ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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「なぁーなぁーかぁーいーそーーうーーうーーーー!」

 数日後。絶叫したのはアドバイザーのエイナ・チュールである。怒りのあまり自分の声が受付フロア中に響き渡ってしまったことに気づいていない。エイナの同僚は、また始まったかというように、ベルとハリーを気の毒がるような顔で一瞥すると、エイナと目が合わないようにそそくさと視線を逸らした。

「一体全体なんだってまた! この前5階層で死にかけたばかりだよね! 無茶しちゃいけないってあれほどいったのに!」

 顔を紅潮させ、両の眦がつりあがり、燃えるような瞳で、カウンター越しに睨みつけられ、ベルは蛇に睨まれた蛙のように体をすくませる。

「いい、いや、大丈夫です。今は二人でパーティ組んでますから! それに最近は成長期みたいでステイタスはとても伸びてるんです。6階層でも楽に戦えたので腕試しに7階層にいったんです!」

 あまりの恐怖からか、少し震えながらも、ベルが必死で言い訳をする。

 だが、エイナは呆れ果てたというように椅子にどかりと座り込む。そして腕組みをすると眼鏡を光らせ、冷たい視線をベルに向ける。

「成長期といってもまだベル君は冒険を始めて一ヶ月弱。ポッターさんにいたっては、まだ一週間もたってない。ぜんっぜんっ! ステイタスは足りないはずよ」

「いえ、だから、そのう、成長期なんで僕はステイタスが一部はDになってるんです」

 エイナの気迫にびくびくしながら、小声でエイナに言い訳をするベル。

 エイナはため息をついた。怒りのあまりか、眉間のしわがものすごく深くなっている。それを無理をしてにっこりと微笑むと、子供に説明するように口調が少しやさしいものになって、ベルにゆっくりと、しゃべる。

「いい? ベル君? ステイタスDっていうのはね、冒険者になって何ヶ月もたって、ようやくなるものなのよ? 今のベル君がDっていうのは、お姉さんちょっと信じられないなぁ~」

 ぐぬぬぬぬと悔しそうな表情のまま黙り込むベル。

「わかりました。確かに信じてもらえないでしょう。Dになっているのは信じなくて結構です」

 たまりかねて、横からハリーが口を挟む。

「ひょへっ?」

「でも、僕たちが7階層、8階層に進むことを止めることはできないですよね。エイナさんが僕たちを止めるためにダンジョンにまで付いてくることはできませんから」

 ベルがヒィと変な声を出したが、気にせずハリーは話を続ける。政府中枢部に襲撃をかけて政府高官から物品を強奪したり、世界最高峰のセキュリティシステムを誇る銀行に押し込み強盗を仕掛けて無事脱出したり、歴代でもっとも凶悪な魔法使いと戦ったりしたハリーにとっては、エイナは怖い相手ではなかった。むしろ可愛い相手である。

「む、それは確かにそうだけれど。でも私は君たち二人の安全を思って!」

 そこまで言ってエイナは黙り込む。議論が平行線をたどることに気づいたのだ。そしてハリーの言うとおりにエイナには二人を止めることはできないのであった。たとえ、エイナが今此処で口をすっぱくして注意したとしても、二人が黙って、下の階層に進んでしまうのは止められない。そして『下の階層に進んでいない』と主張されれば其れまでだ。嘘だと証明することは出来るが、毎日其れを確認する手間を割くことは出来ない。眉間のしわを深くしながらエイナはしばらく考える。そして驚くべきことを提案する。

「ベル君、よかったらステイタスを見せてくれないかな? もちろんアビリティのところだけで魔法やスキルのところは見ないから」

 困った顔をしたベルが断る前に、エイナは言葉を続ける。

「ステイタスは冒険者が守るべき秘密だって言うことはわかっている。もし、ベル君のステイタスがもれたりしたら、私はベル君の言うことを何でも聞くから」

 ドン引きの提案であった。

「でもエイナさんは神聖文字が読めるんですか?」

 迷いながらもベルが確認をするが、それは見せることが前提となっている確認であった。

「うん、ステイタスを確認することができる程度には、勉強をしているから読めるよ。確かにポッターさんが言うように、私には二人が無茶をすることを止めることはできない。でも心配して送り出すよりも、できれば安心して送り出したいんだ。私の我侭だけれど。ステイタスをみせてくれない? お願い」

