リリルカは呪っていた。サポーターという立場のため冒険者から馬鹿にされることを、成長しない自分の恩恵を、自分が所属するファミリアから金を巻き上げられることを、ファミリアの運営ががたがたなことを、そんなファミリアを野放しにしているギルドを、リリルカは恨んでいた。
そんなファミリアに所属させた自分の両親を、抜け出したくても自由に抜け出せないこの不自由な恩恵のシステムを、そのシステムを考えた神々を、両親を殺したダンジョンとモンスターを、どうあがいてもこの環境から抜け出せない自分を。
そんな惨めな自分を対等に扱うベルとハリーの能天気さを。ありとあらゆるものを恨んでいた。
逆恨みだとはわかっていた。だが、そんな逆恨みをする自分に嫌気がさしながらも、もう自分でも、どうすることができなかった。
ぶつぶつとリリルカは呟く
「だから、これは当然の権利なんです。リリを今まで食い物にして、いいようにしてきた冒険者を逆に食い物にするだけです。どこも悪くない、私は悪くない、間違っていない。能天気に他のファミリア・メンバーを信用するベル様とハリー様が悪いのです、能天気なのが悪いのです。
私はどこも悪くないのです。だから! 今! 私がやっていることは! どこも悪くないのですっ!!」
だがリリルカは分かっていた。本当に自分が悪いとは思っていないのであれば、こんな風にぶつぶつと言い訳を呟く必要はない。心の何処かで、ベルとハリーは今までパーティを組んできた冒険者とは違うというのを感じていた。それは年齢が近いという事が原因かも知れないし、二人とも世間知らずだということが原因かもしれないし、人を信用しやすいというのも原因か知れない。だから、ベルとハリーを食い物にしているという自覚があるため、自分を説得するために、こんなに必死に自分に言い聞かせるように呟いているのである。
「だから、これは、冒険者にたいする! 当然の権利っ! リリの復讐なんですっ!」
そういいながら、リリルカはペンの動きをやめない。
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キラーアントの攻撃を受け、弾き飛ばされるペル。
だが、パリーがすばやく動き、壁にたたきつけられる前にペルをやさしく抱きとめる。
《大丈夫か》
すばやくボティチェックでペルに怪我が無いことを確認するパリー。
《ふ、ふん! ちょっと油断しただけだ。僕があんな雑魚にダメージを受けるとでも?》
つよがるペル。だがいつもの彼ならば、弾き飛ばされることはなく、華麗に回避できているはずである。
《まあ、そういうことにしといてやろう。さくっと片付けるぞ》
苦笑いしながらもパリーは指示を出す。
それを合図にペルがキラーアントに接近。攻撃を加え反撃してくる相手の噛み付きをさけ、頭部を殴りつけるように斬りつける。姿勢が崩れたキラーアントに蹴りを入れて転ばせる。そしてそこにパリーが魔法を撃ち込み、止めを刺す。
《やればできるじゃん》
今度は褒めるパリー。
《べ、べつにいつものことだし! あんたに言われたから注意して戦ったわけじゃないんだからね》
そういうとペルはぷいっと、パリーから視線をそむける』
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「そう、これは、冒険者様に対する復讐なんですっ! ハリー様はご自分は○モではないとおっしゃっていましたが、この話の中では○モなのです!」
そういいながら、リリルカは執筆を終えるのだった。
「くくく、これで後はこの原稿を
リリルカは自分の境遇を恨んでいた。成長しない恩恵を呪っていた。そこでふと冒険と関係無いところで、頑張れば良いのではないかと考えたのだ。
それでリリルカは、自分の妄想を小説として書き出してみたのだ。自分でいうのもなんだが、実在の冒険者、すなわち、ベルとハリーをモデルにしているためか、とても妄想がはかどるし、ストーリーとしても良くできているんじゃないだろうか。明日、出版社に持ち込む原稿をまとめて袋に入れながら、リリルカは自画自賛する。
そう、冒険者の才能がな無ければ無いで、別のことで勝負すれば良いのである。
脱退した後は、
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翌日、リリルカは前もって約束していた出版社に出かける。知り合いに見られると困るので、今日はシアンスロープの少女に変装し、偽名もアドリアーナ・バジーレとしている。
黒髪でちょっと唇が横に厚ぼったい担当者に会い、パーティーションで仕切られた打ち合わせ用のブースに通されると、早速原稿を渡す。
「題名は『ダンジョン探索。二人は冒険者』。ふむ、まあ、いいでしょう」
