ヘスティアが神会で追求をごまかすための演説をしている一方、ヘスティア・ファミリアのホームでは、ベルとハリーとリリルカの三人が、ぐったりとしていた。
ドラゴン騒動の後、すでに述べたように、ギルドに素材という大金を寄付したのだが、これだけの額になると、右から左に渡してそれでお終いというわけにも行かなかった。具体的に言うと、ドラゴン解体手続き書類やら、解体費用明細書やら、素材の譲渡証明書の作成やら、金額の確認書への署名などや、その他諸々の、いわゆる大量の書類仕事が三人に襲い掛かったのである。
それが終わると、次に待っていたのは、廃教会の改修計画だった。ゴブニュ・ファミリアと打ち合わせをして、リフォーム計画類の書類と戦い、ようやく、すべての処理が終わったところなのである。十代の少年少女にはちょっとばかり、いや、かなりきつい書類仕事だった。
「ねえ、ハリー。知ってる? 団長ってめっちゃ大変だよ?」
机に突っ伏したままのベルに、床でひっくりかえっているハリーが答える。
「うん、もっと簡単に終わると思ってたよ」
ソファでは、うつ伏せでリリルカが寝ていた。
今回の書類との格闘では、ハリーは未だ難しい共通語は読めないので役に立たない。ベルは田舎育ちなので書類関係との付き合いが浅い。そして、大活躍したのは、リリルカである。出版社との契約で似たような書類を作成した経験が役に立ったのである。
だが、此処まで大量の書類ではなかったし、約款の確認が面倒ではなかった。おかげで、現在のリリルカは草臥れ果てて、ぐっすりと寝ている。
「これは、人数を増やして、人海戦術で何とかするか、書類仕事に慣れている人を雇うかしないといけないね。まあ、こんなことは、この先しばらくは、無いと思いたいけど」
そうやって、だらけているところに、ヘスティアがふらふらになって帰ってきた。なぜかギルド職員のエイナも一緒である。その様子を見てあわてて、ベルは自分が今まで座っていた椅子に主神を座らせる。椅子にへたり込んだヘスティアは、ベルが用意してくれたお茶を二杯飲んでからようやく声を絞り出した。
「ベル君、ハリー君、無難な二つ名だ。いや、くたびれたよ。まずはベル君。
ベルはもうちょっと格好良い名前がよかったような雰囲気だが、ハリーはどちらかというと、おとなしい名前だったので露骨にほっとしていた。
「とはいうものの、問題はある」
そして二人に神会のエシュ=エレグバの指摘の説明をする。お茶を飲んで大分元気になってきたヘスティアである。が、それを聞いて落ち込んでしまったのが、話の途中から起きていたリリルカである。
「そういうわけで、アドバイザー君にステイタス確認をしてもらわないといけなくなった。すまない」
頭を下げて謝るヘスティア。呆然とするベル、ハリー、リリルカ。
「いや、それよりもですよ? 私が三ヶ月でランクアップしてレベル2になる?・・難しいのでは・・」
暗い顔になる。だが、そんなリリルカをヘスティアは元気付ける。
「何、偉業は達成しているんだ。それに実際にはランクアップ出来なくても構わないさ。そもそもランクアップは難しいんだしね。その時は僕が恥をかくだけさ。心配しなくて良いよ」
気楽にやろうぜと笑うヘスティア。
その言葉で少し落ち着くリリルカ。だがエイナが言葉を挟む。
「差し出がましいようですが、アーデさん。これを良い機会と捉えてみてはいかがでしょうか? 神ヘスティアがおっしゃったように、あなたはすでに偉業を達成しておられます。他の冒険者の方よりはランクアップが容易な状態になっているというのが、われわれアドバイザー担当チームの意見です」
ギルドからも薦められたので、ちょっとだけその気になるリリルカ。さらにエイナは言葉を続ける。
「それにこういっては失礼ですが、ベル君やポッターさんの護衛つきで行動すれば、かなり安全だと思いますし・・。でも無茶をしないということを肝に銘じてください。ではステイタスを拝見させていただきたいのですが・・」
そういってエイナはベルとハリーにちらりと視線を向ける。ハリーはそれが意味することをすぐに察したので、ベルの肩をつついて促すと、地下室から出て行った。
扉が閉まったのを確認して、リリルカは、魔法やスキルが見えない程度に上半身を肌蹴させる。エイナは指差すようにして、ゆっくりとステイタスを読んでいく。
