宿にファミリアの主神たちが集合する。ロキ、ニョルズ、ヘスティア、カーリーの四柱である。
「さーてと、今回の件、事情を教えてもらおか。テルスキュラから、わざわざこんな所まで何しに来たんや?」
カーリーは、そっぽを向く。
「秘密じゃ。そこらへんのことは、今回の騒ぎには関係ない。というか、こんな風になるとは思っておらなんじゃから、当初の目的は果たせそうにない」
「じゃあ、喋ってもかまへんやろ」
「いや、一応は義理があるのじゃ。だから喋らんのじゃ」
説得を続けるロキであるが、カーリーの口は堅かった。ロキは溜息をつく。ロキ自身もフレイヤと色々と、しょうもないことで密約を結んでいたりするので、これ以上は追求しても無理だと判断したのだ。
だがニョルズが助け舟を出した。
「イシュタルが色々と手引きをしていたみたいだから、それ関係じゃないか?」
しかめっ面をするヘスティア。フレイヤといい、イシュタルといい、美の女神は厄介ごとを引き起こす元凶としか思えない。平和が一番なのになぁと考えるヘスティアである。
一方ロキは、イシュタルの交友関係で、オラリオ外部の戦力が必要な事項を脳裏でリストアップするが、トップに来るのが、フレイヤとの確執である。トロイア戦争が起こった元凶といい、美の女神たちの争いは、至る所に飛び火する傾向がある。今回は、それがメレンであったが、イシュタルは、オラリオにも飛び火させる予定だったようだ。
今回は
「じゃあ、目的はええけど。こちらからの要求や。そっちがいきなり、襲撃かけてきて、そして、叩き潰された。要求は呑んでもらうで。まずは、うちらには今後、一切手を出すな。それと眷属がどうしてもとお願いしてくるから、いうけどな。今後そちらの眷属で、嫌だというモンには『儀式』をさせるな」
カーリーは、投げやりに了承する。
「あーもう、かまわんのじゃ。というか『儀式』どころじゃないわ。まったくもう・・」
カーリーの謎の態度にロキ達は不審を抱くが、話を続ける。
「それから、あの食人花は何なんや? 知っとること全部話せや」
食人花は怪人や闇派閥と密接に関わっているモンスターであることは判明している。それがメレンに現れたということは、闇派閥とメレンがつながっていることを示しており、そこらへんの事情をロキはニョルズから搾り取っている。だが、同じ情報であっても別ソースから入手できるのは色々と助かるのである。情報の確度とか、拡散具合等々・・。
そして真面目な顔になるカーリー。
「いや、実はよくは知らんのじゃ。まあ、
うん、なんか、眷属が
「じゃあ、これからどうするつもりや? 当初の目的が果たせそうにないなら、テルスキュラに帰るんか?」
腐ってもレベル6の団員が二人もいるファミリアである。一大勢力であることは間違いない。それがオラリオと目と鼻の先に居て、こんな騒ぎを起こしたのである。ギルドが神経質になることは容易に予想が出来るし、オラリオ内部のパワーバランスへの影響もある。確認は必要であった。
「うむ! こんな所まで遠出したのじゃ! 折角じゃからオラリオとダンジョンの見学をしていくのじゃ!」
にっこりと清清しいまでの笑いを浮かべるカーリー。ロキは立ち上がってカーリーに指を突きつける。
「国へ帰れ、田舎者がぁぁ! ダンジョン、なめるんやないでぇぇ! 神がダンジョンに入るのは危険なんや!」
田舎者という言葉にむかっとするカーリー。
「誰が田舎者じゃ! 人の子らの中には、
18階層まで行くのは『ちょこっと』には入らへんでと思いながら、額に手を当て、深々とため息を吐くロキ。子供のような容姿のカーリーが駄々をこねると本当にもうただの子供にしか見えなかった。
「おい、ドチビ。お前さん、人類の三大
一部を除いて容姿が子供のヘスティアに話を振るロキ。いきなりだったが、ヘスティアはすらすらと答えて見せる。
「ああ、知ってるとも絶壁君。かつてダンジョンから現れた、規格外の強さを誇るモンスターの討伐だね。討伐対象は、
そしてゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの合同で、
さらにロキの質問は続く。
「ああ、そのとおりや。じゃあ、その規格外の強さの三体のモンスターが、如何してダンジョンに出現したかは答えられるか?」
戸惑うヘスティア。ニョルズも不思議そうな顔でロキを見ている。
「どうしてって・・普通に出てきたんじゃないのかい?」
「だったら、今も、
その言葉遣いにピンとくるものがあるニョルズ。
「まさか特殊固体? この前のドラゴンと同じだというのか?」
それに頷くロキ。
「ちょっと違うけど、特殊固体なのは確かやな。こっからは、秘匿情報やから絶対口外しちゃあかん。とくに眷属には絶対に知られんようにせえ。ええか、三大モンスターが出現した原因はな、うちら神々なんや」
一旦言葉を切るロキ。驚愕に彩られた三人の顔を見て、続きを話す。
「昔な、ここの
ごくりと喉を鳴らして、ニョルズが言葉を零す。
「じゃあ、もしカーリーがダンジョンに入ったら・・」
「三大モンスターに匹敵する新しいモンスターが生み出されるっていうのかい?」
何が起こるか分かったヘスティアがギョッとして叫ぶ。
「・・入らん。入るのはやめじゃ。そんな恐ろしいところ絶対に入らん。じゃからいいじゃろう!」
がたがたと震えながらカーリーが叫ぶ。そんな真っ青になったカーリーに、ロキが手のひらを上にして片手を突き出す。
「な、なんじゃ!? この手は?」
戸惑うカーリーに、ロキがにまにまと笑みを見せる
「秘匿情報を、教えたんや。授業料もらおう思うてな。大負けに負けて1万ヴァリスや」
ロキはヘスティアとニョルズの二柱には、支払いは後で構わないと言う。その言葉にロキとの付き合いが長いヘスティアは不信なものを感じて、眉をひそめる。
「くっ、1万ヴァリスは高いのじゃ! もっとまけるのじゃ」
カーリーが値切るが、ロキはそれを封じる
「秘匿情報やぞ。それだけで情報料が高くなるんは当たり前や。さらには、ダンジョンに入ってたら、死んで強制送還やぞ。それ考えたら、安いもんやろ」
こう言われたら、確かに安いものであろう。不満で唇を尖らせながらも、渋々とヴァリスを支払うカーリーである。
「じゃあ、金も貰ったし、田舎者は、出来るだけ早く帰るんやな」
1万ヴァリスあるか勘定しながら、ロキがカーリーに宣言する。
「いやいや、待つのじゃ。ダンジョンは恐ろしいから入らんが、オラリオ観光は別に構わんじゃろう。バベルや、
顔色が元に戻ったカーリーが、またも駄々をこねるが、ロキがばっさりとそれを切り捨てる。
「いーや、駄目や。オラリオは、世界で最も熱い場所。生き馬の目を抜くような所や。お前さんのような田舎者は、騙されて身包み剥がされて、放り出されるのがオチや。そうなる前に帰ったほうがええで。うちは親切で言っとんるや」
そして、勘定が終わり、ヴァリスをすべて、自分用の財布に入れるロキ。
「いやいや、ロキよ。わしも子供じゃないんじゃ。そんな騙されるような事はない。子供たちの嘘を見抜くことも出来るしな」
先ほどの三大モンスター誕生秘話の衝撃から立ち直ったカーリーは、ニヤリと微笑んでみせる。
それを見て、ロキは、両手を広げて持ち上げ、『やれやれ』と肩をすくめて、首を左右に振ってみせる。いつも『やれやれ』をしているニョルズから見ても、素晴らしい『やれやれ』だった。おそらくニョルズが見た『やれやれ』の中で五本の指に入るであろう素晴らしい出来栄えの『やれやれ』だった。
「いやいや、お前さん、今の三大モンスター誕生秘話に騙されたやん。あそこまで簡単に、ころっと騙されるんやったら、絶対オラリオでも碌な目にあわんわ。早く帰ったほうがいいで?」
ぱちぱちと瞬きをするカーリー。ロキの言葉の意味が分かってないようだ。
「だ・か・ら。今うちが言った、三大モンスター誕生秘話。ぜぇ~んぶ。最初っから最後まで、真っ赤な嘘や。今、適当にでっちあげたんや。嘘って見抜けんかったやろ?」
「じゃあ、神々が原因じゃないってことかい?」
