比企谷提督と千葉鎮守府   作:血塗りの晶

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25.俺が勝利に貪欲になるのはまちがっていない

某日。

俺は、珍しく千葉鎮守府から出て、千葉駅前へと赴いていた。

更に付け加えるなら、この場所にてとある人との待ち合わせをしている最中である。

そわそわと落ち着きのないコミュ障全開な姿を晒してはいない。

ただぼんやりとゆったりと雲の流れる青空を見上げる。普段鎮守府での執務に集中している分、こうやって空を見上げる機会はあまりなかった。慌ただしい日々から、解放され時間の経過がとても遅いように感じる。

残念ながら、今日は息抜きをしようと思って、こんなところに出向いているわけではないが。

 

 

「ああ、比企谷くん。待たせたかな?」

 

 

どうやら待ち人が到着したようだ。

ニヤニヤしながら、緊張感の欠片も感じさせない面持ちの佐々木さん。こんなんで大本営内ではかなりの地位であるというのだから驚きである。ゆったりと歩いて向かってくる佐々木さんに軽く会釈をしながら、俺は口を開く。

 

 

「いや……そんなに待ってないっすよ」

 

 

否定の言葉を口にすると、佐々木さんは馴れ馴れしく肩を叩きながら、にこりと笑う。

 

 

「おお、嬉しいこと言ってくれるねぇ! 僕に気を遣わせないようにしてくれたのかな? うんうん! さながら、僕は比企谷くんの彼女みたいなって……おおっと、そんなに睨まないでくれよ。悪かったって」

 

 

悪いと言いながらも悪びれる素振りすら見せない。反省しているのかしていないのか、佐々木さんの表情からはそれすら感じ取れない。

睨み付ける気なんてなかったが、そんな佐々木さんの読めない態度が余計に不信感を煽るため、眉間のしわは自ずと消えない。

……というか、この人。自分のことを俺の彼女みたいな……とかシャレにならんこと言わないで欲しい。ないから。俺に彼女ができることも、佐々木さんがそんな立ち位置に居座る可能性も。……変な性癖に目覚めたわけじゃないだろうが、疑わしい発言は是非控えてもらいたい。

 

 

「……はぁ、取り敢えず移動しましょうか。人混みに酔いそうなんで」

 

 

「そうだね。あそこのカフェなんてどうかな」

 

 

佐々木さんの提案を受け入れ、俺は無言でカフェの方へと足を進める。

出会って数分、しかし疲労は既に数時間話していたのではないかと思うくらいにたまってしまった。

空いている席に腰を下ろし、注文した品が届くと佐々木さんは一息吐いてから、こちらを見定めるような視線を向ける。

 

 

「それで? 最近は順調かい?」

 

 

カフェ内でブラックコーヒーを啜りながら、諭すように佐々木さんは尋ねる。

因みに俺が飲んでいるのもコーヒーであるが、ミルク、砂糖増し増しの甘さたっぷり劣化版マックスコーヒーだ。若干苦味が残っているが、仕方がない。

 

 

「まあ、ぼちぼちっすね。取り敢えず鎮守府近海の安全は確保してるつもりですけど」

 

 

「十分だよ。よくやってくれているね。いやぁ、直々に君のことを引き抜いた甲斐があったというものだよ」

 

 

嬉しそうに微笑む佐々木さんだが、どうもそのにやけ顔が胡散臭い。

 

 

「……はぁ、ありがとうございます」

 

 

「あははっ、相変わらずテンション低いね。そんなに疑り深い眼差し向けられちゃうと流石の僕も傷ついちゃいそうだよ」

 

 

嘘つけ。

全然ヘラヘラしてるじゃねぇか。

というかこの人が泣いている絵が想像できない。何があってもニコニコしてそう。

少し苦いコーヒーを啜りながら、俺は佐々木さんとくだらない会話を続けた。意味のない会話であるが、会話自体が無駄であるわけではない。

本題を出す前の前座とも言えるだろう。

 

 

「……それで? 今日わざわざ僕のことを呼んでくれた理由。早速だけどご用件を聞こうかな」

 

 

佐々木さんの雰囲気が一気に変化する。

ピリついたと言うものではないものの、真剣さが多少なりとも宿っていることが素人目にしても感じられた。

 

 

「そんなに大層なことじゃないんですけど」

 

 

「うん」

 

 

「その、直近に控えてる演習のことで頼みたいことがあるんです」

 

 

「演習……ああ、あれね」

 

 

俺の言葉を正しく理解したのか、佐々木さんは納得したように頷く。

 

 

「演習のことか。……まあ、今回やるのは比企谷くんと新人の子の顔合わせが一番の目的でもあるから、そんなに身構えなくてもいいと思うんだけど」

 

 

「……」

 

 

「まあ、君にとっては違うのかもしれないね。……どうしても、勝ちたいって顔だ」

 

 

そう、俺は今回の演習においてあいつらに勝って欲しい。

理由は特にあるわけでもなく、俺自身の手腕が優れているということもない。だが、鎮守府で過ごす日々を肌身で体感して、俺がそう感じたのだから、仕方がない。

 

 

「佐々木さんの言う通り、俺は今回の演習で勝利が欲しい」

 

 

繕うことなくそう告げると、佐々木さんは興味深そうに表情を緩める。

 

 

「どうしてかな。君はそこまで勝負に固執するような性格じゃなかったように認識していたんだけど」

 

 

「別に、勝ちたい気分だっただけですよ」

 

 

熱血漢なんてものじゃない。

俺の声音に覇気が籠るなんてこともなければ、平常時と変わらない腐ったような目は健在だろう。ただ、今回の演習にこうも拘っているのは、自分でも驚いている。僅かな馴れ合いをしただけで、こうも感情移入をしてしまった。

 

 

「そうか」

 

 

佐々木さんはそれ以上深入りしようとはしなかった。面白そうにユラユラと身体を揺らして、空になったコップに視線を落とす。

 

 

「あの」

 

 

無言でいたままの佐々木さんに俺はたまらず声をかける。

佐々木さんはゆっくりと胸元にあるポケットからコンパクトサイズに折り畳まれた紙を取り出した。

 

 

「手段は選ばなくてもいい感じかい?」

 

 

「はぁ、まあ。ルールの穴をつければベストかと」

 

 

なんだか麻薬の取り引きみたいな会話である。しかしながら、佐々木さんは俺の返答を気に入ったのか、何度か頷いた後に折り畳まれた紙を広げて俺に見せてきた。

それが目に入った瞬間、俺はその用紙に手を伸ばしていた。

 

 

「手を貸すよ。でも、他言無用だよ?」

 

 

紙に書かれていたのは、とある艦娘の名前とその経歴。そして、『助っ人』という俺の望んだ文字が書かれていた。




久々の更新です
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