「魔剣!! エンゴージオォォォォォ!!!」
途端、ハリーが掲げていた剣がまばゆい光を放ち、巨大化した。
本丸の床に柄を下にして直立するのは巨大なブロードソード。そして
刀身の長さは、本丸と崖の狭間を埋めるのに十分な長さ。そして刀身の幅は、人が一人歩くのに十分な幅がある。すなわち、巨大剣で出来た橋が出来上がるのだ。
それを見て取ったヒュアキントスは、無理矢理に動揺を押し殺していた。巨大化する魔剣には意表を突かれた。だが、それだけだ。まだ橋になったわけではない。こちらに倒れてくる巨大剣を弾き飛ばせば、橋にならず、狭間に落ちていくはずだ。そう考えたヒュアキントスは、
だが、その彼の目論見はあっさりと崩れる。倒れてくる巨大剣の上から、電撃が放たれたのだ。
「ファイアボルト!」
とっさに地面に転がり、攻撃を避ける。電撃の元を見ると、ベルが巨大剣の切っ先の上にいた。なんと倒れかかる巨大剣の上を走って既にここまできていたのだ。
ベルは剣の上から崖のスペースに飛び移り、すかさず二刀─ドラキチとヘスティア・ナイフ─を構える。その背後で、轟音を立てて巨大剣が崖に衝突する。無事に橋が完成した。
「辿り着いたぞ、ヒュアキントス! 一対一で勝負だ!」
「ダフネ、カサンドラ、三人で潰すぞ!」
ベルの叫びに、ヒュアキントスが答え、三人がかりで攻撃を始める。ベルは巨大剣の橋から離れるように回り込む。それにヒュアキントスが肉薄し、
「
大量の赤い光線がダフネに襲い掛かり、地面へと叩き付ける。ハリーが巨大剣の橋を渡ってきたのだ。
これで二対二。
油断せずハリーは攻撃を続ける。
これで人数は逆転して一対二。
ハリーは杖を右腕のホルスターにしまうと、ダフネとカサンドラを片手で一人ずつ持ち上げ、端っこに運ぶ。それをみてヒュアキントスはせせら笑う。
「人質にでもするつもりか?」
ベルが答える。
「そんなことはしない。団長同士、一対一で勝負をつけよう。ハリーも手を出さない」
それを聞いてヒュアキントスの唇が捲くれ上がり醜悪な笑い顔になる。
「この私を一人で倒せるなどと思い上がるとはな。なめられたものよ・・。その思い上がりに免じて少し遊んでやろう・・」
ゆらりと立ち上がると無表情になるヒュアキントス。そして、残像が残るかのようなスピードでベルに切りかかる。ベルも負けずに、二刀で迎え撃つ。高速で切り結びながらヒュアキントスは平行詠唱を進める。
「我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ! 我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ! 放つ火輪の一投! 来たれ西方の風!」
そして、フランベルジュを大きく薙ぎ、ベルとの距離を開ける。
「アロ・ゼフュロス!」
ヒュアキントスの前に直径30Cほどの
地面を転がるベルの真上を、輝く円盤が背後から一直線に切り裂いた!
「ははははは、よくぞ避けた! たいていの場合は、これで終わりなのだがな! なかなか楽しませてくれる。だが私の大剣と、輝く円盤の同時攻撃、いつまで避けられるかな? 大言を吐いたんだ、あっさりと終わってくれるなよ」
そして再び始まる一刀と二刀との闘い。だがそれだけではない、ベルの隙をついて背後から横から、輝く円盤がヒュアキントスとのコンビネーションで斬りかかってくるのだ。鍔迫り合いになるもヒュアキントスに突き飛ばされるベル。さすがに力負けしている。そして輝く円盤が襲い掛かる。だが、ベルは、ナイフを素早く納刀する!
「ファイアボルト!」
激突する魔法と魔法。だが輝く円盤が炎の雷を切り裂き、ベルを直撃し爆発する。そこにヒュアキントスがフランベルジュを全力で叩き付ける。
だがそれはドラキチによって辛くも受け止められた。
「ほう、私の全力を受け止めたか。頑丈な剣よ」
感心するヒュアキントス。そこに油断があった。
「ファイアボルト! ファイアボルト!」
ファイアボルトは炎の
ドラキチとフランベルジュを伝ってヒュアキントスに流れ込むのだ!
