ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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And Then There She's Are None.

 翌日。今日は一日、メレンを観光して回るということで、自由行動である。

 と見せかけて、ロキ・ファミリアの主力は、闇派閥の調査である。それを知らされていないヘスティア・ファミリアは独自に水揚げを見に港へと行くことにした。

 

 既に朝の分の仕事を終えた漁船が、港に戻ってきて、水揚げをはじめている。魚を船から降ろす者、降ろした魚を市場に運ぶ者、次の出港に備えて準備をする者。働く者たちの威勢の良い掛け声があたりを満たしている。

 荷物を台車で運ぶ者たちの合間を縫い、邪魔にならないように気をつけながら、ベル達は散策する。四人とも、このような場所に来るのは、始めてて興味が尽きなかった。

 

「見てください、ベル様。鎧のような鱗ですね!」

 リリルカが示したのは、ドドバス。70cmほどの大きさの黒い魚である。鱗がいびつに発達し、鎧の様に強固なものになっているのが特徴だ。

「うわぁ・・、あれモンスター?・・でもモンスターは食べられないから、違うんだよね」

 ハリーの呟きを聞いた漁師の一人が答える。

「モンスターに齧られない様に、鱗が頑丈になっちまったんだな・・。まあ他の魚もいろいろと影響を受けてるしなぁ・・」

 元気に威勢よく、魚が入った木箱を船から降ろしながら漁師が続ける

「まあ、いろいろと変わった魚がいるから見て行ってくんな!」

 ベルはまじめな表情になる。

「陸上はバベルがダンジョンを塞いでいるから良いけど、海の方はどうなってるんでしたっけ」

「確か、リヴァイアサンのドロップアイテムで、出入り口を封印したから、海にはもうモンスターは増えないはずだよ。あとポセイドン・ファミリアが退治を続けているはずだ。封印していさえすれば、時間はとてつもなくかかるが、全滅させることも無理ではないはずだよ」

 ヘスティアが説明する。ダンジョンの外では、モンスターは普通の動物のように繁殖する。ただし、親は自分の魔石を分けて子供に与えるため、世代を重ねるごとに弱体化していく。ダンジョン内外で、モンスターの強さに差が出る原因がこれである。そしてまた、ダンジョン外部のモンスターと戦うだけでは、相手が弱いモンスターであるため、恩恵を大きく育てることが出来ない理由でもあるのだが。

「ちなみにポセイドンは、神界では、僕ん所とご近所さんだね」

 ついでに豆知識も披露するのであった。

 

 港の見物を終えて、メレン中心部に向けて歩いていると、通りの向こうから、喧騒が届いてきた。

顔を見合わせ、一斉に走り出す四人。ベルを先頭にしてヘスティアを中心に走ることしばし。騒動の中心が見える所に辿り着いた。だがすでに騒動は終わったようで、ロキ・ファミリアと、褐色の肌も露なアマゾネス集団が二つに分かれて、離れていくところだった。周囲の屋台の者たちも隠れていたのが、こわごわと顔をのぞかせ、商売を再開しようとしている。

「ちっ! 雑魚が! ごちゃごちゃ言い逃れしやがって・・っ!」

 怒っていることを隠しもせずに、悪態をつくのはベート・ローガ。狼人である。

「こんにちは」

 顔見知りであるハリーは挨拶をする。ベートは、ハリーの顔を見ると、苦虫を噛み潰したような表情になる。そして、ハリーの隣に立つベルにも気付く。

「けっ! テメーらかよ。俺らの邪魔してんじゃねーぞ! 雑魚は雑魚らしく引っ込んでろ!!」

そう言うとイライラした様子のまま立ち去った。

 

「何だろうね・・」

 ベートの剣幕にびっくりした様子でヘスティアがつぶやく。それにハリーが答える

「あー、実は初対面で失礼なことを言って怒らせてしまったので・・。たぶんまだ怒ってるんだと思います」

「何を言ったのハリー!」

 ぎょっとするベル。オラリオに名前をとどろかせているレベル5の冒険者に何を言って怒らせたのだろうかと戦々恐々である。とは言うものの、まだ公表されていないのでベルたちは知らないのだが、59階層への遠征を経てベートはレベル6にランクアップしている。

