翌日の朝。
ベルとハリーがバベル広場でリリルカを待っているときに、赤い装備に身を包んだ男が、いきなり、ベルのそばに現れると、肩を組んで話しかけた。
「いよーう、お兄さん、おはようさん」
ぎょっとするベルにかまわず男は話を続ける。
「まあまあ、あわてるこたぁない、ちょっと儲け話を持ってきただけなんだ。いぃーい話しだぜぇ。ほんのちょっとしたことをするだけで、たぁんまりと金が入ってくるんだ」
なれなれしく肩を組んで話しかける男にベルは警戒心を露にし、男を振り払おうとする。
「な、一体なんだっていうんですか?!」
男は、肩を放さずなれなれしく、話し続ける。
「まあまあ、知ってるんだぜぇ、おめぇ、最近、アーデとつるんでるだろう。あいつはなぁ、ああみえて結構な玉でよう。小金をたんまり集めてやがるんだ。そいつを巻き上げようってことさ。簡単だろぉう?」
「それって強盗じゃないですか。僕はそんなことしませんよ!」
ようやく男を振り払い、怒りの表情ではっきりと断るベル。しかしそれを聞いて男はきょとんとした表情を浮かべる。
「はぁ、オメェ、何言ってんだ。あいつは、サポーターだぜぇ。それにあいつはおとなしい顔して油断させて、後ろからドスッってやる奴だぜぇ。そして有り金ぜぇ~~んぶ冒険者の懐から盗んでるんだ。そんなサポーターから金を取り上げて何が悪いってぇんだ?」
本当に心底不思議そうな表情だった。
「まぁ、考えといてくれよ」
そういうと男はベルたちから離れ、人ごみの中に消えていった。
その二人に後ろから声がかけられる。
「おはようございます。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
ぎょっとするベルとハリー。
「? どうかされましたか?」
今の男の話の真偽は不明だが、なんとなく、気まずい思いをする二人。
「いやなんでもないよ。じゃあ、そろったことだし、ダンジョンに向かおうか」
ベルがごまかす。リリルカも気にしていないのか、
「では、今日も8階層ですね。お二人の活躍、期待していますね」
にこにことしながら、二人に話しかける。
そんなリリルカを見て、後ろからドスッとするような人物には見えないんだけれどなぁと、ハリーは考えるのだった。
**********
「で、いつまでそうしているつもりかしら」
神の宴が終わりすでに三日がたっている。
「というよりも、そのドゲザ?だっけ。誰から習ったのよ」
「極東出身の友神タケからさ。誠意を示すにはこれが一番だって。この姿勢だと、相手に首をさらしているから、刀ですっぱり首を切り落とせる。しかも相手を見ていないから、自分では防御もできない。最大限の無防備状態。すなわち最上級の誠意を見せる方法だそうなんだ。彼もこの土下座で誠意を見せたことがあるんだそうだ」
一体全体何だって厄介なことを教えるのよと、鍛冶神はそのタケを心の中で恨む。
「誠意を見せるにしても、宴からもう三日もドゲザしてるじゃない、いつまで続けるつもりなのよ」
あきれるというか、うんざりした表情を隠しもせずに鍛冶神はヘスティアに問う。
「そりゃあ、君が僕のお願いを聞いてくれるまでだよ」
頭をかかえ、こめかみを揉む鍛冶神。『泣く子にゃ勝てぬ』とかいう言葉があるが、鍛冶神はヘスティアにどうも甘いところがあると自覚している。オラリオにきたヘスティアの面倒を見たりとか、追い出した後も教会地下に住むように世話したりだとか、ヘスティアの様子を時々自分の眷属に見に行かせていたこととか、この三日間も眷族に命じてヘスティアを放り出さなかったことがそれを示しているとも自覚している。
「何だってまた、そんなに武器がほしいのよ。駆け出しなんだから普通に武器を買えば良いじゃないの。身の丈にあった武器を使うほうが良いわよ」
一級品の武器は必要は無いだろうと言外で問いかける。
「それはそのとおりなんだけれど、僕は彼らの力になれないことがいやなんだ。彼らはダンジョンで命を懸けてがんばっている。強くなる、オラリオ1のファミリアになる、英雄になる。そんな目標のためにがんばっている。そんな中、僕にもプレゼントをくれたりもしている。そんながんばっている彼らに対して僕ができることは何だろうって。
恩恵を与えて、あとは見守ることしかできない。ダンジョンで大怪我をして、今にも死にそうな目に今! この瞬間にも! あっているかもしれない。それに対して僕は無力だ。神々は見守ることしかできない。でも僕はそんなのは嫌なんだ。何かちょっとだけでも良いから力になりたいんだ!」
