ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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四人パーティ

 さて、その夜である。夕飯後、ベル達はびっくりしたことに、ハリーが箒の作業をしなかった。どうしたのかと思ったらリリルカに話しかけた。

「リリルカ、ちょっと教えてほしいことがあるんだ。ああ、もちろん嫌だったら嫌で構わないんだ・・」

 出版社からもらった金額を思い出し、にやにやと内心笑っていたリリルカは、なんだろうと不思議に思う。

「リリルカのサポーター向けのスキルについて詳しく教えて欲しいんだ」

 そして、リリルカのジト目に気づき、あわてて、理由を説明する。以前のように○リコ○だとかと間違えられたら大変だと思ったのだ。ハリーも学習するのである。

「実を言うと、不思議なんだ。見ただけで、とても重いと分かるバックパックを平気で持ち運んでいるから。スキルについて詳しく知れば、戦闘方法についてもっと良い考えが出るかも知れないんだ」

 リリルカは考える。

「うーん。。。ハリー様、ちょっと気になる事がリリにもあるのですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 ハリーが頷くのを見てリリルカは問いかける。

「ドラゴンと戦ったときに、ハリー様は4個目と5個目の魔法を使っていたように思うのですが? たしか『インコリンゴ』と『インセンシブ』でしたか? どう考えてもおかしいのですが?」

 そういえばそうだったかとハリーは考える。あの時は夢中で全力で戦っていたので、使ってしまったかも知れない。

「まあ、リリルカ君。これに関しては、説明してもよいが、絶対にしゃべらないでくれたまえ」

 ヘスティアが会話に入ってきた。ヘスティアが構わないかと視線でハリーに問いかける。4個目と5個目の魔法に気づいていても、これまで黙っていたのでリリルカは信用できる。そう判断したハリーは了承のしるしに頷いた。

「リリルカ君。驚くだろうし、信用しないだろうが、これから言うことは本当だ。じつはハリー君はこの世界の人間ではない。他の世界から来た魔法使いなんだ。そしてハリー君の世界の魔法使いは、4個や5個どころではなく、大量に、それこそ何十個も魔法を使えるんだ。前回試してみた移動スキルも、実際には移動魔法なんだよ」

 リリルカはヘスティアをジト目で見つめる。それに気づいたハリーは浮遊呪文や、簡単な変身呪文を使って見せる。これで6個目、7個目の魔法となる。ここまで証拠を見せられたら信用せざるを得ないとリリルカも判断した。

「あれ、ではもしかしたら、箒も魔法なのですか?」

 リリルカの素朴な疑問である。それにたいして箒は魔法ではなく、ハリーの世界の魔法使いしか使えない、マジックアイテムのようなものだと説明する。

 

「なんと言うか、御伽噺のようなお話ですねぇ。分かりました。ハリー様のステイタスについて教えてもらったことですし、私もサポーター向けスキルについて説明しましょう」

 そうしてリリルカがスキルについて説明する。装備や荷物を持つときに、それらの重量に比例するだけの補正がリリルカの能力にかかる。すなわち、軽い荷物を持つときには、筋力等に軽い補正しか掛からないが、重い荷物を持つ時には、強力な補正が掛かり楽に持つことが出来るのである。

「ただ、持つことに関しては補正がかかるのですが、すばやく動いたりするのには補正がかからないのですよ」

 

 それを聞いたハリーは、持ち上げる動作が攻撃になる方法を考える。持ち上げるためには一旦しゃがむ、そして立ち上がる。

 

 つまり頭突きだ。

 強固で頑丈な兜で棘がついていたら大丈夫って、いやいや、これは自分もダメージを受けるし、そもそも動作が遅いから駄目だ。となると、持ち上げる動作。

 

 すなわち、アッパーカットだ。

 ボクシング用グローブに棘をつけたら大丈夫なはずだ。いや、これは、だめだ、荷物を持ち上げる動作にならない。普通に攻撃してるだけだ。

 そこでまたハリーは考え込むのだった。

 その間にベルがヴェルフのパーティ参加の事情、ランクアップして鍛冶の発展アビリティを発現させたいという事情を説明する。もちろん、ランクアップ後もパーティとして戦闘に参加するということだった。リリルカもヘスティアも特に異論はないようだった。

