ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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神会

 ハリーが気絶している間に、ベルはギルドに出かけた。

「エイナさーん」

 ベルは手を振りながら、担当アドバイザーの所に向かう。受付窓口まで辿り着くと、前置きもなしに報告する

「エイナさん、僕達ランクアップしました!」

 エイナは特に驚くことは無く、冷静にお祝いの言葉を述べる。

「うん、おめでとう。レベル2だね。ランクアップ直後は、恩恵が強化されて、心と体の同調がずれているから。調子を取り戻すまでは、もぐる階層は浅めにしたほうがいいわねぇ・・」

「えーと、びっくりしないんですね。」

 静かな口調で、的確なアドバイスを始めるエイナ。エイナがもっと吃驚すると思っていたので、ベルは物足りなさを感じる。そんなベルを見てエイナは呆れる。

「ベル君、レベルアップの条件についてはある程度は知ってるんでしょう? だったら、ちょっと考えてみて? 地下から現れたドラゴンを空中戦の末に倒した冒険者がいて、その冒険者がレベル1だとしたら? ランクアップしないと思う?」

 そういわれて納得するベル。ごまかすために乾いた笑いを浮かべる。

「ドラゴンを相手にするとか、危ないことはしないでいて欲しかったんだけどなぁ。それでね、ベル君。ちょーとばかり、協力してほしいことがあるんだけれど、いいかな?」

 エイナと並んで、ミイシャがにっこりとベルに微笑んだ。

 

 

*******

 

 

 神会。

 オラリオで三ヶ月おきに開催される神々の集会である。そこでやっていることは、集まった神々が、お互いが持っている情報の交換を行うという井戸端会議である。だが、それらは前座であり、メインはランクアップした冒険者の二つ目の決定である。

 そして、神界への参加資格は、自分の眷属がレベル2以上になっていることである。そして、ベルとハリーがレベル2になったので、ヘスティアは参加資格を得たのである。更に今回の神会で二人の二つ名が決まるのである。穏便なもの(二つ名)を獲得しようと、ヘスティアは決意をみなぎらせていた。しかし具体的にどうすればいいのか、まったくよい考えが浮かばないヘスティアであった。

 悩みながらも歩んでいくうちに、バベル上部の1フロアを丸々使った会場に到着してしまった。会場内には、楕円テーブルがいくつもおかれ、そこに神々がすでに座って、会が始まるのを今か今かと待ち構えているようだ。一部の神々達は、何の話か此処からではうかがい知れないが、非常に盛り上がって、胴上げなんかをしていたりする。

 知り合いが居ないかと、あたりをきょろきょろと見回すと、知っている神が同じテーブルに何人か座っていた。

 

 一人はおなじみ鍛冶神のヘファイストス。今日はおとなしい茶色の目立たない服を着ている。

 そしてヘスティアと同じく、じゃがまる君チェーン店で働いているタケミカヅチ。椿油を塗り艶々としたゆずらに、黒と紺の裃を身に着けている。

 三人目は、タケミカヅチと同じく極東出身のタケ。極東様式の黒の上下の服に同じく黒の帽子をかぶっている。

 

 三人は知り合いだっただろうかと訝りながら、ヘスティアは挨拶をする。

「ドーモ、ミナ=サン。ヘスティア、デス」

それに挨拶を返すのは、タケミカヅチとタケの二人

「ドーモ、ヘスティア=サン、タケミカヅチ、デス」

「ドーモ、タケ、デス」

そして、三人は両手を胸の前で合わせて、ぺこりとお辞儀をする。

 

「来たのね、ヘスティア」

「ああ、なんとしても無難な二つ名をもぎ取らないといけないからね!」

 ヘスティアは鍛冶神(ヘファイストス)に答えながら、同じテーブルにつく。それにタケミカヅチが暗い顔で問いかける。

「だが、どうやったらいいんだ? 始まったらすぐに、自分から名前を出すぐらいか??」

そういってタケミカヅチはテーブルに突っ伏し、頭を抱える。

「だけど、それで上手くいく気がまったくしない」

 鍛冶神がため息をついて説明する。

「今日、彼の眷属も二つ名をもらうそうよ」

 説明する鍛冶神にタケが不思議そうにたずねる。

「やつは根回ししておらんのか? ヘスティアはともかく、タケミカヅチがしてなかったとは、ウカツというしかない」

 鍛冶神が首をかしげる。

「根回しって、大手ファミリアや、有力ファミリアでないと、根回ししても無理なんじゃない?」

 武器の生産という言わば冒険者の生命線を、一部とはいえ握っている鍛冶神は余裕であった。同じことは他の生産系統ファミリアにもいえる。生産系統(それら)に対して強く出れる探索系統のファミリアはほぼいない。しかしタケのところも探索系統のファミリアであり、零細ファミリアであったはずだ。

