ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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ファイアボルトと光の御柱

「ファイアボルト!! ファイアボルト!! ファイアボルト!! ファイアボルト!!」

 無駄に無駄の無い無駄な動きで無駄に魔法を乱射しながら、真夜中のダンジョンを無駄に元気に走る回る冒険者。そうベル・クラネルである。魔法を覚えたので、嬉しさのあまり、ホームを抜け出し、ダンジョンにもぐりこんだのである。

「ファイアボルト! ファイアボルト! ファイアボルト! ファイアボルト!」

 ベルが覚えたのは、詠唱文どおりに、炎属性がミックスされた雷が打ち出される魔法である。5階層程度のモンスターであれば、一撃で倒すほどの威力があった。

「ファイアボルト。ファイアボルト。ファイアボルト。ファイアボルト」

 調子に乗って走り回り、魔法を使いまくる。そう、ベルはハリーという規格外の魔法使いと行動していたので、忘れていることがあった。

「ファイアボルト・・ファイアボルト・・ファイアボルト・・ ファイア・・ボルト・・ 」

 それはミアハにも相談した、何故かハリーはマインドダウンしないという規格外の現象。それはハリーだからこその話である。まあ、ベルは、相談した内容がハリーのことだとは察していなかったが。

「・・ファイア・・ボ・・ル・・ト・・」

 ベルは当然ながら、魔法を使いすぎるとマインドダウンに陥る。魔法を使いステイタスの魔力を挙げていたら、マインドダウンに落ちるまで時間がかかっていただろうが、ベルは魔法を覚えたばかり。当然マインドダウンになるのも早く、初めての経験、感覚に、簡単に意識を失う。魔法を打ち出す姿勢のまま、前のめりにダンジョンの床に倒れこみ、そのまま意識を失った。マインドポーションを飲む習慣がハリーにあれば、ベルも魔法を使ったらマインドを回復させるということを覚えていただろうし、当然こんなことにはならなかったであろう。

 

 このままでは、運が良くて、他の冒険者に身包みはがされ、運が悪ければダンジョンに出現するモンスターに息の根を止められるであろう。だが、ベルにとって極めて運が良いことに、下層から地上を目指す冒険者二人が通りかかった。

 一人はリヴェリア。

 もう一人はアイズ・ヴァレンシュタイン。

 下層で階層主を討伐しての帰りであった。二人はベルに気づき、さっそくリヴェリアがベルの症状を調べはじめる。

「外傷は無い。毒などを受けている様子でもない。装備からして初心者を抜け出したところか。武器を鞘に収めているということは、魔法を覚えて試し撃ちをしているうちにマインドダウンを起こして倒れたということか? 魔法を覚えるには早いとは思うが・・まあ、これも何かの縁。地上に運ぶとするか」

「まってくれリヴェリア。私に任せてくれないか」

 アイズがそれを止める。

「例のミノタウロスの時の冒険者が彼なんだ。私はいろいろと謝りたいんだ」

 それを聞いて、抱えあげようとしていたベルを降ろすリヴェリア。

「ああ、ベートが話題にしていた冒険者か。確認していなかったが、ベートが言っていた様に、怖がらせてしまったのか?」

 横を向いて視線をそらし、剣の柄をいじるアイズ。それだけで何かを察したのか、リヴェリアはアイズの肩をぽんぽんと叩く。そして、いくつかアドバイスを言い残して、一人で地上に向かった。この階層ならば、モンスターパーティが発生しても、たとえ冒険者一人を抱えていたとしても、アイズならば切り抜けられると判断したのだ。

 

 

 残されたアイズはアドバイスのとおりに、床に座り込み、ベルの頭を膝に乗せる。そして、自然にベルが目覚めるのを待つ。待っているうちに通路の奥からモンスターが現れる。壁からもモンスターが時々生み出される。それらをすべて、アイズはスリケンの一撃で魔石ごと破壊していた。膝に乗せたベルの頭を揺らさないように、腕の力だけで投げて破壊したのである。抜群のバランス感覚と、熟練の投擲技術と、恐るべき膂力であった。

