ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

27 / 50
すいません、長くなりました・・


Your opponent is me!

「お前の相手は、私さぁぁぁぁ!!」

 同時刻。別の場所。

 ロキ・ファミリアに襲い掛かるアマゾネスを撃退しようとしていたアイズに、声がかけられる。声の主は、黒い皮鎧に全身を纏い、顔には黒塗りの仮面をつけた、アイズよりはやや背が高い細身の人物。声からはおそらくは女性。左手に楕円型のバックラー。右手にもった細身のレイピアをアイズにまっすぐに向けている。

「だれ?」

「まじめに言ってんのかあぁぁぁぁぁ!!!」

黒鎧は叫びながらも、突進し、アイズはそれを避ける。避けると同時にスリケンを放ち、仲間と戦うアマゾネスの二人を打ち倒す。

「よそ見するとは余裕だねぇぇぇ!」

 黒鎧が、ますますスピードを速めてレイピアを振るう。だが余裕で避けるアイズ。

 

 黒鎧は早い。早いが、アイズはもっと早い。もともと素手で戦うアイズは、怪物(モンスター)の間合いをつきぬけ、自分の間合いに持ち込む必要があるのだ。それにはスピードが最重要なのだ。アイズのスピードは、()()狼人ベートをわずかに上回るほどなのである。

 この黒鎧も早いが、アイズは余裕を持ってかわすことができた。だが。

加速(アクセル)ゥゥゥゥゥ!!!」

 黒鎧が叫ぶと同時に、全身から金の光を放つ粒子が流れ出す。とたんにスピードが上がる黒鎧。

 黒鎧の突然の速度変化に対処できず、アイズは左肩に浅い傷を受ける。

「ふむ・・」

 傷に手をやり、それほどたいした傷ではないことを確認するアイズ。詠唱によって黒鎧はスピードが加速しただけではなく、どうやら、力も上がったようだった。アイズの魔法と同じく、詠唱者自身へのエンチャント魔法だろうとアイズは判断した。

 

 実際には、黒鎧のスピードが加速し、パワーが上昇したのは、黒鎧の仲間が使用した、対象を一時的にランクアップさせるという超レア魔法『ウチデノコヅチ』のおかげである。この魔法で擬似ランクアップした時に、精神と身体に変調(ずれ)が発生する。これを同調させるための掛け声として『加速』と叫んでいるのだ。つまり、黒鎧の叫び声の『加速(アクセル)』は気持ちを切り替え、気合を入れるための『ただの雄たけび』なのである。

 

「はっはぁ! 余裕、ぶっこいてるからさぁ! 次はその首に、ぶっ刺してやるよ!!」

 吼える黒鎧。

 それを聞いて、アイズは、まっすぐに背筋を伸ばして立つ。そして両の手を胸の前で合わせる。

「ドーモ、襲撃者=サン。アイズ=ヴァレンシュタイン、デス」

 そしてぺこりとお辞儀する。アイズはこの黒鎧が、カラテの足しになるだけの敵だと認めたのだ。

「知ってらぁ、そんなことは!! 手前っ! 私を馬鹿にしてんのかいっ!!」

 なぜか激怒する黒鎧。

「ならば名を名乗るのだ。それもできんというのならば、名乗りもできん、ニュービーとして対処するが?」

 挨拶は大事。タケ(タケミナカタ)が書いた古文書にも、そう書いてある。

 アイズへの返礼は、レイピアでの刺突だった。

「手前の頭には藁束でも詰まってんのかいっ!!」

 激怒する黒鎧。

「どこまでも、コケにしやがって、そこが前から気にいらねぇっ!」

 

 そして再び、黒鎧とアイズが激突する。もちろんレイピアを真正面から受けたのでは、拳が切り裂かれてしまう。それを避けるために、刃の横腹を叩き、スリケンで受け、拳の間合いに持ち込むのだった。

