ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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Golden mead

 焔蜂亭。

 表通りではなく、裏通りに構えた居酒屋である。豊穣の女主人に比べるとやや手狭で、上品な店ではなく、どちらかといえば、大衆向けの雑然とした店である。黒い壁の店内には、10数脚のテーブルが置かれており、料理の煙のせいなのか、うっすらと煙っていた。雑多な雰囲気があるが、その分、逆に気楽な感じで落ち着きのある店内は、時間がらか冒険者らしき集団が、酒を飲んだり、飯を食ったりと騒いでいた。

 

「では二人のランクアップを祝って!」

「「「「乾杯!!」」」」

 ベルの音頭で四人は、小ぶりのジョッキをぶつけて、そのまま呷る。

「おいしいね、これ」

「そうだろう。ナカナカの人気商品なんだぜ」

ハリーの感想に嬉しそうに説明するヴェルフ。

「まあ、大男にしては良い物を知って居ますね、と言っておきましょうか」

 言っている内容とは違い、にこやかに微笑んでいるリリルカ。みなが飲んで褒めているのは、煮詰めたように濃い黄色になった濃厚な味わいの蜂蜜酒、いわば黄金の蜂蜜酒である。ヴェルフいわく、この店の看板商品とのことだ。

「しっかし、ほとんど同時にランクアップするとはなぁ。これで全員がレベル2。どこに出ても恥ずかしくない上級冒険者パーティというところだな」

 二杯目の蜂蜜酒を飲み干したベルが同意する。

「できれば、ファミリアに入団希望者が来て欲しいんだけどね。そしたら、パーティメンバーが増えるし、もっと下の階層までいけるようになるし・・」

 ベルの願いにリリルカが合いの手を入れる。

「ベル様たちがもっと名を上げれば、入団希望者がやってきますよ」

 

「なんだぁ、兎が名を上げたって自慢してるぜぇ」

 近くのテーブルから、声が上がる。四人が視線をそちらに向けると、小人族の若者がジョッキ片手ににやにやと笑っていた。

「まぁったく、兎は恥ずかしくないのかねぇ、一ヶ月でランクアップだなんて、嘘までついて有名になりたいとか、オイラだったら恥ずかしくって街を歩けねぇぜ!」

 ベルの世界最速記録をあてこすっているようだ。ヴェルフはジョッキを呷りながら、ベルに注意する。

「無視しろ、あんなもん。単なる妬みだ」

 だが、輝く太陽のエンブレムをつけた小人族とそのテーブルの仲間はさらに大声で喋る。

「それに知ってるかぁ!? あいつら、ロキ・ファミリアの腰巾着なんだぜ。強いやつらの後についていって、おこぼれに預かってんのさ。それで強くなろうだなんて、冒険者の誇りはどうなっちまったんだぁ」

 ゲラゲラと笑う小人族とその仲間達。ベルも、リリルカもヴェルフもそんな声を無視して蜂蜜酒を飲む。ハリーは、テーブルの下に手を降ろす。

「それに兎は、よそ者や半端者とつるんでパーティ作ってるんだ。出来損ないの鍛冶師に、駄目駄目なサポーター! ぽろぽろ箒で遊ぶ魔法使い」

 むっとして言い返すために立ち上がろうとするベルだが、リリルカがそれをとめる。ハリーはヴェルフに問いかける。

「冒険者って、みんなソロで行動してるってわけじゃないよね」

 戸惑いながらもヴェルフは答える。

「ああ、そりゃ、もちろん。大抵は、パーティ組んでるな」

「初心者というか、冒険者成り立てでも?」

 ちょっと記憶を探るヴェルフ。

「あー、最初は、確か先輩団員と一緒にダンジョン行ったなぁ・・」

「じゃあ、誰でも最初は強い人の腰巾着で付いていくわけだよね。だけど、ベルは最初も一人だったわけだから、腰巾着じゃないと思うんだけれどなぁ・・。隣の野次のことが本当なら、普通の冒険者はパーティを組む相手が居ないってことかなぁ?」

 それを聞いたヴェルフが涙目になる。

「すまん、ハリー、それを言われると俺もつらい・・」

 ヘファイストス・ファミリア内部でパーティを組む相手が居ないヴェルフの境遇を思い出して、謝罪するハリーである。

 

 その間にも、小人族の揶揄は続く。そして一息つけるためにながながと、ジョッキを呷る小人族。顎から酒が零れ落ちてシャツをぬらしている。そして、ジョッキをテーブルに勢いよく置く、─、つもりが、置きそこねて床に叩き落とす。派手な破壊音をたてるジョッキ。その音で店内の注目が集まる。

