時間は遡り、アイズが連隊長を捕虜にした日の早朝、まだ夜が開ける前の事──
オラリオに、古代の奇匠ダイダロスが作り上げた一画がある。互いに寄り添いあいながらも、遠近感を無視するように建てられた町並み。一つの建物が、もう一つの大きな建物に突き刺さったかのようになった不思議な構成。更には、その上に別の建物が覆いかぶさるという複雑な構成。道にしても、上がると見せかけて下っていく坂道、行き止まりと見せかけて、ただ曲がっているだけの通路。はたまた建物の真ん中を取りぬける陸橋めいたもの。住民でさえ、知っている道から一歩でも踏み出せば迷うといわれている。製作者の妄執が作り上げたその一画ダイダロス通りは『もう一つの迷宮』と名付けられている。
現在、
そんなアポロンは、ざわざわとした気配を感じて目を覚ます。感覚的には、まだ夜明けまで間がある。じっとしたまま、耳を澄ます。誰かが閉め忘れたのか、風に吹かれて、窓の鎧戸が微かなキィキィという音を立てている。この音で目が覚めたのかと、気を緩めたアポロンは、視線を動かしてぎくりとする。鎧戸が開くたびに入り込んでくる光が、影法師を壁に作り込んでいるのだ。そしてその影はローブを被った人物、とがった頭の人影、剣や槍の影、耳まで避けた巨大な口、角が二本生えた巨大な頭、静かに羽ばたく巨大な翼へと、移り変わっていく。どの影法師も怪しくゆらゆらと蠢き、アポロンは息をするのも忘れて見入ってた。
その間にも、風に吹かれて、鎧戸はキィキィと微かな音を立てている。
夢を見ていると断ずるには、リアルな状況。アポロンは、身動きもできずに、影法師に吸い込まれるような気分に陥ってた。自覚せずに、ゆっくりと立ち上がると、壁に近づき、影法師に見入っていた。ふと視線を反対側に移し、ゆっくりと歩き窓に近づいていく。耳に入るのは、おのれの胸の鼓動。そして鎧戸が立てるキィキィという音。
そして窓に辿り着いた。見たくないという思いとは逆に、手が勝手にゆっくりと伸びて鎧戸をゆっくりとゆっくりと押し開いていく。胸の鼓動は煩いほどだ。そっとそうっと窓に近づき、外を覗き込む。
外を歩いているのは、松明を持った集団。黒っぽいフード付きローブを頭から被り、人相などは分からない。多くの人が静かに歩いている。そして居るのは
正体がわからないが、よからぬ存在であることだけは確実だ。だが、その不気味さから視線を外せない。アポロンは、眼を見開き、魂を吸い取られたかのように見入っていた。突然、後ろから口をふさがれ、窓から引き離される。
驚きのあまり心臓が張り裂けるかと思い、パニックに陥ったアポロンは、必死でもがく。
「しぃっ! 静かにおし! 私だよ、ペノアだよ! 分かったら、二回頷くんだ!」
確かにその声は、普段からアポロンをどやしつけているペノアのものだった。首が筋肉痛になりそうな勢いで、二回頷いてみせる。
「よし、じゃあ、手を離すけど、声を出すんじゃないよ。外のモンスターに気付かれちまう」
そして手が離れてようやく自由になったアポロンは、深呼吸を繰り返す。
「──なんで─驚いて─死ぬかと・・」
過呼吸になりかけているアポロンに構わず、ペノアは話を進める。
「静かに! 外のモンスターに気付かれたら事だ。良いかい、あんたは、これから裏道を通ってギルドに行きな。モンスターが街中に居ることを連絡するんだ」
ぎょっとするアポロンに構わずペノアは話を続ける。
「言っとくけど、あんたは太陽神、ハルマゲドーンやら、ラグナロクーやら、ニッショクーやらで、古今東西の神話上、思いっきり死にまくってる神だ。とっとと逃げてギルドで保護してもらいな。分かったかい?」