 神友の鍛冶神の眷属ならば信用できるぜと、安心するヘスティアである。

 その説明を聞いている間にハリーは、武器を一つ思いつく。そう自分とよく似た名前(ジェームス)というMI6のスパイが大活躍する番組。水陸両用車や、腕時計型の無線機、小型の火炎放射器などと一緒に小道具として出ていたものだ。あれならば、ここでも作れるはずだ。鍛冶師という(つて)ができたのだ。早速、ヴェルフに作ってもらおうと決心した。

 

 

 3日後、新しい防具が出来上がってきた。ハリーには体にぴったりと合った黒いズボンとハーフコート。軽く動きやすく、しなやか。どことなく、クディッチのユニホームを彷彿とさせる。

 ベルは曲面で構成された白銀色の軽量プロテクター。そのベルの姿を見て、格好いいと、はしゃぐヘスティアとリリルカ。それを脇から見てヴェルフは、大変だなとハリーの肩を叩くのだった。

 

 ヴェルフを加えた四人でダンジョンに入り、まずは、5階層で戦う。リリルカの戦闘訓練、ベルとハリーのランクアップ後の肩慣らし、ヴェルフも加えての戦闘フォーメーションの確認とやることが多いのである。戦闘に慣れてきたら、徐々に階層を下に移動していく。

 

 その方法で10日ちかく戦い、リリルカの向き不向きが分かった。そして現在は恩恵の更新も終わり、ヘスティアも交えて、ファミリアの集会というか、報告会のような雑談をしていた。

 まずは、ホームの改修状況。

 ドラゴン・スレイヤーのためだぜ!とゴブニュ・ファミリアが、がんばってくれたおかげで、外装自体は8割ほど終わった。内装はまだまだだが、住むことは出来るとのことだった。ミアハたちの路銀も心もとなくなってきていたので、ありがたい知らせだった。ミアハたちに連絡して、ヘスティア達は地上部分に引越し、地下にはミアハ達が引越すことになった。ヘスティアたちの引越しといっても、荷物があるのはヘスティアとベルだけである。ハリーは着の身着のままでオラリオに来たので、荷物が無い。わずかにある手荷物、ハグリッドから貰った鞄や折れた杖などは、これまでどおりに地下室に置くことにしている。なぜかというと、ハリーがミアハから、ポーションの作り方を習うことになったからである。そしてハリーは魔法界の薬の作り方をミアハに教えることになったからである。いわば情報交換である。

 

 それからリリルカの戦闘訓練。

 まずは弓矢。弓を武器としていたナァーザの指導のもと、練習を続けたおかげで、成果があがった。矢を大量に持ち込むのは荷物になるので、ここぞというときにしか使えないのが欠点だが、かなり上手くいった。

 だが、槍はだめだった。突くまでは良いのだが、力が弱いのとリリルカが軽いので、威力が無いのだ。時には、相手に槍があたった反動で、リリルカが自分で後にこけることなどもあった。それを見たヴェルフが『リリすけがもっと重ければ! 踏ん張れるのに!!』と叫んだら、『女の子に体重の話は厳禁です!!』とリリルカが激怒していた。

 そしてメイス。これが一番うまくいった。剣と違って刃が無いので、基本振り回して当てるだけ、というのがシンプルで、リリルカに合ったのだ。

「まあ、慣れてきたのもあると思いますが、このリリが、戦うことが出来るとは、思いませんでしたねぇ・・」

 しみじみと呟くリリルカである。

 

 そんなリリルカの前に、ハリーが赤と緑の紙で包んだ四角い箱を、よっこらしょっと置く。箱の重さに抗議するように、置かれたテーブルがミシミシギシギシと音を立てる。

「これはベルと僕からのプレゼントだよ」

 ベル(とハリー)からのプレゼントと聞き、大喜びでリリルカはがさがさと紙をはがし、中身を取り出す。中にあったのは、縦横高さ、それぞれが30cほどの箱型のカバンだった。角の部分には鉄板が打たれ補強されている。蓋の中央には、がっしりとした頑丈な取っ手がつけられている。そして変わっているのが、蓋の四辺である。それぞれ深さ3c、幅が12cほどの凹みがあり、そこに棒が渡され、取っ手として使える用になっているのだ。つまり、蓋の中央、4辺の中央と、合計で5箇所に取っ手があることになる。