 そういってエイナは頭を下げる。

 ベルは困った顔でハリーとエイナの顔を交互に見る。ハリーは小声でベルにアドバイスを送る。

「ベルが良ければ、見せてしまってもかまわないんじゃないかな・・・。今見せても、たぶん二、三日のうちに成長期のせいでステイタスは大きく変わるから、今の数値は意味がなくなると思うし・・・」

 その言葉に決心したベルはエイナと別室に移動していった。ハリーはその間に魔石とドロップアイテムの換金を済ませてベンチに座って、いろいろと考える。元の世界のみんなはどうしているだろうか・・・。拾える魔石が増えてきて最近はバックパックに入りきらなくなってきているとか、ダンジョン内の移動に時間がかかるようになってきたなぁとか。元の世界に帰れるのはいつになるんだろうか・・・

 そうしてとりとめの無いことを考えていると、ベルたちが帰ってきた。ベルに手招きをされたので二人のところに移動する

「Dになってました。疑って悪かったわ。二人は7階層以降にも進出して大丈夫そうね。でもくれぐれも無理はしないこと。わかった? そして二人とも明日時間を作ってほしいんだけれど良いかしら?」

 ハリーとベルは顔を見合わせる。

「良いですよ」

 

 翌日。

 エイナと待ち合わせをした二人は、ギルド上部のヘファイストス・ファミリアの店舗フロアに連れてこられていた。ブランド・ロゴをつけられた一級品の武具はとても高価である。しかし一級品とは別フロアにて販売している、見習い鍛冶士の作成した装備品は、価格が安いのであった。『ダンジョンの奥に行くなら、装備品をそれなりに整える必要があるからね。ここなら、安い掘り出し物が見つかるからね、自分にあった武器防具を選ぶことができるようになるのも冒険者に必要だからね』ということであった。

 広いフロアの中、棚が整然と並べられ、比較的広い通路の脇の棚は整理されているが、少し奥に入ると、剣がまとめて箱に入れられていたりとか、鎧らしきものが何個か纏めて棚に入れられていたりと、雑然としていた。これは掘り出し物を探すのは一苦労だなとハリーは考えた。

 そもそもハリー自身の武器はドラコから奪った杖が有るので、防具が目当てであった。ただフィンやベルから聞いた話では、予備として複数の武器を準備しておくのが良いらしい。とはいうものの、杖の良い作成者には当てが無かった。魔法使い自体の数が少ないため、オラリオで武器といえば、まず剣、斧などの刃物類なのである。無いものねだりをしても仕方がないと、最初に重い防具を持ってみたが一日中着ているには重すぎだと感じたので、軽くて動きやすいものを探していた。

 動きやすい服装と考えてハリーが真っ先に思い出すのは、クディッチ・ユニフォームだった。一応あれも試合用の、つまりは戦闘用の服装といえるだろうか? いや、言えると思いたい。ユニフォームタイプで頑丈なものがあれば・・。そして無さそうだなと考える。。

「箒が・・・欲しいな・・・」

 クディッチ・ユニホームから思考が流れ、ニンバス2000や、ファイヤボルトを思い出して、ハリーは呟く。今、箒を手に入れてもどうしようもないのだが・・。

「むう、すまん汚れていたか? すぐに掃除しよう」

 ハリーの呟きに答えたのは黒髪の美女であった。マッドアイのように片目に眼帯をし、日本の着物を着ている。女性はいったん姿を消すと、ハリーが逃げる間も無く、箒と塵取りを持って戻ってきた。