感情をあらわにし、激白する。つたない言葉ながらも、ヘスティアがいかに眷属を大事にしているかよくわかる言葉であった。それを聞いた鍛冶神はお手上げというように軽く両手を挙げた。ヘスティアの我侭ではあるが、今までの自分のための我侭ではなく、眷属を思って自分が出来ることは何かと考えての、眷族のための我侭。すこしは成長したようだと認めた鍛冶神である。
「わかった。わかったわよ。それでどんな武器が要るのよ?」
「お願いを聞いてくれるのかい!? ありがとう、ヘファイストス!」
喜びのあまり飛び上がり、足がしびれているので、そのまま転がるヘスティア。ソファの足に頭をぶつけ、足と頭を交互に抱えてうめく。そんなヘスティアを鍛冶神は、シリアスな雰囲気が台無しだとあきれて眺める。まあ、こういうのが、ヘスティアらしいんでしょうけれども・・と考え直す。
「で、どんな武器を使うのよ、その子は?」
「うぐぐぐ・・えっとベル君はナイフだね」
頭と足とを同時に抱えようとして失敗しながらヘスティアは答える。『ベル君は』という言葉に鍛冶神は優美に片眉を上げる。
「ハリー・ポッターじゃなかったの?」
宴のときに聞いた名前とは違うのを指摘する。
「あ、ハリー君は二人目の眷属さ。実を言うと彼のことでも相談があるんだ」
「あら。あなた眷属はもう二人もいるのね?」
確かに、あの時は、眷属の人数は話題にならなかった。
「うん、そうだよ。ああ、そういえば言ってなかったっけ? 団長ベル・クラネル、副団長ハリー・ポッターの二人だよ。ベル君がナイフを使い、ハリー君が杖を使うんだ」
材料は足りるかなと考えながら鍛冶神は椅子から立ち上がる
「じゃあナイフから作り始めるわね。ヘスティア、あなたも手伝うのよ」
「え、ヘファイストス、すぐ作ってくれるのかい?」
ヘスティアは驚く。
「ええ、そうよ。ただし神の力は使わないで、一般的な鍛冶の技術で作るものになるから、それはあきらめてよね」
頭の中で、ナイフ作成手順をスケジューリングしながら、道具をそろえていく鍛冶神。まさかすぐさま作ってくれるとは思っていなかったヘスティアは大喜びである。
「もちろんさ、無理なお願いを頼んでおいてこういうのもなんだけれど、君が作ってくれるだなんて、こんなに嬉しいことは無いよ。ありがとう、ヘファイストス!」
「ただし! お代はびた1ヴァリスとも負けませんからね。何年かかっても良いから、ちゃんと払うのよ」
材料が足りるかなと、考えつつも、棚の中をあさる鍛冶神。
「わかってるとも。時間はかかるけど必ず返すよ」
続けてヘスティアは相談を切り出す。
「さて相談というのは、ハリー君の武器のことなんだが、木製の武器がいいという話なんだ。だけど、僕が知ってる限りでは、一般的には金属製の方が良いらしいんだ。専門家としてはどう思う?」
鍛冶神はため息をつく。確かに自分は武器製作の専門家であるのだが、武器使用の専門家ではないし、ましてや魔法使いとしての専門家でもない。無責任な言い方になるが、はっきりいってしまえば、お客さんの意見が専門家としての意見になるのだ。
「はっきり、端的に言うと好みの問題ね。そして魔法に関しては、精神的なものが影響を与えるから、本人がそういうんだったら、そのほうが良いんでしょうね。木製の武器ねぇ・・・うーん、他に何かどんなのが良いとか言ってた?」
「なんと言っていたかな」
ヘスティアはハリーとの会話を思い出そうと眉間にしわを寄せる。
「確か、杖の中心に芯材を入れるって言っていたよ」
それを聞いて鍛冶神は考える。木製であり、魔法使いの武器であること。で、たぶんだが、しばらくは、できればずっと、使い続けることができるような武器。ということは、できるだけ頑丈なほうが良いだろう・・・。噂で聞いたことがある
「じゃあ、ハリー・ポッターの杖のほうは実験用として作成するから、割引しておくわ。ただし使い心地を連絡してね」
こうしてヘスティアは、武器二振りの代金として3億ヴァリスの借金を持つことになる。
********
ここはダンジョン9階層の一般通路から離れたエリア。ハリーとベルとで、モンスターと戦っていた。稼ぎもよいし、モンスターの数が足りなくなってきたと感じたので、エイナと相談の上で、さらに一つ階層を進めたのである。敵の数も大分多くなっていたが、フロッグ・シューター、パープル・モスなどはハリーが足止めし、その間にベルがウォーシャドウ、ニードルラビットなどを切り倒している
