ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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ポーションは買わなくて良い

 ミアハ・ファミリア店舗前。いや、現在はディアンケヒトに借金のかたに取られてしまったので、『元』ミアハ・ファミリア店舗前になる。そこではミアハたちと、心配して立ち去ることも出来ずに、たむろっていたヘスティアたちがいた。

 店内からはディアンケヒトの、謎の笑い声が聞こえてくる。それを聞いてさらに激しく泣くナァーザ。

 そんなナァーザを抱きしめて慰めるミアハ。どうしたら良いのか考え込んでいるヘスティアたち。

 そして、ナァーザの肩を抱いたミアハが、ヘスティアの方を向く。

「ヘスティア、すまないが頼みがある。ナァーザの面倒を見てもらえないだろうか」

 驚いて泣き止み、顔を上げてミアハを見つめるナァーザ。

「ナァーザ、すまん。すべては俺の不徳のせいだ。俺が不甲斐ないばかりにこんな目にあわせる。だがもうこれで終わりだ。ミアハ・ファミリアはここで解散だ。お前はヘスティアのところに改宗(コンバージョン)するんだ」

 かつては、薬剤系統としてディアンケヒトとトップを争うファミリアであった。そのミアハ・ファミリアの終焉。昔からサポーターとはいえ冒険者をしていたリリルカは、惜別の思いで話を聞く。

 だが、ベルはあきらめない。神様に向かって懇願する。

「何か道は無いんでしょうか? 解散しないですむ方法は?」

 そういわれても困るヘスティアである。だが、ハリーも懇願の視線をヘスティアに向ける。二人からの無言の期待と圧力に根負けして、ヘスティアは妥協策をとる。

「まあ、とりあえず、僕らのホームに来ないか・・。うん?・・、そう・・だよ、僕らのホームに来れば良いんだよ! いや、良いのか? まあ此処じゃ何だし、ホームに戻ろうじゃないか」

 

 

 歩き出す6人。その間にもヘスティアは目まぐるしく、その腹黒な脳細胞をフル回転させる。そして先ほど思いついたアイデアを、さまざまな面から検討する。何とかなるか不明な問題が一つだけある。だが、それ以外は特に問題もなさそうだ。

 そうしている間に6人は、廃教会の地下室まで戻る。そして、ミアハとナァーザにお茶を出すと、ヘスティア・ファミリアのメンバーは廃教会一階に戻り、ファミリアの臨時集会を開く。

 廃教会とはいえ、壊れた長椅子がまだ(・・)いくつか取り残されている。ゴブニュ・ファミリアとの改修の打ち合わせは終わっていた。しばらくすれば、この壊れた長椅子も撤去され、地上部分と共に綺麗に改装される予定であった。

 四人は思い思いに、無事な椅子を選んで座る。ベルの対面あたりにハリーが座る。ヘスティアは、ベルの右腕にしがみつくように座り、リリルカはベルの左腕にしがみつくように座る。

「じゃあ、集会を始めよう。ミアハ・ファミリアの事だが、僕としては友神であることだし、助けてやりたい。君達の考えはどうだろうか」

 ヘスティアが口火を切る。

 ベルとハリーは特に反対意見は無いどころか賛成である。冒険者を始めた時からポーション類でミアハにはお世話になっている。ダンジョン探索についても色々とナァーザからもアドバイスも受けている。

 先輩冒険者が居ないヘスティア・ファミリアにとっては大恩ある相手なのだ。反対するべき理由はどこにも無かった。

 

 それに疑念を出すのがリリルカだ。

「私としては、賛成する理由が無いのですが・・」

 そしてリリルカは話を続ける。

「ミアハ様たちには、ミアハ様達なりの事情があったと思いますが、粗悪なポーション類を売りつけられて、黙っているほど、リリはお人よしではないつもりです。ダンジョンでは、怪我の直りが悪いと命の危険に直結するんですよ。回復するつもりで、回復できなかったら死んでしまうのは我々なんですよ! ベル様たちは甘すぎます。下手をしたら死んでしまう事態になるのですよ!!」