 

 そんな鍛冶神の疑問にタケは反論する。

「いや、うちの所は、赤い服、青い服、白い服で普段から行動させて、それが知れ渡ってから神会になるようにしたからな。赤影、青影、白影、そして自分の黒影でどうだといったら、反対するものはいなかったぞ」

 それを聞いて微妙な顔になるヘスティアと鍛冶神。

「いやタケミナカタ(・・・・・・)よ、それ、根回しとは違うし、無難な名前じゃないだろ」

 とタケとは昔から知り合いであるタケミカヅチが、突っ伏したまま遠慮せずにいう。

「うちの所は伝統的に色の名前+影だから良いんだよ。本人たちも気に入っているしな」

 まったく気にせず反論するタケ。

「それにこの方法なら、ほかの神々も面白がって反対しないからな。どこにも何も問題は無い。これが根回し、戦略というものだ。お主に両腕を引っこ抜かれてからは、戦術、戦略について研究したのだよ」

 武神タケミカヅチに対して戦略を説くタケ。

「くう、しかし、そんな方法をとるとしても、うちの所はランクアップは、もっと先だと思っていたのに」

 テーブルに両肘をつき頭を抱えて、歯噛みするヘスティア。

「まあ、レベル1でドラゴンを退治したのであれば、ランクアップは当然。どこからも文句は出ないであろう。いや、自爆させるとは天晴れ、見事な手並みであったぞ」

 タケにベルたちが褒められて嬉しいヘスティア。そうしてタケと話しているうちに神会が始まった。

 

 最初は情報交換から始まる。怪物祭での騒動のこと、新種のモンスターが複数出現していること、ソーマ事件の調査状況、ラキアが戦争準備をしていること。これらがロキの司会のもと、ある意味てきぱきと進行していく。

 

 そして待ちに待っていた本番が始まる。

「じゃあ、硬い話はここまでや! いよいよ、メインの命名式、始めるで!」

「「「「「うぉぉぉ」」」」」

「「「無難な名前頼む~」」」

 面白い名前で楽しんでやるぜ、という声。今回命名される眷族がいるのであろう、頼むから平和な名前をと願う悲鳴とが混ざり合う。司会のロキのもと、次々と二つ名が決まっていく。

 

「じゃあ、次は、うちんところのアイズたんや」

「もうレベル6か、早いのぅ・・」

「うーん、今のままのでいいんじゃない?」

 モンスターを素手で撲殺するアイズの戦闘スタイルのことは、神々もよく知っている。

「アイズも元気にしておるようだな。『紅影』の名をやってもよいかもしれんな」

とタケが呟く。その声は小さなものだったので、誰の耳に入ることも無かった。

「じゃあ、『拳姫』のままで」

 

 

 さらに命名は続く

 

 

「ほかに無いようやから、命ちゃんの二つ名は『絶†影』にけってーい」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」

 裃に身を包んだタケミカヅチがのたうちまわる。

「ふむ、いい名前じゃないか。転げまわるほど嬉しいのか、タケミカヅチよ・・お主、性格丸くなったな・・」

 『影』がついていれば何でもいいんかい! と突っ込みたい鍛冶神である。

 ヘスティアは友神のタケミカヅチに同情するが、そろそろ自分の番だと思い、どうにかして穏便な二つ名を獲得できないかと考える。

「ヘスティア、あきらめなさいね。あれだけ派手にやったんだから、いじられるのは、もうどうしようもないわよ」

 鍛冶神が、頭を撫でて慰めてくれる。

「いや、まだだ、まだ試合は始まってすらいない! あきらめてたまるか!」

 鼻息荒く、気勢を上げるヘスティアである。

 

 

 そしてさらに何人かの名前が決まり、いよいよ─

「じゃあ、次ー。最後の二人。みなも知ってのとおり、この前ドラゴンを退治した、どちびんの所や」

「「「「「「まってましたーーーー!!!」」」」」」

 神会直前に、オラリオ上空で、ドラゴン相手にあれだけド派手に暴れ回って、ランクアップした二人の事である。盛り上がること必至であった。

 