 ベルか意識を取り戻すのを待っているうちに、アイズは、リラックスしてふと意識に上った歌を口ずさんでみる。いつ覚えた歌なのか。ロキ・ファミリアに入る前・・師匠と修行する前・・まだ両親が居た頃に覚えたのだろうか。なんとはなしに懐かしい気持ちになる。そのまま膝に乗せたベルの頭を優しくなでる。

 

 そうして過ごすうちにマインドが自然回復し、ベルが目覚める。両目を明け、しっかりと意識を取り戻す。

 上から覗き込んでいたアイズは、怖がらせないように、にっこりと微笑み、優しくそっと話しかける。

「おはよう」

 ベルは固まった。初めてアイズにあったときのことがフラッシュバックする。ミノタウロスに袋小路に追い詰められたこと。ミノタウロスが豪腕を振りかぶって殴りかかってきたこと。死ぬと思った瞬間、ミノタウロスが爆発し、血まみれになったこと。同じく返り血で血まみれのアイズ・ヴァレンシュタインと目が合ったこと。そのあまりの美しさに何も考えられなかったこと。気づいたら、ギルドに向かって地上を走っていたこと。

「ヴええエエャェェァァフフフフファィゥゥゥ」

 そこまで、思い出し、今アイズと目が合っていること、膝枕をしてもらっていることに気づき、てんぱってしまったベルは奇声を上げて飛び起き、全速で走り出した。敏捷がAになっているだけあり、とてもすばやい。だが、アイズはその素早さの上を行っていた。

 10mほど走ったところで、ベルは腰のベルトをつかまれ急停止し、バランスを崩して転がってしまう。

「おいつ・かれた・・」

 捕まったと思ったベルだが、実際には、アイズは一歩も動いていない。それ以前にまだ床に座ったままである。ベルを止めたのは、アイズが持ち歩いているフックつきのロープである。フックがベルの腰に括り付けられ、ロープの反対端がアイズに握られている。

 そう、前回ベルが走り去ったことでアイズは予想していた。今の状況を判断するに、今回も脱兎のごとく逃げ出すだろう。ならば、捕まえられるようにしておこうという、それだけのことである。

 ゆっくりと、ゆっくりと、怖がらせないように立ち上がり、両の手の平を胸の前で合わせると挨拶をする。

「ドーモ、冒険者=サン。アイズ・ヴァレンシュタイン、デス」

 そして、ぺこりとお辞儀をする。

「ドーモ、アイズ・ヴァレンシュタイン=サン。ベル・クラネル、デス」

 ヘスティアから(実際は違うが)極東方式の挨拶を聞いていたため、ベルも同じ方式で挨拶をする。そしてアイズは怖がらせない様に、ゆっくりとベルに近づきながら続ける。

「地上に戻りながら話をしたいのだけど、よいだろうか」

 もちろん、ベルには否は無い。がっくん、がっくんと上下に首を動かす。そうして二人は、並んで歩き始める。ベルの右手と右足は同時に前後している。それほど緊張していた。沈黙が落ちる前に、アイズが怖がらせないように慎重に話しを始める。

 

「そのう、・・ごめんなさい・・。初めてダンジョンで会った時、ミノタウロスの時の事だけど、助けなければと思って、ああいうふうになったので、怖がらせるつもりはまったく無かった」

 ベートが『おぉ、怖い怖い』とからかっていたので、ベルを怖がらせたと心の底から信じているアイズであった。

 ベルは慌てる。アイズの前に出て、後ろ向きに歩きながら、わたわたと手を振りながら釈明する。

「いえいえ、怖くて逃げたんじゃないんです、僕、びっくりしちゃって。それでパニックになって走り出しただけなんです。そのう、突然だったから!」

 綺麗な人に会って恥ずかしかったから、とは言いづらいベルは『突然だったから』をアピールする。小動物が慌てたような独特の雰囲気を漂わせるベル。それが説得力を持たせたのか、アイズはその言葉を信じたようだった。ほっと緊張が抜ける。ベルも落ち着いて前を向いて歩き出す。