 かなり怒っているリリルカである。モンスターパーティで、実際に死に掛けたリリルカの言葉には重みがあった。

「それに対しては、済まなく思う。申し訳なかった。私の管理不足だ。誤ってすむことではないが、どうか許してくれないだろうか」

 声をかけてきたのは、ミアハである。本来、ファミリアの集会にメンバー以外のものが口を出すべきではないのだが、それだけ、ミアハが済まなく思っているのだろう。リリルカもさすがに神から謝罪されると、内心はどうあれ、それ以上追求は出来なかった。

 そして、ナァーザも姿を現し、ベルたちに謝罪する。謝罪を受け、わだかまりが完全に解けたというわけではないが、どうしてそんなことをするようになったのか話題がそれに移っていった。

 

「そもそも何故、借金が出来たんだい。そこから話してくれると助かるな」

 ヘスティアが水を向けるとミアハが説明を始める。

 

 ミアハ・ファミリアが中堅ファミリアとして活動していた時期に、ナァーザたちのパーティがモンスターに襲われたこと。その際に重傷を負い右腕を食われてしまったこと、義手を購入したため借金を背負い、その借金のためにメンバーが脱退していったこと等々である。

「・・そして現在は利子も払えず、店舗も失ってしまったということだよ」

 そうして自嘲気味にミアハが乾いた笑い声を上げる。

「ダンジョンで稼ごうとは思わなかったのでしょうか?」

 リリルカの最もな質問である。それに答えて、モンスター恐怖症になってしまったのでダンジョンに入れないと言うナァーザ。

 

 リリルカからしてみると、怒りの対象でしかない。

 リリルカは幼いころに親を亡くしてからは、後ろ盾もない状態で、才能も無くサポーターとしてやっと生きていくだけの生活をしてきた。頼みの主神(ソーマ)も眷属にはまったく関心が無い。自力で泥をすするような思いで生きていくしかなかった。そんな自分に対してこのナァーザはどうであろうか。

 冒険者としての才能がある。主神(ミアハ)から高額な義手を、借金までして購入してもらえるほど大事にしてもらっている。それだけではない、義手の借金でファミリアは没落しているのに、自分はモンスターが怖くてダンジョンに入れないなど、甘ったれているとしか思えない。ぎりぎりと奥歯をかみ締めるのだった。

 

「・・それで我々をカモにして借金を返済しようとなさったわけですか・・」

 激怒した表情のリリルカを見てナァーザがひるむ。

「まあ、待ちたまえリリルカ君。怒るのは分かるが、僕の考えをまずは聞いてくれないかな」

 カモにされたことをリリルカが怒っていると考えたヘスティアが口を挟み、リリルカをなだめる。主神(ヘスティア)から言われてさすがにリリルカは、少し怒りを納めて大人しくなる。それを確認して、ヘスティアは腹黒な脳細胞の考えたアイデアを披露する。

「まず、この場所、廃教会の改装が終われば、僕達は地上部分に住む。地下部分は誰も住まないので、そこをミアハたちに提供すれば良いんじゃないかな。ただ、改装が済むまでの期間が問題になる。地下は今いる四人で一杯一杯だ。さすがにこれ以上は人数が増えるのは無理だ。そこで、ミアハたちには、改修が終わるまでの間は、手持ちの金で宿に泊まってもらう」

 たしかに、そのとおりではある。だが、リリルカが疑念を挟む。

「私としましては、それでもよいのです。だが先ほどのディアンケヒト様の言葉ではありませんが、それから如何するのでしょうか? ナァーザ様はモンスター恐怖症でダンジョンに入れない。そしてギルドから営業停止処分を受ければ、ミアハ様たちの収入は断たれてしまい、どちらにしろ将来は暗いのではないでしょうか?」