こくこくとアポロンが頷くと、ペノアは、良しと言ってドアに向かう。
「・・あんたは、どうするんだ・・」
アポロンが掠れ声を出すと、ペノアは呆れたような表情と共に振り返った。
「私は住民をこっそり叩き起こして避難させるさ。古今東西、貧乏神は追い払われることはあっても、死ぬことはないのさ。貧乏神が死ぬ神話を知ってるかい? 知らないだろう? つまり貧乏神である私は、不死身ということになる。分かったら、さっさと行った行った。ギルドに早く知らせれば、その分、人が助かるってもんさ」
そう言うとペノアはドアをくぐり姿を消す。先ほどの言葉通りに住民を避難させに行ったのだろう。アポロンも、ぶるりと身震いしてからマントを羽織ると、ヒュアキントスを起こして共にギルドに向かって出発するのだった。
********
「出迎えご苦労」
真っ黒いフード付きローブを身にまとった身長2M近い男は、一人の冒険者に声をかける。そう言いながらも内心のいらだちが漏れているのか、右手に持った1.8M程の
冒険者は、それを見ておびえていた。彼の主神からは、『絶対に非礼なことをするな。したら死ぬ』と警告されていた。それでなくても、周囲にいるのは、黒いローブを身にまとった不気味な連中やら、モンスターだらけなのだ。一般冒険者である彼はすぐに逃げ出したくて、たまらなかったがそれも出来ない。死なぬためには、言いつけられた仕事、道案内をさっさと終わらせて逃げるしかない。
「お、おくれて申し訳ありません、早速ご案内します」
そして案内しようとするが、隣にいた鎧を着込んだモンスターに遮られる。
「おーい、リドっち、こいつ信用できんの? のこのこ付いていって、罠の中に案内されるとか無いよね? 素直になるように、腕、一本、切り落とした方がよくない?」
そのモンスターとのレベル差を感じ取り、抵抗もできずに斬られることを理解した男は脂汗を流しながら、がたがたと震え始める。が、スタッフを持った黒フードの男は、冷静に返した。
「いや、その必要はない。ディアンケヒトは信用できる。今更裏切りったりはせんだろう。それに此奴が嘘をついても、すぐに俺様には分かる。それとだ。俺様をリドと呼ぶなと、何度も何度も言ったはずだが?」
「すまんすまん、ただなぁ、ヴォ、ヴォ、ヴォル・・。俺の口だと言い難いんだよ。もうちょっと簡単にならないか?」
ローブの男は、シュウシュウと溜息をついた。モンスターの体の構造と人間の構造を思い浮かべて比較し、発声しづらいと分かったのだろう
「まあ、発音しにくいというのであれば仕方がないか。何か考えておこう。そら、案内をしろ。行先は分かっているだろうな?」
後半の言葉をかけられた冒険者は、慌てて、答える。
「はい、行先はギルドですね。こちらです」
そうして動き出す集団。
だが、その異形の集団が目立たないはずがなかった。すでに述べたようにアポロンに見つかっているし、他の者にも気づかれていた。慎重な者や、一般人は避難したり、ギルドへ連絡を入れようと立ち去っている。だが、腕に覚えのある冒険者達は、名を上げようと迎撃を始める。
「白兎のドラゴンに比べれば格が落ちるが、まあ、贅沢を言ってられねぇな! 一刀両断と言われる予定の俺様にかかれば!」
「アバダケダブラ」
黒フードが突き出したスタッフから緑色の閃光が走り、冒険者の膝を直撃した。冒険者は一言も発することなく、力なく崩れ落ちる。そしてピクリとも動かない。黒フードの男は、舌打ちをする。今の魔法は胸を狙って撃ち出したのだが外れたのだ。
「こいつ、魔法を使うぞ! 気をつけろ」