 ランクアップから神会まで時間がなかったため、エイナとミイシャが二人がかりで作成した資料を見て神々が叫ぶ。

「まずは一人目か! ベル・クラネル! 14歳のヒューマン。冒険者歴が一ヶ月半!? はぇぇ!!」

「じゃあ最初にいくぜ! 炎雷撃(ライトニング・ファイヤ・ブラスト)竜殺(=ドラゴン・スレイヤー)!」

「「「普通すぎる!」」」

「夜も寝ないで昼寝して考えた! 電撃首狩兎(エレクトリカル・ポーパル)!」

「夜寝ろよ!」

「ウサギっぽいから、ぴょんきちはどうだ?」

「それ、ヘファイストスのところの鍛冶師が防具につけた名前だ」

「なっ! 神々の先を行くだと! そいつ只者じゃねぇっ!」

 

 喧々諤々と声が飛び交う。

 そんな中フレイヤは、ベルの似顔絵とハリーの似顔絵が書かれた資料を、じっと見つめている。名前を間違っていた事に、ようやく気づいたのである。だが、似顔絵を凝視しているのはフレイヤだけではない。数人程であるが、何度も何度も二人の似顔絵を見比べている女神達が居る。

 そんな騒ぎの中、黒い肌で金髪の男神が立ち上がる。

「異議あり!! 異議ありだ!! 今回のヘスティア・ファミリアのレベルアップに意義ありだ!!」

  二つ名をいうのではなく、声高に叫ぶ声が響き渡る。何言ってんだこいつという視線で、皆がその大声を出した神を見つめる。

「どうしたんや、異議ありって何が異議ありなんや。レベル1で深層のドラゴン(モンスター)を、手段はどうあれ倒したんやぞ。ランクアップに問題なんぞ、あれへんやろぅ」

 ベルとハリーの資料を持ったロキが、呆れたようにとがめる。その言葉に全神々がそろって、うんうんと頷く。

「だからだよ! だから問題なんだろうが!! ヘスティア、しっかり説明してもらうぞ!」

 叫んでいる神、エシュ=エレグバは、ヘスティアをびしりと指差す。

 とうのヘスティアは、二つ名の前に、厄介ごとが! と冷や汗を流し、あわあわとしている。

「俺はこの目で見たんだ! 箒に乗って、ドラゴンと戦う三人を。まず一人は、白髪のベル・クラネル!」

 うんうん、俺たちも見たぞー、魔法がド派手だったなぁーと同意の声が出る。

 ベルとハリーの二人で魔法攻撃をしていたが、ハリーの攻撃は主に、目立たない切り裂け(セクタクセンブラ)。それに対して、ベルの炎雷(ファイヤボルト)はとても目立つ。必然的に、攻撃はすべてベルが一人でしていたと思われているのだ。

 

「そして二人目、黒髪のハリー・ポッター! ここまでは良い!」

 そこで、あっと言って何かに気づく神々が何人か出てきた。

「だが、三人目! 赤茶髪の小さな子供! とはいえ、冒険者をしているなら恐らくは小人族だな。三人目は何故レベルアップしていないんだ!」

  確かにリリルカはランクアップしていない。だが、それをこんな場所でこんなときに追求されるとは思っていなかった。ヘスティアはゆっくりと考える。レベルアップしていない理由は簡単、リリルカのアビリティがまだレベルアップに足りないからだ。こう説明するのは簡単だ。だが、これは同時に『リリルカのアビリティは、ドラゴンを倒しても低いまま』とオラリオ中に公言することになる。

 同時に、リリルカは『ドラゴンを倒してもレベルアップできない奴』と不名誉な言われ方をするのである。それはまずい。できるだけ、そんなことは避けたい。

 

 

 となると反論としては、恩恵に関してはよく分かっていない部分がまだまだあること。判明していると思われるレベルアップ必要条件の一部を未だ満たしていないこと。あとは、リリルカが戦闘をしていないことを。これらを使うしかないだろう。そう結論付けるとヘスティアは説明するべく、ゆっくりと立ち上がる。そして、ヘスティアは、左手をゆっくりと上げる。何だ何だと周りの神々が注目する。鍛冶神も不安になって、はらはらしながら注目する。そしておもむろにヘスティアは机に思い切り左手をバンとばかりに叩きつけ全員を静かにさせる。同時に自分に気合を入れる。

 

