「アビリティ上昇値、トータル200オーバー!?」
ベルのステイタスを更新したヘスティアは叫ぶ。
本当であるならば、ありえない上昇値である。
ステイタスを書き写した紙を見ながら、ベルはニマニマと笑っている。敏捷がFを超えてEに近づいているのだ。これでさらにダンジョンの深いところにもぐることができる。目標に近づくことになるのだから、嬉しいのだろう。
「さて、ベル君。喜んでいるところ悪いが、次はハリー君の番だ。ちょっと交代してくれたまえ」
ベルと入れ替わりでハリーが部屋に入ってくる。服を脱いだハリーの背中に血をたらし、ステイタスを更新、確認する。
「アビリティ上昇値、トータル200オーバー・・・」
もう呆れるしかないといいたげに、ヘスティアは呟く。ステイタスを書き写すとそれをハリーに渡す。簡単な数字ならもう読めるようになっているハリーである。トータルの上昇値はベルとほぼ同じであるが、スタートが早いベルのほうが、アビリティは上である。さて、今回ヘスティアはハリーに言わなければならないことがあった。
「さて、ハリー君、ちょっといいかな。さっき夕飯の時の君たち二人の話を聞いていて不思議に思ったことがあるんだ。そのう、ハリー君は魔法を使っても、その後マインド・ポーションを使ってないんだよね? まだ買えないっていうのもあるんだろうけど・・」
ポーションを使っている理由は、ハリーが治療呪文は
ハリーが使う魔法は、
「ええ、飲んでないですね。何か問題が?」
ハリーの疑問の表情に、これは分かっていないと諦めるヘスティア。
「いいかいハリー君。通常は魔法を使うと精神力を消費する。そして精神力を使いすぎると気を失うんだ・・。まったくもう、きみは何だって気絶しないんだい?。これは
そういうと、ヘスティアはじろりとハリーを見る。
「それから、マインド・ポーションを何本か持ち歩いて、時々飲むふりをすること。そうすれば、ハリー君がマインドダウンしないと、ばれないだろうからね」
そうして翌日、ベル、ヘスティアと共にハリーが訪れたのは、一軒の小さな寂れた店。
「ミアハ、いるかい?」
挨拶をしながら入っていくヘスティア。ベルはハリーに説明する。
「ハリー、ここは、ミアハ・ファミリアのお店で、ポーションが買えるんだ。他にも便利な道具が買えるから。あと主神のミアハ様は親切な神で、時々無料で小瓶のポーションをくれるんだ」
ベルに続いてハリーも店内に入る。中は狭く薄暗く、何かの薬品の匂いなのか原料の匂いなのか、消毒薬と漢方薬が混ざったような香りがしている。天井からは薬の材料なのか、植物のつるやら海草みたいなものに混じって、得体の知れないものが何種類も紐に吊るされてびっしりとぶら下がっている。
それらの陰の天井近くの棚には、ビンの中にピンポン玉ぐらいの大きさの丸い緑色のものがぎっしりとつめられたビンやら、何かの標本なのか蟹のはさみとおぼしき物が薬品と共に入れられたビンやら、正体が分からないものまで様々なものが瓶詰めにされて並んでいた。ここらの部分を見るとハグリッドの小屋の天井や、魔法薬学教室の棚を彷彿とさせるたたずまいだった。
だが、手が届くあたりの高さの棚には商品と思しきポーション類の小瓶がいくつも整然と並んでおり、一般的なマグルの店と同じ、普通の商店としてのたたずまいを見せていた。
そして正面のカウンターと思しき場所には、黒髪の20代半ばのほっそりとした美男子が座っており、ヘスティアと話しをしていた。
「やあやあ、ミアハ、久しぶりだね。元気にしてたかい。今日は君に会わせたい人物がいるんだ。あとちょっと野暮用があってね」
ヘスティアが黒髪の美男子、ミアハと話を始める。
「元気かな、ヘスティア? ナァーザから聞いたが、なかなか活躍しているそうじゃないか。そちらのベル君がポーションを買っていってくれるので、こちらも助かっているよ」
にっこりと笑いながら、ミアハが答える。むう、これは、セドリック並みの中身イケメンだと感じさせる微笑だった。
「ふっふっふっ。聞いて驚け、ミアハ! 今日からポーション類は二倍の量を購入させてもらおう!」
腰に両手を当てて、ふんぞり返りながらヘスティアが言う。たぶん眷属が増えて嬉しさのあまり、自慢したかったのだろう。
「な、なんですって? それは本当ですかヘスティア様!?」