「いや、最初、犬人(シアンスロープ)ですか?って聞いたら、激怒したんだ」

 そのときの様子を思い出すハリー。確かあのときには、隣のテーブルに座っていたアマゾネスが、なぜか腹を抱えて笑っていた。

「で、狼人(ウェアウルフ)っていうんで、苦労したんですねって、つい呟いちゃったんだよ・・」

「苦労するってなんでまた?」

 ベルの追及は続く。

「僕の故郷では、人狼(werewolf)は、そのう、人狼に噛まれることによって、人狼になるんだ。そして性格が凶暴になることが多くて、満月を見ると人から狼に変身して理性を失うんだ。そして一晩中、暴れまわる。力も強いし、素早いしで、大人の魔法使いでも対抗するのは難しいんだよ。それで、たいていの魔法使いは、人狼を嫌ってる・・。ただ、普段はおとなしい性格の人狼もいる。僕の知り合いの人狼(リーマス・ルーピン)もその中の一人で、とても立派な人なんだ。だけど人狼だという理由だけで、皆に嫌われて働くことができずにとても苦労してるんだ・・。それでつい・・」

 こちらの世界とハリーの世界でのwerewolf(ウェアウルフ)の違いについて、驚愕し、絶句するベルとヘスティア。と同時に、ベート・ローガがハリーに対して激怒した理由を納得した二人であった。

 そんな風に話している間に、リリルカがロキ・ファミリアの一員、黒髪の猫人のアナキティ・オータムを捕まえて、騒動の顛末を聞き込んできた。

「何が起こったか聞いてきました。なんでも、カーリー・ファミリアのアマゾネスと、怒蛇(ヨルムガンド)とが喧嘩をしたようです」

あっさりとかいつまんで説明するリリルカ。

 

 

 カーリー・ファミリア。

オラリオにあるファミリアではなく、テルスキュラに存在するファミリアである。ラキアと同じく、主神を中心として、一つのファミリアが一つの国家を形成している。このファミリアには、究極の目的がある。

 それは『真の戦士』を生み出すこと。

 そのために、団員を鍛えに鍛える。その後、成長した団員達同士で殺し合いをさせる『儀式』を経て団員をランクアップさせるのである。ティオネ、ティオナはそんな戦いしかないファミリアを後にして、旅をしているうちに、オラリオに辿り着いたのだ。だが、そのカーリー・ファミリアが何の因果か、オラリオの玄関口であるメレンにまでやってきた。ティオネたちの気があらぶるのも仕方がないことであるのだ。もっともヘスティアたちはそのあたりの事情はまったく知らないのだが・・。

 

 

「うーむ、それは物騒な話じゃないか。ベル君、僕のことはしっかり守ってくれ給えよ」

 そういうとベルの腕にしがみつくヘスティアであった。それを黙って見ているリリルカではない。反対側の腕にしがみつく。

「私のことも守ってくださいませね、ベル様!」

 それをみて 噴出すハリー。

「ぶふふ、いやぁ、団長は大変だなあ、じゃあ、僕はちょっと偵察に行ってこようかな」

「ちょっ、おいてかないで・・・」

 こんな話をしながら、四人は、別の場所へと向かうのだった。

 

 