 だが、そのときには、ハリーもヘスティアの考えが読めていた。ヘスティアよりも先にハリーが口火を切った。

「営業停止ということは、『販売してはいけない』ということでは? だったら、販売しなければよいのでは?」

 そう、スネイプがルーピンに脱狼薬を作っていたことを思い出したのだ。あのときルーピンは別にお金などは払っていなかった。スネイプはなんと、ダンブルドアの指示があったであろうとはいえ、無償で脱狼薬を提供していたのだ。

 それに対して、訳が分からないという顔をするベルとリリルカ。だが、ヘスティアは一人、そのとおりと頷く。

「だから同盟かな。ええと、ベル君たちがポーション類の材料を調達して、それを使ってミアハたちにポーションを調合してもらう。その対価として、生活に必要な物を渡すんだ。いわばポーションとの物々交換だね。お金のやり取りが無いから、営業しているわけではない。つまりこの場合は、専属契約をした薬剤ファミリアということになるのかなぁ?」

 言っているヘスティアも含めて、全員が首をひねる。言われた事は理解できたが、それで押し通せるかどうか、うまく行くかどうかが分からなかった。

「そしてこの場合はだ。ミアハたちにはタダ働きに近いものになるが、それはベル君達が劣悪ポーションを買っていたことと、チャラにしてもらおう。それと品質については、ちゃんとしたものを作ってもらうようにお願いするよ」

「それはもちろんだ」

 ヘスティアの念押しにミアハが胸をたたく。物々交換なので実際にはタダ働きではないのだが、この条件ならとリリルカも納得した。

 

「まあ、ギルドから処分が出るかどうかも不明なままだ。どうせベル君は書類を出しに明日ギルドに行くんだろう? だったら、その時にアドバイザー君に相談して、この考えがうまく行くかどうか確認しようじゃあないか」

 そういうとヘスティアはベルの手から離れて立ち上がると、話はこれでお終いだとばかりに両手を叩いてみせる。

「さて、これからどうする? まだ時間はある。予定通りにリリルカ君の武具を買いに行くかい? ベル君達の防具も修理に出すといっていただろう?」

 ヘスティアの問い掛けに、まだ怒りが治まっていないリリルカが勢いよく答える。

「武具を買いに行きましょう!!」

 

 

********

 

 

 その後ベルたち三人は、ヘファイストスの店、もちろん駆け出し鍛冶師が出店している方へと、リリルカの装備を整えにでかけた。

 まずは予定通りに弓矢と槍、メイスである。まずは弓を見始めたのだが、問題が起こった。身長のために、大型の弓は使えず、小型の弓となった。さらに三人が困ったのが、矢の準備である。最近ベルとハリーが一回ダンジョンにもぐって戦うモンスターの数を考えると、戦闘終了後に回収することを見込んでも、かなりの量の矢が必要になるのである。それ()以外にも荷物があるこので、それだけ大量の矢を持ち運ぶのは現実的でなかった。

「うーん、これは、弓矢だけでっていうのはちょっと無理、かな・・」

 あごに手を当てて、考えるベル。その呟きにリリルカも答える。

「そうでございますね。今まではクロスボウを使う機会は緊急時だけでございましたからねぇ。矢はあまり必要ではありませんでしたし・・」

「となると槍かメイスかな」

 ハリーも二人と並んで考えながら呟く。

 そこでリリルカの身長に合う槍を選ぶことにした。

「じゃあ、これを」

 ベルが渡した鋼鉄製のがっしりとした槍をリリルカに渡す。槍を受け取り、それらしく構えて、突く、戻すを何回かやってみるリリルカ。

「うん、動きがぎこちないけど、慣れればよくなるはずだよ、うん」

 アイズとの戦闘訓練を経て、さらにはランクアップしたベルから見ると、リリルカの動きにはいろいろと問題はあった。それが分かる程度にベルも成長しているのである。そしてダンジョンにもぐり始めた最初の時は自分もそうだったと思い出し、自分を納得させるようにベルがつぶやく。

「そしてメイスっと」

 ハリーが野球のバットぐらいの大きさの棍棒を渡す。まあ、なんというか、背が低いリリルカと棍棒の取り合わせは、見た目がとてもアンバランスである。

 

