ハリー・ポッターとオラリオのダンジョン   作:バステト

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怪物祭

 ベルとハリーは朝、バベルに向かって歩く。正確にはいつも、ベルがお弁当をもらってくる店に、今日はお弁当はいらないと話をしにいくのである。昨日のうちに話しをすればよかったのだが、忘れていたのだ。

 そしてハリーが待っていると、ベルが戻ってきた。

「お店の人から、忘れ物を届けるように頼まれた・・」

 シル・フローヴァという店員が怪物祭に出かけたのだが、財布を忘れたので届けるように頼まれたとのこと。問題はハリーがそのシルという店員に会ったことが無いことだ。闘技場に行ったらしいので、そこまではベルもハリーと一緒に行く。その後はベルがシルを探すので、ハリーは調教をみていて構わないといわれる。ハリーも手伝おうかと思ったのだが、ハリーはシルの顔を知らなかったので、せっかくだから見学することにした。

 まあ、慌ててもしょうがないということで、二人は屋台で買い食いをしながら闘技場に向かう。屋台の売り物になるものは世界が異なれど似たようなものになるのか、クレープ、ウインナー、シシカバブ、じゃが丸君、サンドウィッチなど、ハリーも見慣れているものに近いものだった。

「リリは集会はおわったかなぁ・・・」

 人ごみの中を歩きながら、ベルがふと思い出したように呟く。どうやらベルはリリをだいぶ気に入っているようである。

「ソーマ・ファミリアだったよね。評判悪いみたいだけれど・・・」

「明日様子をリリに聞いてみようか。何だか心配だよ」

 本当に心配そうな顔になるベル。

「僕のおじいちゃんはモンスターに殺されちやったんだ。そして行く宛てが無くなった僕は、冒険者になろうとオラリオに来たんだ。だけど、入れてくれるファミリアが無くてね。もうどうしようもなくなった時に、神様に会ったんだ。良い神様に出会えて幸運だったと今では思うよ」

 ヘスティアが良い神様であることには、ハリーも同感であった。レベルアップしたら居なくなるハリーを入れてくれるファミリアはまず無い。事実、無かった。

「だからさ、他の神様も良い神たちなんじゃないかって、最近までは思ってたんだ。だけど、ソーマ・ファミリアはそうじゃないみたいだしね。なんだか心配だよ」

 視線が下を向き、心配そうな顔になるベル。

「ふーん、じゃあ、ヘスティア・ファミリアに来るように誘ってみる?」

 何の気に無しにハリーが提案する。

「え!?」

 驚くベル。そのことはまったく考えていなかったようだ。

「どうしたんだい、ベル。ファミリアを変えることはできるんだろう?」

 ベルが驚くことに驚くハリー。だが、自分で言って、できるんだっけと疑問に思う。会社で言うと、退職して、別の会社に就職するようなものだから出来るよね。と自分を納得させる。

「そう、だね・・。うん。リリの様子をみて誘ってみるのもいいのかな・・神様にも相談してみようか」

「じゃあ、僕たちも集会をするわけだね。よし! じゃあ今日の夜にでも相談することにして、最初に団長から挨拶をしてもらおう!」

「えぇ、いきなり!」

「無茶振りに答えてこそ団長! らしいよ? がんばれ」

 そして団長とは何ぞやと悩み始めるベルだった・・。ハリーは、自分がリーダーをしなくてよいことにホッとして、ニコニコしながらベルを見守るのだった。

 

 

********

 

 

 所変わって、とあるレストランの中。二人の女神が会談していた。

 一人は赤髪のスレンダー美女、ロキである。もう一人は黒に近い緑色のローブをまとい、フードを目深にかぶった女性。だが、ローブをつけていてもそのスタイルの良さを隠すことは出来ず、顔が見えないにもかかわらず、絶対に美女だと確信させるものがあった。ロキの神界時代からの知り合いフレイヤである。

 そしてロキの後ろには金髪青目の、神々がうらやむほどの美貌を持った女性が一人立っていた。本日のロキの護衛兼お守り兼お目付け役のアイズ・ヴァレンシュタインである。赤黒いマフラーを首に巻き、紺と白のボーダー柄のシャツ、膝までの緑色のズボンを身に着けている。武装は腰に短めの剣を佩いているのみ。二つ名の拳姫のとおりに、基本は素手で戦うスタイルであった。

 アイズは静かに女神二人の会話を聞いていた。話が終わり、フレイヤが立ち去る。ロキはアイズをつれて店を後にした。これから二人で怪物祭りを楽しむのである。

「なぁなぁ、アイズたん、何か食べたいものないかぃ。何でも買うたるでぇ」

「では、じゃが丸君の抹茶クリーム味と、ほうじ茶クリーム味と、麦茶クリーム味を三つずつ」

「・・・いや、アイズたんが、それで良いなら、ええんやけれど・・・」

 育て方を間違っただろうかと悩むロキであるが、最初にアイズと出会った時から、なんというか、こんな感じだったなぁと思い出せた。

「三つ子の魂百までっちゅうが、ほんまに食の好みは変わらんのやなぁ・・・」

 そしてアイズはじゃが丸君を食べながら、ロキは串焼きやクレープを食べながら、のんびり散策し、闘技場へと到着する。

「ん~、なんかあったんかな」

 クレープの最後のかけらを飲み込みながら、ロキが呟く。神界ではトラブルメーカーであったせいか、トラブルをかぎつけるのに鼻が利く。闘技場通路の目立たないところで、ギルド職員とガネーシャファミリアメンバーがもめているのが目に入ったのである。