「そんな嘘つき野郎がドラゴン退治とか、何かインチキをしたに決まってらぁ!」

 そして、両手を頭の上に耳のようにかざして、ぴょこぴょこと動かす。

「こーんなふうに、ぴよぴよしたやつが、ドラゴンと戦えるわけないっての!」

 そういうとテーブルの上に飛び乗った。料理の皿や、酒の入ったジョッキがあたりに飛び散る。小人族の仲間にもそれが降り注ぎ、罵声が飛ぶ。しかし、当の小人族は気にした様子もないというより、気づいても居ないようだ。そしてテーブルの上で兎跳びを始める。

「ぴょんぴょん、こんな風に飛び跳ねるのが関の山だってーの!」

 そしてゲラゲラと笑う小人族。だが、飛び跳ねたせいで、まだ無事だったジョッキも皿も、散弾のように辺りに撒き散らされる。

「どうせ、逃げ回ってたら、たまたまドラゴンが勝手に死んだだけなんだよ! 兎は逃げ足が速いからな」

 そう言った途端、テーブルがひっくり返り、床に落っこちる小人族。そして、よたよたと椅子の上に這い上がると、座りなおす小人族。

 

 ヴェルフはベルたち、三人の肩をつかみ、四人でスクラムの形を組む。そして小声でささやく。

「さっきは無視しろといったが、あいつは、頭がやべー。戦略的撤退というやつで店を出る(逃げる)ぞ」

周囲の客も同じ結論に達したのか、勘定を始める客が続出し始めている。

 だが、しかし。ファミリア団長ベル・クラネルの判断は違った。彼は、周囲の客や、リリルカ、ヴェルフとは違いある情報を持ってた。それはハリーの幼少期の話、ダーズリー叔父がいった言葉。

『普通じゃないことが起こったときには、普通じゃない奴が原因なんだ』

 魔法使いであるハリーと、その周囲の奇妙な出来事との関連を示した言葉である。その言葉に従えば、この『小人族の奇行』はハリーが原因ということになる。ジト目でハリーを見つめていると、それに気がつき、苦笑いし、ウィンクしてくるハリー。ハリーは、無言呪文での錯乱呪文を小人族に掛けていたのである。

 原因はハリーだと分かり、やれやれとため息を付くベル。

 

 その間にも錯乱した小人族の奇行は続く。仲間が元に戻したテーブルの上に飛び乗ると、背中を下にして、両手両足を団子虫のように丸めて、独楽のように回転し始めたのだ。さらには回転を続けたまま、姿勢を変えて、足を天井に向けて伸ばして、肩で回転を始める。

 そこに、扉を開けて、長身のヒューマンが足早に入ってきた。そして、一瞬の躊躇いも見せずに、テーブルの上で回転している小人族に近づくと、そっと手を当てて、突き飛ばした。壁に叩きつけられて、ようやくおとなしくなる小人族。

「撫でただけだぞ。いったい全体何事だ?」

 暴力なんぞ振るっていないと言いたげな様子だ。

「いや、ヒュアキントス団長、そこの兎が、調子に乗ってましてね。有名になったから、入団希望者ががっぽがっほだとか自慢しまして。そんなのを自慢して恥ずかしくないのか、そうルアン(小人族)がたしなめたら、このざまでさぁ」

 小人族を抱えあげようとしていた冒険者が答える。それを手伝っていたもう一人が続ける。

「まったく、ダメ女神が主神やってるから、眷属までインチキ野郎なんだよ。しけた主神じゃ、やっぱり駄目ってこったな」

 気色ばみ立ち上がるベルとハリー。ああ、これは止められないと覚悟を決めるリリルカ。だが、ベルとハリーが何かする前に、二人の脇からジョッキが飛び出し、しけた女神と言っていた男の顔面に見事にぶち当たる。

「うちの主神を、ばかにするやつっぁーー、ゆるさん!」

 怒りのためか酔いの為か、髪と同じぐらいに顔を真っ赤にしているヴェルフ。そう叫ぶと、つかみかかっていった。もちろん、ハリーとベルも続く。大乱闘の始まりである。

 

 残ったリリルカはあきらめて、被害(とばっちり)が来ないようにテーブル下に潜り込んだ。テーブルの足にもたれかかり、周囲を伺うと、視線の先にちょうどヒュアキントスが居た。黒い長髪をすべてオールバックにして、後頭部になでつけ、つるりとした印象を与えるヒュアキントス。整った顔立ちであるが、その瞳は冷酷な光をたたえ、まるで、今から実験動物の解剖手術をするかのような気配を放射していた。彼は、乱闘をとめるでもなく、酷薄な笑みを唇に貼り付けていた。何を見て嗤っているのか、その視線をリリルカが追ってみると、その視線の先には、ベルが居た。何とはなしにゾクリとするものを感じたリリルカは、注意の声をあげようとした。