ウォーシャドウの両手での連撃がベルを襲う。初撃をプロテクターで上にはじき、相手の腕の下側にもぐりこむことで二撃目をかわしつつ、足元を切りつける。すかさず背後に走りぬけ、背後に回り、ニードルラビットを、ウォーシャドウに向けて蹴り飛ばす。ウォーシャドウともに体勢を崩したラビットをよそに二匹目のラビットにバゼラートで切りつけ絶命させる。その後、ようやく立ち直ったウォーシャドウに突進し、肘打ちを叩きつけ、すぐさま身を翻してニードルラビットにナイフを全力で振り下ろし、息の根を止める。
その間にハリーは、
そして、ベルが壁をけりつけ、天井まで三角とびの要領で飛び上がり、そのパープル・モスを両断する。
「お二人とも、すごいです!」
目の前に両膝をまげてバランスよく着地したベルに向けて、リリルカが賞賛の言葉を叫ぶ。そう、ベルとハリーは、リリルカ・アーデをサポーターとして正式に雇うことにしたのである。理由は簡単、リリ自身が言っていたように、サポーター向けのスキルのおかげで大量の魔石とドロップアイテムを運ぶことができるのである。すなわち、一回、ダンジョンにもぐるだけで大量のお金が手に入るのである。
「えっ? へへへ、そうかな」
リリの純粋な賞賛の言葉にベルは照れくさそうに喜ぶ。
「そうですよ、今までリリは大勢の冒険者様についてダンジョンにもぐりましたが、これだけ手際よく戦う冒険者様は初めてです。しかも"たった二人で"ですよ。九階層だともっと手間取るものなんです。さて、魔石の抜き取りはリリに任せて、お二人ともすこし休憩していてください。すぐ片付けますからね」
そういうと、リリは解体用のナイフを使い、モンスターから手際よく魔石を抜き取り始める。魔石を抜き取られるとモンスターの体は灰になっていく。何度見ても不思議な光景をハリーはじっと見つめ、ふと質問をする。
「そういえば、アーデはオラリオのお店とか詳しいのかな? 材木を売ってる店があったら教えてほしいんだけれど」
リリの目が訝しげになるが、解体の手を止めることは無い。
「アーデではなく、リリとお呼びください、ハリー様。それと武器屋ではなく、材木店ですか? 家具でもお作りになるので?」
そこまで話していたときに、通路の奥の暗がりからキラーアントが二体現れる。
「まあ、そんなところかなって、キラーアントだ。ベル、どうする?」
「申し訳ありません、魔石の抜き取りはもうすこしかかります」
リリルカが申し訳なさそうに言う。
「じゃあ、全速でこの二体は倒すよ、そして、すぐ移動するから」
すかさず、ハリーが一体に
一方ベルはハリーが麻痺させた一体目に近寄り、キラーアントの甲の隙間に両手でナイフを叩き込んだ。狙ったとおりに隙間にナイフが滑り込み、キラーアントは絶命する。以前は苦労していたキラーアントに、今では勝てるようになっている。ステイタスの向上を感じる瞬間である。
大きく息を吐き、ベルはリリルカの方を振り返る。
リリルカは先ほどまでの魔石抜き取りとドロップアイテムの回収を終えていた。
「仲間は来そうに無いかな?」
三人で、周りの様子を伺うが、追撃は無いようである。
「リリ、キラーアントは硬いけど、解体は大丈夫?」
「お任せくださいベル様。二分で終わらせます」
解体ナイフを親指代わりにぐっと立ててみせるリリルカの頼もしい言葉に、ベルはにっこりうなづく。
「じゃあ、時間も時間だし、それが終わったら今日は引き上げよう」
そしてこの日の稼ぎは2万ヴァリスになった。
「なんでだよ! どう考えたって、こんな餓鬼どもより俺たちのほうが稼いでるはずだろ。何でこっちは2千ヴァリスにしかならねぇんだよ、こちらとら命かけてダンジョンに潜ってんだぞ! もっと高く買い取れるはずだろうがよ! てめぇ、なめてんのかよぉ!」
ベルとハリーの換金額を聞いて、隣の買取窓口で、三日月と杯のエンブレムを肩につけた冒険者が荒れている。ベルはどこのファミリアかエイナに聞いてみようと考える。余計な火種が飛んで来ないうちにと、二人は素早くカウンターを離れ、ギルドから外に出て、待っていたリリルカと合流する。
「全部で2万ヴァリス、三人で山分けてしても一人約7千ヴァリス! はい、これリリの分だよ」
そういってベルはリリルカの分を渡す。リリルカはそれを前に受け取ってよいのかどうか迷っている。
「いいのですか、ベル様。普通はサポーターの取り分はもっともっと少ないのですよ?」