「ふん、しぶといが、手前の手の内はよめてるんだ。対モンスターに特化している分、対人にはやや弱いとな!」

 アイズの攻撃スタイルは、距離が離れている場合はスリケン。近距離では徒手空拳のスピードタイプである。アイズを前から知っている口ぶりの黒鎧は、これに対抗するためにはどうしたらよいか、よく考えていた。防御を固めて、一撃で倒せる強力な戦斧をつかう? いや重い武具を身に着けては、アイズの圧倒的なスピードに付いていくことはできない。こちらの攻撃はかわされ、一方的になぶられるだけだ。したがって、スピードが出せる軽い武器で、相手の攻撃は避けられるように軽い防具にするべきだ。そして結果的にレイピアと皮鎧になったのだ。

 対アイズ特化装備。そのかいあって、黒鎧の攻撃は早いものだった。同じスピードタイプのベルがその場にいたとしても、残像しか見ることが出来ないような、いや残像さえ見えないスピードで連続で突きを繰り出す。

 

 攻防が一区切りつき、いったん距離をとる二人。とたんにアイズがスリケンをとりだし、連続で投げつける。

黒鎧はバックラーとレイピアでそらし、弾き飛ばしながらも叫ぶ。

「やりな!」

 そして、周囲の建物の影から、屋根の上から、アイズに向かって魔法が、いや、この合図から発動までの時間を考えると魔剣の魔法が放たれる。すかさず、上空に飛び上がり、炎を、氷を、風の刃を回避するアイズ。だが、そこに追撃がくる。フック付きロープを建物に投げ、それを引っ張ることで空中で移動する。しかし、遅い。一瞬のタイムラグの間にいくつかの魔法、超高周波の音波攻撃が直撃していた。

 アイズは転げるように地面に落ちると、がくりと膝を突く。

「はっ、はっ、はっ、はっ、さぁぁすがに、呪い(カース)を受けるのは初めてかい? 使い手を集めるのには苦労したよ。だが、その甲斐はあったねぇぇぇ」

 レイピアを肩に担ぐようにして、トントンと肩を叩き、余裕を見せる黒鎧。

「魔法を封じる呪い! ステイタスを低下させる呪い! スキルを押さえ込む呪い! 大盤振る舞いしたんだ。よく味わってくんな!」

 その黒鎧は、鎧の至る所から、金の粒子をあふれさせていることから、パワーアップはいまだ続いているのだろう。

「思えばレベル2のときからの因縁だが、ここで終わりのようだなぁ・・」

 黒鎧が感慨深げに呟く。

 それを聞いたアイズが顔を上げる。ようやく相手の正体に思い至ったのだ。

「ふむ、分かった。お前は、サミラか」

 サミラ。イシュタル・ファミリアの団長であるレベル5の冒険者。彼女は、地に膝を突くアイズの前に、ズシャリと地を鳴らして屋根から飛び降りてきた。

「よぉうやく分かったのかよっ! すぐ分かれよぉぉぉ! お前(アイズ)が、うちの団員を殺したときからの因縁だろ。いやはや、懐かしい思い出だよ」

蛙人(モンスター)だと思ったのだ。問答無用で襲い掛かってきたし?」

 冷静に答えるアイズ。

 

 かつてアイズが、レベル2に世界最速でランクアップすると、嫉妬と羨望と悪意の波にさらされた。一部のものは、はっきりと害意を持って近づいてきていた。

 サミラが話題にしたのは、そんな冒険者の一人、フリュネ・ジャミール。当時のアイズと同じくレベル2であったが、ランクアップ直前とみなされていたイシュタル・ファミリアの団員である。蛙のような見た目と、巨体から繰り出すパワー攻撃が特徴的な冒険者だった。

 その彼女がアイズの世界最速記録に嫉妬にし、ダンジョン中層で、襲撃をかけてきたのである。本来であれば、レベル2にランクアップ直後のアイズと、レベル3にランクアップ直前のフリュネであれば、間違いなく、アイズが負けているはずである。だが何故かアイズがフリュネを打倒できてしまったのである。

