ハリー・ポッター、オラリオに寝る
その日のロキは機嫌が良かったり悪かったりで、平均すると、まあまあのご機嫌であった。機嫌が悪くなる理由であるが、ファミリアの遠征隊が途中で引き返し、最高到達階層の更新が出来なかったということがある。
機嫌が良くなる理由であるが、眷属たちは全員死ぬことも無く深層域から帰還できたのだ。
この二つが合わさり、まあまあのご機嫌となっていた。昨日は遠征後のどたばたでファミリア内部もごたついていたが、今日は大分騒ぎも収まり、ティオネとオラリオ市街へと散歩へと繰り出していた。本当であれば、お気に入りであるアイズたちも誘いたかったのであるが、用事があるといって逃げられていたのである。
特に目的があるわけでもなく、オラリオ街をそぞろ歩いていたロキとティオネであったが、ロキの『何か面白そうなもんが落ちとる予感がする~』という理由で細い裏通りに入り込んだ。一般人ならまだしも、神のいうことであるので予感というのも馬鹿にはできない。とはいうものの、ロキにとって面白いものであって、ティオネたち団員にとって面白いかどうかはまた別なのであるが・・・
そして道端のガラクタに埋まるように倒れている男をロキは発見したのである。やや痩せ気味の体格、不ぞろいに切られた黒髪、額にあるぎざぎさの傷跡。魔導師が好んで着るローブによく似たデザインの茶色のローブ。そんな行き倒れの男にロキは近寄っていった。
「お、行き倒れかー」
ロキは呟きながらしゃがむと、落ちていた棒切れを拾い上げて、男のほっぺたをそれでつつきだした。
「ちょっとロキ、なにやってんのよ」
「あー、生きとるんちゃうかなーと思うて」
ちょっと流行とは違うが魔導師ローブを着ていることから他ファミリアの団員であろう。余計なトラブルになるようなことはごめんであった。ティオネはロキの散歩のお目付け役であり、お供であり、お目付け役であり、護衛であり、お目付け役であり、荷物もち係である。つまりお目付け役が五割を占めているのだ。ちなみにお目付け役は団員ならばいやでも分かる不文律である。
その間もロキは、ほっぺたをつつくのを続けている。
ティオネはこうなったロキはしつこいのを知っていたので、倒れた男に心の中で謝りながらも、意識がないのでかまわないだろうと、ロキの気が済むまでつつかせてやろうと決めた。
が
男は、突然、上半身を起こした。そして焦点が合ってない目つきでロキを見つめると
「ジニー」
と叫んでロキをがっしりと抱きしめ、ディープキスを始めた。
これには、ロキもびっくりして、最初はふがふがともがいていたが、だんだんと動きが止まり、終いには、顔が紅くなりだらしない笑顔になってきた。
いつもセクハラするロキが逆にセクハラされてるのはいい気味だと、最初は静観していたティオネであった。だが、ロキの顔が気持ちよさそうな顔になってくると、自分と団長の関係と比較して、なんだか、腹の底からどす黒い激情がじわじわと溢れてきたのがわかった。我慢の限界とばかりに、レベル5のステイタスまかせにロキと男を引き剥がす。
「はいはいはーーーい、そこまで、そこまで」
男は、引き剥がされて、しばらくはぼうっとしていたが、ふとわれに返ったのか、ばたばたと自分の体のあちこちをはたくと、小さく叫んだ
「僕、生きてる!」
いや、何言ってんだろう、この人。危ない人にかかわってしまったかと、臍をかむティオネだったが、時にすでにおそし。危険人物からロキを離そうと、ロキの腕を掴んで、後ろに下がらせるが、そんな眷属のことは目に入っていないのか、ロキは顔を赤くさせたまま、もじもじとしている。
いつもの、おちゃらけた雰囲気はどこに言ったのだと、あきれるかえると同時に気持ち悪さを感じる。なるほどこれがギャップ