冒険者たちの叫びに応じる様に、黒フードは続けてスタッフを横に振り払って紫電を生み出すと、冒険者へと叩き付ける。それだけで、前に出ていたほとんどの者は地面に撃ち倒され、うめき声をあげる事もできずに痙攣している。そこへ、鎧を着たモンスターが前に進み出て、後ろの集団に突撃をかける。冒険者達は碌な抵抗もできず、鎧のモンスターに切り飛ばされていく。
それだけではない、怪物祭の際に現れた植物型のモンスターも何匹かで、冒険者に食いついていた。冒険者の死体の四肢を噛み千切り、飲み込む様は見ていて楽しいものではなかった。
気の毒なのは案内役をやることになっているディアンケヒトの眷属である。黒フードの横で、冒険者達がモンスターに蹂躙されているのを、間近に見せつけられているのだ。いわば、逆らうような下手な真似をしたら、自分もああなるとデモンストレーションをされている気分なのだ。
つい今日の昼間までは逆だった。自分も含めた冒険者たちがモンスターを倒しまくっていたのである。それなのにたった数時間しか経っていないのに、立場が逆転しているのだ。幸いなのは、自分が昼間も今も、蹂躙する側だということだろうか。案内役の冒険者は自嘲気味にそのようなことを思い、主神ディアンケヒトは何を考えているのだろうと不思議に思うのだった。
そうして案内役が現実逃避をしている間に、戦闘が一段落つき、あたりが静かになった。慌てて案内を再開する。
その時、ギルドから警報が轟き始めた。モンスターが地上に出現、各ファミリアは各自モンスターを撃破せよという放送である。ギルド職員により、一般市民の避難誘導も始まる。
だが、黒フードの男、同じくフードを被った集団と、モンスター達は気にせずに進み続ける。その後も散発的に現れる冒険者を排除しながら進むことしばし。ギルドまであともう少しというところで、冒険者が大型の盾を横一列に並べたバリケードに止められる。
「そこの冒険者! テイマーか? テイム・モンスターを大人しくさせて、投降しろ! さもなければ殲滅する!」
バリケードの上から顔を見せた冒険者がこちらに叫ぶ。おそらくガネーシャ・ファミリアの団員だろう。案内役がテイマーだと推測しているのだ。
「アステリオス、お前も腕慣らしで戦っておけ」
黒フードの男に指示を出されて、身長2.5Mはあろうかというミノタウロスがのっそりと姿を現す。アステリオスと呼ばれたミノタウロスは、冒険者が作り上げたバリケードを虚ろな眼差しで見つめる。
「アステリオス!!」
黒フードの叱責に、ようやく動き始めるミノタウロス。大人の胴体程の太さがあるような両足に力を込め、ダッシュする。それと同時に、背負っていた巨大な黒大剣を抜き放つと冒険者に叩きつける。技術もへったくれもない、ただの力任せの一撃。だがその一撃は、冒険者を盾ごと脳天から股間まで真っ二つにしていた。黒大剣の軌道を変えて、今度は横へと薙ぎ払う。やすやすと盾を切り裂き、その背後にいた冒険者も臍の辺りで上下に両断され、血反吐と臓物を吐き散らしながら地面に崩れ落ちた。
盾がなんの役にも立っていない。それを認識した冒険者たちは、恐慌状態に陥る。我先に逃げ出す者、立ち止まって戦おうとする者、あまりの衝撃に我を忘れて動けない者、指示を大声で怒鳴る者。混乱に陥る。黒フードの男がすかさず、スタッフを瓦礫に突き付けると、瓦礫が燃え盛る火の玉に変わる。それがそのまま飛んでいき、冒険者の後方で爆発する。
更なる混乱。ウォーシャドウもミノタウロスと並び、冒険者を排除していく。そして喧騒が収まると、残されたのは、冒険者だったモノ。破壊され、五体満足な死体など残っていない。道路のあちこちに体の破片が散らばっている。そしてあたりに漂う、火球によって焼かれた肉の臭い。だがモンスターも、それに従うローブの集団も気にせず、前進を再開した。