 

「それに、店でも、ひどいことを言った」

 豊穣の女主人でベートが散々ベルをけなしたことも謝る。

「いえいえ、アイズさんが言ったわけじゃないですし、それに僕が弱いのがいけないんだし。でも、あれから僕も鍛えて強くなってきたんですよ! 魔法も覚えましたし!」

 ベルは右腕をまげて力瘤を作って見せるが、防具に隠れて見えなかった。それに魔法アピールしながら、力瘤を見せようとするのは、ずれてると言わざるを得なかった。その様子からベルが本当に気にしていないとアイズにも分かり、少しだけほっとする。

「そのう、心配だったんだ。あんな死にそうなめにあったし、散々嫌味を言われたから、冒険者を辞めたんじゃないかと・・・」

 そう気になっていたのはその点。

「でも、君はあんな目にあったのに、冒険者を辞めないんだね。何故?」

 あなた(アイズ)に追いつきたいんですとは言えず、ベルはもう一つの目標を言う

「英雄に」

 拳を握り締め、目に力を込め、真っ直ぐな眼差しで前を見つめ、ベルは言う。

「英雄になりたいんです。強くなって、皆を守れるような。皆に誇りにされるような。そんな英雄になりたいんです」

 英雄。アイズにとっての英雄とは、何だろうか。アイズは自問してみるが、亡くなってしまった親がそれにあたるだろうか。戦い方を教えてくれた師匠のことも脳裏をよぎったが、師匠は師匠で、英雄ではないなぁとアイズは思う。

 

 アイズには何になりたいという目標は無い。モンスターを殺すことだけが目標といえば、目標か・・。自分というものをあらわすといって過言ではない自身のステイタスの思い起こし、思考が暗くなる。ステイタスはアイズに人生を突きつける。自分はカラッポな人間だと思い知らされる。モンスターを殺すだけの殺戮人形だと。そんなアイズにとっては、真っ直ぐに未来を見ているベルが輝いて見えた。

「・・私にはそんな目標は無い・・目標がある君がうらやましいな」

 アイズが呟くと、ベルが驚く。ベルにとってはアイズも目標の一人(英雄で)ある。そんな目標にうらやましがられるとは思わなかった。だから、その後、言ったことも、本当に反射的に出た言葉だった。

「じゃあ、一緒に英雄を目指しませんか? 目標が無いんだったら、作ればいいんじゃないかと思いますよ」

 アイズは思わず立ち止まる。ベルは一、二歩進んでからアイズか止まったのに気づいて、立ち止まり、振り返ってにっこりと微笑む。

 つられて、アイズの表情もすこし緩む。

「そう・・だね・・別に目標はあっても、構わないんだね・・」

 気持ちが大分楽になったのをアイズは感じる。あることにさえ気づいていなかった重荷が、肩から降ろされたような感覚だ。

「ありがとう、そのう・・いろいろと。ミノタウロスや、豊穣の女主人でのことを許してもらえて。私にできる範囲でお礼がしたいのだが、できることはあるだろうか」

 そういわれて、ベルは驚く。オラリオでトップに位置する冒険者から、こんなことを言われるとは思っていなかったのである。だが、これはチャンスだった。ジャンピング・ドゲザをして頼み込む。

「僕に戦い方を教えてください!」

 

 アイズは、驚いていた。お願いの内容に驚いたのも事実だが、それ以上にドゲザに驚いた。師匠から教えてもらった時には知らなかったが、これは極東の風習である。それを何故この少年は知っているのだろう。先ほどの挨拶も極東方式でやっていたし。ちなみにロキやリヴェリアは知らなかった。どこから、この知識を得たのか分からないが、アイズはベルに興味がわいた。

「いいよ。ただし、次の遠征の準備が始まるまでの期間限定で。あと、早朝の二時間。ごめんね、私にも都合があるから・・」

「かまいません! ありがとうございます!」

 飛び起きたベルは大喜びである。

「じゃあ、場所は南側の城壁の上でどう? 人が来ないし、広さも手ごろ。明日からはじめよう?」

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 そうこう話しているうちに二人はダンジョンから地上に出てきた。

