数日後。
朝、準備が済んで、みなが出かける時間になったときのことだった。
「今日からしばらく、僕はちょっーと、用事があるから帰ってこられない。二人でしばらく過ごしていてくれ」
そういって、ヘスティアは荷物を抱えて出かけたのであった。
二人は顔を見合わせるたが、何の用事かお互い思いつかなかったので、いつも通りにダンジョンに出かけることにした。
ベルがアドバイザーのエイナと相談~そろそろ9階層に降りようかと思っていること~をしている間、ハリーはギルドの外、入り口から少し離れたベンチに座って話が終わるのを待っていた。前回の7階層進出時にハリーがエイナに対して強硬な態度をとったので、顔を合わせるとお互い気まずいのである。もっともそれ以降は、ベルとハリーも反省して、新しい階層に向かうときにはエイナに相談をするようになったし、エイナの新階層のモンスター講習会をきちんと受けるようになったので、これはこれでよかったのであるが・・・
「ちょっと、そこのおにーさん。サポーターを雇ってみませんか?」
さて、そうやってハリーが待っていると、灰色のローブに身を包み、巨大なバックパックを背負った子供がハリーに話しかけてきた
「サポーターって何?」
ハリーが知らない単語がまた出てきたのである。
「あっ、ちょっと待って、仲間がいるから一緒に説明を聞きたい。もうすぐ来ると思うから、ちょっと待って」
見たところ10歳ぐらいの子供であるが、ローブについているフードを目深にかぶっているので顔がわからない。
「えーと、ですね。サポーターというのは戦う力が無いけど、荷物持ちとして冒険者様についていくんです。そして冒険者様のおこぼれをもらうというものです。詳しくはお仲間の方がこられてからが良いですね」
そしてベルが来るまで間、四方山話をするのであった。とはいっても売り込みにきたサポーターが、階層はどれくらいまでもぐったことがあるだの、フロアの地理に詳しいだのとセールストークが大部分であったが。そうして話しているうちにベルがやってきた。
「おまたせです。えーと、その人は誰なんですか」
「はじめまして冒険者様、私、リリルカ・アーデと申す、しがないサポーターでございます。荷物持ちとして雇っていただけないかと思いまして、売り込みにきたところでございます」
フードを後に脱ぎ去り、リリルカ・アーデが、ベルとハリーに対して売込みを始める。
食料や予備の武器防具に代表される必要アイテム、そして魔石などのドロップアイテムの運搬。さらには、倒したモンスターを解体しての魔石の取出しと、冒険者が戦闘のみに専念できるように、
ハリー自身は、ドロップアイテムがバックパックに入りきらなくなりはじめていることを問題視していたし、サポーターというものに、特に予備の武器防具の管理もしてくれるということに興味を持っていた。持ち逃げしたりしないような、信頼できる人だったら任せても良いんじゃないかと、お試しで雇うのもいいかなと考える。だがベルはちょっと違うことを考えていた。
「んー、話を聞いてる限りでは雇ってもいいかなと思うけれど、君、荷物たくさん持てないんじゃ・・・」
たしかにリリルカ・アーデは10歳ぐらいの女のことである。そんな子供に大量の荷物を持たせることにベルは抵抗があるようである。それに対してハリーは、屋敷しもべ妖精が家事をしていたことを覚えているので、特に抵抗は感じていなかった。
「ふふふ、大丈夫です。リリがこんな見かけだから、冒険者様は御不安なのでしょうが、じ・つ・わ! リリにはサポーターとしてのうってつけのスキルがあるのです。それで大量の荷物であろうとも運ぶことができるのです。それを確かめるのも含めてお試しというのは如何でしょうか」
にこにことしながら、リリルカは心配ないと説明し、逆にそれをセールスポイントにしてアピールしてくる。
「うーん、ハリー、僕は雇って良いんじゃないかと思うんだけれど、どうだろう」