 眷属を殺害された主神イシュタルは荒れて大いに騒いだ。しかし、ギルドの調査で、フリュネが問答無用で襲撃を仕掛けてきたこと、『行動も見た目もモンスターとしか判断できなかった』というアイズの証言があったこと、男性冒険者からアイズへの圧倒的な支持があったこと、フリュネの普段の粗暴な行動に眉を潜めるものが多かったこと、これらのことを上手く裏から操り煽ったロキの手腕があり、アイズは無罪放免。逆にイシュタル側がペナルティを受けたのだった。

 その後、同じイシュタル・ファミリアのサミラが時々アイズにちょっかいを掛けてきていたが、アイズの成長スピードに付いてこられなくなっていたのだ。事実サミラは現在レベル5のはずであった。

 

 とは言うものの、現在、アイズには各種呪い(カース)が掛けられ、パワーダウン。

 一方、サミラは、団員のレベルアップ魔法によって実質レベル6になっているのだ。現状では拮抗、またはサミラが能力が上回っていると考えるべきであった。

 

「まあ今となっては、そんなことはどうでも良い。ここでお前は死ね」

 そして、膝を突くアイズにレイピアを突き出した。

 

 地を蹴り、すばやく回避し、立ち上がるアイズ。だが様子がおかしい。体から赤黒いオーラが滲み出している。姿勢も、直立するのではなく、猫背気味であり、顔にいつの間にか、目以外の部分を覆い隠す、黒い鋼の仮面がつけられていた。

「なかなかやるな。おてなみ拝見といこう」

「その仮面、どこから出した!」

 サミラが連続でレイピアを繰り出し、攻防が再開される。それは今までよりもさらに激しいものだった。

 

 

********

 

 

 過去の因縁は廻りに廻り、彼女達に追いついた。

 ティオネはかつての師匠アルガナと。港に泊まっていた大型船を奪い、妨害が入らないように沖合いで。

 ティオナも同じく師匠であるバーチェと主神カーリーが見守る前で。

 それそれが『儀式』をはじめていた。同ランク同士での戦い。これを経て勝者が『真の戦士』になるのだ。

 

 

********

 ハリーはレフィーヤ捜索を行っていたが結局は、発見できず、宿に戻ってきていた。

 

「やあ、ハリー君、手伝ってもらってすまないね」

 陣頭指揮を執っていたフィンが、ハリーをねぎらう。ハリーは空から見える範囲、それに、メレン周囲も飛び回ったが迷子(レフィーヤ)を発見できなかったことを報告する。ハリーは、まるでロキ・ファミリアの団員になったみたいだなと考えながら、フィンの反応を伺う。ハリーの予想とは違い、フィンは、落胆することはなかった。

「ハリー君に見つけられないということは、空から見えない場所にいるということだな。街中の屋内(そんな場所)に、レフィーヤが、いるとは考えられない。もし何か怪我をしたりなど、平和的な事情があって動けないのであれば、使いを出すなり何なり、どうにかして此方に連絡をとるだろう」

「誰かに浚われて、街中に監禁されているとしたら?」

 リヴェリアが指摘する。

「おそらく監禁されているだろうが、街中ではないだろうな。レフィーヤは後衛とはいえレベル3。そんな彼女をどうこうするには、恩恵(ファルナ)持ち、つまり冒険者でないと無理だ。そして此処メレンにいるファミリアはニョルズ・ファミリアのみ。そしてそのメンバーは殆どがレベル1。モンスター相手に戦うことが少ないから、上がったとしてもせいぜいレベル2。レフィーヤが対処できない相手ではないよ」