「それじゃあ、明日の朝から─」

 そのときオラリオに大音響が響き渡る。

 あわてて、二人は周囲を見渡し、一本の光の御柱が、夜中のオラリオ市外にそそり立っているのを見つける。その間に、音で起きた人々が建物から出てきて騒ぎ始める。

「あれは・・?」

 怨み声のように聞こえる大音響の中、ベルの呟きにアイズが答える。

「神々の送還」

 アイズは昔の記憶、ロキ・ファミリアに入ったころの記憶を探る。たしかフィンが闇派閥を壊滅させた時期の事・・。

「昔、見たことがある。天界から降りてきた神々の一人が今、強制的に天界へと還らされているのだ・・」

 びりびりと響く音の中、アイズは、軽く右拳を握り締め、虚空へと正拳突きを放つ。自分の動きを確かめ、恩恵が失われていないことを確認する。

「うん、ロキは無事。ベル、恩恵は感じられる? すこし動いてみて?」

 ベルもその言葉に体を動かしてみるが、いつもと同じである。

「特におかしなところはないです・・・」

「動きに切れが無いとか、身体が重いとかは無い?  じゃあ、君の主神も無事。とにかく。明日からと思っていたけれど、この騒ぎでは、修行は明後日から。私はホームに戻る。君も自分のホームに」

 そういうとアイズは走り出した。

 アイズの背中に向かってベルはぺこりとお辞儀をする。そして教会地下に向かって走り出す。

 

 

********

 

 

 その間にも、建物から出て騒ぐ人たちは増えていく。走りにくいと感じたアイズは、怪物祭の時のように、壁を蹴って建物の上に登り、屋根を走ることにする。そうして、屋根伝いに走っていると奇妙なものを発見した。

 最初は鳥だと思った。空を飛んでいたからだ。だが、夜に鳥は飛ばないし、全長が2m近くあり、明らかにサイズが鳥ではない。それで次に思ったのは飛行タイプのモンスターである。ならば殺す! と勢い込んで、接近すると、ようやく正体が分かった。箒にまたがって飛ぶ男女?の二人組みである。男が前に座り、その後ろに小さな少女が乗っている。男の姿に見覚えがあるような気がしたが、とにかくこの騒動の原因かもしれないので、追跡する。

 箒の男女は、結構なスピードでオラリオ上空を移動し、空にそびえるバベルへと接近する。箒はバベルを周回する。明かりの点いた窓が開き、そこから手招きする人物が見えた。そこに向かってアイズは、バベルの外壁を駆け上る。アイズが窓につくのと、箒が窓から中に入ったのは同時だった。そこには、アイズが見知った者達が居た。

 

 一人はヘファイストス・ファミリア団長、椿・コルブラント。もう一人は、その主神の鍛冶神(ヘファイストス)。箒に乗っていた見覚えがある男は、怪物祭の時にレフィーヤを成行きで護衛していた魔法使い。最後の一人は10歳ぐらいに見えるが神気が感じられる黒髪ツインテールの少女。

 全員、窓の外に突然現われたアイズに驚いている。椿が幾分か呆れを含んだ声をかけてくる。

「アイズ、おぬし、何をやっておるんだ?」

「神が送還される光が見えた。空を飛んでいる人物が怪しいので追ってきた」

 それを聞いて鍛冶神が問いかける。

「ヘスティア、あなたたち、この送還の騒動にかかわりは無いわよね? 何か知ってることはある?」

「いえ、僕たちも寝ていたら、大音響が聞こえたので、バベルに状況を調べに来たばかりです」

 神に対して嘘が付けない子供(ハリー)が答える。

 鍛冶神はアイズにも何か知らないかと尋ねるが、アイズも何も知らなかった。

「皆、何も知らないようね。神会の場所に行きましょう。どうせ他の神々も来るだろうから、そこに居るのがいろいろ知るには手っ取り早いわね」

 そういうと、鍛冶神はヘスティアと部屋を出ようとする。

「椿、悪いんだけど、ハリー・ポッター君と、他の神の護衛で一緒に来るだろう別ファミリア代表と待機していてね。ヴァレンシュタインはロキのところに戻ったほうが良いと思うわよ」