その間にヘスティアはベルとハリーの二人のスキル、そしてリリルカについて考えていた。そして、鍛冶神が以前言った事も。
『アビリティももちろんだけれど、魔法やスキルに関しては、本人の資質、経験がきわめて強く反映されるわね。強い願望や資質、途轍も無い濃い経験が、魔法やスキルへと昇華されるのよね。』
ではスキルへと昇華されていないモノはどうなるのか? 存在しないのか? いや違う。顕れていないが、存在するのではないか?。
その例がロキ・ファミリアの団長フィン・ディムナである。危険が近づくと親指が疼いて教えてくれる。これは立派なスキルではないのか? また他にも、
だが、危険察知や、地図作成というスキルは顕れていないらしい。このことから考えるに、昇華されていないスキル未満のものがあるに違いない。そのスキル未満のものがリリルカ・アーデにも在るのではないだろうか。
ベル達のスキルは『早熟』する、つまり、成長促成スキルである。では逆の効果、つまり成長抑制スキルがあるとしたら? そして、それがスキルではなくてスキル未満だとしたら? そう考えると一般的に冒険者には向き不向きがあるという俗説は、俗説ではないといえる。スキルとして現れていないが、それは存在するのだ。そしてスキル未満の抑制スキルが、リリルカに強力に(顕れていないが)顕れていると考えれば、成長が遅い理由も説明できる。
だが、これは逆に考えると、成長抑制スキルはスキルとして顕れていないので、極めてゆっくりではあるが成長するとも言える。今回の騒動でアビリティはEの後半、D目前まであがっているのだ。通説が正しいとしたら、もうすぐランクアップというのも、無茶な話ではないとヘスティアは考えていた。
そして忘れてはいけないことが、もう一つある。通常はアビリティは肉体的なものだけで、精神的なものは反映してない。つまり、頭の良さはステイタスには出ないのである。
「まあ、モンスターを倒せば倒すほど、頭が良くなるんなら、今頃オラリオは天才だらけだろうからねぇ・・。でも現実は違うからなぁ・・・」
ふとヘスティアの口から呟きがもれる。
そうしてヘスティアが考えている間にもエイナによるステイタス確認は終わった。
「はい、確かにレベル1、ステイタスはEが最高ですね。ありがとうございました、アーデさん。さてヘスティア様、ステイタスについては確認できたので良いのですが、ちょーっと申し上げたいことがあります」
そういってエイナは眼鏡を光らせながらヘスティアに向き直る。上着をちゃんと着なおして整えていたリリルカは、なんとなく危険なものを感じた。いわば鍛えられたサポーターの勘である。撤退、もしきは援軍を呼ぶべきだと瞬時に判断したリリルカは、地下室出口の扉に飛びつき、すばやく開ける。
自分は外に出て、ベルとハリーを地下室に押し込む。そして二人を壁にして自分は隠れる。完璧であった。
「──というわけで、ですね。ステイタスにはロックをかけることができるのです。ロックをかけた方が機密保持になりますので、ヘスティア様もぜひロックをかけてください。偶然、たまたま、ふとしたことで、ステイタスを見られることがなくなりますので」
落ち着いた様子で会話を交わす、エイナとヘスティア。エイナの言葉に、なるほどなるほどとヘスティアは頷いている。
「で、肝心のロックする方法ですが、残念ながら私にはちょっとわかりかねます。ですので、誰か親しい神がいらっしゃったら、そちらの神にお尋ねください」
まあ、確かに神ならざる身には、神の御業をどうやって行うかはわからないだろう。これはまたミアハに頼らざるを得ないかなと考えるヘスティアである。
「ふむ、まあ、いろいろとありがとう、アドバイザー君。念押しだけど、リリルカ君のステイタスの具体的な数値は秘密で頼むよ。あとロックについてはこちらで調べてみるよ。わざわざ来てくれて助かったよ。ありがとう」
また明日ギルドで会いましょうと挨拶をして、エイナはギルドへ帰っていった。
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「じゃあ、今度からリリルカも戦うというわけですか?」