「じゃあ、次は、鎧だね。軽い方がよいのかな」

 ハリーの言葉にベルが答える。

「じゃあ、軽量の皮鎧かなぁ・・」

 そうして三人で皮鎧を選ぶ。どうせならベル様と同じ軽量プロテクタータイプがよかったとは、リリルカの呟きである。

 

 次は、ベルとハリーの防具の修理である。ドラゴンから逃げるときに、ブレスの直撃は回避していた。しかし、ブレスで溶けたダンジョンの壁の飛沫や、欠片が三人に降り注いでいたのである。おかげで防具には細かい傷や穴が幾つも出来ていた。最初は、修理を頼んだのだ。だが、呼ばれて出てきた製作者の赤い髪の長身の男、ヴェルフ・クロッゾは、別の主張をした。曰く、9-10階層であれば、この防具でも大丈夫だが、さらに下の階層に進むのであれば、新調した方が絶対に良いと。そして、その男は驚くべき提案をしてきた。

「よかったら、俺と専属契約を結んでくれないか?」

 よく分かっていないハリーとベル。それに気づいてリリルカが説明を始める。

「ベル様、簡単に言うと、ベル様がドロップ品の中から武具の材料になりそうなものを優先でこちらの鍛冶師に渡し、その代償として武具を作成するというものです」

 そして、二人だけに聞こえるように声を落として言葉を続ける。

「ミアハ・ファミリアとの関係と同じですね。ただ、こちらは薬の代わりに武具、ファミリア同士ではなく個人同士、での話になります」

 リリルカの前半部分の説明にヴェルフ・クロッゾは頷き、さらに説明を付け加える。

「まあ、大体そのとおりなんだ。今回、専属契約を申し込んだのには理由があってな。一つはこの防具。これは俺が作った防具なんだ、こいつを気に入ってくれたのが嬉しくてな。しかもだ、その冒険者が、今、話題の英雄ベル・クラネルだ。こいつは専属契約を申し込むしかないだろう。今なら、無料で新しい防具作成を引き受けるぜ」

 にこにことしながら、ヴェルフは言う。

ヴェルフの言葉を聴いて、ハリーはしめしめと思う。目立ったのは、ベルだけで、自分は目立ってないようだと判断したのである。だが無情にもヴェルフは続ける。

「もちろん、そちらのハリー・ポッターの分もだ」

「う、名前知ってるんだ」

 思わずハリーの呟きが漏れる。

「そりゃ、もちろん当然さ。いまや、ドラゴン・スレイヤーは有名だしな。知らない方が無理ってもんだろう。それとちょっとばかし、相談があってな、何、難しいことじゃない。簡単なことさ」

 そういって、ヴェルフはベル、ハリー、リリルカの三人を真剣なまなざしで見つめる。

「俺をパーティに入れてくれないか」

 びっくりする三人。それに気づきあわててヴェルフは言葉を続ける。

「ああ、いや、突然な話だというのは分かってるから、しばらく考えてくれて構わない。新しい防具を準備する間はダンジョンに行かないだろう。その間に考えておいてくれ」

「ちなみに新しい防具ができるのはいつ?」

「なあに、三日もあれば十分だ」

 

 

 三人はここでいったん解散することにした。ベルはヴェルフから詳しい話を聞くことに。ハリーは新しい箒の材料を買いに。リリルカは自分の武具をホームまで持ち帰ることにした。

 

 

 さてリリルカは鎧を入れた袋を背中に背負う。その袋にベルが槍を邪魔にならないように上向きに結びつける。槍をぐいぐいと動かして、ずれ落ちないことを確認する。

「うん。これで良し、と。じゃあ、僕はヴェルフに事情を聞いてくるから」

「私たちとしては、団長のベル様の決定に従いますが、できれば、永続的なパーティ契約にしてくださいよ。一時的なパーティ仲間だと困りますからね」

 