 だが、ヘスティアが別に指示を出す。

「いや、僕はヘファイストスから離れないし、バベルから出ないから大丈夫だ。心配しないで良い。だからハリー君はできれば、ホームに戻ってベル君が戻っていないか確認して欲しいんだ。大丈夫だと思うが、何か事件に巻き込まれているかも知れない」

 聞いたことがある名前にアイズは反応する

「ベル? ベル・クラネル?」

 その呟きにヘスティアがすばやく振り返る。

「ヴァレン某君、何故君がベル君の名前を知っている!? 答えるんだ!!」

 アイズは正直に答える。

「さっきまで一緒に居た」

 その宣言にショックを受け、よろけて倒れこみ床に両手をつくヘスティア。

「何ってことだ・・。いつの間にベル君とそんな仲に。ゆ、油断もすきも無い。・・許さん! 許さんぞぉ、某君!!」

 いきり立つヘスティア。だが鍛冶神がヘスティアの頭に鉄拳を落として黙らせる。鍛冶で鍛えた腕力は伊達ではなかった。

「はいはい、いいから、神会の場所に行くわね。それでそのベル君は、今どこに?」

「主神の警護のために、ホームに走って戻った」

 それを聞いて元気よく、跳ね起きるヘスティア。右手を腰にあて、左手をアイズに突きつけ、宣言する。

「ふぅぅぅはははははは! 勝った!! ベル君の中では、やはり僕の方が大事なようだな! 負けを認めて大人しく帰るが良い!!」

 そこでまた鍛冶神の鉄拳が唸る。

「この一大事になにやってるのよ・・。まあ、ヘスティアの言うことにも一理あるわね。ロキなら大丈夫だと思うけど、逆にロキがあなたの事を心配してるんじゃないかしらねぇ。戻ってあげたら?」

 椿も隣でうんうんと頷いている。ハリーに視線を向けると申し訳なさそうに頭を下げて、主神の態度を謝ってきた。

「分かった戻ることにする。すまないが窓からのほうが早いのでこちらから失礼する」

 そういってアイズは窓から飛び出し、バベルの壁面を駆け下りてホームへと向かう。

「じゃあ、ヘスティア。私たちは神会の場所で情報が来るのを待ちましょうか」

 そういうと鍛冶神はヘスティアの耳を抓りあげて、そのまま耳を引っ張って部屋を出るのだった。

 

 

********

 

 

 そのとき、眠っていたリリルカ・アーデは大音響でたたき起こされた。

「な、なにごとですか?」

 ソーマ・ファミリアに、この場所をかぎつけられたのか、それとも他の冒険者が押しかけてきたのか。

 

 だが、怨嗟の声が重なり合ったような、この大音響は途切れることなく続いているが、扉を叩く音は聞こえない。あわてて、窓から外を見ると、周囲の住民も、道路に飛び出して騒ぎ始めている。それだけではなく、オラリオ市街から夜空へと伸びるまばゆい光の柱も見える。

 強盗がきたわけではないと分かり、ほっとするリリルカ。だが、このわけが分からない状況では寝ているわけにも行かない。いつでも動けるように着替えをしようと考え、リリルカは服をばたばたと取り出し、変身魔法を使う。だが、魔法が発動しない。あわててもう一度詠唱する。だが、発動しない。更にもう一度唱えるが発動しない。青ざめるリリルカ。ふと思いつき、部屋の隅においているバックパックに手を伸ばし、持ち上げてみる。だが、その重量で持ち上がらない。姿勢が悪かったかと、まじめに両手をバックパックにまわして、持ち上げようと力を入れる。だが結果は同じ。昨日まで軽々と持ち上げていたバックパックが持てない。

 

 もうこの事態になれば、これら(・・・)が意味することはリリルカにも分かった。しゃがみこみ、ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、これからどうすべきか考える。