四人で休憩のお茶をしながら、ハリーが確認する。前衛ベル、後衛ハリーの陣形が今のところぴったりな状況である。これにリリルカをどう加えるかハリーは考える。リリルカは攻撃魔法が使えないので後衛は無理。ああ、いや、でも弓矢があるか。あの体格で剣を持って前衛をするのは無理だし、それが一番よいかな。いや、でも、ロキ・ファミリアの団長フィンは槍で戦ってるし。うん? そうか、真似をすれば良いのか。
「リリとしては、弓矢で攻撃するのがよいと思うんです。ただステイタスがあがるんですかね?」
不安そうにリリルカが言っている。ハリーは今思いついたことを提案する。
「槍はどうだろう? 両手で扱えるし、距離をとって戦える。それにベルのやや後ろの場所から攻撃できるんじゃないかな。そうすれば、ベルがモンスターからの攻撃を防御できる。いわば、ベルがリリルカの盾みたいになるわけだ」
ベルがそれに賛成する。リリルカはベルが自分の盾、すなわち、自分を守ってくれるということに、ちょっとロマンチックな感じがして内心でうきうきとしてしまう。
「なるほど、前衛と後衛の間、中衛ということか」
「おお、いい考えだね。じゃあ、早速武器を買いに行こうじゃないか! だけど、それだけじゃなくて、他にも方法がないかな? 次善、参善の策があるに越したことは無いぜ」
その言葉に再び考え込む四人。しかし良い案は出てこない。実際には、ベルとハリーが敵の注意をひきつけている間に、リリルカが隙を突いて横から攻撃するなどという遊撃タイプの方法もある。だが、残念ながらベルとハリーには思いつかなかった。いろいろなパーティのサポーターをしていたので、リリルカは思いついた。さすがに自分がそんな器用な芸当ができるとは思わなかった。だが、だめでもともとという気分も少しあったので、思い切って提案してみた
「ふむふむ、つまりは、三種類あるということか」
ヘスティアの確認にリリルカが反論する。
「ただし、ですね。私は自分で言うのもなんなのですが、三番目の方法はうまく出来る自信がまったくありません」
その主張に残り三人が考える。
『・・・ウォーシャドウと戦っているベルとハリー。突然、リリルカが横から現れる。彼女は、すばやい動きでウォーシャドウに接近すると、姿勢を低くし、地を這うような動きで足元を斬り付ける・・・』
一体全体どこの世界のリリルカであろうか? どう考えてもリリルカに出来そうにない。どちらかというとベルがやるのが最も似合う気がする。三人は納得した。
「あとクロスボウならまだしも、普通の弓矢だと、しばらく練習が必要です。一番いいのはハリー様が仰った様に、槍がいいのではないかと」
「後は、こういっちゃ悪いんだけど、リリはあれだけ荷物が持てるんだから、重量武器のメイスとかも使えるんじゃないかな?」
ふと思いついて、ベルが提案する。確かに大量のとても重い荷物を軽々と持ち運んでいる。だったら、使えるはずだ。
「じゃあ、まずは槍から、そしてメイスを試そう。弓矢はその間に、ホームで練習することにして一番最後に試してみようじゃないか。一種類に点き、三日ずつぐらい試してみるのが良いかな。では必要品を買いに行こう。まずはミアハの所に行きたいから、ポーション類を買おうじゃないか」
そうして、四人は出発した。向かうはポーションの補充のためミアハ・ファミリア店舗、そして、バベルでリリルカ用の武器防具の調達である。
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ミアハの店内に入ると、こちらを見てミアハが驚いて立ち上がる。
「おおよくきた、よくきた。ベルにハリーではないか。オラリオを救った英雄が来てくれるとは嬉しいものだな」
そういってちょっと芝居がかって、両手を広げ歓待してくれる。
「お得意様が、立派な冒険者になっていく様を見るのは、楽しいものがあるな。さて、ポーション類の補充だな。すぐにナァーザに用意させよう。しかし、ヘスティアまでが来るとは驚いた。何か相談事でもあるのか?」
さすがにミアハ、激闘が終わった冒険者が求めるものが何なのかだけではなく、ヘスティアに困ったことがあると見抜いた。
「うむ、実はステイタスのロックについてなんだが、方法を教えてもらえないだろうか」
神々同士で相談を始めた横で、眷属同士で取引を始める。
