夕方に、ギルドから今回の騒動に関しての発表が行われた。ソーマ・ファミリアが解散したことに対する混乱は特に無かった。一部の酒好きが、神酒の値段が爆発的に値上がりしたことに嘆いたぐらいである。あとは素行が悪いファミリアがなくなったことに安堵した者も、もしかしたら、居たかも知れない。
オラリオの一般市民にとっては、神酒など所詮は高値の花で最初から縁が無いものだったし、冒険者が一般市民に対して素行が悪いとガネーシャ・ファミリアが出張ってくるので特に問題になるようなことは無かった。
そして、それと共に発表されたアイズ・ヴァレンシュタインのランクアップ。深層階層主を単独で撃破したことによるレベル6到達。ソーマの件がなければ、オラリオを大いに沸かせたであろう発表も、今回ばかりは時期が悪く、一部のものに大きな影響を与えたに収まった。
そして、その大きく影響を受けた者の一人がベルである。目標がさらに高みに上っていっている。それに対して自分はどうなのであろうかと、自問し、あせる気持ちを押さえ、出来ることはすべてやらねば、そしてそれだけでは足りないと決意を新たにするのであった。
そしていつもの日常が戻る。
ベルは早朝からアイズとのトレーニング。
その後ハリーとリリルカと合流してダンジョンへと潜る。向かうは11階層。そこで一日過ごし、夜には三人とも恩恵の更新をする。リリルカは毎日更新することに驚いていたが、ベルとハリーの成長速度が異常に高いことをしり、納得していた。
そんな日々が続く中、ベルはめきめきと成長していた。
「すごいですねベル様。これだけの数の敵だと、今まではもう少し時間がかかっていたと思うのですが。ステイタスだけではなくて、動きが熟練されてきたといいますか・・。何かコツでもお掴みになられましたか?」
手早くモンスターの解体をしながら、リリルカが感嘆の声を上げる。
「いやぁ、周りがよく見えるようになったというか、あっははは」
アイズとの特訓の成果が出ており、ベルは戦場全体を意識して戦うように気をつけ、戦場を支配することに挑戦していた。それは難しいことであったが、成果は出ていた。
だが他ファミリアのアイズと特訓しているとは言えず、笑ってごまかすベルであった。
特訓では、主に模擬戦をしており、一撃をアイズに当てることが課題としてベルに課せられていた。だが最初の日から今日まで、掠めることさえ出来ていなかった。逆にポン・パンチを腹にくらって悶絶する事が多い。自分で技を受けることも、技の理解につながるとアイズは言っていたが・・・
「そうでございますか。でも、そろそろ時間も遅くなってきましたし、そろそろ地上へと戻りませんか?」
「今何時ぐらい?」
「もう八時を過ぎてますね」
「はぁ!?」
驚くベル。彼はまだまだ夕方にもなっていないと考えていたのだ。
「え、どうしたのベル? ギルドの混雑を避けるために、ダンジョンに入る時間を少し遅くして、その分帰るのも遅くしようって決めたじゃないか」
「そうですよ、毎朝どこかに出かけて、ダンジョンにもぐる前からぼろぼろになってますけど、何か頭に重症でも負ったとかは無いでしょうか?」
ベルの様子を心配するハリーと、心配しているのかどうか疑問になるリリルカの問いかけ。
「いやいやそんなことは無いよ! ただ、ランクアップするにはどうしたらいいのかなと考えてたから、時間感覚がずれたんだと思う」
アイズとの特訓する時間を作るために、でっち上げた言い訳をすっかり忘れていたベルであった。心配する二人にあわてて、ごまかすベルであるが、ハリーはそれをまじめに受け取った。
ステイタスが上昇するにつれて、魔法の効果は上がっているハリーだった。だが、姿現しで元の世界に戻れるという手ごたえが無い。このまま成長しても無理だと感じていた。となると、噂で聞く、あらゆる能力が強化されるランクアップをするしかないのだろうかと、最近は考えているのだった。
「
魔石の抜き取りが終わり、バックパックに仕舞いながら、リリルカが呟く。確かにエイナにそんなことを聞いたら、また無茶をするのかと怒られるだろうことは明らかだった。
「豊穣の女主人」
ふいにハリーが呟く。
ベルと、リリルカがハリーを見つめる。
「以前、あそこでリオンさんにランクアップの方法を聞いたことがある。一つはアビリティが最低でも一種類はDに達していること。もう一つは偉業を達成すること、だったかな」
ベルとハリーはアビリティはすでにAを突破している。だから条件の一つは問題ない。さて偉業とは? ベルは始めて聞く言葉であった。
「偉業、ですか? 何を持って偉業というのでしょうか?」