そうしてようやくギルドへと到着する。ギルドの中はすでに避難が終わり、閑散として人の気配は全く無い。いや、一人居た。ギルドの制服を着た30代の男が、震えながらも受付で待ち構えている。ディアンケヒトの眷属は受付まで歩いていく。黒フードも散歩をしているかのようにのんびりと付いてきた。
「お前が次の案内か?」
「ああ、魔石倉庫まで案内する」
黒フードは振り返ると配下のモンスターとローブの集団に、ギルドの男について、魔石倉庫に行くように指示を出す。
「ここまでは予定通りだな。まずまず順調で喜ばしい。つぎはバベルだ。分かっているな?」
オラリオ中心に聳え立つ白亜の巨塔。市内のどこからでも見えるため、案内は不要のはず。だが黒フードにとって、案内役が怯えながらも勤めを果たしているのが面白かったようだ。嗜虐心を満足させるためなのか、意地でも案内させるつもりらしい。
ディアンケヒトの眷属は諦めて、覚悟を決めて外に出た。その襟元を黒ローブがむんずと掴む。
「煩いから声は出すな」
そう警告すると、空中に飛び上がった。眷属は驚き、叫び声をあげそうになって警告を思い出し、必死で黙りこんだ。十数Mの高さを風に吹かれながら、右に左に、上に下へと、ぐらぐらと揺れながらもバベルに向かって一直線に飛んでいる。
数か月前、ドラゴンスレイヤーが空を飛ぶのを見たが、見ると
「入り口はどこだ?」
いらだちが籠った黒フードの口調に、案内役は震える膝に力を入れて、主神が待つ入口へと案内する。バベルの壁に沿ってしばらく歩く。ようやく主神に巡り合えた時には、ほっと力が抜ける。
「バベルへようこそ! 案内するぞ」
サイドチェストのポーズを取り、筋骨隆々たる筋肉を惜しみなく披露して見せながら、ディアンケヒトが黒フードを迎える。
「待たせたな」
「なに構わんよ、すぐにヘファイストスの所に案内しよう。予定通り、モンスター対策で皆は忙しくしている。そうでない者は、モンスター退治にギルドへ向かっている。おかげで予想通り、バベルの警備は手薄になっている」
黒フードは、体が外から見えない様に、フードを被り直し、さらにスタッフを持つ手が見えない様に、袖をかぶせる。
そして二人で、堂々とバベルの中を歩いて行く。エレベーターに乗り込み、ヘファイストスが居る階まで昇っていく。
見た目はディアンケヒトが、眷属の魔法使いと歩いているように見える。わずかにすれ違うギルド職員、ガネーシャ団員やヘファイストス団員がいるが、疑いを持つ者は誰もいなかった。そうしてヘファイストスの居室までたどり着く一行。
「こうまでたやすく侵入できるとは、警備体制に問題があるのではないか?」
あまりに簡単に侵入が成功するので、侵入者である黒フードが苦言を呈するほどである。
「俺が信用されていると考えて欲しいな」
そうディアンケヒトは肩をすくめる。
「ヘファイストス! ディアンケヒトだ。火急の要件がある。入るぞ!」
一応ノックをして、ディアンケヒトはドアを開けて中にはいる。黒フードも後に続く。
執務机を前にして、いつも場所に座ってた
「こんな時に来るとは驚いたわ」
ニヤリと笑うディアンケヒト。
「うむ、こんな時で悪いのだが、単刀直入に言おう。実は武器が欲しいのだ。魔法使い用の30C程の杖、スタッフやロッドではなくワンド
モンスターが地上に現れたこんな時に何を言っているのだろうかと、鍛冶神は非難をするように眉をひそめて見せる。それを見た黒ローブがディアンケヒトに並ぶ。
「欲しいのは俺様だ。この
そういってフードを脱いで見せる。そこに現れたのは、