 だが、ヒュアキントスの動きのほうが早かった。流れるような静かな軽いステップで、殴り合いをしているベルに近づくと、軽く腕を振るう。それだけで、先ほどの小人族のように吹き飛ばされるベル。

「ふん、ドラゴンスレイヤーといきがっていても、こんなものか・・」

 薄い唇をゆがませ嗤うヒュアキントス。

 

 それを見たハリーは、ヒュアキントスに向かおうとするが─

「やっかましい! このクソ雑魚共! ゆっくり酒が飲めねェんなら、出て行きやがれっ!」

 すさまじい怒声が響いた。店の壁がビリビリと共鳴するほどの大声。自然と喧騒が収まり、声の出所へと視線が集中する。

 銀灰色の狼人、ベート・ローガ。つい先日レベル6へのランクアップがギルドから公表された男である。彼はジョッキを片手に椅子に座ってた。だが、座っているだけでも、ただならぬ迫力が感じられた。リリルカはごくりと喉を鳴らす。メレンで見たときにも不機嫌であったが、今なら分かる。あのときは、ちょっと、ほんのちょっぴりだけ虫の居所が悪かっただけだと。今は確実に機嫌を悪くしている。

「出ていかないってんなら、静かに酒を飲みやがれ」

 続けて発せられたベートの言葉に、ヒュアキントスは、周囲に宣言する。

「興がそがれた。みな、いくぞ」

 そして、ゆっくりと、威厳を失わないようにゆっくりと、歩いていった。太陽のエンブレムをつけた冒険者達が、ぞろぞろと続く。ほどなく、酒場は落ち着いた。

 ハリーとヴェルフも、ベルに肩を貸して、退散することにした。リリルカも後に続く。

 店を出て、歩いていると、痛みをこらえながらも、ベルが謝る。

「みんな、すまない。せっかくのランクアップお祝いだったのに・・」

 そうしてしょげるベル。だが、リリルカもヴェルフも気にするなと慰める。

「主神を馬鹿にされて黙っているような、そんな眷族になる気はないぜ」

「そうですよ。それにお祝いだったら、ホーム改築お祝いがあるから、また一緒にできますよ」

 それを聞いてちょっとだけ元気になるベル。

 四人はホームへと帰るのだった。

 

 ちなみにヴェルフは客室に泊まっていった。

 

 

********

 

 

 質素に見えるが落ち着いた優美な曲線で構成された家具が配置された部屋の中。読書用の明かりの元で、一人の若者が本を呼んでいた。緩やかにウェーブする金髪はまるで黄金の冠のように静かに輝いている。本のページを捲る音だけが時折響く室内。時間が過ぎるのを忘れて熱心に読みふける若者。

 そんな中、静かなしっかりとした足音が廊下から近づいてきた。ほどなくノックの音が室内に響き渡る。

「入りたまえ」

 本から視線をそらすことなく、金髪の若者がノックに応える。ドアを開けて入ってきたのは、黒い長髪を後ろに撫で付けた美男子。先ほど、焔蜂亭で乱闘をしていたヒュアキントスである。

「読書ですか、アポロン様」

 ヒュアキントスの問いかけにも、神アポロンは本から視線をはずさない。

「ああ。この本は良く書かれている。最新刊が発売されたばかりだが・・。おもしろい。ドラゴンスレイヤーを題材にしているのも興味深い。この作者は、前々から、彼らと知り合いなのかもしれん・・」

 最後の方は、自分自身へ向けた独り言になっていた。それに気づいたヒュアキントスは報告を始める。

「計画通り、ベル・クラネルに接触してきました」

「ふむ、よろしい。では次の段階に取りかかりなさい。宴を開くのだったな」

 アポロンの指示にヒュアキントスは、おとなしく頷き、そして、手配を進めるために、退出していった。

 その後もアポロンは読書を続け・・そして、読了した・・。彼は満足げに立ち上がると、窓辺へと移動する。

「もうすぐだ。もうすぐで、僕のものになるんだ!」

 そして彼は嬉しそうに月を見上げながら叫ぶのだった

「早く僕の元にくるんだ、僕の、僕のペルきゅん!」

 アポロンの手には、『ドキドキ! ダンジョンラブ!!』の最新刊が収まっていた。

 




補足
蜂蜜酒。
原作で色は『ルビーのよう』と形容されていますが、ここでは黄金の蜂蜜酒としています。

次回『Wangoballwime?』
かなり間隔が開きます。すみません
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