ヘスティアが確認するも、ロキは、そんなもん知らんと切って捨てた。
徐々に、ロキの言葉の意味が意識に浸透するカーリー。顔を真っ赤にして立ち上がる。
「だましたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ヴァリスを返すのじゃ!! 何が秘匿情報なのじゃ!! この詐欺師がー!!」
ロキにつかみかかるカーリー。両手をブンブンと振り回す。だがロキは落ち着いて、腕を伸ばすと、カーリーの額に手を当てて、遠ざける。それだけで、子供の体格のカーリーの腕では、ロキの体には届かなくなるのだった。体格の差である。ふんがーと唸りながらも尚も腕を振り回すカーリー。そんなカーリーを抑えながらロキは冷静であった。
「うむ。騙されやすいことがわかったんなら、1万ヴァリスは授業料として安いもんやろ。早いこと帰るんやな。これは、うちが有難ーく酒代にしとくで」
そして真面目な顔で心配するなと頷くのであった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ついには叫び声をあげながらも頭を抱えてうずくまるカーリー。それを見て気の毒に思ったのか、ヘスティアが助け舟を出す。
「まあ、折角だし、
そんな慰めを聞いてもカーリーは蹲ったままだった。
「観光はもう終わったのじゃ。メレンは広いが、観光ポイントは少ないのじゃ。魚は、メレンに来るまでの船旅で食べ飽きたのじゃ」
オラリオに住んでいるヘスティアにとっては、メレンは楽しい観光地であるし、魚料理も興味を引かれるポイントであった。しかし、長い船旅をしてきたカーリーにとっては魅力にはならなかった。
残った最後の一柱ニョルズには、慰める術がなかった。いや、一つだけ思いついた。
「じゃあ、ロキ・ファミリアから護衛を出して、カーリーだけが観光するのはどうだ? 眷属はメレンに留まることにして」
ロキとカーリーの二人とも嫌な顔をする。
「なんでうちが護衛を出さんといけんのや?」
ロキが文句を言う。言いだしっぺのニョルズが護衛を出せと言いたげだ。
「いやまあ、俺やヘスティアのところから出しても良いんだが、護衛として実力が足りん。それにロキは授業料もらってるからな。護衛代と思えばいいだろう。たしか副団長にエルフの王族がいただろう? 俺としては、その人物を推薦する。実力、人望ともに申し分ない護衛だろう」
ここで団長のフィンを推薦した場合、女性冒険者たちがさりげなく付きまとい、大変だろうという配慮である。リヴェリアは王族であり、男女問わずエルフ族から敬意を払われているので、そのようなことは無いどころか、さりげなく護衛されるだろう。またレベル6なので、いざ荒事になっても実力で切り抜けることが出来る。
「まあ、たしかにリヴェリアママなら、カーリーを扱うのもお手の物やろうしな・・」
ロキ・ファミリアの手に負えないメンバーの面倒を見ているリヴァリアの様子を思い浮かべながら、ロキは考え込む。それを期待に満ちた眼差しで見つめるカーリー。俎板の上の鯉状態である彼女にとっては、ロキの一存で、観光か、はたまた、テルスキュラへ直帰かの、分かれ目なのである。
「ドチビはどう思う? お前のところも襲撃されたやろ」
カーリーは視線をヘスティアに向ける。
「ニョルズの提案が上手い落とし所だと思うよ。ただし、条件として、護衛を振り切ったり出来ないように、動きにくい服装で観光すること。観光場所は、さっき言っていた、バベルとヘファイストス鍛冶店、
「まあ、それが妥当やろうな。そっちもそれでええな?」
まあ、観光できないよりはましだし、武器屋で買い物が出来ないわけではないと、自分に言い聞かせて、首を縦に振るカーリーであった。
こうして、メレンでの、騒動、そして慰安旅行は終息した。
メレン編が終わりです。主人公ズがでてこなかった・・
補足
ガネーシャ・ホームはまだ再建が終わっていません
次回『Solicitation poster:I want You!』