奥からカウンターに出てきた、だぼっとした白衣を着た犬耳の女性が、カウンター越しにヘスティアにつかみ掛からんばかりにして身を乗り出して問い詰める。
その様子にヘスティアは、若干腰が引けるが、最初の勢いを保ちつつ、断言する
「も、もちろん本当に決まっているだろう。それとも神が嘘をつくと思うのかい?」
「ポーションの無料配布をやめるやめる詐欺をする神がいますしねぇ・・。でもまあ、信じますよ。早速、今日の分を用意してきますね」
じとっとした視線をミアハに一瞬向けた後、犬耳の女性、ナァーザは、店の奥に戻っていった。その背中にヘスティアは追加注文をする。
「ああ、それと、マインド・ポーションも何本か頼む」
「マインドポーションは在庫がもう二、三本しかなかったと思う。これ以上の量が欲しいのであれば、調合しなければならん。少し時間がかかるな。もし材料を持ち込んでくれるのであれば、少し割引ができると思うぞ」
「ありがとうございます。ミアハ様」
ベルが礼を言うと、ミアハはニコニコと微笑みながら、なんでもないというように手を振って見せた。
「いやいや、礼には及ばんよ。地道な営業努力が実を結んだと思えば嬉しいものだ。材料に関してはナァーザにリストを作ってもらうとしよう」
無料ポーション配布の成果が出て嬉しいミアハが微笑む。
「さて、ミアハ、ポーション二倍の理由は簡単。うちのファミリアに新人が入団したんだ。で紹介に来たのさ。
あとちょっと相談があってね。込み入った内容だから、邪魔が入らないところで話をしたいんだけれど良いかな?」
暗に奥に入れて欲しいというヘスティアであったが、ミアハの対応はちょっと違った。
「うむ、しばし待て」
そういうとミアハは、立ち上がってカウンターから出てくると、店の入り口に『準備中』の掛札をかけ、しっかりとドアをロックしてしまったのだ。そして、ヘスティアたちの方に振り向くミアハ。
「これで良かろう。さて話とは」
「おいおいミアハ、お客さんが入ってこれないじゃないか。大丈夫なのかい」
ミアハの行動にあきれるヘスティア。貧乏で借金まであるミアハたちにとっては、お客は何よりも大事なはずであった。
「何かまわんよ。奥に入りたいというのであれば、誰にも聞かれたくない秘密の相談なのであろう。どうせこの時間は客が少ない。だったら、店をいったん閉じてしまったほうが良い」
さすがに此処まで人が良い人物に会うのは、ハリーも始めてであった。だが、ヘスティアとベルは慣れているのか、話を始めた。
「話が早くて助かる。じつは、秘密で相談したいことは、僕の友神の眷属の事なんだ。直接相談に来れなくて済まながっていたが、まあ、情報秘匿の点から理解して欲しいとの事だった。で、その彼が言うにはその眷属は、魔法をどれだけ使ってもマインドダウンしないそうなんだ。そんなことってあるのかい?」
「ふむ・・・マインドダウンしないのか・・・」
顎に指を当て、考え込むミアハ。今は落ちぶれたとはいえ、かつては、中堅ファミリアとして大人数の眷族を率いてたミアハである。それなりに魔法に関しての知識もあった。
ヘスティアは相談相手として、
そして、相談している間は、ベルとハリーにはこちらの会話には入ってこないようにあらかじめ指示していた。
ミアハの表情のまじめさと美男子振り、そして考えるポーズ自体があいまって一服の絵画のような見掛けになる。ハリーも、ベルも、ポーションを持って戻ってきたナァーザもつい見とれてしまう。そうして、みなが見ていると、ふと思いついたようにミアハがヘスティアに問いかける。
「ヘスティア、確認であるが、魔法ではなく、スキルを使っている可能性は?」
首を横に振りヘスティアが否定する。
「詠唱しているといっていたから、スキルの可能性は無いんじゃないかな」
適当なことを言うヘスティアであるが、嘘を言っている分けではない。『詠唱が必要』とか『詠唱が無くても良い』とも言っていないだけである。あくまで友神からの相談というポーズをとるヘスティアである。
目を閉じ腕を組んで、またもミアハが考え込む。その間にベルはナァーザにポーション類の代金の支払いを終える。
「どうだいミアハ、何か原因がわかるかい。推測で良いらしいよ」
じれたヘスティアに促され、ミアハが考えるポーズをやめてしゃべり出す
「まあ、他人のステイタスを詮索するのはルール違反であるので、今の段階でいえることは少ない」
かまわないんじゃないかなと、他人事を装いながら、続きを促すヘスティア。ハリー自身にはいまいちピンとこない会話である。