「あぁ、まあ今は生きてるわね。死にたくなったらいいなさい、あの世に直送してあげるから」
ティオネが男に声をかけるが、まったく聞こえていないようで、あたりの地面をしかめっ面できょろきょろと見回している。
「とりあえず、うちの主神?に手を出したんだから無事に済むとは思ってないでしょうね?」
そういうティオネを無視して、男は今度は地面を見回しはじめた。こちらのことを完全無視な様子にいらっとしながらもティオネは詰問する
「いや・・・・眼鏡・・・無いと何も見えない・・・」
それを聞いたロキが、すかさず、地面を探し始めた。主神が手伝う以上は眷属の自分も手伝わざるを得ないだろう。ロキと男の間に割り込む位置に移動して眼鏡を探し始めた
結局10分ほど探して、見つけることができた。
よく知られていることだが、冒険者は、神から恩恵をもらうことにより肉体的に強化される。もちろん五感の一つの視力も強化され、眼鏡は不要となることが多い。つまり眼鏡がないとあたりが見えないという以上は、この男は冒険者ではないのだろう。
どこかのファミリアに所属しているのであれば、ファミリア間の抗争などが発生する危険性があったのだが、これで、幾分かその危険が薄まった。眼鏡を探している間にいろいろと考えたティオネはロキと男を人気のないベンチまで連れて行き、質問という名の尋問を始めた
「えーといろいろ聞きたいんだけれど、いいかしら、キス魔さん?」
男はあわてたように反論する。
「僕はキス魔ではありません、まちがえてキスしてしまったことは誤ります」
そういうと男は立ち上がり、優雅にお辞儀した。
「僕の名前はハリー・ジェームス・ポッターです。先ほどは失礼しました。眼鏡が無くて間違えてしまったのです。ちなみに、ここはどこですか、エディンバラの近くとかですかね?」
ハリーから見れば、ロキたちはマグルである。ホグワーツはイギリス北部にあり、それで適当にマグルにも通じるであろうイギリス北部の都市名を言ってみた。
「ああ、いや、間違えたんなら、しゃーない。それは、ええで。で場所なんやけれど、エディンバラの近くやない。というか、エディンバラとか聞いたこともない名前や。うちはロキや。こちらはうちの
ちょっともじもじしながらロキが自己紹介をする。ハリーは戸惑ったような表情になり、つぶやいた
「眷属って何ですか?」
これが、ハリーポッターとロキの初会合であった。
その後一時間ほどかけてお互いがお互いに質問をしまくり、情報交換をしまくった。ティオネは主に聞き役に徹していた。神ロキにはハリーが嘘を言っているかいないか分かるが、
ハリーは最初はマグルに対しては、魔法界のことを喋るのはまずいと考えていたが、神であるロキに対して嘘はつけないということを実験で確かめ、通行人の中にシアンスロープやボアズがいることをみたため、ここが マグル界でも魔法界でもないべのつ世界であることを分かったのであった。そうであれば、魔法界のことを黙っている理由も無く、正直に話したのである。
ティオネは胡散臭げに聞いていたが、ロキにはハリーが嘘を言っていないことが分かるので真実だと信じざるを得なかった。そして、ロキたちは、ハリーの事情が大体わかり、ハリーにはオラリオのダンジョンと冒険者についての事情がわかったのであった。
「なるほどなぁ・・。こことは別の世界があって、そこからきたと。元の世界では、大悪人がおって、えーと、名前はなんやったっけ?」
「ヴォルデモートですね。本名はトム・リドルですけど」
「たいそうな名前やなぁ・・・。で、それに人質をとられたようになって出て行って殺されたわけか。うん、まあ、正直な性格は悪くないちゃー、悪くないけど、もうちょっと他に方法があったんちゃう?」