ナァーザも手馴れた様子で、二人分のポーションセット(マインドポーションも入っている)を二包み、持ってくるとハリーに渡した。ベルが代金を払っている間に、リリルカがポーションの品質を確かめる。腕に軽い引っかき傷をつけて、そこに一滴たらしたのだ。だが、治りが遅い。眉をひそめ、別のポーションで、再び確かめる。やはり直りが遅い。
「ちょっと! ナァーザ様! こちらのポーションは少し効果が薄いのではありませんか?」
言われて、ベルも効果を確かめるが、効果の程はリリが確かめたのと同じである。だが、その治癒速度はベルにとっては馴染みのものだった。
「いや、リリ、いつも通りだよ」
そのベルの言葉にリリルカは驚き、そんな馬鹿なとベルの顔を見上げる。
「いつもどおり? そんなはずは、ありません! どう考えても、効果が悪いです。それに、値段が高いです。この効果ならば、今ベル様がお支払いになった価格の半分程度になるはずです!」
リリルカとベルとナァーザが騒いでいるので、ミアハとヘスティアもこちらにやってきた。
「どうしたのだ?、ナァーザ?」
「いえ、何でもありません、少しポーションが劣化していたようです。トリカエマスノデ、チョットオマチヲ」
ナァーザが慌てて、ポーションを引き取ろうとするが、ベルは渡さない。
「えっ?、ナァーザさん、いつものポーションですから、かえる必要は無いですよ~。リリも変なこと言っちゃだめだよ」
ちょっと硬くなりそうな雰囲気をほぐすべく、ベルはふざけてリリルカにメッとする。
そんなことはお構いなしに、ミアハはベルの荷物の中からポーションを取り出し、自ら品質を確かめる。みるみる眉間にしわがより、機嫌が悪くなる。更にポーションを一口飲むと眷属を問いただす。
「ナァーザ、これはどういうことだ、あきらかに品質が悪い。水で薄めているのか!?」
そのとき、店のドアが激しい音ともに蹴り開けられた。
「俺が!」
そして上半身の見事な筋肉を、惜しげもなく見せびらかしながら、男が入ってくる。そして立ち止まると両手を挙げたフロント・ダブル・ハイセップスのポーズをとる。
「俺が!」
そして、両手を腰に当てるようなフロント・ラット・スプレッドへとポーズを変えてためをつくる。
「俺が!」
つづいて流れるような動きでサイド・チェストで胸筋を強調するポーズをとる。
「俺がディアンケヒトだ!!」
「え、ガネーシャだろ? ちがう? じつは象仮面をはずすとディアンケヒト? え、どういうこと? ディアンケヒトが仮面をかぶってガネーシャをしてる?」
みんなが混乱する。そんな中、ハリーはガネーシャとその特徴を知らないので、変な人が来たとしか思っていない。いち早く衝撃から回復したのはミアハ。さすがである。
「まさか、ガネーシャ病! いや、そんな馬鹿な・・」
ディアンケヒトの状態に思い当たることがあるのか、ミアハがつぶやく。ディアンケヒトの後から店内に入ってきた人たちの一人が、ミアハの呟きを耳にして、真っ赤になってうつむいて謝りだす。
「すいません、すいません、うちの主神がちょっと、調子がおかしくなってしまって、すいません」
どうやらディアンケヒトの眷属であるようだ。様子からみると、なんだか苦労人のようである。
ハリーがヘスティアに小声でガネーシャ病について尋ねる。
「零細弱小ファミリアの男性主神がなる病気だね。人数最大手のガネーシャの所の様になるには、どうしたらいいか。じゃあガネーシャの真似をしよう。それで形から初めて、あんなことをするんだ」
ハリーは頭を抱える。
怪物祭をするは、今みたいに変なポーズをするは、奇声を上げるは、神ガネーシャってどんな神なんだろうか。うちの主神がまともな神でよかったと、本っ当に心の底から安堵した。
「ただ、中堅ファミリアや、ある程度人数がいるファミリアでは、ならないはずなんだ。ディアンケヒトは薬剤系統では最大手の所だから、なるはず無いんだけどなぁ」
ヘスティアの説明を聞いて皆が納得し、ディアンケヒトとミアハの会話に聞き耳を立てる。
「聞いたぞ、ミアハ! 品質が悪いポーションを売ったそうだな。見せてもらおうか!」
そしてこちらを向くディアンケヒト。客がベルだと思っていなかったのか、驚いた表情になる。だがすぐにニヤリと笑うと、両手を大げさに広げてみせた。