リザードマン。ダンジョン中下層域に生息しているはずのモンスターである。それを見た鍛冶神の衝撃は大きかった。だが、その衝撃を押し殺し、素早く腰に佩いた短剣を抜いて、リザードマンに突き付ける。瞬間、短剣の切っ先から紫電が迸り、リザードマンへと襲い掛かる。
魔剣。護衛がいないのも自衛できるからという自負があってこそ。その根拠がこの魔剣である。
だが、黒フードの男─リザードマンはスタッフを横に払い、紫電を脇へとそらす。雷はリザードマンにもディアンケヒトにも、ましてや鍛冶神にも当たらず、空中へと静かに溶け去っていく。そしてリザードマンは、スタッフを鍛冶神に突き付ける。途端に鍛冶神の手元から魔剣が飛び出し、宙を飛んでリザードマンの手元へと収まった。
「なっ、これは、ディアンケヒトッ! あなた一体!」
自信のあった一撃をそらされ、驚く鍛冶神。だが、そんな彼女にディアンケヒトは穏やかに声をかける。
「まあまあ落ち着け、ヘファイストス。数か月前に、こっちの御仁が困って、俺の所に来てからの付き合いなんだよ。なんでも魂と体の同調が上手くいってないとかでな。
興味深い症状だから、実験的に秘薬を作って治療したんだ。で、まあ、色々と計画を持っているようなんで、協力することにしたんだよ。その一環として、この御仁が
あっさりと説明するディアンケヒトだが、モンスターに協力するなど、人類に対する裏切りといってよい。鍛冶神としては到底許容できることではなかった。
「ディアンケヒト、あなたモンスターに協力しているの? 何を考えてるのよ!?」
説得に時間がかかりそうだと判断したリザードマンは、ディアンケヒトに声をかける。
「俺様は武器を見てくるとしよう。ディアンケヒトよ、その間に説得をして置くのだ」
そしてリザードマンはフードを被り、悠々と外へと出ていった。
それを確認したディアンケヒトは、落ち着いた表情をかなぐり捨てると、必死の形相で鍛冶神を説得し始めた。
「ヘファイストス、言いたいことはあるだろうが、色々と説明するから、頼むから黙って聞け。
まずあのリザードマン、名前はヴォルデモート。見ての通り、モンスターだ、しかも強力な魔法を使う。強さで言ったらおそらくはレベル6に匹敵する。もしかしたらそれ以上かもしれん。
ソーマのことを覚えているか? ソーマを殺ったのはヴォルデモートだ。あいつは最初、治療のためにソーマの所で
そして、あいつは色々なモノを配下に従えている。それもモンスターだけじゃない、闇派閥や、訳の分からん連中も従えている。
あと協力している神は俺だけじゃない。イシュタルの所は嬉々として協力しているぞ。最もフレイヤ憎しで何も考えてないのと同じだがな。
つまりだ、ラキア迎撃に向かった、連中が戻ってきても、太刀打ちできんような戦力が揃っている。オラリオを
だから武器一本渡して、それで礼を受け取ったほうが利口だと思うぞ。協力して、せめて敵対されない様にしろ」
闇派閥とイシュタル。堅気の一般冒険者なら、敵対したくない組織ナンバー1と2である。全力のギルドでも対抗できないだろうという組織だ。ゆらぐ鍛冶神の心。そこにダメ押しとばかりディアンケヒトが続ける。
「モンスターに協力するのは嫌かもしれんが見返りもある。俺の場合、俺の眷属には手を出さないとあいつは約束している。だから、俺は被害を抑えるために、無理なファミリア拡大を推し進めたんだ。団員が増えれば、その分、あいつが手を出さない人数が増えるからな。お前も、
鍛冶神が、質問を絞り出す。
「あなた以前から、このことを、モンスターが喋るだなんて知っていたの?」