 弟子の実力を信用したまえと言いたげなフィン

「ということで、現在メレンに滞在していて、レフィーヤをどうこうできる実力の持ち主である冒険者。つまりカーリー・ファミリアが犯人の可能性が高い。その場合、余所者のアマゾネス(カーリー・ファミリア)に街中での監禁場所のあてなどは無いだろう。ラウル、メレン周囲で、人を隠したり、立てこもったり出来そうな場所はないかい? 洞窟でも、廃屋でも何でも良い」

 

 すばやくラウルが周辺地図を取り出し説明を始める。困ったことに結構な数の洞窟と廃墟がある。だが、そこに、猫人アキと治療師リーネが、ヘスティア・ファミリアと共に戻ってきた。捕虜のアマゾネスを二人連れている。

「でかした、アキ!」

 捕虜を尋問すれば、レフィーヤの行方がわかるだろう。アキが詳細をフィンに報告する間に、捕虜を治療する。そしてリヴェリアが尋問を始める。それ以外の者はアマゾネスの言葉がわからないので、会話が出来ないのだ。だが、言葉がわからずとも、様子は分かる。穏やかにリヴェリアが話しかけるも、反抗的なアマゾネスたち。尋問が上手くいっていないことは明らかだった。

 

 その様子を眺めているうちに、ハリーは尋問に最適な魔法を思い出し、ため息をつく。その魔法に良い思い出がないので、やりたくは無いが、捕虜になっている魔法使い(レフィーヤ)のことが心配だ。これだけ好戦的なアマゾネスの捕虜になっているとすれば、無事かどうかも分からない。一刻も早く助けたほうが良いだろう。そう判断して、ハリーはヘスティアにゴニョゴニョと相談する。

 幸運なことに、ここにいるメンバーは殆どが、ハリーが異世界出身だと知っている者だ。ヘスティアから許可を得て、ハリーはロキにも、自分が尋問を手伝うとこっそりと伝える。ロキもハリーの考えに思うことがあったのか小声で確認する。

「魔法を使うんか?」

 そのとおりとハリーは頷く。それをみたロキは、ラウルとアキに席をはずす様に指示を出す。

「さて、リヴェリア。ちょっと確認したいんやが、このアマゾネスは、共通語(コイネー)はわからんのかな? ちょっと聞いてみてくれるか?」

 リヴェリアの問いの答えは否定の言葉と嘲笑だった。そしてロキとヘスティアはにそれが真実だと分かる。

「ふむ、じゃあ、ハリーはんに尋問を手伝ってもらうで。みんな、()()は分かるな?」

 みな、頷く。そこでハリーは開心術の説明をする。

「僕が使うのは、開心術といって、相手の心を読む魔法です。熟練の開心術士は、書物を読み取るように、相手の心を読み取るんですが、僕では、わずかにイメージや感情を読み取るだけが精一杯です。だから、リヴェリアさんには、捕虜がどこに捕まっているのか、具体的にアマゾネスがイメージするように誘導してほしいんです」

「心を読む!! すさまじい魔法があるものだな・・」

 リヴェリアが絶句する。フィンは仲間のために、拷問での自白強要もやむなしかと悩んでいたので、かなりほっとしたようだ。

「僕の腕前では、視線を合わせていないと、上手くいかないですね。それとこれ(開心術)への対抗手段として、閉心術というものもあります」

 開心術とはいえないかもしれないが、魂の繋がりを通じてヴォルデモートの居場所を探ったこと。それと、スネイプとの特訓ともいえない閉心術の特訓を思い出しながらハリーは説明する。

 

 縛られて、床に直接すわっているアマゾネスと目の高さを同じにするため、ハリーは正面にしゃがみこむ。何事かと馬鹿にしたような視線を、ハリーに向けるアマゾネスたち。

「では、リヴェリアさん、お願いします」

 ハリーに促されて、リヴェリアは尋問を始める。そしてハリーは呪文を唱える。

心開け(レジリメンス)

 