リリルカも疑問に思ったようだ。そうして、よっこいしょっと掛け声を出しながら、巨大なバックパックを背負う。リリルカのステイタスは低いが、偉業ならばもしかして自分も達成できるかも知れないと考えたのだ。
「偉業とは、神々も認める困難な出来事を達成すること。例えば強力なモンスターを討伐するとからしい。ただ、いろいろと偉業にもあるようで、特に困難なことをしていない人でもランクアップしていたりするから、まだ研究中らしい・・・」
ハリーの説明に考え込むベル。強力なモンスターを倒す。それとエイナから言われた言葉、『冒険者は冒険してはいけない』
これらは互いに矛盾する。だがここまで考えて時間の事を思い出す。リリルカも魔石の抜き取りが無事に終わり、再びバックパックを背負っている。
「今日はここまでにして帰ろうか」
いつもの隊列、ベルが先頭、ハリーが殿、リリルカが真ん中で地上に向かって進む。時折、壁からモンスターが生み出されるが、ベルの剣撃かファイアボルトですぐに倒される。もちろんマインドポーションを飲むのも忘れない。
「んー、リリルカがさっきも言っていたけど。ベル、剣の腕前が上がってるんじゃない?」
後ろから見ていた
「ですよね、ですよね、ハリー様。動きがなんというか、滑らかというか、安定感がありますね」
ベルが褒められて嬉しいリリルカが、はしゃいだ声で同意する。
「そうそう、落ち着いて相手の動きがよく見えてるよね」
二人のべた褒めの言葉に、ベルは苦笑いを浮かべる。
「自分じゃ分からないけど、強くなってるのかな。でも、もっと強くならないと」
ハリーはそれを聞いて昔の事を思い出す。クディッチの試合や死喰い人と戦ったことが、フラッシュバックのように脳裏を過ぎ去る。死喰い人の追跡をかわすために建物を爆破したことや、大量に立ち並ぶ陳列棚を爆破したことや、ブラッジャーの追跡をかわす為に障害物すれすれの飛行をしたことなど。
「思いもしない動きをして相手の意表をつく」
ハリーの口から格言めいた言葉がこぼれだした。
「どうしたんです、ハリー様?」
「うん、いや、昔の事を思い出したんだ。勝つためにどんなことをしたかを。なりふりかまわずガムシャラだったけど、勝つためには今言ったように、相手の意表をつくとかが一番かなあと思って」
それを聞いてリリルカが、先頭を歩くベルに視線を戻して、しげしげと見つめる。白い髪、そして後からは見えないが赤い目。これらは、ウサギや更に下の階層に居るアルミラージを思い出させる。同時に昔のパーティで、アルミラージから投げられた斧で重症を負った冒険者が居たことを思い出す。
「ベル様がするとすれば、武器を投げつけるとか、兎のようにピョンピョン飛び跳ねることですかねぇ・・」
「ちょっとまって、リリ!! それは褒められてる感じがしないんだけどっ!」
ベルは苦情を述べるが、リリルカはさも当然といった調子で返す。
「ええ、当然ですよ。褒め言葉とは言ってません。ウサギの習性を言っただけですから」
「じゃあ、しょうがない、のかな?」
そうして、ナイフを投げたら後が困るし、飛び跳ねるって言われても困るしと悩むベルであった。
********
魔石の売却を終えてギルドを出た後、ハリーは一旦、行動を別にする。ベルとリリルカは豊穣の女主人のところに弁当箱を返しに向かう。リリルカがベルに同行するのは、シルに対しての牽制の意味があるらしい。ハリーとしては、トラブルになりそうな場所にわざわざ立ち会う気はしなかった。
別行動するハリーは自分用の買い物、ついでに明日の朝食の材料を買いに向かうのである。
商店街を歩くが、開いているのは、値段が冒険者向けの店ばかり。一般人はすでに帰宅している時間なので仕方が無い。だがハリーのように遅く戻ってくる冒険者や、一杯引っ掛けた後の冒険者もいる。そんな者たちを相手にした店である。翌日の朝食の材料や、箒のメンテナンスに必要な物を買いこみ、ハリーはホームへと足を向ける。すでにオラリオでの生活に慣れたといってよいハリーである。
ふと、立ち止まり、夜空を見上げる。明かりを点けたバベルが夜空に聳え立っている。だが、それ以外の高層建築物は無い。ロンドンや、写真で見たことがあるニューヨークのような高層ビル群はないのだ。
バベル以外の方向では、星が瞬く綺麗な夜空が見えていた。夜空の星の配置を見るも、天文学の勉強で見慣れているはずの星座は見えない。もちろん火星や木星などもだ。別世界に来てしまったと改めて実感する。