「いや、いいんだ、ここまでの金額になってのはリリが荷物を持ってくれるからだし、僕たちが戦闘に専念できるようにしてくれるおかげだからね」
その言葉に、うんうんと頷くハリー。そう言われて、思わず笑みをこぼしながら自分の分を受け取るリリルカ。その嬉しそうなリリルカの顔を見てベルが提案する。
「これはちょっとお祝いをしても良いんじゃないかな」
「そうですね。でも、リリからのお願いですが、明日はお休みにできないでしょうか」
「何かあるの?」
「はい、私のファミリアのほうでちょっと集会があるので、顔を出さないといけないのです。お二人も明日は怪物祭ですから、そちらに顔を出してはいかがですか」
「怪物祭? どんなものなの?」
ハリーがたずねるとリリルカは驚く。
「ご存じないのですか? ガネーシャ・ファミリアがダンジョンからモンスターを連れ出して、闘技場で
「えーーーー」
ハリーはドン引きである。モンスターの調教ということで、魔法生物大好きなハグリッドのことを思い出したのである。それと同時にハグリッドが大事にしていた魔法生物のおかげで発生した、さまざまなトラブルも思い出していた。とくに体長4メートル近い
物好きな人はどこにでもいるもんだなと呆れるやら、驚くやら、感心するやらのハリーである。その複雑な表情を見てリリルカはあわててフォローを入れる。
「普段は見れないモンスターや、調教の実演を見られるということで、オラリオ市民だけでなく、冒険者様たちにも大人気なんですよ。このお祭り用に見栄えが良い珍しいモンスターを捕まえてくるそうですから。お祭り騒ぎになりますから、いろいろな屋台も出ますし」
「僕も見たことが無いから、明日はその調教を見に行ってみようよ、ハリー」
大蜘蛛もいたが、ヒッポグリフや、ユニコーンのような魔法生物もいたことを思い出し、ハリーも見に行くことにする。
そして三人は解散するが、ベルとハリーは今日の報告をするためにエイナに会いにギルドに戻るのであった。
しばらく並んだ後、順番が回ってきたため、ベルは話をはじめる。
サポーターを雇ったこと、月と杯のエンブレムはどこのファミリアなのか、買取窓口でのああいう冒険者は結構多いのか、10階層にそろそろ行こうと考えているが、どんな準備が必要かなどなど・・。横で聞いているハリーは、ベルが団長として成長していると感じて安心するのであった。
「んー、サポーターねえ、普通は同じファミリアの見習いメンバーがやることが多いわねぇ。なんと言っても持ち逃げとかでトラブルの元になることが多いから。その人は大丈夫なのかしら。信頼できる人かどうか確かめたほうがいいわよ。それから月と杯ってこのエンブレムかしら」
そういうとエイナはエンブレムが乗っている資料をめくり、目当てのページを広げて、エンブレムの一つを見せてくれた。
「各ファミリアは自分のファミリアの象徴になる図案を作ってるの。ベル君たちもヘスティア・ファミリアのエンブレムが必要だから、考えておいてね。アイデアを出してくれたら、こちらで清書するから、絵が苦手でも大丈夫だから安心してね」
「団長はいろいろと大変だな」
ベルの肩を励ますようにたたきながらハリーがからかう。
「いや、僕だけではなくて、神様も含めてみんなで考えるからね。で、エイナさん、このエンブレムですね。ここはどこのファミリアなんですか」
ハリーに対して釘を刺して、肝心なことをエイナに問いかける。
「あちゃー、やっぱりここかぁ・・此処はソーマ・ファミリアよ」
エイナは額を押さえて、悪い予想が当たったという口調だ。そして小声で囁く。
「ギルド職員が特定のファミリアのことを悪く言っちゃいけないんだけれど、此処のファミリアはどういうわけか、お金を稼ぐことに必死なのよ。買取金額が少ないって文句を言うことはよくあることだし。他の薬剤系とか鍛冶師系ファミリアとも金銭トラブルが多いって聞くわね。支払いが悪いそうよ。ベル君たちのところはそうなって欲しくないわねぇ・・・」
ベルとハリーは顔を見合わせる。エイナはそれを、金に汚い冒険者にはならないようにしようとお互い考えたと思ったのだ。だが、二人が考えたのは、同じこと、つまり、リリルカ・アーデの所属ファミリアの評判が良くないと知って心配になったのだ・・・
杖の値段は太っ腹にも、5割引きです。ナイフが2億ヴァリス。杖が2億ヴァリスのところ5割引で1億ヴァリスに。合計で3億ヴァリス。
解体作業・・作者にはちょっと無理だなぁ・・
次回『怪物祭』