 古い恩恵からは解き放たれた。だが、ソーマの仲間に見つかるのはまずい。見つかった場合は、無理やり意に染まないファミリアへの入団を強制されられ、また搾取されるかもしれない。ヘスティア・ファミリアへ入るには急いだほうが良い。そうリリルカは決断すると、急いで着替えを終える。

 もともとステイタスが低かったリリルカは、それがなくなっても不自由はしない。体と魂の同調がずれるということも少ない。身軽に、目立たないように、ゆっくりと、ひそやかに、こっそりと、リリルカは部屋を後にし、ヘスティア・ファミリアのホームを目指した。普段から、冒険者から隠れるために、目立たない抜け道や、身を隠す場所を使っていたのが役に立った。道路で騒ぐ人々に見つかることなく、リリルカは陰から陰へと慎重に移動を続け、ようやく廃教会まで辿り着いた。

 

 きしむドアを開いて中に入り、暗い階段を地下へと降りる。ドアに辿り着いた時に、嫌な考えにとらわれる。どうして、この騒ぎの中、誰も居ないのか。ハリーかベルが外に出て様子を調べていても良いのに。もしかして、ここには今誰も居ないのか? 不安に囚われたまま、リリルカはドアを軽くノックするが返答が無い。ドキドキする胸をなだめながら、もう一度、今度は強くノックする。だが返事が無い。その時、後ろから肩をつかまれる。

 誰かに後を付けられたか、それとも強盗かと心臓が跳ね上がるリリルカ。だが同時にかけられた声は世界でもっとも頼りになる声であった。

「リリ?」

 すばやく振り向いた先にはベルが居た。安堵のあまりリリルカはベルに飛びついて抱きしめる。

「ちょっ、リリ!? どうしたのさ」

 安堵したのでリリルカはちょっと涙を流す。

「何でもありません。ベル様。いえ、何でも無いわけではないのですが・・。まずは中に入れて、かくまって戴けないでしょうか」

 いきなり抱きつかれて真っ赤な顔になったベルは鍵を開けて中に入ると、リリルカから事情を聞いた。

 

 無事に目的地に着いたことで落ち着いたリリルカは、早速、説明を始める。

 大音響で目が覚めたこと。恩恵が消えていること。原因は、恩恵を授けた主神、つまりソーマがおそらくは天上へと還り居なくなったこと。元ファミリア・メンバーから意に染まぬファミリアへ入団を強制されるのを避けるために、此処にきたことなどを話した。

 ベルもダンジョンから出たら、あの音と光が見えたこと。光は神が天上へと還る印だと聞いたこと、何が起こるかわからないので、ホームに急いで戻ってきたことを話した。

「でも、神様もハリーも居ない・・」

 そう呟くベルにリリルカがテーブルの上に残されていたメモを渡す。そこには、『誰かは分からないが神が天上に戻った。情報収集のため、バベルに出かける。ベル君は此処で待機すること』とヘスティアの筆跡で書かれていた。

 他二人の居場所が分かり安心したベルたちは、待機準備を始める。とはいっても、誰かが万一来たときために、リリルカの隠れ場所を作るだけだ。

その後、二人は、まんじりともせずにヘスティアたちが戻ってくるのを待つのだった。

 

 

************************

 

 

 結局二人が戻ってきたのは、翌日の午後を半分過ぎたあたりだった。

「ただいま~、ベル君。いやー、まいったよ。すまないがまずはお茶を煎れてもらってもいいかな?」

 疲れきったヘスティアは、どかりとソファーに座り、後ろに倒れこむ。そしてそこでリリルカが居るのに気がつく。

「ん、ああ、サポーター君!? なんでここにって、ああ、そうか、君はソーマの所のメンバーだったな」

 驚いたが、リリルカの主神が誰であったかを思い出し、ヘスティアは合点がいった口調になる。

「はい、ソーマ様の恩恵がなくなったので、こちらに隠れていました」

 背もたれに頭を乗せてぐったりとしたポーズで、ため息をつくヘスティア。

「まあ、そうだろうなぁ・・。眷属が最初に気づくよね。じゃあベル君、サポーター君。昨日の事で分かったことを教えよう。ハリー君も一部聞いているとは思うがもう一度聞いていてくれ」