そして星占いの授業を思い出し、我知らずにやりと笑う。星々の配置が異なるこの異世界ではどのように占うのだろうか。どちらにしろ、ホグワーツで習った星占いの知識は役立たないだろうなと結論付ける。
ラベンダー・ブラウン?だったか占いにのめりこんでいたのを思い出す。ハーマイオニーも、占い学には批判的だったが、数占いはしっかり勉強していたし。 女の子は占いが好きなようだから、リリルカにこちらの世界で星占いがあるか聞いてみようと考えてみる。
そして再び歩き出す。
ホームに近づくにつれて、人が少なくなっていく。明かりも少なくなっていくが、すでにハリーにとっては通りなれた道である。
それが相手にも見えたのか前方から二人、後方からも二人がこちらに向けて武器を構えて走ってくる。魔法使いのハリーにとって接近されるのは歓迎すべきことではない。
まずは前方からの敵に対して、
接近されて分かったが、襲撃者─男─は顔の上半分を隠す仮面をつけている。二、三度、斬り付けられるのを後ろに下がってかわし、ここぞというタイミングで
が、ほっとする暇も無く、上から飛び降りてきた剣を慌ててかわす。どうも先ほどの
二度三度と振るわれる剣を避けるハリー。だが、ローキックは避けることができなかった。体制が崩れるハリー。無理をせずに自分から倒れこむことで少しだが間合いを離す。そこに止めとばかりに剣を振りかぶり踏み込んでくる襲撃者。
「
全力で唱えた呪文で相手を弾き飛ばし、壁に叩きつける。
ハリーは、もう一度
そして、全力で横道に飛び込んで走り出す。2人は麻痺させ、もう1人は気絶させたはず。だが、残りは5人。多勢に無勢、逃げるのが一番である。
だが、ハリーの前に一人の男が屋根から飛び降りてきた。おそらく、様子を見ていた者達のうちの一人が屋根伝いに走ってきたのだろう。元の世界での人間ならば出来ない運動能力を発揮されて、うんざりするハリーである。
立ち止まって左手を腰にあて、右手を掲げて杖をぶらぶらとさせて、やれやれとポーズをとってみせる。逃げるのを諦めたようなハリーを見て、相手が気を緩める。だが、ハリーはその瞬間に
襲撃者からみれば、ハリーがとんでもない身体能力で、屋上にジャンプしたと見えるだろう。
「逃がすな!!」
という声が下から聞こえ。壁を駆け上がってくるらしい音が響く。だが、追われているのに、じっとしているハリーではない。素早く屋根の上を走り、隣の建物へ向かってジャンプする。飛距離が足りない。だが跳びながら、無言呪文で自分自身に
「
そして、発生した暗闇の中で、体を一回転させて姿くらましをするのだった。
ホームの地下室に姿現ししたハリー。
現れるところを見たヘスティアは驚いている。
「ななな、何だい今のは、ハリー君!」
「あ~、ベル達と分かれて買い物をしていたら、強盗に襲われたんで、隙を見て瞬間移動で逃げてきたんです」
ハリーが慌てて説明する。そういえば、姿現しは見せてなかったなぁと考える。
「強盗って、ハリー君、怪我は無いのかい?」
「大丈夫ですよ。相手の半分は麻痺させてきましたし、そんなに強く無かったですし」
ハリーの何でもないという説明に安堵のため息をつくヘスティア。夕飯の準備が終わっていたのか、食器を並べるのを再開する。ハリーも買ってきた荷物を整理する。そうしているとベルとリリルカも帰宅したので、全員で夕飯にするのだった。
その夜、ベルがベッドに入って考えていたのは、ダンジョンから帰る途中でハリーが言っていたことだった。
意表をつく攻撃で、しかも次の攻撃につながるもの。いろいろと考えすぎて混乱してきたので、寝返りを打ってベルは眠るのだった。
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そしてベルとアイズの訓練最終日
「さてベル。私は明日から遠征に出発するから特訓は今日で終わり。今までの成果をみせてもらおう」
そして剣を鞘ごと抜いて構えるアイズ。
対するベルは両手にバゼラートとヘスティア・ナイフを構える。。じりじりとアイズに接近すると、フェイントをかけつつ攻撃を仕掛ける。
アイズはその攻撃を読んで剣でそらす。ベルはそれに構わず緩急をつけて移動しつつ攻撃を加える。両手の武器だけでなく、合間合間に対術を使い、蹴りも入れている。だがアイズはそれらの攻撃をすべてかわすか剣で逸らすかしている。もちろんアイズはベルのレベルに合わせて手加減をしているのだが、それでも、ベルはアイズの防御をかいくぐることができない。アイズの戦闘技術と経験がベルの動きを予測して、完璧な防御を可能にしているのだ。
「ベル、全体の動きを良く見るんだ。視線は一箇所に止めても、意識は全体に広げる感じで!」