そして、リリルカは蓋のロックをはずして開ける。中に縦横深さがそれぞれ20cほどの凹みがあり、そこにはクッキーや、マドレーヌなどお菓子が大量に入って居た。

「まあ、これは弁当箱(ランチボックス)なんだけれど、救急箱(ファーストエイドキット)としても使えると思うんだ。ポーションはビンが割れるから入れられないけどね」

 包帯とかを入れればいいんじゃないかなとベルが説明する。

「で、ここの蓋の部分の取っ手を持って振り回せば、十分、鈍器(メイス)として使えると思うんだ。これならサイズ的にも中身的にも荷物だから、持ち運びもしやすいし、良いんじゃないかと思うんだ」

「じゃあ、明日試してみましょう!!」

 喜ぶリリルカだったが、横で見ていたヘスティアは冷や汗を流しながら叫ぶ。

「ちょっとまったベル君! ハリー君! これは一体全体どれくらいの重さがあるんだ?」

 そうテーブルに乗せたときにミシミシといったのを聞いていたのだ。にっこり笑ってハリーはそれに答える

「女の子に重量の話は厳禁だそうですよ?」

 

 

********

 

 

 さて、連日のごとく、ベルたち4人は、ダンジョンにもぐる。そして今日からは12階層に行く予定である。ドラゴン騒動前には11階層に行っていたので、今日からは新しい階層である。本当であるならば、もっと早く行ってみたいところだったのであるが、新メンバーであるヴェルフの加入、リリルカの戦闘参加など、パーティとして調整が必要だったのだ。さらには、レベルがあがったベルとハリーの調整で、この時期にずれ込んだのである。もちろん『冒険者は冒険をしてはいけない』をモットーとするエイナの入れ知恵である。

 

 隊列は、先頭から順番に、ベル、ヴェルフ、リリルカ、ハリーである。

役割は、ヴェルフが前衛に立ち、リリルカが中衛、そしてハリーが後衛である。そしてベルは以前リリルカが提案していた遊撃をしていた。この隊列が実にうまく()()()()

ヴェルフが大刀で敵を引き受け、リリルカが弁当箱で戦闘を行えるようになったことも原因であるが、一番はベルである。武器を使っての接近戦、魔法を使って遠距離戦、メンバーの援護といったように、素早さを生かした神出鬼没な動きで、オールマイティな活躍するのである。

 

「ぬがぁぁぁ!」

 ヴェルフがハードアーマードの突進を大刀で受け止める。ギャリギャリと嫌な音を立てるが、ハリーが麻痺せよ(ステューピファイ)を打ち込み、そこでリリルカが弁当箱で全力で殴りつける。動かないモンスターならば、リリルカでも容易に殴りつけることが出来るのである。ベル二人分以上の重量を持つ弁当箱が激突、ダンジョンの壁と挟み込まれる様に潰されハードアーマードは絶命する。

「やるなリリすけ。やっぱり、硬い鎧を着こんだ様なモンスターはぶん殴るのが有効だな。大刀じゃあ、切りにくいしなぁ」

「リリすけではありません、ちゃんと名前を呼んでください。まったくこの大男は・・・」

 二人が話をしている間にも、ベルはシルバーバックに止めを刺していた。以前(怪物際の時)は、とても苦労した相手だ。だが今のベルはレベルが2になり、敵の動きがよく見えるようになっていたため、てこずるような相手ではない。

 隙を見て膝に一撃入れ、体制が崩れた瞬間に、バゼラードを回転するような動きで背中側へと振りかぶって、上段からたたきつけ、真っ二つにする。

 周囲を警戒していたハリーは、モンスターを一掃したことをベルにつげる。

「おつかれ、今のシルバーバックで、とりあえず最後だ」

「じゃあ、ちょっと、休憩しよう。リリ、弁当箱を」

 いわれて、リリルカは、弁当箱を下に降ろして蓋を開け、中に入っていた携帯食を各自に渡す。そして、飲み物用のビンを取り出し、割れていないかチェックする。

「ハリー様、割れていないようです。先ほども全力で殴ったんですけどねぇ・・」

 リリルカがチェックしているビンは、ハリーが加工した『割れないビン』である。

 最初は救急箱として使用するためポーションを金属製のビンに入れようとしたのだ。しかしミアハから『金属製だとポーションが劣化する』と止められたのだ。そこで思い出したのが、ハーマイオニーが作ったビンである。

 彼女がリータ・スキータを捕まえた後、『割れないビン』に閉じ込めていたのを思い出し、ハリーが普通のビンを『割れないビン』へと加工したのだ。今回、試して問題なければ、ポーションを入れて、弁当箱から救急箱にしようと計画しているのだ。

