかし、不要な衝突を避ける選択をするのも、エリートボッチを極めていた俺ならではのやり方。

……見せてやるよ、俺の誠意。

決意を固めた後の俺の行動は早かった。

すぐさま執務室の床に膝をつけ、叢雲に顔を向け、余裕な声音で決め台詞を述べる。

 

 

「ふっ、土下座くらい朝飯前なんだよ……」

 

 

決まった。

スクールカースト最底辺経験者であるこの俺に怖いものなどない。土下座、反省文、罰則労働、大抵の不利益は耐え切ることができる!

 

 

「アンタの土下座なんか望んでないわよ!」

 

 

しかし、叢雲の要求したかったものはこれではなかったようだ。提督を屈服させて優越感に浸りたい感じなのかと思って床に膝ついちまったよ。

勘違い……。うぐっ、ちょっと心に。

八幡は心に大きなダメージを受けた。

……そこは大人しく土下座で納得しとけよ。早まった自分のことを盛大に恥じるが、そんな素振りを見せたところで叢雲が向ける俺へのヒヤッとした視線は変わらない。

 

 

「あのねぇ、土下座しとけばいいなんて浅はか過ぎるでしょう……」

 

 

「いや、俺にできる最大限の誠意を示しただけなんだが……」

 

 

「はぁ……自分のプライド捨ててまで、隠したいことなの?別に悪いことしてるわけじゃないんだから堂々とすればいいじゃない」

 

 

真っ直ぐとそう伝えてくる叢雲は、なぜ俺が秘密裏に動くのを望んでいるのか全く理解できないと言わんばかりにため息を吐く。しかし、俺も確固たる意思を持って動いている。

俺は矢面で堂々と立ち回るような人間ではない。裏方でひっそりと目立たないように仕事をこなす。例えそれが隠す必要のないことであったとしても、俺に根付いたその精神は変わらない。

 

 

「……まあ、注目とか浴びたくないからな」

 

 

そう呟き、俺は軽く伸びをする。

 

 

「そんなことだろうとは思ったわ。アンタは誰かに自分の功績をひけらかすような性格じゃないもの」

 

 

叢雲はまたかといったような顔をする。

しかし、俺は謙虚であるわけではない。本当に誰かの視線を集めることが嫌いなだけなのだ。

ひっそりと教室の隅っこで、平穏な時間を俺だけのために送りたいだけだ。アイラブボッチ。アイラブ千葉。アイラブ小町。

……気を遣って謎のテンションになっちまったよ。脳内貧困ボキャブラリーラップをかましながら、俺は会話しながらちょくちょく進めていた仕事を終える。

 

 

「まあ、あれだ。俺はあまり目立ちたくない。だからできれば他言無用で頼む」

 

 

「なら、私の要求を受け入れることね」

 

 

「……はぁ、分かったよ。叢雲、お前の要求を聞こう」

 

 

「聞き分けがよくて助かるわ」

 

 

結局押し切られる形で言質を取られてしまった。

一体どんなことを要求されるのやら。ややビクつきながら、叢雲の顔色を伺うと、ほんの少しだけ悪巧みしたような珍しい顔をする。

 

 

「……アンタの計画に私も巻き込みなさい」

 

 

そんな意外なことを言う叢雲は、驚くほどに頼もしいものであった。




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