アイズのアドバイスが飛ぶ。
あせるベル。そして脳裏にハリー達、皆の言葉が浮かび出る。
『思いもしない動きをして相手の意表をつく』『ぴょんぴょん飛び跳ねるんです』『意識は戦場全体に広げる』
瞬間、ベルは地面にぶっ倒れた。
さすがにそれはアイズにも予想外だったのか、一瞬だが動きが鈍る。だが、その隙を突いて、地を這う動きでベルがバゼラードをアイズの足元に叩きつけ、続けてヘスティア・ナイフで二撃目を入れる。
それをアイズは一撃目は小さなバックステップで、そして二撃目もバックステップでかわそうとして、壁に当たる。そう、ベルがうまく追い込んだのだ。アイズは、残された回避方向、すなわち壁を蹴って上へと軽くジャンプして、二撃目をかわす。
ベルはそのまま手をついて逆立ちをしながら、下から真上へひねりを入れながら蹴りでアイズのあごを狙う。空中にとどまっているアイズはかわしようが無いと見えたが、ベルの突き出された足を軽く蹴って体勢を変えつつ、この攻撃もかわす。
だがベルは回避されるのを予想していた。そしてベルの攻撃はまだ終わらない。逆立ちの状態から、両手でふんばって地面から飛び跳ね、右手をアイズに突きつけて叫ぶ。
「ファイアボルト!!」
模擬戦なので魔力は込めていないので威力は無い。だが速度は本物。いまだ空中にいるアイズには、今度は避ける方法が無かった。その攻撃はアイズにヒットした。
「うん、よくやった。成果を見せてもらったよ、ベル」
アイズはベルに剣を見せながら褒めていた。アイズはファイヤボルトを剣の鞘で受け止めていた。その鞘は砕けて刀身が剥き出しになっている。
石畳の地面に頭をぶつけて、呻いていたベルは、その言葉に喜ぶ。
「僕、強くなってますか?」
頭をさすりながら、立ち上がるとアイズに問いかける。ハリーとリリルカは強くなったといってくれる。だが、ベルが欲しいのは
「うん、強くなっている。自信を持っていい」
喜ぶベルである。最終日にようやく一本、攻撃を入れることができたのである。成長の証を示すことができ、これほど嬉しいことは無い。そんなベルにアイズは言葉をかける。
「今の感触を忘れないうちに、どんどん続けよう」
その後、時間一杯まで模擬戦は続けられたが、アイズの攻撃が入ることはあっても、ベルの攻撃が入ることは無かった。
そして終わりの時間が来る。ベルは攻撃と防御に動き回り、息切れを起こし、両手を膝についてゼエゼエと荒い呼吸をしていた。
「ベル、お疲れ様。短期間だったけど、動きがとても良くなった。これからもステイタスに頼るだけでなく、技術を磨いて行くように。
ポン・パンチも大分動きが様になってきたから、もっと訓練すると良い。素手の攻撃方法だから、実戦で役に立つことは無いかもしれないが、体の動かし方などは、あらゆる動きに通じるはずだ」
アイズの話を聞いているうちに、ようやく息が整ってきたベルは、体をおこす。
「ありがとうございました。アイズさん、いつかまた、稽古をつけてくれないでしょうか」
「縁が有り、そして、次の機会があれば」
そしてアイズは気になっていた事をベルに尋ねる。そう極東式の挨拶をどこで習ったのかである。
「主神の友人が極東から来た神様で、そのう、タケという名前らしいんですが、その神様から習ったそうです」
師匠と似た名前の別の神様かもしれないが、もしかしたら、師匠がきているのかも知れない。こちらから探さなくても、縁があればオラリオで会うこともあるだろう。そう判断したアイズであった。
最後に二人は挨拶をする。2mほどの距離をおいて向かい合って立ち、踵を合わせ、姿勢よく立つ。そして両の手の平を胸の前で合わせる。
「明日からの遠征がんばってください、アイズさん」
「ありがとう、ベル」
そして、アイズは遠征の準備を進めるためにホームに戻り、ベルはハリーたちと合流するためにバベルに向かうのだった。
補足
映画での魔法。炎のゴブレット編の第二の課題で、水上へと脱出するときに使用した。
ロキ・ファミリアが59階層に出発。
ちなみにフレイヤは、名前をいまだに間違えているので、ベルの名前をハリー・ポッターだと思っています。それで、ハリーに試練を与えよと、オッタルに指示しています。
オッタルはヘスティア・ファミリアの事を調べ、ハリーはベルとパーティを組んでいることを知っています。
だからパーティ相手ならいいよねということで、ミノタウロスを鍛えに鍛えました。魔石を大量に食わせて、武器だけでなく防具も装備させてます。レベル3相当の戦力にはなっているはずです。
次回、「格上のモンスター」