元の世界ではマインド・ポーション自体はなかったし、マインドダウンという症状も初めて聞いた。こちらの世界の魔法と、元の世界の魔法は根本的に違うのではないかとハリーは考える。
「推測なんだけれどね。一つ目の可能性として、友神の眷属が使用している魔法は、精神力の消費がとても小さい。だからマインドダウンしないと推測されるんだが・・・」
そこまで言ってミアハは口ごもる
「『だが』ってことは違うんですか、ミアハ様」
主神が戸惑うところを見るのが珍しいのかナァーザが尋ねる。ヘスティアに詰め寄った時とは違い、今は眠そうな顔をしている。おそらくこちらが普段の表情なのだろうとハリーは考えた。
「『どれだけ魔法を使っても』というところが気になる。いくら精神力の消費が少なくても、何回も魔法を使えばそれなりの精神力の消費になり、マインドダウンになるはずなんだ。
それに魔法の威力は消費する精神力に比例するといわれている。そこまで、
ナァーザとミアハがヘスティアに視線を向ける。どんな魔法なのか知りたいという表情である。咳払いをするとヘスティアは説明を始める。
「魔法の威力ねぇ・・。補助系統の魔法とは聞いているが、具体的にどんなものかは聞いていないんだよ」
「ふむ、直接怪我をさせたり破壊したりするものではない? 炎で焼き尽くしたり、光芒で破壊したりするものではないのか・・・。だとしたら、効果が今までよく知られている魔法に比べて小さいとはいえるが、それでもマインドダウンしない結果にはならないな」
再び目をつぶり考え込むミアハ。
「一つ目ということは、他にも可能性があるんだろう?」
ヘスティアが続きを話すように促す。そういわれて、沈思黙考に陥りそうになったミアハが顔を上げる。
「ああ、もう一つの可能性は、マインドの回復能力がとてつもなく高いということだ。精癒というマインドが回復するアビリティがあるが、それの上位アビリティをもっているのかも知れない」
その指摘にヘスティアは考え込む。
「アビリティについては、特に何も言っていなかったな・・。でもそんなものがあれば、それが原因だと気づきそうなものじゃないか?」
「名前がそれらしいものではないのかも知れない。もしくは、副次作用として回復能力があるアビリティか?」
言っている自分でも自身が無いのか、肩をすくめるミアハ。
そしてミアハは三つ目の可能性、一つ目と二つ目の可能性が同時に出現している可能性を指摘する。そして、ヘスティアは礼を言う。
「すまない、ミアハ。いろいろと助かるよ。友人にもアビリティの事は確認してみるよ。あとこのことは・・」
「他言無用ということだな。何かまわんよ。お得意さんのご要望でもあることだしな」
茶目っ気たっぷりにウィンクしながらミアハが答える。
主神たちが会話をしている間に、眷属たちは取引を進めていた。ナァーザが、ベルに一本のマジックポーションと、ポーション類の材料リストを渡す。
ホグワーツで様々な魔法薬を調合していたハリーは、こちらの世界でどんな材料を使っているか気になり、ベルと一緒に材料リストを覗き込んでいた。コイネーをまだうまく読めないハリーに、ベルが小声で材料を説明する。
「聞いたことが無い材料ばかりだ・・・」
ハリーの呟きを耳にしたナァーザはちょっと眉をひそめる。調合のプロを自他共に認めるミアハ・ファミリア団長のナァーザとしては、ハリーが素人なのか玄人なのか、見過ごせないことだった。だが、相手は客なので黙っていることにする。
「ほう? ヘスティア。おぬしのところの眷属は調合をしたことがあるのかな。調合をする時の材料について知識があるようだが・・?」
ナァーザは黙っていたが、ミアハが率直に尋ねてくる。
「まあ、ちょっとそれは、話せないので秘密なんです」
危険が危ない並にへたくそな言い訳であったが、ミアハたちはそれ以上は質問してこなかった。まあ、ここらへんが善神といわれるミアハの人柄ならぬ神柄であろう。
「まあ、冒険者の詮索はご法度であったな。これに懲りずにまたポーションを買いに来てくれ二人とも」
ミアハの言葉を最後に、ヘスティアが礼を言い、三人は店を後にした。
「さて僕はじゃが丸君のバイトに行くが、二人ともダンジョンは気をつけるんだよ」
「大丈夫です。無茶はしませんよ」
そしてベルとハリーはダンジョンにもぐる。
次回は『買い物』