そしてしばしの間オラリオの町を歩き、ハリーとヘスティアは黄昏の館についていた。
引きつった顔でヘスティアがハリーの腕を引っ張る。
「おいおい、ハリー君、まさか此処なのかい? ここってロキ・ファミリアだよね」
なんで引きつっているんだろうと不思議に思いながら、ここですよーと肯定した。そしてハリーは門番に挨拶をして、中に入っていった。
かって知ったる様子で建物の中を歩くハリーにヘスティアは軽く驚くが、両手でぺちんと自分の頬をたたいて気合を入れる。
「よっし、挨拶は任せてくれたまえ、ハリー君!」
そして勢いよく歩き出す、ヘスティア。
しばらく後。
入団するファミリアが決まったということ、主神も来ていることをフィン、リヴェリアに伝えると、せっかくなので、ロキ・ファミリアとしても挨拶をしたいということで、応接室で話をすることになった。
テーブルを挟み、ハリーとヘスティアに向かい合う形で、フィンとリヴェリアが座る。
「はじめまして、神ヘスティア。ロキ・ファミリア団長フィン・ディムナです」
「おなじく、ロキ・ファミリア副団長リヴェリア・リヨス・アールヴです」
二人は神に対して、うやうやしく一礼する。
主神と眷属の性格は似ないものなんだなぁと内心で感心しつつも、ヘスティアは挨拶を忘れない。何事も最初が肝心である。姿勢良くかかとをあわせて直立すると、両の手のひらを胸の前で合わせてぺこりとお辞儀をする。
「ドーモ、ハジメマシテ。ディムナ=サン、アールヴ=サン。ヘスティア・ファミリア主神ヘスティア、デス」
極東出身の神友タケに教わった挨拶をするヘスティア。そのタイミングでドアが開かれる。
「ハリーはんのファミリアがきまったんやて? どこになったんやー?」
聞き覚えのあるロキの声に、入り口へと目を向けるヘスティアであったが、ロキはいなかった。そこにいたのは、腰まで届く赤髪を一本にまとめ結いして、背中におろし、すらりとしたモデル体系の体で白い清楚なワンピースを見事に着こなし、黒いカーディガンを羽織ることで、調和をとっている美人であった。。一体全体誰だよ・・・とヘスティアが不思議に思っているとその女性が口を開いた。
「まさかとは思うが、ハリーはん、ヘスティア・ファミリアにはいったんか?」
「えええええ、ロキ! その声ロキだよね! いったい全体どうしたんだよ。その格好」
「ええ、そうです、ヘスティア・ファミリアに入りました」
ヘスティアの叫びとハリーの返事は同時であった。
ハリーの返事を聞いたロキは、がっくりと床に両手両膝をついてうなだれ、ぶつぶつと呟き始める。
「なんでや、よりにもよって、なんで、どちびんとこなんやっ」
しばらくして、ようやく気を取り直したのか、ロキは、立ち上がると、しっしっとヘスティアに嫌そうに手をふる。
「ああ、どちび、ちょっと静かにしとってや。で、ハリーはん。ここ二日の話は聞いてるけど、やっぱり、入れる
ハリーの隣に座りながらロキが確認する
「残念ながら、入れてくれるところはありませんでした」
「なら、まあ、しょうがないか・・・」
ヘスティアを横目に、ロキはハリーの耳に口を近づけると、そっとたずねる
「で、どこまでヘスティアには話したんや」
「とりあえず、全部です。他の世界から来たことから、帰る予定のことまでです」
まあ、主神になるんやし、しゃあないかぁと呟いたロキは再びヘスティアに視線を向ける。いつもなら顔を合わせたとたん、ぎゃあぎゃあとうるさいヘスティアが今日は珍しく静かである
「どちび、どうしたんや? 」
ヘスティアは口と両目を限界まで見開いていた。
「いやどうしたって・・・雰囲気変わった? 特に髪が・・というか、君、スカート履くんだ・・・」
そんなヘスティアの言葉にロキはまとめてある髪を持ち上げて見せた。
「ああ、これか。髪はウィッグや。イメチェン、ちゅーやつやな。神であろうと身だしなみには気を配らんといかんなー思たんや。どちびも、ハリーはんが入団したんなら、身だしなみとか行動には気を配らんといかんでぇ。なんてったって、主神はある意味ファミリアの顔やからな」
どーんというドヤ顔でヘスティアに説教をする。それを聞いたフィンや、リヴェリアが苦笑いをするのは、今までのロキの行動が行動なだけに、仕方が無いだろう。