 そして午後。宿の部屋で寛いでいたハリー達。廊下からは、走り回る音が聞こえてくる。

「なんだかロキ・ファミリアの皆さんは、ばたばたしていますねぇ・・」

「そうだね。また、カーリー・ファミリアだっけ? そこと喧嘩してるんじゃないだろうね?」

 不安がる女性陣。ハリーは、ベルに二人をなだめるのを任せて、事情を調べるために誰かを捕まえることにした。運よく、ラウルを発見する。

「ああ、いや、なんでもないっすよ。ただ、うちのレフィーヤが迷子になったみたいで、総出で探すことになったっす」

 レフィーヤって誰だっけと、考え込むハリー。

「ええと、山吹色の髪を腰まで伸ばしたエルフの少女っす。魔法使いで杖を持ち歩いてるっす。歳は14っすね。ハリー君も会ったことがあるっすよ?」

 そういわれても覚えがないハリー。それにあわてたようで、ラウルが説明する。

「怪物祭のときに、レフィーヤに防御魔法かけてくれたっすよね? 本人から『超短文詠唱だった』って聞いてるっすよ?」

 そこまで言われてようやくハリーも思い出した。最後に強力な冷凍魔法を使ったエルフだとようやく理解したのだ。あの時は、ティオネがいたし、今思えば、アイズもいた。お互いに自己紹介をしなかったので、メンバーの名前は知らないままだったのだ。

 

「うん、なるほど思い出した。顔は覚えているから、探すのを手伝おうか?」

 ハリーの申し出に喜ぶラウル。

「いやぁ、ありがたいっすよ、ハリー君! メレンもなかなか広いから人手は多いほど、助かるっすよ! 見つけたら宿に戻って来て欲しいっす。見つからなくても五時には戻って来て欲しいっす!」

 ハリーは出かけることをベル達に伝える。

「よっし、ハリー君。せっかくだし、僕達もついていこうじゃないか。顔と名前が一致しないとはいえ、それだけ特徴があれば、町の人たちに聞き込みすればわかりそうなもんだ。人手は多いほうが良いだろう?」

 ヘスティアが乗り気のようだ。部屋で寛ぐのに飽きたんじゃないかと疑うハリーであるが、人手は多いほうが良いので、賛成する。

「じゃあ、僕は箒に乗って空から探しますから、ベルは神様達と一緒にいてね」

「むう、ナイスだ、ハリー君!」

 ハリーにその気はないのだが、ベルとデート出来るように気を利かせたと勘違いされるのであった。

 

 

 ハリーは箒に乗って空から。ベル、リリルカ、ヘスティアは三人で聞き込みをする。ロキ・ファミリアも聞き込みをしているようだが、まだ見つからないようだった。

 

 

そろそろ五時になろうかという時分、三人が、浜辺に続く道を歩いていると、猫人のアナキティことアキ、腰まで伸ばした黒髪をまとめ結いしたヒューマンの治療師リーネと出会う。

「やあやあ、まだ迷子君は見つかってないのかい?」

「まだですね。ヘスティア様にも探してもらってすいません。ゲストなのに・・」

 恐縮するアキを見て、ロキとは違って礼儀正しいなぁと感心しながら、ヘスティアは気にしないとなだめる。

「そうですよ、困ったときはお互い様ですよ」

ベルもとりなす。だが、アキの両耳はぺたりと垂れてしまっている。

「それと、探している間に、怒蛇(ティオネ)大切断(ティオナ)の二人を、どこかで見かけませんでしたか?」

アキの質問に、リリルカが答える。

「泳ぎ方を教えてくださった方ですよね? 今日は会っていませんね」

それを聞いて落胆するアキとリーネ。

「うーん、その二人もいないんで、探すように言われてるんですよね・・」

 

 アキたちがため息をついたときだった。食人花が草むらから現れ、襲い掛かる。とっさに反応できたのは、アキとベル。アキは剣を抜き打ちで、振り払い、一匹の食人花を撃ち落とす。ベルは、食人花の前に割り込み、ヘスティアとリリルカを背後にかばう。一瞬送れてリーネもスタッフを振り回し、二匹のモンスターを何とか受け止めるも、その衝撃でしりもちをついてしまう。一匹は、そのまま、リーネに齧り付こうとするも、救援に戻ってきたアキに蹴り飛ばされる。残った一匹はベルに飛び掛る。だが、ベルがリーネを助けようとして打ち出した魔法が()()直撃する。ダメージ自体はないものの、痺びれてしまい、一瞬だが、動きが止まる。そこにリリルカが、頭上に振り上げた救急箱を叩き落す。運よく命中する救急箱。