 アマゾネスの心から情報が流れ込んでくる。

 嘲笑、不安。

 そして海上のイメージ。影のように揺らめく大型船の上で誰かが戦っている。そのうちの一人のイメージは鮮明だ。ハリーも覚えている、クラーケンの触手を斧で切り飛ばしたアマゾネスだ。それと戦っているのは・・誰だろうか、イメージが定まっていない。輪郭がぼやける。やせていたり、やや太めだったり、髪の長さが長髪だったり、短髪だったり。顔も影が落ちていてどんな顔なのかも分からない。

 傲慢、恐怖。

 そして、今までのイメージが流れ、もう一つのイメージが現れる。洞窟とおぼしき場所で、一組のアマゾネスが戦っている。一人は、先ほどのイメージと同じく、クラーケンの触手を切り飛ばしたアマゾネスだ。それと戦っている相手は、これまたイメージが定まっていない・・。

そして自分たちが負けることは無いという絶対的な自信。アマゾネスとしての誇り。自負心が流れ込んでくる。

 そしてイメージがまた流れてくる。

 洞窟の中に鎖でとらわれたエルフの少女。迷子になった魔法使い(レフィーヤ)だ。このイメージは鮮明だ。ハリーはさらに集中する。どうやら、出口の様子をリヴェリアが質問しているようだ。具体的な、周囲のイメージが浮かび上がる。入り口のそばに、うずくまった犬のような形の岩がある。

 ハリーは、集中をやめる。

「どうやら場所が分かりました。それと、アマゾネスが決闘っぽいものをしているイメージがあるんですが、何か心当たりはありますか?」

 リヴェリアがアマゾネスに何事か尋ねる。熱っぽいまなざしで答えるアマゾネスたち。腹立たしげに問い詰めるリヴェリア。

 

「なにやら、カーリー・ファミリア独特の『儀式』というものらしい。素手での決闘のようだな。これによって『真の戦士』を作り出すやらなんやら・・」

 要領を得ないアマゾネスとの問答から、何とか、回答らしきもの推測するリヴェリア。それを聞いてフィンが椅子から立ち上がる。

「この状況でそんなことを考えるということは、狙いは所在が分からないティオネたちかな? 場所の説明を頼むよ、ハリー君」

 捕らえたイメージの説明をするハリー。フィンは、ハリーの情報と地図から、大体の見当をつけたようだった。

「おそらくはこのあたりだろう。レフィーヤの救援には─」

「うむ、私が向かおう」

「じゃあ、ハリー君、箒に乗せてくれないだろうか? 海上の船のほうに僕を連れて行ってくれると助かるんだが。船のほうはこの時間、メレンの漁船は、一旦港に戻っているはずだ。沖合いに出ればすぐに見つかるだろう」

 まあ、乗りかかった船だとOKを出すヘスティアとベル。ハリーには否はない。

「ティオナの救援には、アイズに頼むことにして伝言を伝えることにしよう。他のものは、カーリー・ファミリアの撃退と鎮圧というところかな。彼らが仕掛けてきたことなんだ。遠慮することは無い。迎撃される覚悟があってのことだろうしね」

そうして、フィンは、再度ラウルを呼び、指示を伝える。そうして各自が、目的地の捜索のために出発した。

 

 

 ハリーは箒の後ろにフィンを乗せて海上に飛び出した。まずは大型船を探すため、高度を上げる。ここからは、レベル6の視力を持つフィンの仕事だ。きょろきょろと見回すフィン。ハリー自身も最近は視力が上がったような気がしているが、いまひとつ実感がない。程なくして、フィンは一方を指差す。

「この方向だね」

 ハリーは(アナクス)を駆り、そちらへと高度を維持したまま突進する。しばらく、飛び続けること、10分ほど。ハリーにも大型船が見えてきた。大量の焚き火が赤々と甲板を照らしている。その真ん中で、二人のアマゾネスが戦い、その周囲を大勢のアマゾネスがボクシングのリングよりもうちょっと距離を開けて取り囲んでいる。