「さて、話がずれてしまったが、ハリー君、入団おめでとう。これからは僕たちと同じ冒険者だね」
「魔法のことで困ったことがあったなら、たずねてきてくれ。力になれるかもしれない」
「まあ、僕に任せてくれたまえ。ハリー君の面倒は
どーんと胸を張るヘスティアであるが、ロキが冷静に突っ込みを入れる。
「いや、どちびが言うとめっちゃ不安なんやが・・。まあ、ハリーはん、フィンたちも言うように相談ならいつでも乗るでえ。気楽にきたってな。あと、それからどちび、ハリーはんが他の世界から来たっていうのは、秘密やで。ここにいる二人とあと、うちのティオネは知っとるが、他には秘密にしとくんや。もちろんギルドにもやで。わかっとるやろうな」
主神としては初心者であるヘスティアに対して不安しかもてないロキである。しっかりと釘を刺しておく。
「もちろんさ。しかし君、本当にロキかい? 平らなところは変わってないけど、性格が変わりすぎてて怖いよ・・・」
「かーっ! 失礼なやっちゃなぁぁぁ、わてはいつでも親切でリーダーシップがあり暖かい心の持ち主やで。子供たちにも、もてもてなんや! なあ、フィン!」
怒りに任せて、ヘスティアの両頬をひねりあげるロキであった。
「ダンジョンでは油断は禁物だ。常に安全マージンをとって行動するんだ」
ロキの言葉に苦笑を浮かべながら、フィンはハリーに助言する。
「油断大敵! ですね。お世話になった人が口癖のようによく言っていました」
義眼をつけた元闇払いのことを思い出しながらハリーは答える。
「うん、それでは、またダンジョンであおうじゃないか」
ハリーは、フィン、リヴェリアと握手をするとたそがれの館を後にした。つねりあげられて真っ赤になった頬のヘスティアとともに帰路についたのだった。
そして翌朝。
「気をつけていってくるんだよ」
ヘスティアの声に見送られて、ベルとハリーがギルドに向かって出発する。途中で、ベルが知り合いが勤めるレストランにより、昼食を手に入れてきた。
すでに街の中は、ダンジョンに向かう冒険者であふれている。道行く冒険者の姿はまちまちである。とは言うものの、オラリオの冒険者事情というものがある。冒険者は全員レベル1からスタートする。ランクが上がるということはきわめて難しく、一生をレベル1のままですごすことも珍しくない。スキルや魔法を覚えることも珍しい。特に魔法を使えようになるのは難しい。ただ、レベルに関係なくスキルと魔法は発現する。
だからこそ、道行く冒険者の中には魔法使いのようなものはおらず、ほとんどが、斧や長剣を装備した者たちであった。ハリーとベルもその集団にまぎれて一方向に歩いていく。その目指す先はオラリオでもっとも高い建造物バベルであった。
ギルドでハリーの冒険者登録をするため、ベルに連れられ、美人の受付嬢のところにいく。
「エイナさん、うちのファミリアの新メンバーです。登録をお願いします!」
「わかりました。では、こちらに、名前、種族、簡単な略歴を記入願います。
にこにこしたベルの言葉に冷静に応える。髪の間からはエルフである印の長い耳が突き出している。とはいえ、リヴェリアに比較するとやや短いようだ。個人差ってあるものなんだなぁとハリーは考える。そんなエイナは表情もにこにことし、嬉そうである。単なる冒険者とアドバイザーの関係ではなく、普通に仲のよい仲間のように見える。他の組み合わせがどうなのかわからないが、ベルが良好な人間関係を築いているのがわかり、ハリーは微笑んだ。
「よかったわね、ベル君! これで、ソロでのダンジョンアタックも終りね。安心したわ!」
「ふっふっふっ、いつかは、オラリオ一のファミリアになるんですから! これからもがんばりますよ」
そんな二人の邪魔をするのは気が引けたのだが、ハリーとしては、まだ共通語がかけないので、ベルに代筆してもらう必要があるのだ。わき腹をつつき、ごにょごよと小声で囁くと、ベルが代筆してそれをエイナに渡し、無事登録が終了した。そしてギルド支給のナイフを渡される。
「最初の一振りは支給ですから無料ですが、二振目からは有料になります。あと性能は良くないので、できれば、早めに買い換えることをお勧めしますね」