「こぉれは、これは! ベル・クラネル! 我々の新しいスターだね! おい、ミアハ。まさかオラリオを救った救世主、我等がベル・クラネルに、まっさっかっ! 粗悪ポーションを売っていたのか!? んー、いかんなぁ、いかんぞぉ。ちょっと見せてもらおうか」
ディアンケヒトはつかつかとベルに近寄る。ベルは、その動きをかわそうとするも、狭い店内では思うように動けない。ディアンケヒトは素早くベルの荷物からポーションを三本抜きとる。そして一本を一気に飲み干す。そして、空き瓶をミアハに突き出し叫ぶ。
「おい、ミアハ。これは何だぁ! 水で薄めてあるぞ。味は砂糖でごまかしているな。いかんなぁ、いかん。ギルド職員らもそう思うだろう?」
確かめてみろとディアンケヒトは、残り2本のポーションを連れの男の一人に渡す。どうやらギルド職員らしき男は、リリルカがやったように品質を確かめる。
「確かに、ディアンケヒト様がおっしゃるように、品質が悪いですね」
その言葉に我が意を得たりとばかりに、ニヤニヤとするディアンケヒト。ミアハのほうに視線を戻し話し始める。
「まあ、そのこともあるが、まずは俺がやってきた本題を進めよう。ミアハ、借金を払ってもらおうか」
あせるミアハとナァーザ。ベルたちがポーションを買っているとはいえ、十分な稼ぎになっているわけではない。赤字にぎりぎりでなっていないという状況である。
「まってくれ、利子を払うのは、まだ四日は後のはずだろう」
ミアハにとって情けない話であるが、手持ちが無いので、何時もの様に交渉して、待ってもらうしかない。だが、ディアンケヒトは、『何時も』とは違った。
「じゃあ、聞くが、今回は利子を返せたとして、その後どうする?。 今まで待っていたが、お前に眷族が増える様子も無い。店の売り上げが伸びる様子も無い。挙句の果てには粗悪なポーション類を、だまして売りつける始末」
そして、ディアンケヒトは、腕を組み、目をつぶってやれやれと首を横に振ってみせる。
「なぁ、ミアハよ。正直言って、お前のところは、借金を返す方法が無いのだ。うちの所も、鬼や悪魔というわけではないが、方針を変えるのでな。今までは俺とお前の付き合いで、利子も、まあ、その、なんだ、小額で済ませてきた。だが、これ以上はもう、待ってやれん。代金の回収が必要なのだ。あきらめろ」
こんな態度ではあるが、ディアンケヒトのいうとおり、小額の利子というのは本当であった。ベルたち相手の売上げだけで、利子のほとんどが払えることから分かるだろう。
「だっ、だが、そこをなんとか頼む。借金のかたに
必死で頭を下げて頼み込むミアハとナァーザ。
店舗があるが、借金もある状態。店舗が無いが、借金も無い状態。どちらが良いのか?
勿論、前者の『店舗があるが、借金もある状態』である。店があれば施設があれば、ポーションを作成できるし、販売もできる。いつかは借金も返済できるかも知れない。それに新薬を作り出せば、売り上げ増も見込める。
後者の場合は、ポーションの作成設備が無いので、何も出来ない。ポーションの販売以前に、作成自体が出来ないのである。それが分かっているミアハ達は必死で頼み込むのだった。
ヘスティア・ファミリアは、こんな所にいて良いのかと、いたたまれない気持ちになる。友人が借金で困っているところは見たくなかった。特に、自分達が何の力になれない状態では。ゆっくり静かに素早く出口へと移動する。しかしディアンケヒトの連れの眷属とギルド職員がいて通れない。入り口の傍まで移動できたが、そこで四人でじっとしているしかなかった。
「では這いつくばって、俺の靴を舐めるんだ。そしたら、今回は待ってやろう」
あんまりにもあんまりなディアンケヒトの言葉であった。ミアハ一人の問題だったら、そんな提案はすぐさま蹴ったであろう。だが、ナァーザという眷属がいる。ホームを失えば、住む所が無くなる。さらにミアハたちが薬を調合する作業場所が無くなる。店として販売する場所も無くなる。ミアハ・ファミリアの終焉を意味するのだ。ミアハに取れる選択肢は一つだけだった。
しゃがみこみ、這いつくばろうとするミアハ。すかさず止めに入るナァーザ。
「まってください。私の事なら大丈夫です。ミアハ様にそんなことはさせられません」