「ハリー君、あそこの真上まで行ってくれ。そしたら、飛び降りる。合図するまで空で待機していてくれ」

 船の真上に到着して、降下するハリー。そして、フィンが飛び降りると、再上昇して、戦いの行方を見守ることにした。

 

 

 

 ティオネは戦っていた。港に泊まっていた大型船を奪い、邪魔が入らないように沖合いに移動し漂いながら、甲板で戦っているのだ。二人の周りには、戦いの行く末を見届けるために、多数のアマゾネスが、取り囲み、太鼓を叩き、鬨の声をあげて、一種の狂騒状態になっていた。

 二人のレベルは共にレベル6。体術の腕前は互角。だがティオネがランクアップしたのは、つい先日。アビリティを鍛えることについてはアルガナに一日の長があった。きわめてゆっくりとであったが、形成がティオネ不利へと傾いていく。だが、そのとき一筋の槍が鋼光と共に二人の間に打ち込まれ、甲板に突き立った。

 誰が槍を投げたのかと、飛んできた方向を見る二人。

 

 そこに立つのは、柔らかい金髪の少年。に見間違えるような人物。ロキ・ファミリア団長フィン・ディムナである。甲板へ飛び降りるとフィンは、落ち着いた声でアルガナに話しかける。

「そこまでにしてくれないかな。大事な団員なのでね」

「だ、だんちょうぅぅぅ・・」

 フィンの顔を見たティオネの顔は緩む。一瞬前まで、殺し合いをしていたとは思えないほどに緩む。

「どうやってここに来た!?」

 ポートで追いかけてきたのかと、アルガナは大型船の周囲を見渡すが、そんな物は無いし、特に変わった様子も無い。泳いで来たにしてもどこにも濡れた様子はない。

「まあ、そんなことは問題じゃない。問題は、そう、その『儀式』?かな。それで僕らの仲間をいじめてくれたことだよ・・」

 それを聞いてティオネの顔が幾分か引き締まる。

「団長! 私が、私が『儀式』をします。そしてアルガナを殺します。決着をつけないと! でないと、こいつらはいつまででも、私ら(ファミリア)に因縁を吹っかけてきます。だからっ」

 だが、フィンはそれを聞いても落ち着いている。肩をすくめてやれやれと首を振ってみせる。

「ティオネ、僕たちは、守ってもらわないといけないほど、弱くはないよ。それに、だ」

 フィンは、アルガナに向けていた視線を切り、そして、ティオネをまっすく見つめる。

「大事な仲間を痛めつけられて、黙っていられると思うのかい?」

 フィンから『大事な』と言われてちょっと舞い上がるティオネ。顔が熱くなるのを感じる。フィンは再び、視線をアルガナに向ける。

「それの続きをしたいというのであれば、僕が続きを引き受けよう。ただし、僕が勝ったら、二度とうちの団員にちょっかいを出さないことを約束してほしい。約束を破った場合には、そちらの国をつぶしにいく」

 言っている内容は物騒なものにも関わらず、静かに話を続けるフィン。ここはいわば敵地の真っ只中。そんな中でも落ち着いた話しぶりのフィンに、ティオネは『かっこいい』とか呟いている。もうすでに『儀式』のことは頭にはないようだ。

 それを見て怒りすぎて無表情になるアルガナ。アルガナとしては、ここでティオネを殺し、ティオナを殺し、ティオナの決闘相手(バーチェ)も殺す。そして『真の戦士』になる事を渇望していたのだ。そんなアルガナにとっては、ティオネの態度、まるで恋に落ちた乙女の様な態度は神経を逆撫ですることでしかなかった。

 