そしてエイナはベルの方を向き、確認する
「もう今からダンジョンにいくのかしら?」
「とあえずは様子見でダンジョン二階と三階でしばらく訓練します。さらに下に行くのはもうちょっとしてですね」
「まあ、わかってるみたいね。ではポッターさん、これからあなたの担当アドバイザーになるエイナ・チュールです。よろしくお願いします。最初のアドバイスですが、『冒険者は冒険してはいけない』これをモットーにしてください。無茶をしてはいけない。常に安全を確保して行動してくださいということです。ダンジョンでは不測の事態がいつでも発生しえます。命を失ってしまっては何にもなりません。十分に気をつけて、がんばってください
ギルドは冒険者としてのあなたを歓迎いたします!」
そしてダンジョンへと進む。
「よかったね、ハリー。普段だったら、エイナさんからはダンジョンについての勉強会が始まっているところだよ。必要なことだとは思うんだけれど、大変なんだよ」
まじめなベルの表情からは、エイナの勉強会はかなりなスパルタなのだと推測できた。その間も、薄暗いダンジョンの通路をどんどんと進み続けるベル。ハリーはついていくのがやっとであった。
「ちょっと、早い、早いよ」
冒険者になりたてのハリーと、冒険者になって既に成長スタートしているベル。ステイタスの差はこんなところにも如実に現れているのであった。ベルはペースを落として、ハリーと共にダンジョン二階層を目指した。
そして、到着した地下二階層の小部屋の一つ。ここでハリーは魔法とスキルの実験をするのである。まずは、杖無し魔法。ハリーは杖を腰のホルスターにしまうと、右手を開いて前に出し詠唱する。
「
右手を向けていた壁が一部切り裂かれる。
「おお、すごい!」
魔法を始めてみるベルが驚愕の声を出す。ダンジョンの壁はもちろん硬いので、切り裂くのはちょっと手間がかかるのだ。それをやすやすとやってのける魔法の威力に、嬉しくなったのもある。
ハリーは手を開いたの握ったりした後、再び右手を壁に向ける。今度は無言呪文を使うのだ。
何の前触れも無く壁が切り裂かれる。そして、一つ二つ三つと何度も切り裂かれる。
「うーん・・・」
なんだか困った様子のハリー。杖を取り出すと杖を壁に向ける
「
続けざまに何度も何度も無言呪文も交えて魔法を打ち込む。杖を構えたり、杖なしだったり、詠唱なしだったりと
「ハリー! どうしたの?」
その様子にただならぬものを感じたベルはハリーに叫ぶ。それにかまわず、ハリーは延々と呪文で壁を攻撃する。
「うん、なんとなく、スキル?のことがわかったよ」
二十分後。ようやく満足したのか、魔法をやめてハリーは説明を始めた。壁には、深さ1mほどの穴が開いていた。
「杖を持った状態で詠唱をして使うのが一番、うまく制御もできるし使いやすいんだ。杖が無かったり、詠唱なしだと、制御しにくいんだ・・」
とはいうものの、魔法が使えないベルにはぴんと来ないようである。
「うーん、なんというか、物を持ち上げるのに、手を使って持ち上げるのが、杖有りで詠唱有り。両手に一本ずつ棒を持ってそれで、物を挟んで持ち上げるのが、杖なしで詠唱なしでやった状態といえば、わかるかな。持ち上げられるけど、持ちにくいし、すべって落としそうだしというか・・」
ハリーは例を挙げて説明してみる。
「あと狙ったところに魔法があたらない。すこしずれるね。それに発動させるのにちょっと力をこめないといけない」
「つまり、一番良いのは杖があって、詠唱をするってこと?」
「うん、普段はそれでいくよ。で、こっそり使いたいときは、無言呪文でなんとかするよ。あと呪文によっては、どんな状態でもうまく使えるものがある。
赤い光線が発射され、壁に激突する
「この呪文は杖が有っても無くても、うまく使える」
ちょっと満足気なハリーであった。
「ただ残念ながら、相手の武器を弾き飛ばす呪文だから、モンスター相手には役に立たないかな・・」
「いやいや、役に立つよ、もう少し深くもぐるとネイチャーウェポンを使ってくるアルミラージとかいるし! じゃあ、モンスターとどんどん戦ってみよう!」