「へぇー、普通なら割れてるもんだけどねぇ・・」

とヴェルフが感心したようにビンを見つめる。

「あれで割れないなら、荒っぽい動きや、落としたりしても大丈夫だな。探索が便利になるのは間違いない。数はあるのかい?」

「いやまだ10本程度。作るのが手間がかかるんで、なかなか」

 最近のハリーはホームに戻ってもやることが多いのだ。まずは箒と割れないビンの作成。そしてオラリオ世界でのポーション作成方法をミアハから習っている。さらには、そのお礼代わりに、ミアハには、ハリーたちが習った魔法薬の作成方法を教えている。

 最初にミアハにおできを治療する薬の作成を教えたときには、懐かしさで笑ってしまったほどだ。

「うーん、数がそろえられるんなら、売れると思うぞ。深層に運ぶときには、割れないように持ち運ぶのが大変らしいからな」

 ヴェルフの提案に、時間が出来たらやってみると答えるハリー。

「そのときには、ハリー様、一本、1万2千ヴァリスぐらいで売りましょう!」

「え、それ、いくらなんでも高すぎない?!」

 リリルカの提案に驚くハリーである。

「いえいえ、高いことはありません。割れない以上は、洗えば何度も使い回しが出来るということです。長い間使えるんですから、それを考えると安いものだと思いますよ。ただし! 買うのは、深層まで遠征するような一部のファミリアに限られるでしょうけれども」

 それにヴェルフも頷く。

うちんところ(ヘファイストス・ファミリア)も結構深くもぐるから、欲しがるんじゃないかな・・。まあ、深いといってもロキ・ファミリアほどじゃないがな」

「欲しがるってどれくらいの数?」

ハリーの問い掛けに、顎に手を当て天井を見上げて唸るヴェルフ。

「んー、まあ、俺もレベル1だからなぁ、遠征に付いて行ったことが無いんだ。でも200本ぐらいはポーション類を運んでいたから、それの半分をこのビンに変えるとして・・」

「100本として120万ヴァリスですか・・・一つのファミリアだけでですよ」

 リリルカが計算して金額に驚く。

「ロキ・ファミリア、フレイヤ・ファミリア、ガネーシャ・ファミリア等にも売れるでしょうから、1千万ヴァリスはいくでしょうねぇ・・」

「でもそれって僕が千本ぐらい作るってことだよね?」

 大量にビンを作ることに眩暈がするハリーである。それにベルがフォローを入れる。

「ハリー、落ち着いて。作らないといけないって分けじゃないから。あくまでお金設けをする手段として、こういうのもあるっていうだけだから!」

 それを聞いて落ち着くハリー。

「じゃあ、どうしても必要になるまでは、この方法はとらないってことで・・」

 そしてハリー以外の三人が考えたのは同じことだった。

『それは必要になったら、千本以上の大量のビンを作るってことでは・・・』ということだった。

 

 

 そうやって話していると、通路の奥から、ガシャガシャと音が響いてきた。

 誰か冒険者がやって来るようだ。

 薄闇の中から現れたのは五人の冒険者、だが、そのうち一人の冒険者─小柄な女の子?─は大柄な男に背負われていた。五人はモンスターから逃げてきたようで、こちらを見ると叫んできた。

「助けてくれっ、白黒(しろくろ)のドラゴン・スレイヤーっ!!」

 

 それを聞いたヴェルフは、にやりと笑うと、ベルの横腹を肘でつついた。

「で、どうするよ? ドラゴン・スレイヤーさん?」

「からかわないでよ。怪我しているようだし、見過ごせないよ・・」

 ベルは苦笑して、答える。そして顔を引き締めると、大声で叫び返した。

「こちらヘスティア・ファミリア! 救援に入ります! ハリー、護れ(プロテゴ)で通路をふさいで追撃を止めて。その後は後方警戒を。リリは怪我人が居るから治療。終わったら報告を。ヴェルフ、僕と一緒に追撃を叩く!」

「「「了解」」」

 すかさず、ハリーが護れ(プロテゴ)で、追撃を分断。ベルとヴェルフが各個撃破にかかる。

 ベルは、逃げてきた冒険者パーティに声をかける。

「治療する時間を作らなければいけません。そちらのパーティで戦える人は、一緒に戦ってください!