「なんだ、そのざまは、ティオネ。儀式を途中でやめる気か?」

 怒りが一蹴して逆に冷静になってしまったアルガナが問い詰める。が、フィンがそれに答える。

「ふむ、だから僕がその『儀式』を引き継ぐと言っている。それとも、ただの小人族が怖いのかい?」

「ならば、お前をひねりつぶして、『儀式』を再開するとしよう このクソ小人族がぁぁぁ!」

 雄たけびを上げて、フィンに襲いかかるアルガナ。落ち着いてフィンは魔法を詠唱する。

「魔槍よ、血を捧し我が額を穿て」

 フィン・ディムナの短文詠唱呪文。理性を失う代わりに、それ以外の能力が強化される魔法。いわば凶乱化(バーサーク)である

「ヘル・フィネガス」

 とたんに理性は消し飛び、激情にとらわれるフィン。

 殴りかかってきたアルガナの拳を、左手で軽く受け止める。そして、それを引き寄せ、アルガナの体勢を崩す。そして、凶乱化状態の全力で振るわれる右腕。

 轟音を発し、アルガナの頬骨は砕かれ、身体は吹き飛び、船縁を破壊して撃ち飛ばされていく。海面にぶつかるも、あまりにもスピードがあるため着水できずにバウンドし、遥か彼方水平線にまで吹き飛ばされていく。

 

 まさに一撃。

 

 カーリー・ファミリアが誇る最強の戦士が一撃で葬られたのを見て、他のアマゾネスたちは夢でも見ているのかと沈黙する。

 フィンの攻撃の反動で、大型船が揺さぶられる中、フィンは、すでに魔法を解除し、いつもの落ち着きを見せる。そしてティオネを振り返り告げる。

「じゃあ、帰ろうか、ティオネ。戻ったら、行方を晦ましたりして、僕らを振り回してくれた事で、お説教だ」

「は、はいぃぃぃ」

自分と互角に戦っていたアルガナをあっさりと降すフィンに、惚れ直したのか、説教と言う言葉にも喜ぶティオネ。それを見て苦笑するフィンは、上空に向かって手を振り合図する。

 頭上から、(アナクス)に乗ったハリーが降下してきた。

「さぁ、それじゃあ、帰ろうか。みんなが心配している」

 ハリー、フィン、ティオネの順番で箒にまたがり、船から飛び立つ三人。静かに速度を高度を上げて、メレンへと向かう。

遊覧飛行(デート)ですね!」

 はしゃぐティオネ。いや違うんだけどなぁ・・と呟いたのは、ハリーだったか、フィンであったのか・・・

 

 

********

 

 

 そしてアイズとサミラの死闘も終わりが近づいていた。

 アイズのスピードに対抗するため、サミラは装備を揃え、状況を整え、挑んだ戦いであったが・・

「て、てめぇっ、スピードがあがってないかっ!」

 サミラが慌てふためく。

「答える義理は無い」

 相手を幻惑させるニンジャ独特の歩法。そこから繰り出されるアイズの手刀が、サミラの皮鎧をえぐる。すでに十数か所目だ。

 正面にレイピアを構え、サミラはアイズを睨み付ける。

 サミラの擬似ランクアップには時間制限がある。いつまでも、レベル6(擬似ランク)で行動できるわけではない。このままでは拙いと考えたサミラは、勝負に出ることにした。

 左肩に担ぐようにレイピアを構え、体を捻り右肩を突き出す。そしてそのまま突撃した。

 アイズの手元から、スリケン代わりの石飛礫が、サミラの仮面めがけて飛ぶ。サミラは、突進しつつも、体を右側に倒すことで、それを避ける。そして、その体を倒す勢いのまま、レイピアをサミラにとっては横一文字に全力で片手で振りぬく。