「いや、知らなかった。あいつに会って初めて知った。そして、あいつ以外にも喋る奴は何体か居るらしい。喋る知能がある分、強力なモンスターだぞ。さてどうする? 協力しなければ、あいつは、お前を強制送還してから自力で武器を探すだけだ。だったら協力した方がいいぞ?」
鍛冶神としては、選択肢があって無き様なものだ。ディアンケヒトの進める、被害を抑えるための協力しか選択肢がなかった。
「私が制作した
鍛冶神は執務机の引き出しから三本のワンドを取り出す。これらは、数か月前にヘスティアから頼まれてワンドを作った時の習作である。圧縮、そして芯を通すという技術を、練習するためのモノである。ヘスティアに杖を渡した後、時間を見つけ三本、すべてを完成させていたのだ。
三本とも神聖樹を圧縮したところまではヘスティア・ワンドと同じである。だが、芯の材料がエルフの髪や、アラクネの糸や髪というのが異なる。また、三本ともミスリルのコーティングを追加して、その表面に神聖文字を刻んでいる。ただし三本で、その刻み方が異なる。
一本目。手元から杖先まで、三列まっすぐに刻まれたもの。120度間隔で配置されている。
二本目。杖の円周に沿って輪のように刻まれたもの。手元の部分から杖の中央部分まで刻まれている。一見すると細身の小型トーテムポールのように、見えないこともない。
三本目。手元から杖先まで、ゆるい螺旋を形成するように一列だけ刻まれたもの。
「これなら大きさ的な条件に合うでしょう? 被害を抑える様に交渉できるの?」
鍛冶神は、不信の目でディアンケヒトを睨みつける。
「ああ、十分だろう。あいつを呼んでくる」
そして戻ってきたヴォルデモート。一本一本手に取り、軽く振ってみる。くるくると回転する火花が現れたり、虹が現れたり、小さく爆発する煙がでた。そして満足したのか一本を選ぶ。選んだのは、杖の周囲を囲むように神聖文字が刻まれたもの。その芯はアラクネの髪。
「どれも素晴らしい出来栄え。これにしよう。この装飾が俺様に相応しい」
杖の周囲を囲む、つまり、円を描いている神聖文字の言葉は始まりも無く終わりも無い。ヴォルデモートにとって、それは自身の永遠の存在性を象徴するようで気に入ったのだ。喜んでいるヴォルデモートに鍛冶神は要求を出す。
「杖の代償として、私の眷属には手を出さないと約束しなさい!」
シュウシュウと吐息を出すヴォルデモート。爬虫類の目をギロリと動かし、鍛冶神を睨む。
「俺様は、恩知らずでは無い。恩には恩で報いる。お主の眷属には手を出さないことにしよう。では行くぞ、ディアンケヒト」
そしてディアンケヒト達は、鍛冶神の部屋から退出して、ギルドへと向かったのだった。
補足
ヒュアキントス
改宗していないので、一般人と同じ。事務仕事なんかして、アポロンの手伝いをしている。
リド・リドル
ヴォルデモートつまりリドルの魂が、リドっちに憑依したもの。ディアンケヒトの治療を受けて、リザードマンのリドっちの体をリドルが完全に支配することになった。
自称が『死の飛翔』な人なので、ソーマも秘薬だと勝手に思い込んだ。
更には、神ソーマが、眷属にも秘密で秘薬のソーマを作っていると思い込んでいた。
神ソーマを拷問
神ソーマはクルーシオで拷問。精神ダメージが大きすぎて、送還されてしまった。
ディアンケヒトの見返り
ポーション類の補充もしている。
ハリポタ原作六巻、ハグリッドとスラグホーンがアラゴグの死を偲んで酒盛りをしていた時、酒が足りなくなったので、ハリーが補充呪文で酒の量を増やしている。
これと同じことをディアンケヒト・ファミリアでやっている。つまり、販売して量が少なくなった各種ポーションを、毎晩ヴォルデモートが補充呪文で元の量まで増やしていたので、大量に安価に販売することができた。
次回『ギルド突入』