 救急箱の重さに動けなくなる食人花。ずるずると体を捻って救急箱から抜け出す。

 そこに同格(レベル4)であるアキが突進する。剣を振るい、花弁の下に剣を打ち込む。打たれた食人花は、身をくねらせて、五人から離れる。そこにベルの連続攻撃が襲い掛かる

「ファイアボルト! ファイアボルト! ファイアボルト!!」

 レベル差が有るため本来であれば、有効なダメージを与えることはできないのであるが、ベルの魔法は炎の()である。かするだけでも、一瞬だが、痺れによって動きを強制停止させることが出来ていた。レベル2(ベル)後衛(リーネ)では、その隙を突くことは難しいが、モンスターと同格であるアキにとっては、絶好の隙である。剣を両手で構え、連続攻撃を繰り出す。急所を隠す花弁を少しずつ切り飛ばし、止めとばかりに、魔石部分に剣を叩き込む。経験者(ティオネ)との情報交換はしっかりとやっているのだ。

 だが、返ってくるのは、鋼鉄を叩いたかのような手ごたえ。剣を引き、二度、三度と同じ箇所に切込んで行くことによって、ようやく魔石を破壊する。灰に変わるモンスター。

 

「なんですか、これは?」

 リリルカの驚きにベルが答える。

「ハリーが言っていた、怪物祭のときの新種モンスターだ。花弁の下に魔石があるっていってた」

 情報交換はロキ・ファミリアだけではない。雑談のような形であるがヘスティア・ファミリアもやっているのだ。

 二匹の食人花は相変わらず、五人の周りをのたくっている。だが勝負はすでに付いた。アキは落ち着いて指示を出す。

「私が一匹を倒すから、その間、残り一匹を雷の魔法で牽制して、近づかせないようにして。魔法を撃ち続ければ、接近されたとしても当たるから。痺れて動きが止まったところをリーネが弾き飛ばす。できるわよね?」

 ベルの超短文詠唱を最大限生かした弾幕作戦である。心配な点があるとすれば、ベルの精神力が持つかどうか(マインドダウン)であるが、ベルは自信を持って、大丈夫だと断言した

 返事を聞いて、アキは合図を出すのと共に一匹に打ちかかろうとするが、状況が変わる。残りの一匹がもう一匹の体に巻きついたのだ。一瞬たたらを踏むアキ。いわば、巻きつかれた内側の食人花は、生きた鎧(食人花)を身にまとった形態なのだ。鎧側を攻撃したとしても、その間に接近されて、内側の食人花に攻撃される。アキの力では一撃で倒せないことを見越しての戦法である。

 

 だが所詮はモンスターの浅知恵。

「ファイアボルト! ファイアボルト! ファイアボルト!!」

 ベルが連続で攻撃する。ベルとしては、鎧側の食人花が分離すれば良いと思っての攻撃だ。だが、炎の雷は電撃であり、たとえ鎧をまとっていても、もちろん、内側にも電撃が流れていく。。

 鎧をまとったことにより、動きが鈍り、ベルの超短文詠唱での連撃が容易に、すべて命中するようになる。

 思いもかけぬ展開、モンスターの馬鹿さ加減にあきれながらも、アキは、ベルの射線をさえぎらないように注意しながら、接近する。剣を頭上に振りかぶると、全力で振り下ろす。見事に花弁の下に食い組み、魔石を破壊する。そして、さらに連続で切りつけ、最後の一匹も灰にする。

 

「やれやれ。無事にすんでよかったよ」

 ヘスティアが安堵の声を出す。そして治療師であるリーネが怪我がないか確認する。幸いにも全員無傷であった。

 

 だが、その気の緩みは油断そのものであった。

 