「GUWAAAAAAA!!!」
両腕からブスブスと小さな煙を上げて後退るヒュアキントス。雷のせいで痺れたのか、両手がだらりと下がっている。隙だらけだ。それを見逃さず、ベルは全力で助走をつけ、飛び蹴りを見舞った! 狙い過たず、ヒュアキントスの胸のど真ん中に突き刺さる。その衝撃にはたまらず、ヒュアキントスの胸がプレストプレートごとガポリと陥没する。
だがヒュアキントスは倒れない。ふらふらとよろめくが大剣を杖にして体を支える。ゴホゴホと咳き込み、息を整えているが、肺にダメージを負ったのか、咳き込んだ拍子に血を吐いている。
ベル自身も息が切れている。先ほどのファイアボルトは大部分がヒュアキントスに流れ込んだが、幾分かはドラキチを伝って自分にも逆流していたのだ。おまけのその直前には輝く円盤が直撃している。
お互い満身創痍の状態。
「いやいやベル・クラネルよ。ここまでやるとは思わなかったよ。遊びは此処までにして全力で叩き潰してあげよう。行くぞ!」
そして再び二人は切り結ぶ。お互いダメージが大きいため、先ほどのようなスピードは既にない。だがかまわずヒュアキントスは平行詠唱を始める。
「我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ!」
詠唱を阻止しようとベルは、必死に攻撃を続けるが、詠唱が止まらない。
「我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ! 放つ火輪の一投! 来たれ西方の風!」
そして、バックステップで、ベルとの距離を開ける。
「アロ・ゼフュロス!」
輝く円盤が現れる。だがヒュアキントスは再び詠唱を始める。
「我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ! 我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ!」
その間もベルを攻撃する手は緩めない。輝く円盤とのコンビネーションで的確に追い込んでいく。
「放つ火輪の一投! 来たれ西方の風!」
そして、輝く円盤で攻撃し、ベルを後退させる。
「アロ・ゼフュロス!」
二つ目の輝く円盤が現れる。
「一つ教えてやろう・・。複数の魔法を同時に行使することを同時詠唱という。防御魔法で攻撃を防ぎつつ、治癒魔法で味方の治療をするというようにな。だが、私はこのように攻撃魔法で行使できる。効果は言うまでもないだろう。いわば一人で三方向から攻撃できるわけだ。さて私の全力にどれだけ耐えきれるかな」
そして、ヒュアキントスの攻撃が始まる。剣と魔法による三方向からの攻撃。剣での攻撃は、剣で受け止められる。しかし輝く円盤は防御しても爆発する。避けるしかない。
剣を防ぎ、地面に転がり、必死に動き回るベルだが、三方向からの攻撃をいつまで捌けるかわからず、このままでは負けると感じていた。そして徐々にヒュアキントスに傷を負わされながらも、一つの方法を思いつく。体をかがめると、ヒュアキントスの足元から背後にすり抜け、ダッシュで崖ギリギリまで移動する。
そして振り返る。狙い通りに、二つの輝く円盤とヒュアキントスが一直線に並んでいる。これならば、三方向からの攻撃ではなく、一方向からの連続攻撃になる。
「行くぞ!」
自分に気合を入れてベルはヒュアキントスめがけて一直線に突進する。すかさず、輝く円盤が迎撃にくるが、ベルはナイフを納刀すると、詠唱する。
「ファイアボルト・マキシマァァァ!」
左手から、収束され極太になったファイヤボルトが撃ち出される。今度は切り裂かれることなく、それどころか、先ほどとは逆にファイアボルトが輝く円盤を貫いた。爆発する輝く円盤。
だが、すでに二つ目の輝く円盤がベルに迫っていた。ベルはすかさず、右手のドラキチを叩きつける。爆発する輝く円盤。その衝撃で、ドラキチはベルの手から吹き飛ばされる。そこに襲い掛かるヒュアキントス! ここが勝負所と判断し、大上段からの全力での撃ち降ろしである。だがベルはすかさずヘスティア・ナイフを抜刀し、それを受け止めた。ギャリギャリと音を立てながら、受け止めて見せた。
「これに耐えるだと・・」
驚愕するヒュアキントス。だが、それが油断だった。ベルの渾身の右ストレートがヒュアキントスの顔面に叩き込まれる。と同時にベルが絶叫する
「ファイアボルトォォォ!」
拳と魔法の連続攻撃を受け、さすがのヒュアキントスも崩れ落ちる。ベルもへたり込みそうになるが、なんとか両手を膝について踏ん張ることに成功する。しばらくの間、ぜえぜえと呼吸する。そして背筋を伸ばし、ハリーにサムズアップを送る。
「やったな、ベル! それじゃあ、旗も降ろすよ」
ハリーはポールに駆け寄ると、ロープを操作し旗を引き摺り下ろした。
こうしてヘスティア+ミアハ連合は勝利条件を二つとも満たしたのだった。
完全勝利である