縁なしの丸眼鏡をくいっと持ち上げて位置を直すと、早速、担当は小説を読み始める。最初はあまり興味をもたなかったようであるが、だんだんと熱中していく。顔を紅潮させ、鼻息が荒くなっている。ちょっと人前でして欲しくないというか、残念な表情である。待つ間リリルカは、ぼうっとしながら、次の話のストーリーを練りこむ。
担当者が熱中し、原稿をめくり、一心に読んでいく。その様子を見てリリルカは確かな手ごたえを感じる。これだけ熱中して読んでいるのだ。よもや採用されないということは無いだろう。
ようやく、担当者が原稿を読み終える。とんとんと原稿をそろえながら感想を述べる。
「いや、なかなか面白いですね。ダンジョンを舞台にした小説はありましたが、恋愛模様をそれに絡めたものはまだ少ないですね、しかも両方が男性とはなかなか切り口が興味深い。これはいけると思います。上の承認が一応必要ですが、間違いなく出版されますね」
そういわれてリリルカは、採用されたことに安堵するのと同時に、ここで出版が決定されることに疑問を感じる
「ふふ、その表情、疑っていますね。実は私の担当作品が今までに四つほど大当たりになったので、
そういうと担当者はリリルカも知っている有名どころ作品を三つあげる。最後の一つは、知っているどころではなく、世界規模で有名な話であった。
そんな大物担当者が相手をしてくれることに冷や汗が出るが、同時に、そんな大物に太鼓判を押されたことに誇らしい気持ちになる。
「少々手直しをしていただく点がありますが、では早速契約をしましょう。バジーレさん」
そういうと担当者は契約書を持ってきた。リリルカは上から下までじっくりと読む。うかつにサインして、はした金の原稿料しかもらえなかったら、目も当てられない。特に問題がないことを確認して、もう一度上から下まで念のため読み直す。リリルカはサインしようとしてふと止める。
「ペンネームはどうしましょうか? あとサインはペンネームでもよいでしょうか?」
担当者は苦笑する。
「サインはペンネームでは困りますね。あと使いたいペンネームが決まっていますか?」
「では、アニータ・アッシュで」
そういうとリリルカはアドリアーナ・バジーレとサインした。ペンネームはだめだが偽名はだめだといわれていないし、問題ないだろうと自分で言い訳しながら。
「で、手直しをお願いしたい点なんですが、バジーレさん、読みやすくするためにある程度のところで、改行して文章に隙間を空けてください。文字がぎっしりと詰まっていると視線が滑りやすいです。
逆に改行ばっかりだと隙間だらけで、これもまた逆に視線がすべるので、やめてくださいね。
あと、だらだらと文章を長くするのではなく、適当なところで文章を終わらせてください。これらはすべて読みやすくするための工夫ですから、覚えておいてくださいね」
「・・・・」
そういうと担当者は次々と駄目だしをしていった。基本的に話の内容ではなく、いかに読みやすい文章にするかというテクニックがメインであった。内容についてはこれで良いのだろうか。不安になるリリルカ。
話が一区切りした後リリルカは確認する。
「あのぅ、話の内容に関しては問題は無いんでしょうか?」
「斬新な切り口の話ですからねぇ。つまり新しいジャンルのものになるわけですから、こればかりは問題が有るとも無いとも、いえないのです。それより、話の続きは考えているのでしょうか? 読者の一人として気になりますね~」
そういうと、担当者は原稿のこの部分はよかった、あの部分は意外な展開だったと感想をしゃべり始め、リリルカと盛り上がるのだった。
そして最後にタイトルの話になった。
「『ダンジョン探索。二人は冒険者』はちょっと、変えましょうか」
「え、だめでしょうか? 迷ったけど、なかなか良いと思うんですが?」
「もうちょっとキャッチーなほうが良いですね」
「そうですかねぇ・・」
この時点で長時間にわたる打ち合わせで、リリルカは疲れていた。そのため、担当者の次の提案に頷いてしまった。
「ふむ・・私につけさせてもらっても?」
そういうと、担当者は、眼鏡を人差し指で持ち上げて、位置を戻す。そして、原稿を手に取り、ぺらぺらとめくりながら考える。
「そう、読んでいた時の気持ちをそのまま出すと、そうですね、『ドキドキ! ダンジョンラブ!!』とうのはどうでしょうか」
最後のほうのページにもう一度目を通しながら、担当が提案する。
リリルカはしばし迷ったが、担当の機嫌を損ねるよりは良いかと考え、気力も尽きていたので、それにうなづいた。
小説は長いので、持ち込まれた時に原稿を読むことはなく、預かってから読むと思うんだけれど、話の都合上・・
あと、担当者のだめだしは、適当です。
次回は『モンスター・パーティ』、早めに投稿します