大分押しまくられているベルは、どうしようかとハリーに意見を尋ねる。
「いいんじゃないかな。リーダーは君なんだし、ベルに任せるよ」
ハリーは特に反対はない。だがハリーの言葉を聞いてリリルカは驚いた
「えっとベル様がリーダーなのですか? てっきりハリー様がリーダーだと思ったのですが・・」
「まあ、いろいろとあってね、ベルがリーダーなのさ」
ハリーはいたずらっぽくにやりとしながらリリルカに告げる。この表情をすれば、相手が混乱するだろうといういたずら心である。
「じゃあ、今日一日お願いするよ。8階層で戦おうと計画してるんだけれど、大丈夫だよね」
「ふふふ、ベル様、リリは冒険者としての才能はありませんが、サポーターとしては19階層まで行ったことがあるのですよ。まあ冒険者様についていっただけですが・・・。ですから8階層も大丈夫ですよ」
「じゃあ、皆、8階層に向けて出発!」
そういうとベルは、照れくさそうに笑った。
「二人のときも思ったけど、三人パーティになると、なんだか団長として指示を出してるみたいでちょっと気恥ずかしいや・・・」
ハリーはベルの肩をたたいて励ました。
「あ、そうそうハリー。神様がいってた用事のことなんだけれど、エイナさんが言うには、神の宴というものが開かれてて、そこに招待されたんじゃないかってことだった。オラリオ中の神様が全員招待されてるから、たぶんそれでしょうって言ってたよ」
**********************************
そして話は神の宴へと変わる。
場所はガネーシャ・ファミリアのホーム。ガネーシャ自身の姿を模した巨大な建物である。巨大なだけでなく、バベルと並んでもっとも観光スポットとして名高い建物である。なぜならサイズを巨大にしたガネーシャ自身の姿を模しているというトンでも建物であるからだ。
その建物の宴会場の中。ヘスティアがいた。テーブルに並べられた豪華な宴会料理に舌鼓を打っている。
「ふむふむ、なかなかの味わい。隠し味に使っているのはおそらく干し柿。今度作れないかどうか試してみるか・・・ふふ、
そうヘスティアはベル(とハリー)からプレゼントされた服でおしゃれをして、宴に来ているのである。彼女にはいくつかの目的があったが、その一つが料理のレパートリーを増やすことであった。
「ふふふ、胃袋を料理で掴めば、ベル君も僕に惚れ直すに違いない、くっくっく・・・」
黒い笑みを浮かべながらも、料理をぱくつくヘスティア。
「あら、ヘスティア。久しぶりね」
そこにやってきたのは、ヘファイストス。赤髪の鍛冶神であり、ヘスティアが下界に降りてきた来た当初はヘスティアの面倒を見ていた女神である。まあ、ヘスティアの自堕落っぷりに切れてしまい、最終的にはファミリアのホームからたたき出したのであるが。その
「ファミリアを結成したと聞いたわ。おめでとう」
ホームから追い出したといっても、ヘスティアの様子を時々、眷属に見に行かせていた鍛冶神がお祝いの言葉を述べる。
「ふふん、ちょっとばかしスタートに時間がかかったけどね。まあ目指すはオラリオ1のファミリアさ!」
元気よくヘスティアが答えるが、
「あらあら~、私の
とぜんぜん困ってない様子でフレイヤが茶々を入れる。ロキと並んでオラリオ1、2を争うフレイヤ・ファミリアに喧嘩を売るようなヘスティアの発言であったが、フレイヤはトップの余裕でヘスティアをからかう。
「ま、まあ、あくまで目標ってことだよ」
失言をしたことに気づいたヘスティアは、ばつが悪そうな顔になり、慌てて言い訳をする。
「まあ、ヘスティアがドレスを新調しているんだから、結構、なんだかんだで、うまくファミリアを運営できてるんじゃない? 地上に降りてきてからは、ずぅぅぅぅと着たきりすずめだったものねぇ・・・」
当時の自堕落っぷりを思い出したのか、鍛冶神が遠い目をする。
「そうだろう、これは僕への初めてのプレゼントなんだぜぃ」