それでハリーは分霊箱、トム・リドルの魂は分割されており、分割した魂をすべて破壊した後でないと、本体はいつまでも死なないこと。ハリー自身が分霊箱になっていて、トム・リドルに殺される必要があったことなどを最初から説明した。
「今となっては、分霊箱は残り一つ。あいつのペットの蛇のナギニだけです。それを破壊すれば、トム・リドルをようやく倒せるようになるんです」
そこまで話してもハリーには元気はない。ロキから考えれば、分霊箱?とかいうものを指輪、カップ、ロケット、髪飾り、日記と五個も破壊しているのである。後一個ぐらいなら、他の人に任せてもいいんちゃうのか?というのがロキの正直な感想である。
「まあ、そしたら、ハリーはんは、元の世界に戻りたいわけなんやね。でも、イギリスとかホグワーツとか聞いたことがない場所やで」
ロキがティオネに何か知ってるかと目線でとう
「いや、私もいろいろ旅をしてきたけれど、聞いたことがない地名ね。あと私も魔法を使えるけれど、ホグワーツとかいう場所で勉強したわけじゃないわよ」
えっと驚くハリー。それはそうだろう、マグルだと思っていたビキニアーマーからの、まさかの魔法使い宣言。
「うちが考える仮説なんやが、別世界から攻撃魔法の衝撃で飛ばされて此処に来たとしか思えんのやが」
うさんくさそうな目つきでティオネがロキを見つめる。
「そんなことありえるの?」
「まあ、別世界があることは、うちら神々は知っとるで。何せ此処とは違う神界から来とるんやからな。此処と神界と二つあるんなら、みっつもよっつもあってええんちゃう?」
ここでハリーのテンションがぐっとあがる。
「その神界に行く方法はどうするんですか」
もしかしたら、元の世界に帰れるんじゃないかという期待にもりあがっている。
「だっとやって、でぃやっとやって、どーんってするんや」
謎のポーズを決めながら、すがすがしいどや顔でロキが宣言した。
いらっとしたティオネがロキの足を思い切り踏んづけたのも仕方がない。
「いたたたた! ちょっとやめて! 本当やで、他の神にもきいてみい。みんなそういうから」
確かに子供たちをからかうのが三度の飯より大好きな、のりのりな神々ならば、みんなそういうだろう。ティオネは、一旦ホームに戻ってリヴェリアに相談したほうがなんぼかましだとあきらめた。
だがハリーは違った
「Daっとやって、Deぃやっとやって、Doーんってするんですね。そうか! 姿くらまし! 分かった。やってみます!」
そういうとハリーは立ち上がり、深呼吸を繰り返しはじめた。ハリーはロキのせりふから『三つのD』が必要な魔法、つまり姿くらましのことを思い出した。こちらの世界から姿くらましして、元の魔法界に姿現しをすることができるのではないかと考えたのだ。
「いや、あなた、ロキに担がれてるかもしれないんだから、やめといたら? 一旦私たちのホームまで来なさいよ。他の人にも相談してみるから」
そんなティオネの忠告も聞こえていないのか、ハリーは集中を高める。そして。
「いきます!」
宣言と共に、ハリーの体がへその辺りへとぎりぎりと超高速で回転しながら縮んでいった。
「な!?」
詠唱が無いということはスキル? 驚くティオネとロキの目の前でハリーの体は20cぐらいの球体になってぐるぐると回転している。そして、たわんだばねが元に戻るかのような勢いで逆回転し、ハリーの体は元のサイズに戻り、はじけとび、道路を20mほど吹き飛ばされた。
「ハ、ハリーはん!、大丈夫かー?」
あわててロキが駆け寄る。ハリーは壁に頭をぶつけたのか、気を失っている。
「うーん、すまんけど、ティオネ、彼をホームまで連れて帰ってくれんか? うちだとちっょと体力的に自信ない・・・」
まあ、のりかかった船だとティオネはあきらめの境地でハリーを担ぎ上げた。