「さてどこが汚れているのだ?」

 ハリーは困った。確かに空を飛ぶ用として箒が欲しいといったが、此処オラリオでは、箒に乗って空を飛ぶということが、知られていないということに気づいたのだ。

「すいません、自分の部屋が汚れていたのをふと思い出したんです」

 ハリーは素直に謝って無難にごまかす。

「ふむ、手前の早合点であったか。まあ、良い。これも何かの縁だ。武具を探しているのであれば助言をしよう。手前はいささか武具のよしあしの判断には自信があるでな」

 武器屋に武器を見に来て、なんだってまた自分の部屋の汚さを思い出すのかなどの疑問を女性は顔に出さなかった。それが思いやりなのか、お客対応がよいことの現われなのか、天然なのかはハリーにはわからなかった。だが良い機会なのでだめもとで尋ねてみる

「木製の杖とかってありますかね。中に芯が入っている魔法使い用の杖で」

 女性は腕を組んでしばらく考える。その様子から、なんとなく無いっぽいなとハリーは判断する。だが、それは嬉しい事に裏切られる。

「無いことはない。と思う。初心者向けに木製の弓矢や杖を置いているコーナーがあったはずだ。たしかあちらのフロアの壁際の棚あたりのはずだ。ほれ、ついて来い」

 そういうと女性はハリーを、フロアの隅っこにある杖のところまで案内してくれた。確かに杖が何本か置かれている。箒をすばやく準備することといい、フットワークが軽い人物である。ハリーは礼を言うと早速杖を選びにかかった。それを見ていた女性から声をかけられる。

「魔法使いの杖というと、魔法親和性が高い金属を用いて作成されるのが好まれるのだが、わざわざ木製の杖を探すとは何か理由があるのか? よければ教えてほしいのだが?」

 ハリーははたと考える。ハリーの杖の知識はオリバンダーから聞いたものが大部分を占める。ホグワーツ、というよりも魔法使いの世界では、みながみな木製の杖を使っていた。そして死の秘法である最強の杖も木製である。実際のところ御伽噺では木製どころか、死神がそこらの枝を折って渡しただけである! オリバンダー自身も木製の杖しか薦めてこない。これらを考えると木製が一番良いと何も疑わずにいたのだが・・・

「そうですね。僕自身も詳しいわけではないのです。ただ、故郷にいた専門家が木製の杖を薦めていたからですね」

「ほほう、それでは、老婆心ながら金属製の杖も持つことを薦めておくぞ。木製の武器は金属製のものに比べて折れやすい。おぬしもダンジョンにもぐるのであれば、予備の武器を持っていたほうが良いであろうからな。それでは、また機会があれば会うことにしよう」

 そういうと女性は去っていった。

 ハリーは考えこむ。元の世界では木製の杖しかなかったため、この店に来ても木製の杖しか探していなかった。だが、今の女性の言うことは一理どころか二理も三理もある。ハリー自身の杖が折れたように、ドラコから奪った杖も折れることがあるかもしれない。金属製のほうが丈夫で良い。それに、金属製の強力な杖が有るかも知れない。ドラコから奪ったこの杖は悪くは無いが、もともとのハリーの杖に比べるとしっくりこない。武器の選択肢は増やしたほうがよいなと考えを改めた。

 しばらくハリーは杖を持ったり、慎重に極々軽く振ったりして具合を確かめる。そのうちから一本を選びだす。色は黒、長さは30Cほど表面は艶やかで手になじむ。まずまずのできばえの杖である。この杖と先ほど声をかけられたときに手に持っていた軽量プロテクターを買うことに決定した。

 

 

 そして数日。

 現在ベルとハリーの二人は7~8階層を主戦場にしていた。

 この階層まで進むと、ダンジョンが生み出すモンスターの種類も増え、ウォーシャドウ、フロッグ・シューター、パープルモス、ニードルラビットなども現れる。これらのモンスターに対しては、数がある程度増えようと問題なく対処できているので、魔石を集めるにしろドロップアイテムを集めるにしろ効率が良かったのである。

 ただ問題はキラーアントである。この敵とだけは戦わずに撤退していた。理由は二つ。硬い。とてつもなく硬い。その体表はキチン質なのかとてつもなく硬く、ハリーが支給品のナイフで斬りつけたらナイフのほうが逆に折れたというものである。品質が悪かったのか、ハリーの腕が悪かったのか、判断は微妙なところである。どちらにせよ、倒せても武器が傷むということで避けることにした。もう一つの理由は、このモンスターなんと仲間を呼ぶのである。硬くて厄介な上に、戦闘時間が長引くと仲間が増えて、いつまでたっても戦闘が終了しないとか何の冗談であろうか。二人は、このモンスターと出会った場合はやり過ごすことに決めていた。