********
「大将を撃ち破って、旗も降ろした──!!、ヘスティア+ミアハ連合の完全勝利だぁぁぁ──!!」
実況のイブリが絶叫する。
オラリオ市街では、賭けに負けて悔しがる者、逆張りにかけて大喜びする者、ベルたちの健闘にはしゃぐ者、とりあえず何でもいいから騒ぎたい者、悲喜こもごもの大騒ぎである。
「「「兎が一対一で倒しやがったぁぁぁぁ!!!」」」
そして、まさかの決闘方式で盛り上がって、しかも格下のベルが勝ったことに、ハベル30階にいる野次馬神たちも大騒ぎである。アテネとその友神たちも喜んでいる。だが──
「馬鹿なっ! ヒュアキントスが負けるはずがない。俺のヒュアキントスが負けるなどあり得ないっ! そんな馬鹿なことがあってたまるかぁぁぁ!」
椅子から立ち上がり、いきりたつアポロン。敗北を認めることができないでいた。ヘルメスが宥める。
「落ち着くんだアポロン。どう見ても大将のヒュアキントスは討ち取られている。それにもう一つの勝利条件、旗も引き摺り下ろされている。ちゃんとロープを操作してだ。どちらか片方を実行すれば、勝敗はつくんだ。それを両方とも実行されている。ヘスティア側の勝利は、動かしようもない事実なんだよ」
そう宥められてようやく現実が理解でき始めたのか、アポロンがへたり込む。
「は、はは、は、こんな、ことが起こるとはな・・・」
「さて、アポロン!」
そんなアポロンとは対照的に、元気よくヘスティアが、椅子からぴょんと立ち上がる。そしてアポロンに向かって指を突き付ける。
「負けたら何でもするって言ったよな!」
賭けの清算の時間である。ヘルメスが賭けの条件をつぶやく。
「アポロン側が勝った場合には、ベル・クラネルがアポロン・ファミリアに改宗する。
ヘスティア側が勝った場合には、アポロン側は何でもする、だったな・・」
「「「何でもするって言いました!!!」」」
野次馬神たちが復唱する。それを聞いてアポロンは青褪め、言い訳を始める。
「・・何でもするっていうのは・・」
だが、ヘスティアは容赦しない。
「まずは第一に、アポロン・ファミリアの全財産を没収!!」
「「「うひょう、容赦ねぇぇぇ。ようこそアポロン、貧乏ファミリアへ!」」」
大喜びする野次馬神達。
「第二に! こんな風に強引に改宗を迫った団員が多いんじゃないのか? ファミリアを解散して、団員が希望するところに改宗させること。そして60年間はファミリア再結成の禁止。悪いけど、ガネーシャ、改宗の監督をお願いする」
「「「こ、怖えよ、ヘスティア・・ようこそアポロン、零細ファミリアへ・・いや、ファミリアじゃないのか・・」
ヘスティアの剣幕にびびる野次馬神達。
「第三に! アポロンは今後は、常にペノアと共に行動して、彼女を手伝うこと! 僕からは以上だ!」
「「「ちょぉぉぉ、マジ!? マジ受けるんですけど(笑)!! がんばれアポローン!!」」」
ゲラゲラと笑い出す野次馬神達。これには理由がある。
ペノアとはダイダロス通りに棲みついている老女神で、司るものは貧困。ようするに貧乏神である。オラリオに住む神々は「うわぁ、ペノアだぁぁ、えんがちょーー」といって逃げ出すような神なのである。彼女は一般的なオラリオにいる神とは異なり、ファミリアは結成していない。だがオラリオ市民の中には、ペノアの信奉者がなぜか多く、奉納、献金が大量にされている。ペノアはそれをダイダロス通りに住む貧困層に配布するという、いわば富の再分配を行っているのだ。ある意味オラリオに必要な神ともいえる。そして、ペノアの手伝いをする以上は、アポロンが今後、泡銭を手に入れたとしても、取り上げられて、すぐさま再分配されるということである・・・
真っ青になったアポロンがヘスティアに取り縋る。
「後生だ~、許してくれヘスティア。ほんの出来心だったんだ、御慈悲を、御慈悲を~!」
ヘスティアは、泣いて取り縋るアポロンに、にっこりと微笑むと言い放った。
「ゆ゛・る゛・さ゛・ん゛!!」
泣き崩れるアポロン。ヘスティアはミアハに振り返る。
「ミアハは何か要求があるかい?」
「まあ、彼も十分に反省するだろうし、特にないかな?」
ヘスティアは頷いて了承する。
こうして戦争遊戯は終了した。
同時詠唱は適当な設定です。リヴェリアなら本文中の説明のように、防御魔法展開しつつ、回復魔法を行使していそうだなとも思います。
追記 原作では同時詠唱はできない設定とのことです。がこの作品では可能としますね。
「最初の輝く円盤! 二番目の輝く円盤! そして俺! 白い(髪の)奴にジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」
次回『After Festival...』
2019/1/30の活動報告に『Wangoballwime? ベル・バージョン』を載せていますので、興味がある方はご覧ください。読まなくても本筋にまったく影響はありません