「ボラー!!」

 雄たけびとともに、三人のアマゾネスが襲い掛かってきた。二人はアキに、一人がリーネに飛び掛る。

 気づいたベルが、電光石火、魔法を放つ。

「ファイアボルト!」

 だが、その攻撃は先ほどの食人花の戦いでアマゾネスに見られていた。

 アマゾネスは手にしていた剣を、ベルの方向に向かって投擲する。

 唸りを上げて、剣は飛び、地面に突き立ち、ファイアボルトを受け止める。

「へっ?」

 ベルがあっけにとられた声を上げる。それもそのはず、アマゾネスに突き進むはずのファイアボルトが(避雷針)にぶち当たると、刀身に絡まり伝い、地面へと流れ込んでいったのである。

「ボラー!!」

 うまくいったことににやりと笑いながら、アマゾネスは距離をつめる。

 リーネが再度スタッフを構え、近寄らせまいと、突きを放つ。だが、アマゾネスは、多少のダメージに絶える精神力と、思い切りの良さと、リーネよりは各上のステイタスによって、スタッフの間合いをつきぬけ、素手への間合いへと詰め寄った。両手での高速拳撃が左右から襲い掛かる。

 ベルが加勢しようと横に回りこむ。だが、アマゾネスもリーネを中心に回りこみ、さらには、連打でリーネを動かす。そして常に、リーネがベルとの間に位置するように動く。ベルとリーネに連携ができていないことを見抜いているのだ。あざ笑うかのように口角がつりあがるアマゾネス。

 リーネはスタッフを振りかざし、背後に下がり攻撃を裁こうとするが、強引な突進力、左右からの連打、さらにはベルとの連携の悪さをつかれ、徐々にダメージを受けていく。

 

 一方、アキは、二人のアマゾネスの攻撃にさらされていた。上から横から、タイミングをずらして、襲い掛かる連続攻撃、一人の剣をさばいて、反撃しようにも、すかさずもう一人の剣が死角から襲い掛かってくる。二人での一心同体の隙の無い攻撃。その攻撃の圧力に押され、後退するアキ。ベルとリーネから引き剥がされていくのをうっすらと感じながらも抗うすべがない。

 そして、横からの剣戟を捌いたときだった。前にいたアマゾネスの陰に隠れるようにしていた、もう一人がナイフをアキの足元に投げつけた。ぎりぎりで気づき、避けるアキ。だが、無理な動きをしたので、体のバランスが崩れる。そこをもう一人のアマゾネスが見逃さず、大上段から剣を打ち下ろす。アキは、両手で剣を振り上げ、何とか捌くも、それはフェイント。アマゾネスは剣を投げ捨て、空いた手で、アキの胸倉をつかみ、アキの懐へと入り込む。足を絡めて、突き飛ばすように、アキをひっくり返した。まるで極東に伝わるジュー=ジツのコソト=ガリだ。流れるような動きでマウントをとる。

 

 両手を握り締め、アキの顔面に連打を放とうとするも、それを邪魔しようと、小人族(リリルカ)がカバンで殴りつけようとしてくるのに気付く。アマゾネスから見たら非力な小人族だ。先ほど偵察していた食人花との戦いでも何もせずに、カバンで一撃入れるのが精一杯。おそらくは一般人並みの初心者(ルーキー)

 こんな弱弱しい攻撃は避けてもよいが、あえて無抵抗で受け止め、何のダメージをも与えられないことを見せ付けるのもよいかもしれない。攻撃が通じないことに絶望を感じ、仲間がいたぶられるのを止めることが出来ない無力な自分(小人族)を恥じ入ればよいのだ。残忍な愉悦を覚え、にんまりと唇が持ち上がる。

 カバンのことは無視して、猫人の顔面を殴ろうと手首を固定し、打ち出す。

 だが、体に衝撃が走ると同時に視界が傾いていく。脇腹に叩きつけられた小人族のカバンが原因だ。その非力なはずの攻撃は止まらずに、そのままアマゾネスの体ごと振りぬかれようとしている。