 その攻撃はアイズにとっては、上段からの唐竹割りの攻撃。冷静に見切り、体を半身にしつつ、右に半歩移動し回避する。

 だが、それもサミラにとっては織り込み済み。レイピアを地面に叩きつけて、サミラは体をほぼ倒した、しゃがんだ姿勢から、立ち上がる勢いをも利用して、真下から、左正拳をアイズの鳩尾に撃ち込む。だが、アイズは、その左腕にそっと自身の右手を添えて、横へとそらす。同時にアイズ自身も体を左へと回転させる。拳を振りぬき、立ち上がったサミラ。そのサミラと背中合わせになるアイズ。その瞬間、アイズが大地を全力で踏みしめる。その脚力に耐え切れず、陥没する地面。そして、その反動はアイズを伝わり、数十倍に増幅されて、背中からの体当たりとしてサミラへと叩き込まれる。

 

 暗黒カラテ=ワザ・ボディチェック。

 

 またの名を鉄山靠(てつざんこう)

 

 体重という大質量を乗せた攻撃である。衝撃がサミラを貫き、仮面が吹き飛ぶ。だが、サミラの左手は、アイズの右手によってつかまれていた。すなわち、体自体は吹き飛ばされることなく、衝撃がよりしっかりとサミラに伝わる。アイズが手を離すと、血を吐き、倒れるサミラ。だが、勝負を捨てていないのか、弱弱しく、もがきながらも立ち上がろうとする。だが左肩が動かない。アイズがつかんでいたため、衝撃が左肩に集中し、肩付近の骨がすべて粉砕されているのだ。さらには、体から放出されていた黄金の粒子が消えていく。

 擬似ランクアップの時間切れだ。

 

辞世の句(ハイク)を詠め!!」

 止めを刺すべく、手刀を構えたアイズが迫る。

 

 だが周囲から、ボールが投げ込まれる。直撃しそうなものをアイズは回避する。いくつかは、地面にあたり、炸裂して煙を吐き出す。アイズは、素早くバックステップで煙から離れる。

「目眩しか・・」

 この煙で視界が遮断されている間に、イシュタル・ファミリアがサミラを回収するのだろう。止めをさせなかったが、どうせ又サミラはちょっかいを掛けてくるだろう。カラテの足しになる相手との戦いであれば、それもまた良しであると、アイズは割り切って考えることにした。

 

「なんだこの、くせェ煙はよぉ」

 そこに顔をしかめながらベートがやってきた。

「イシュタル・ファミリアだ。団長のサミラがいた。撤退のための目くらましの煙だな」

鼻をつまみ、臭いを防ごうとするベート。

「とどめはさせなかったのか? うぅ、くせェ」

「いずれ、またの機会がある。まあ、なくとも私は構わない」

 アイズの返事に、ふんと鼻を鳴らすベート。

「フィンたちから、バカゾネス(ティオナ)の居場所が分かったから助けに行けとよ、俺はカーリー・ファミリアの掃討をしとく」

 ベートにとっては、助けに行くよりかは、戦っているほうがはるかにマシなのであろう。そういうと、アイズに地図を渡して、説明をする。それに頷くと、アイズは走り始める。

 

 

 程なく、アイズは、ティオナが『儀式』を行っている洞窟をあっさりと発見した。アイズに言わせれば、『状況判断したに過ぎない(耳を済ませて戦闘の音源を発見した)』と言うであろう。中に入ると、すでにティオナは『儀式』に勝利していた。だが、そこで力尽きたところを拘束されようとしていたところだった。まさに危機一髪であったが、アイズがカーリー・ファミリアを掃討しすべてに決着がついたのであった。

 

 

 こうしてカーリー・ファミリアとイシュタル・ファミリアの襲撃は終焉したのであった。

 




補足
1.サミラ
原作では、イシュタル・ファミリアの団長はフリュネ・ジャミールです。彼女は、こちらの話では、本文中のとおりに、レベル2になったアイズに返り討ちにあって死亡しています。そのためサミラがフリュネの代わりに活動しているうちにランクアップし、しかも団長になってしまいました

2.同調させるための掛け声として『加速』と叫ぶ
ヒーローが『変身っ』と叫ぶのと同じだと思ってくれれば良いです。

次回『Kali and Three Major Adventurers Quest』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。