ぽろぽろと涙をこぼしながらナァーザが必死でミアハを止めようとする。
そんな二人を見ていられずに目をそらすヘスティア・ファミリア。ギルド職員も同じ気持ちなのか、視線をそむけている。目が合ったので、目礼して、そっと出口から抜け出すヘスティア・ファミリアである。ギルド職員からの『俺も連れて行ってくれ』という視線は無視した。そして、ディアンケヒトが次の言葉を発する。
「まあ、冗談だ。そんなことされても、俺は嬉しくもなんとも無い」
中腰のまま、戸惑うミアハ。露骨にほっとするギルド職員。
「じゃ、じゃあ」
「ああ、店とその中身は借金の方として、うちが貰う。さっさと出て行ってくれ。だが、まあ、俺も悪魔ではないからな。金は持っていって良いぞ。さあ、さっさと出て行ってくれ。ギルドは手続きを頼む」
ディアンケヒトの言葉に固まるミアハとナァーザ。申し訳なさそうなギルド職員に促されて、ようやく動き始める二人。ナァーザはとめどなく涙を流し、小さな嗚咽を漏らしている。
「ナァーザすまない・・」
ナァーザの肩を抱き寄せ、ミアハがつぶやく。ギルド職員は、借用書を二人に提示し、返済期限は当の昔に過ぎていること、返済不能であると判断したこと、ギルド立会いの元、この店舗は中身もすべて含めてディアンケヒト・ファミリアに所有権が移動すること、ミアハ・ファミリアの借金は無くなる事を宣言する。それに伴い、ミアハたちは退去する必要があることを付け加える。ギルド職員としても、人格者であるミアハに対してこんなことを言いたくは無いのだろう。申し訳なさそうな、こんな仕事はしたくないと言いたげな悲痛な表情になっていた。
宣言を受け、ミアハとナァーザは、店舗から外に向かう。二人は店を出る前に一度振り返る。ミアハ・ファミリアのホーム。借金ができてから、何とかやりくりしながらもすごしてきた店舗である。それとの最後の挨拶。そして、振り返り、外にでるのだっ──
「ああ、そうそうミアハ、粗悪ポーションを売っていたので、俺はギルドに、そちらの処分を求めるつもりだ。営業の無期限停止が妥当かな。同じ薬剤ファミリアとして、そんな悪辣なことは見過ごせんからな」
追い討ちをかけるディアンケヒトに、あわてて眷属が止めようとするが、まったく聞いていない。
「では元気でな」
そういうとドアをぴしゃりと閉めてしまった。
店内では、ディアンケヒトが腕を組み、目をつぶっている。そしてゆっくりと、きわめてゆっくりと深々と深呼吸をひとつした。かと思うと哄笑し始めた。
以前からミアハに対しては意地悪だった。しかし嫌味を言うだけ言って小額の利子を受け取って返済を待っていたのに、今日はどうしたんだろうと、うろたえる眷属。
ディアンケヒトは笑いを止めると涙をぬぐう。何でも無いと言って眷族を安心させようとする。
「いやいや、なんというか、ミアハが俺にとって気になる存在、コンプレックスだったのだなと改めて分かったよ。いまはそれを取り除いてスッキリとして晴々として、とてつもなく、清々しい気持ちでいっぱいだ」
そしてまた、ディアンケヒトは深呼吸をする。
「うむ! 俺にはわからんが、ランクアップした直後とは、こういう心持を言うのかも知れんな」
そして、ディアンケヒトは黙り込むと、流れるようにいろいろなポージングをとってみせた。そして、それを止めると宣言した。
「よしよし、良いことを思いついたぞ。俺の今の気持ちを皆に知ってもらうために、ポーション類の価格を三割にしようじゃないか」
主神の言葉に驚く眷属とギルド職員。
「三割引ですか! それは太っ腹ですね。冒険者も喜ぶと─」
「いや、違う」
にこやかにポージングを再開してディアンケヒトが否定する。
「俺が! 俺がディアンケヒトッ! だっ!! 七割引で三割にするんだ。さらに! 俺の眷属をっ! 大募集だ!」
眷属とギルド職員の、驚きの悲鳴が店内にこだました。
おかしい。作者はガネーシャ様、好きなんですけどね。なのにハリーは、ガネーシャ様を「ないわー」と思ってるのはなぜなんだろう・・。これはガネーシャ様が大活躍する話を何か考えねば・・
エイナが恩恵のロックの話をするのは、矛盾が出ますが、ご容赦ください
補足
参善という言葉は無い。はず
次回『ポーションは買わなくて良い』