 ありえないことだった。

 だが、踏ん張ろうとしても、猫人にマウントからの殴打を浴びせようとしている状況。踏ん張りが利かずに突き飛ばされる。それだけではない。もう一人のアマゾネスにぶつかり、巻き込み、地面に転がる。

 

 リリルカが振るった、ベル・クラネル二人分の重さの救急箱は、その質量だけで、アマゾネスのバランスを崩し、突き飛ばしたのだ。

 

 マウントをとっていたアマゾネスが転げ落ちるや、すぐにアキは跳ね起きた。救急箱と共に転がっているアマゾネスに急いで接近し、隙だらけの頭に全力の蹴りを撃ち込む。これにはたまらず、撃たれたアマゾネスは意識を失う。これで一人。

 

 続けて、倒れたままのもう一人に突きを入れる。地面に転がっていては避けられないと思ったのだが、なんとその女は気を失ったマゾネスを盾にしてきた。二度三度と狙いを定めてこぶしを振るうアキ。だが、動きを読まれているのか、すべて(アマゾネス)で遮られる。盾になったアマゾネスの顔は血塗れで真っ赤になる。ならばと、二、三歩下がり、アキは叫ぶ。

「古代の炎、原始の揺らめく焔よ、請い願う!」

魔法の詠唱。

 

 呪文を完成させじと、(気絶体)を投げ捨て、アマゾネスは飛び起きる。すばやいステップでアキに肉薄し、全力の右ストレートを打ち出す。魔法詠唱と、戦闘行動を同時にする平行詠唱は、高等技術。この猫人には無理、回避は出来ない、無理に動けば魔法の制御が出来ずに魔力爆発を起こすと判断したのだ。

 

 もし、この場にリヴェリアがいたら、ウカツと怒られても仕方がない行動だった。

 何故なら、アキの詠唱はフェイント。もともとこれは詠唱っぽいセリフで魔法の詠唱文ではない。魔力の流れに注意していれば、簡単に見破れるハッタリであった。アキは詠唱をやめると、相手の右ストレートを左手で払う。同時に、腰を落として、右半身を前に出す半身になりながら、右肘を全力で突き出す。極東から伝わった格闘術だ。

「がはっ」

 鳩尾をえぐられ、苦鳴とともにアマゾネスは吹き飛ばれる。そして意識を刈り取られたのか、ピクリとも動かなくなった。

 

 ぜえぜえと息を切らしながら、アキは、リーネへと救援に向かう。

さすがにこの状況、1対3では分が悪いと見たのか、リーネから離れ、逃げ出すアマゾネス。追う気力がないため、そのままに逃がすことにするアキ。

 リーネも顔を打たれたのか、頬が赤くなっている。しかも、スタッフを持っていた両手は、打撲で、ぼこぼこに腫れ上がっていた。だが、全員命に別状は無い。

「リーネ、悪いんだけど、すぐに治療を!」

 とアキが指示したところで、救急箱をもったリリルカが近づいてきた。

「皆様、すぐに治療しますからね。ちょっとお待ちを」

 そういうと、リーネが治療呪文の詠唱を始める前に、救急箱からポーションを三本取り出し、アキ、ベル、リーネに渡す。

 アキは、『この子、さっき、このかばんで殴ってなかったっけ? なんで割れてないの?』と疑問に思うが、ありがたく、ポーションで傷を治療する。そしてリーネとベルもポーションを使っていることと、ヘスティアが無事なのを確認する。

 そして気を失っているアマゾネスを縛り上げ、ひとまず、彼らの戦闘は終了する。

 

 

 




 『本命』の闇派閥の調査の隠れ蓑に、ヘスティア・ファミリアをさり気無く利用するロキ達。さすがはトリックスター・・


補足
1.
原作で狼人に振られているルビはウェアウルフ。英語にするとwerewolf。
ハリー・ポッターの日本語の小説版では人狼。ただし英語版ではwerewolfのようです。

2.
題名『And Then There She's Are None.』は英語として間違っています。申し訳ない。

次回『Your opponent is me!』
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