 そういうと、頭を起こしてヘスティアは説明を始める。

 

 昨日、天上に還ったのはソーマ。

 ソーマのホームを、ギルド職員とガネーシャ・ファミリアが共同で調べた結果、判明した事と推測される事は以下のとおり。

 ソーマの居室と思われる場所では、団長の酒守含め、複数の団員の死体があった。死体には拷問された後があり、おびただしい出血が見られた。ただ、ギルドで確認した限りでは、神血は流れていないことから、ソーマに拷問はしていないようだ。また備蓄された資材もいくつか荒らされた形跡がある。

 このことからギルドの見解は、神酒狙いでソーマの酒蔵を襲撃。神酒の造り方を聞き出そうと、眷属を拷問したが、失敗。続いてソーマ自身を拷問しようとしたが、ソーマ自身が命の危険を感じて天上へと帰還した。犯人は逃亡。

「とまあ、ここまでが昨日の出来事だね。ギルドのメンバーとガネーシャんところが調べたことだ。大体はあっていると思うよ」

「あのう神様」

 そこでハリーが片手を挙げて質問する。

「神様って言うのは、身の危険を感じたら、天上に還るものなんでしょうか?」

 ベルも疑問に思ったのか、うんうんと頷いている。

「まあ、そこは分からないが、結果としては同じだったと思うぜ。僕たち神々は命の危険があるほどの重症を負うと、自動的に肉体が修復される。これは神の力で修復されるんだ。そして、地上で神の力を使えば、自動的に天上に送還される。

 今回のケースで言えば、自分で還らなかったとしても、拷問で重症を追って神の力を使うだろうから、残念ながら結果は同じというわけだ・・」

 そしてヘスティアはリリルカに視線を固定する。

「あと、ソーマ自身の性格もあるかもしれない。サポーター君、拷問が避けられないとなったら、ソーマは天上に還っただろうか?」

 だが、それに対して、リリルカは首を横に振る。

「わかりません。そこまで親しくお付き合いが出来たわけではありませんから・・お金が無かったので・・」

「う、すまない。じゃあ、ここからはそれを踏まえて神会で決まったことだ」

 

 ソーマ・ファミリアは解散。過去一年以内に改宗(コンバージョン)して入団した者が居ないことから、元メンバーの他ファミリアへの改宗(コンバージョン)は問題なく認める。

 ファミリアの財産は神酒も含めて一時的にギルドが没収。関係団体へと債務がある場合は、そこから支払われる。ソーマ・ファミリアへの債務がある場合は一ヶ月以内にギルドに申し立てること。それを過ぎた場合は請求を認めない。

 そして一ヶ月後に、残った財産を元メンバーに分配するのでギルドに受け取りに来ること。

 

「以上だ。さて、サポーター君。早速だが、君に確認したい。以前、君はうちへの入団を希望していたが、今でもそうなのかい?」

 きわめてまじめな顔でヘスティアはリリルカに問いかける。いつもお茶らけているような顔のヘスティアであるが、今は、ハリーをファミリアに誘ったときと同じまじめな顔をしている。こんな顔を見ると、何時もはあんなナリだけれど、実際には神様なんだなぁと感心するベルとハリーであった。

 それに対して、リリルカもまじめな顔で答える。

「はい、私はベル様の力になりたいんです。ベル様と同じファミリアに居たいんです。ファミリアに入れてください!!」

 

 こうして三人目のメンバーが入団した。




お巡りさん、犯人はあの人です! (*・д・)σ

それはともかく、ソーマに関しては、ご都合主義すぎると非難されるでしょう。すいません。申し訳ない。作者の力量不足です。
ソーマが還らない方法を考えたのですが、どう考えても還ってしまうんです。すまない・・。本当にすまない・・
次回『ベル、特訓する』です
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