そういうことで、ベルとハリーは二階をさまよい始めた。
途中、現れるモンスターといろいろと試しながら戦う。
実を言うと、元の世界の屋敷しもべ妖精や子鬼に知り合いがいるハリーは、モンスターとうまく戦えるかどうか不安であった。ぱっと見はゴブリンと子鬼は似ているのである。だが攻撃を躊躇している間にゴブリンに何回か殴られてからは、殺るか殺られるかということが骨身にしみたので、ためらわずに攻撃するようになった。こうして二人で戦ううちに、パターンができ始めた
最終的には、ハリーが
「二人でダンジョンにもぐる場合は、これが一番しっくり来るね。でも一人で戦うときもあるだろうから、攻撃呪文での戦い方も練習したほうがいい」
「え、でも、一人でダンジョンに入るつもりは無いよ」
ベルの言葉に驚くハリー。安全マージンのことを考えるとソロでのダンジョンアタックはきわめて危険に感じられた。まさに先ほどアドバイザーから言われた冒険者は冒険をしていけないに真っ向から反している。
「でも、怪我や毒麻痺で僕が動けないでハリーが一人になる場合も、その逆の場合もあるから」
納得の理由であった。エイナさんに勉強会で教えてもらったんだと、照れくさそうに落ちを話すベル。と、そこにゴブリンが10匹ほど現れる。二階にしては大集団である。
「
ハリーが杖をすばやく一閃させると同時に、ゴブリンたちが足並みそろえて踊りだした。いっせいに右にステップ、左手を前に出し、右手を下げる。そして、前傾姿勢で、こちらに歩いてくるのだが、なぜか後ろに下がっていく。
「え、なにこれ!?」
驚くベルを尻目に、前に進む動きで後ろにさらに下がる。そうして、立ち止まるや、上半身を起こし、姿勢よく胸を張ると、両手を腰の高さで広げ、腰を軽くひねって見栄を張り、
「ポウ!」と叫ぶ。一糸乱れぬ動きを見せる10匹のゴブリンたち。
ベルは混乱して目が点になっている。
「相手を踊らせる魔法。集団相手に一度に使うには、これがいいかと思った」
相手の行動を規制し、さらには、こちらとの間に距離をあけさせる。なかなか良い呪文である。
ハリーの声にあわてて、攻撃を始めるベル。ハリーも直接的な攻撃呪文で戦う。数が多いので、魔石よりも先に、ある程度数を減らすことを優先したのである。
そうしてしばしの戦闘の後、ゴブリンは全滅した。
ハリーはベルに教えてもらいながら、魔石をゴブリンの死体から取り出していた。魔石が体からでると死体は音も無く灰となって崩れ去る。
「不思議なもんだねぇ・・・」
改めて魔石と灰をまじまじと見ながらもハリーは呟く。
「ハリーの世界では魔石をとっても灰にならないの?」
「まずダンジョンが無いよ」
笑いながらハリーは答え、ホームに戻ったら、ハリーの世界の魔法生物の話をすることを約束する。
死体を切り開き、魔石を取り出すことに嫌悪感を感じるかと実はハリーは心配していた。だが、魔法薬学、魔法生物学、薬草学で、マグルの常識外のものを扱うことになれていたためか、強い嫌悪感を抱くことも無かった。
そうして戦闘を繰り返し、バックパックが魔石でいっぱいになったころ、帰ることにした。
「さて、ベル。帰るんだけれど、一応もう一つ試したいことがあるんだけど、いいかな。上手く行くととてつもなく楽なんだけれど。ちょっと腕をつかんでくれ」
そういってハリーは左腕をベルに出した。ベルは何をするのと言いたげな顔でハリーの左腕をつかむ。
「ホームまで瞬間移動できないか試してみる。ちょっと衝撃があるから、身構えてて」
ハリーは注意をすると杖を振る。そう、姿くらましだ。だが、残念ながら、魔法は発動しなかった。今度は、試しにダンジョンの通路を短距離だけ移動しようとしてみる。だがこれまた、できなかった。
「うーん、上手く行かない。すまない。ダンジョン内部では姿くらましができないみたいだ」
「場所によってできないところがあるの?」
ベルの質問に、ハリーはホグワーツでは出来ないことをいい、それから話の流れでホグワーツやら魔法世界のことを説明するのだった。
こちらに歩いてくるのだが、なぜか後ろに下がっていく。これは、はいそうです。ムーン・ウォークです。
次回は『ミアハ・ファミリア』です