「まあ、説明するから落ち着いてくれ」

 いつもと様子が違うヘスティアに、あのロキでさえ、思わず黙り込み耳を傾ける。

「さて正直に言おう。僕自身、恩恵を更新したときに、ベル君、ハリー君はランクアップするだろうと期待していた。

 だが、三人目、今言われた小人族については、期待半分、無理じゃないかと思う気持ちが半分だった」

 そしてヘスティアは、言葉を一端きり、ロキの方に視線を向ける。

「ロキ、ランクアップに必要な条件とはなんだい。君なら、現在判明している確かな条件だといわれていることを知っているだろう」

 偉そうな態度やなー、こんな状況でなければ、つねり上げてやるのに、あとで覚え取れよドチビ、と思いつつもロキは回答する。

「一つ目。アビリティが少なくとも一つはD以上になっていることや。二つ目。偉業を成し遂げることやな。他にも例外その他はあるやろーが、この二つは一番確からしいとなっとる。まあ、確実じゃぁないけどな」

 それに頷きヘスティアは説明を続ける。

「そのとおり。そして、今回、三人は二つ目の条件である、偉業は成し遂げた。そして二人は幸いにも、アビリティがD以上だった。だが、最後の一人は・・残念なことに・・」

 そこでヘスティアは言葉を切り、目をつぶって、ゆっくりと首を左右に振ってみせる。なんとなく、納得できる理由だったが、元凶のエシュ=エレグバは追求をあきらめない。

「たしかに、納得できるようだ。だが、ドラゴンを倒したことでステイタスがDになっているんじゃないのか? ドラゴンを倒したんだぞ!? でないと、俺の眷属に『ドラゴンを倒してもランクアップできない』と言わなきゃならん。ランクアップはそんなに厳しいのかと絶望させたくないんだ!!」

 悲鳴を上げて食い下がってくるエシュ=エレグバに対して、すばやく反論するヘスティア。

「たしかに、そのとおりだ。だがも君達も見ていたように、ドラゴンを炎で攻撃していたのは誰だ?」

 ヘスティアの質問に面食らって答えるエシュ=エレグバ。

「ベル・クラネルだな」

答えに頷くとヘスティアは先を続ける。

「そう、そして、箒を操りドラゴンを誘導して自爆させたのは、ハリー・ポッター君。残念ながら、今回の戦闘で三人目、小人族君はほとんど貢献をしていないんだ。

 今回のステイタスがあまり伸びていないということも、戦闘に貢献が少ないことが原因と考えられる。疑うのであれば、君達神々に見せることはできないが、なんなら、ギルドの受付嬢エイナ・チュール君に確認してもらってもいい。確か彼女は神聖文字が読めるはずだ」

 そして、ヘスティアはにっこりと笑う。

「恩恵に関しては、与えている神である我々にとっても、いまだ分かっていない事が多い。先ほど、ロキが言ったことにも、例外というものがあるしね。だがしかし!」

 今度は机を両手で威勢よく叩きつけ、テーブルの上で身を乗り出すようにして背筋を伸ばし、威厳を保ったまま、出来るだけの大声を張り上げる。。

「僕は断言しよう! 達成が難しいと言われる偉業をすでに成し遂げているんだ! 次の神会の時には小人族君にも二つ名をつけてもらうとな!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 ただでさえ、オラリオをドラゴンから守った二人の事で盛り上がっているのに、それに付け加えて、主神からの思いもしない、ランクアップ予告宣言!

 会場はかつてない盛り上がりを見せるのだった。

 

 まあ、ヘスティアが、うまく勢いで話をごまかしたとも言う。

 




補足

エシュ=エレグバ
炎の神様。
この神様が指摘しているように、ドラゴン倒したメンバーがランクアップできなかったら、そりゃ、ミノタウロスやゴライアスなどの強敵を倒してもランクアップできないんじゃ?と不安にもなりますよね・・・

箒に乗っているリリルカ
キャットピープルに変身していました。しかし、遠目から見ると、箒にぎゅうぎゅう詰めで乗っていたのとフードをかぶっていたのも有り、猫耳と尻尾が見えなかったのです。そのため小人族と判断されたわけです。しまった変装の意味が無かった。

ランクアップの条件
この話の中では簡略化すると下記のようになっています。
1.基本アビリティ上昇用の経験値を得て、少なくともどれか一つのアビリティがD以上になっていること
2.ランクアップ用の『経験値』を得て、それがランクアップを満たしていること。
3.上記1と2の条件を両方とも満たしていること。
最初の1の経験値については冒険をしている間に蓄積されていきます。
2番目の『経験値』については、自分よりも上位のモンスターを倒すなどで蓄積していきます。したがって『冒険者は冒険をしてはいけない』を文字通り愚直に守っている限りは、この『経験値』は蓄積されません。
 ただし例外は、ある。


それから、挨拶等の極東方式のアレコレをヘスティアに教えたのは、タケミナカタ(・・・・・・)です。

次回、『借金がなくなる日』
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