 ハリーが故郷に戻ったら、ベルとリリルカの二人パーティになり、その人数で下層に向かうのは厳しい。ヴェルフがパーティメンバーになってくれるのは喜ばしいことなのだ。しかもヴェルフは信用できる(ヘファイストス)ファミリアの一員で信用でき、かつ主神同士も仲がよいという、これ以上の関係は望めない良好物件なのである。ヴェルフ個人の事情にもよるが、リリルカにとっては、逃がしてほしくない鴨葱である。

「わかってる、わかってるよ。大丈夫だって。で、ハリーは箒の材料を買いに行くの?」

 ベルは安心させるようにリリルカの肩をぽんぽんと叩き、ハリーに問いかける。

「うん、今度は、ダンジョンに持ち込む用と、大勢で乗れる用と、二本を作ろうと思うんだ」

それを聞いてベルは、以前ハリーに箒に乗せてほしいと頼んでいたことを思い出した。

「そういえば、この前乗せてもらった(ドラゴン退治の)時は景色を見る暇はなかったしなあ、今度はゆっくり乗せてね」

それを聞いたリリルカは顔を少し青ざめさせ、小さな悲鳴を上げる。

「私は遠慮しますからねっ! あんな怖い思いは、もうまっぴらですっ」

 もともとその気があったのだろうが、ドラゴン相手の曲芸飛行ですっかり高所恐怖症になってしまったリリルカである。ネビルを思い出したハリーは、無理に乗せるようなことはしないと優しく約束する。

 そして、リリルカはホームへと向かい、ハリーとベルはそれを見送った。リリルカが去っていくのを眺めながらハリーはつぶやく。

「なあ、ベル。リリルカって、あの体格で大量の荷物を持てるんだから、見かけによらず力持ちだよね。」

 ベルもリリルカを見送りながら答える。

「たぶん、昔、言っていたサポーター向けのスキルのおかげなんだろうね」

 リリルカが角を曲がるまでの間、二人で黙って見送り、ハリーも材木店に出発する。

 

 

********

 

 

 リリルカは角を曲がり、ベルとハリーが見えなくなると、すかさず小走りに走り出した。じつはこの後に出版社に行くつもりなのである。ドラゴン退治の日に『ドキドキ! ダンジョンラブ!!』が発売されて、すでに数日がたっている。どれぐらい売れているのか、作者としてはとても気になっていた。そしてようやくのことで自由にすごせる時間ができたのである。ホームに戻って荷物を降ろして出版社へとダッシュするのだ。そう気合を入れ直したリリルカの移動スピードは、荷物を背負っているとは思えないほどのものであった。

 

 ホームに着いた時には、ヘスティア達は既にいなくなっていた。おそらく主神(ヘスティア)はバイト、ミアハ達は宿探しであろう。鎧と槍を地下室に運び込み片付ける。そして書き溜めていた第三巻の原稿を隠し場所から取り出すと、すぐに外に出る。

オラリオ市内をだかだかと小走りで横断し、出版社までたどり着くと、受付で担当者を呼び出してもらう。

 

 打ち合わせブースで待っていると担当者がやってきた。

「お久しぶりですね。バジーレさん!」

 にこにこと喜びながら担当者が挨拶する。

「来社してくださってタイミングがよかったですわ、ちょうど連絡を取りたいと考えていたところなのです」

 そういうと担当者はリリルカの手を握ってぶんぶんと上下にふる。そして席に着くと早速、話し始めた。

 

 あの(・・)ドラゴン騒ぎがあったので、初日の売り上げは他の本と同様に壊滅的だったこと。

 発売タイミングが悪かったかと思われたが、いきなり爆発的に売れ始めたこと。

 主人公二人がドラゴンスレイヤーそっくりであることが原因と思われること。

 おかげで噂が噂を呼び、そんな嗜好が無い人にまで売れていること。

 のるしかない、このD(ドラゴン)騒動に!

 

「・・というわけで、急遽、明日第二巻が発売されます!」

 ・・やばい・・

 リリルカの脳裏をよぎったのは焦りと不安である。

 主人公の名前がペルとパリー? しかも額に稲妻型の傷がある? ベル様とハリー様ってばればれじゃないですか! 誰ですかこんな設定にしたのは!! リリですよっ!! あのときの(リリ)は何を考えてたんだぁぁぁぁぁ!