 そうしてバックパックが魔石やドロップアイテムでいっぱいになると、地上に帰還し換金するのである。

 

 

「本日の稼ぎはなんと!」

 ベルが嬉しそうにハリーに伝える

「1万ヴァリスです!」

「おおおおお、すごい、めっちゃ高い! 昨日の5割り増しじゃない?」

「ウォーシャドウのドロップアイテムが高く売れたんだよ~」

 ベルがニコニコしながら説明する。それを聞いてハリーは考える。実を言うとハリー自身はそれほどお金を欲しいとは思っていない。もちろんあるに越したことは無いとは思っている。だがハリーはいつかは元の世界に戻るので、基本的に雨露をしのげて食べていければ、それで十分なのである。

 ところが、ベルとヘスティアは違う。この二人はオラリオ1のファミリアを目指しているし、この世界で生活していかなければならない。二人はハリーから見てもかなり節制した生活をしている。まずは生活環境の改善を図るべきではないだろうか。幸い資金は今日は幸運にもドロップアイテムに恵まれて?大量にある。まずは何から改善すべきか。

 衣食住から考えると、住む所は現在あるし、教会地下室、あれをどうにかするにはもっと資金が必要である。元の世界においては家関係はとてつもなく金が必要だった。ここら辺の事情はこちらの世界でも多分変わらないだろう。とりあえず時間をかけてやっていくしかない。

 食はまあ、現在食べるのには困っていない。入団した最初の時期に比べると劇的に改善している。まあ、時々じゃが丸君パーティは不意打ち的に開催されているが・・・でも、あれは主神の趣味がかなり入っているような気がするし・・・。

 衣。装備はこの前新調したばかりではある。新調したのであるが、主神のヘスティアが服を新調してない・・・。いつも同じ服しか着ていない。そういえばロキも『神であろうと身だしなみには気を配らんといかんなーおもたんや。どちびも、ハリーはんが入団したんなら、身だしなみとか行動には気を配らんといかんでぇ』と言っていた。あれ、これって・・・

 

 ファミリアメンバーは魔石を売りさばく。→ファミリアメンバーはお金持ちに。

 一方、主神は自力でお金を稼ぐ→主神は貧乏なまま。

 

 そうハリーは気づいた。気づいてしまった。

「ねえ、ベル。思ったんだけれど、僕らってヘスティア様にお小遣いを渡さないと、いつまでたってもヘスティア様は貧乏なままなんじゃない? 僕らばっかりがお金持ちになっていってるような・・・。装備もこの前買い替えたし・・・ヘスティア様も服とか必要なんじゃないかな?」

 ベルの視線がうろうろと彷徨う。もちろんベル達はファミリア用の資金としてお金はためていたが、神様個人が使う分のお金のことは考えていなかった。自分たちの装備を買うのには別に何の躊躇もしていなかったのに、神様の服を新調することを忘れていた。ハリーの言葉に後ろめたくなるベルであった。

「確かにそうだった。神様に、お小遣いを渡しましょう。それと服もプレゼントしましょう」

 そういうとベルは苦笑しながら、続ける

「僕の装備を新調するように、ヘファイストス店に連れて行ってくれたエイナさんの気持ちが少しわかったような気がする」

 それにはハリーも相槌を打つのであった。

 

 服を買うとはいっても、女の子に服を買う経験など無い二人には、店員のアドバイスに従うしか方法が無かった。その後サプライズ・プレゼントをもらったヘスティアが『ベル君からのプレゼントォォォォォ』といって舞い上がりすぎて鼻血を出したのは言う必要は無いだろう。いやそれ、ベルとハリーからのプレゼントだから・・・・

 

 




日本の着物。ハリーは日本について、あるていど知識があると思います。オラリオ世界の極東の服を見て、着物、侍、忍者、寿司と考えるぐらいには。


次回は『神の宴』です


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