満面に笑みを浮かべ、得意げに胸をはり、ヘスティアが自慢する。が、そこで後ろから両方のツインテールをつかまれ左右に引っ張られる。
「どちび~、まさかそれ、ハリーはんからのプレゼントっちゅーわけじゃないやろうな~」
どすが利いた低い声に、体をひねって後ろを振り向いたヘスティアが見たものは、まさかのロキであった。ロキはツインテールを離すと、ヘスティアの両頬を引っ張り始める。
「ええーぃ、どうなんや、白状せんかい、おらおらぁ!」
「うおおい、僕が眷属のハリー君からプレゼントをもらったからって、君が怒るこたぁないだろう」
極めて全うなことを言うヘスティア。だが無理を通して道理を引っ込ませるロキである。当然そんなことを言われても聞く気が無い。
「くぅ、うちかて、うちかてなぁ、ハリーはんから何かプレゼントもらいたかったでぇ・・・」
うっすらと涙を浮かべて悔しがるロキ。
「よそはよそ! うちはうち! 君は自分ところの眷属のアイズ・某君からもらえば良いじゃないか。お気に入りなんだろう?」
「アイズたんは、何かちょーーーーとばかり、本当にちょっとだけやで、ちょっとだけ冷たいから、プレゼントとかくれないんや・・・」
相変わらず、頬を引っ張りながらロキが言い返す。
「ハリーっていうの? あなたの眷属は?」
「うん、ハリー・ポッター君さ。大事な眷族だよ」
鍛冶神の確認に、ヘスティアが名前を教える。そんな三人のやり取りを見ていたフレイヤがワイングラスをテーブルに置いた。
「さて、そろそろ私は失礼するわね」
「あら、もう帰るの? もっと話したかったのに」
鍛冶神の口調には、この面倒な二人を押し付けないでくれと言外にこめられていたが、フレイヤはあっさりと答える。
「ええ、此処での用事も終わったことだし、急用を思い出したから。三人はゆっくりして言ってね」
艶然と微笑むとフレイヤは会場を立ち去った。
「いや、それは
「そういや、そのアイズ・某君だけど、恋人とかそういう人物はいるのかい?」
ヘスティアはベルのスキルの元凶となったアイズの事を確認する。
「はあ? いるわけないやろ! いいよるやつは、偶にいるらしいんやけど、アイズたんはそんな者には見向きもせぇーへんでぇ・・」
ちっと舌打ちをするヘスティア。
「なるほど、その見向きもされないうちの一人が君というわけか」
「ちゃうわぁ、アイズたんは、クール・ビューティなだけで、誰にでもちょっとばかし冷たいだけなんゃぁ・・・・」
方やアイズに相手にされないロキ。方やベルとハリーからプレゼントをもらうヘスティア。なんだか可哀想になったヘスティアが、ロキを慰めるようにぽんぽんと肩をたたく。勝負に負けたことを感じたのか、ふががぁぁと泣き叫びながらロキはあさっての方向に走り去ってしまった。
フレイヤは、ガネーシャ・ホームの廊下を歩きながら、微笑を浮かべる。それを見た忙しく立ち働いていた給仕のガネーシャ団員たちは惚けてしまい、動きを止める。フレイヤはそんな彼らに目もくれず、いや視界に入っていても意識には入っていなかった。フレイヤは白髪、赤眼のまだ幼いとも言える少年のことを考える。
「純粋で透明だった。見たことも無いほどの美しさ。輝きはまだまだだけど、これから傷つき闘い成長して行けば、眩いばかりに輝きを増していくはずだわ」
恍惚とした表情を浮かべる。そして口角はわずかにつりあがり、そのまなざしは、獲物を見つけた肉食獣のものになっていく。
「手に入れて見せるわ。ハリー・ポッター」
フレイヤが、ベル・クラネルとハリー・ポッターの名前を取り違えていることに気づくには、もう少し時間が必要であった。
『うってつけのスキルがあるのです』
初対面の人に、スキルうんぬんは言わないはずなのです。しかし、あの小柄な体格で、あの巨大なバックパック持ち運んでいたらねえ・・。アビリティがあるんならサポーターはしないだろうから、なんらかのスキルがあるって、察する事ができますもんねぇ
次回、『ヘスティアの願い』