 心の中でのたうちながら、おそるおそる尋ねる

「・・あのぅ、それは大々的に発売するんでしょうか? それとも・・?」

 売るときの規模しだいでは、二人にばれないかもしれない。いや、ばれても、ここには偽名で来てるから、私だと判らないはずだけれど、ばれるとやばい気がする。だらだらと冷や汗を流すリリルカ。

「まあ、その(・・)ジャンルの中では大々的に売り出しますね」

 にっこり笑う担当者。

「それでですね、バジーレさん。第三巻では、ジャンルを問わず、大々的に! 全年齢対応で! 売り出したいと考えているのですが、どうでしょうか? ドラゴンスレイヤーを扱っている話はまだありませんし、話題を独占できます。発行巻数も桁が違ってくると思いますよ。どうですか?」

 にこにことしながら、強力にプッシュしてくる担当者。あれ、でも待ってほしいとリリルカは考える。第三巻だけ対応しても、その前の部分が対応してなかったら意味無いのでは? まさか─?

「あの、それって、全年齢対応って、第三巻だけですか?」

 にっこりと笑い無慈悲に断言する担当者。

「いーえー、第一巻と第二巻も全年齢対応verを書いてもらいますよ」

 無慈悲なリテイク。

「勇気、友情、勝利を、そこはかとなく押し出してくれると、受けがよいと思われますね」

 さらに追加注文。

 厳しい。これは、厳しい。

 リリルカはすかさず、戦略的撤退を開始する。咳払いをして、のどの調子を整えると説得を始める。

「全年齢対応、それは嬉しいお話です。しかし。しかしですよ、それでよろしいのでしょうか? 私はあまり詳しくは無いのですが、商売の方法としては、大勢に大量に販売する方法と、もうひとつは少数にレアなものを販売する方法と、二つあるとお伺いしたことがございます。私としましては、レアなものを販売する方が好みなのですが。そしてですね・・」

 ごにょごにょとリリルカにとっては戦略的撤退、しかし担当者、つまりは出版社にとっては販売拡大の話を進める。

 

 小説は小説としてリリルカが書き続ける。そして、ドラゴン騒動に便乗するために、劇場で『ドキドキ! ダンジョンラブ!! 二人はドラゴンスレイヤー!』を公演するのだ。舞台装置を作ったり、役者の練習などの準備で、しばらく時間が必要だが、それは仕方が無い。そして公演したものを全年齢対応verとして書下ろし、劇場で公演と同時に販売するのだ。これならばドラゴン騒動に便乗できるし、自分の名前が表に出ることは少ないだろう。また、ドラゴン騒動が終わった後は上演をやめればよいし、シリーズはシリーズとして続けることが出来るはずである。

 

「・・という方法です。こうすれば、レアな方のシリーズを終わらせること無く続けられます。全年齢対応verは、今回のドラゴン騒動に直接関係のある出来事のみに絞ったほうがよいのではないでしょうか? しばらくしてドラゴン騒動が終われば、人気も衰えるでしょうし。こちらの方が担当者(あなた)のご趣味にも合うのでは?」

 そうリリルカは、持ち込まれた原稿を読んだときの担当者の表情を忘れていなかった。絶対にそちら(・・・)のジャンルが大好きなタイプだと判断したのだ。ならば、そちら(・・・)続きが読みたいであろうから、担当自身は、こちらの提案に乗り気なはずだ。後は全体的に、こちらの提案方が利益が出ると思わせればよいのだ。そしてリリルカの読みは当たっていた。リリルカの提案を聞いた後、考え込んでいた担当者は、リリルカの提案に賛成したのであった。

 

 リリルカは、土壇場でよくもまあ、あんな方法を思いついたものだと、我ながら感心するのであった。

 





レアは反対から読むとアレ

次回『四人パーティ』
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