「お、おう! もちろんだ。みんな迎撃するぞ!」

 リーダー格の大男が、指示を出す。

 リリルカは、その大男に声をかける。

「治療をするので、そちらの方を降ろしてください。あと、治療で服をずらすので、そちらの女性の方手伝ってもらえますか?」

 大男は、あわてて怪我人を急いで、しかし、やさしくおろす。

「私はミコトという、すまない、助かる」

 女性冒険者がリリルカを手伝いながら、名乗ってきた。

「私はリリルカ・アーデです。お礼なら、ベル様に言ってください。ベル様の決断ですので」

 女性冒険者ミコトはわかったというと、リリルカがポーションをかけやすいように、怪我人を支えた。

「チグサ、ポーションだ、飲むんだ」

 リリルカは、ホーションの半分を怪我にかけると、残り半分を、口から注ぎこんだ。幸い、かすかにだが意識はあるようで、自力で飲む干すことができた。見る見るうちに、出血が止まり、傷口の周囲の肉が盛り上がり、傷が修復されていく。

「これは高等(ハイ)ポーションか」

 ミコトが驚くが、リリルカはそれを否定する。

「いえ、通常のポーションですよ?」

「そうか、効果が高いもので、てっきりそうだと・・失礼した」

「ベル様! 治療終わりました!!」

 そのリリルカの報告で、ベルは次の指示を出す。

「ハリー、魔法での攻撃たのむ、リリルカは後ろ含めて周囲の警戒!」

 すかさず、ヘスティア・ワンドを構え直したハリーから攻撃呪文がほとばしる。

麻痺せよ(ステューピファイ)! 麻痺せよ(ステューピファイ)! 麻痺せよ(ステューピファイ)!」

 赤い光線が次々にモンスターに激突し、打ち倒していく。実際には麻痺しただけで、死んだわけではない。だが、それを知らない冒険者たちは、『一撃でモンスターを打ち倒している』と驚愕にとらわれている。

 実情を知っているベルとヴェルフは、麻痺したモンスターは後で止めを刺すことにして、麻痺していないモンスターと戦っている。

 そうやって戦い、程無くモンスターを全滅させることができた。

 

 大男が、改めてベルに向かい合う。

「助かったぜ。俺たちはタケミカヅチ・ファミリアのものだ。俺は団長の桜花・カシマだ。さすがドラゴン・スレイヤー、腕が立つな。助けを求めて正解だったぜ」

 そしてにやりと笑う。

 怪物進呈(バス・パレード)に近い形での救援要請。それにもかかわらず、やすやすと対処してみせる実力。さらには負傷者の千草を治療する善良性(お人好し)。怪物進呈をやめて救援を求めることにしてよかったと、自分のとっさの判断が間違っていなかったことにほっとする桜花であった。

 もちろん怪物進呈をするつもりだったなどとは、おくびにも出さない。そんなことをいっても、場がこじれるだけであるからだ。

 

「怪我人も治療してくれて助かった。ポーションが切れたんで、俺たちはこれから地上に戻るが、そちらはどうする?」

 ベルが代表で答える

「僕たちは、まだこの階層の探索を続けますよ」

 それを聞いた桜花が頷く。

「わかった。また、改めて、主神と共に今夜にでも、そちらのホームに礼に行くぜ」

 そういうと、タケミカヅチ・ファミリアは去っていった。去り際、チグサとミコトがもう一度深々とお辞儀をして去っていった。

「なんていうか、あわただしい人たちでしたねぇ・・・」

「ポーションがないから、急いで帰ろうって感じだが、急いでもどうなるもんでもないと思うんだが・・・」

 リリルカの呟きに、ヴェルフが答えるように呟く。

「さて、それじゃ、僕たちも13階層目指して、先に進むよ。予定通りに、階段に着いたら、そこでいったん今日は引き返すからね!」

 そんな二人に渇を入れるようにベルがこれからの予定を宣言する。

「了解リーダー!」

 そういうと、四人は再度、陣形を組むと、先へと進むのだった。

 

 




補足
本文中にも書きましたが、桜花が怪物進呈(バスパレード)の予定から手のひら返しで、ベル達に助けを求めることにしたのは、白黒のドラゴンスレイヤー、つまりベルとハリーの事を知っていたからです。
ドラゴンと戦い、生き延びるだけの実力があること。つまり、モンスターに追撃されている状況を打破する実力がある。
街を救うためにドラゴンに戦いをしかけたこと。つまり、悪くいえば『甘ちゃん』、よく言えば、『お人よし』だから、こちらを助けるだろうと推測できること。
この二つのこと、実力と人柄から、ベルたちに助けを求めました。

アディオス! 黒ゴライアス!

次回「Drowning man will grasp at a straw.」

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