「面白そうなもの、はっ、けーんー」

 すかさず、かさかさっと、ロキがしのび足で接近する。とっくの昔に食べ終わっているアイズも後ろをついていく。

「全員倒れていたって、何のための見張りですか! 逃げ出したモンスターの討伐手配と、市民の避難誘導をしないと」

 ギルド職員、エイナ・チュールの怒鳴り声にロキがにまにまと心の中で笑う。ギルドに貸しを作る良い機会やでぇ。おまけにガネーシャにも恩が売れる。チャンスや!

 ロキは揉めている所に飛び出していく。

「聞いたでぇ~。何や、困っとるんやな。今ならうちら(ロキ・ファミリア)が手助けできるけん、うちに詳しゅう話してみぃひんか? な?」

「神ロキ! アイズ・ヴァレンシュタイン氏も! ちょうど良かった。調教用のモンスターが逃亡してしまったのです。ぜひ協力してください」

 怪物祭りの手伝いで借り出されていたエイナが要請する。もちろん、エイナにも分かっている。ロキは親切心で言い出したのではなく、面白そうだから言い出だしただけであることを。でも猫の手だろうが、象の鼻だろうが、何でも借りたい状況である。

「うちは良いけど、ガネーシャんところも良いのか?」

 主神のガネーシャの性格からすると、後々揉めるようなことは無いはずであるが、念のためロキはガネーシャの団員に確認する。

「はい、10匹のモンスターが逃亡したのです。人手はあればあるだけ助かります。お願いします」

 予想通りの答えなので、ロキはすかさずアイズに指示を出す。

「アイズたん、聞いてのとおりや、逃亡した10匹のモンスター退治、頼めるか?」

 一つ頷くアイズ。

「造作も無い。ただしロキの護衛を頼む」

 

 そういうと、すかさず、闘技場の壁を蹴り、上へと登っていく。それを見た周囲の群集から驚嘆と賞賛の叫びがもれるが、アイズの耳には届いていない。正確には届いているが、意識には届いていない。ほどなく、闘技場の屋根に到達したアイズは、オラリオをぐるりと一望する。すでにモンスターが騒ぎを起こしているのかあちこちで屋台などが崩壊し、悲鳴も聞こえてくる。数歩後ずさりをすると、ステイタス任せの全力ダッシュからの跳躍をする。騒ぎの上空に近づくと、空を飛びながらも体制を変え、地上に水平な体制になり、手裏剣(スリケン)を矢継ぎ早に放つ。狙い過たず、モンスターの足を落とし、首を落とし、魔石を破壊する。

「ひとつ」

 

 すかさず、鍵爪つきロープを取り出すと、手近にある教会の鐘塔へと投げつけ、引っかかったロープを力任せに引くことで強引に空中で軌道修正をし、次のモンスターへと飛行する。その先にいるのは、アルミラージ。ネイチャー・ウェポンを入手できないため素手で子供に殴りかかっている。そこへ、アイズが投擲した手裏剣(スリケン)が降り注ぎ、灰へと変えていく。

「ふたつ」

 

 角全体がブレードになっているソードスタッグが、ガネーシャ団員に角を突き刺そうと突進し、頭を振り回す。いわば、巨大な剣の塊を振り回されて、団員は近づくこともできず、槍をもってこいと慌てふためいている。が、突然、ソードスタッグは足を手裏剣(スリケン)で打ち砕かれ激しい勢いで横転する。急所のわき腹が頭上に対してむき出しになる。ウカツ。その機を逃すアイズではない。いや、すでにそれを予測して手裏剣(スリケン)を放っていた。絶命するソードスタッグ。

「みっつ」

 

 こうしてアイズは、ロープを使って空中機動を行い、圧倒的優位な空中からの手裏剣(スリケン)爆撃で、モンスターを撃破していく。8体のモンスターを倒したところで、一度、地上へと、飛び降りる。目の前には9体目のモンスター、ライガーファングがいた。右手を引いて腰に構え、左手を前に突き出した構えを取る。その両目は殺気を放ち、赤く光る。

「モンスター、殺すべし! 慈悲は無い!!」

 アイズの殺伐とした、気迫に押され、凶暴なトラ形モンスターであるライガーファングは後ずさりをする。そこに一瞬の隙ができる。その隙を逃すアイズではない。一歩で距離をつめ、スピードを殺すため左足で地面を蹴り込み、その反動で右前蹴りを放ち、ライガーファングの頭を蹴り上げる。がら空きになった胴体に、アイズは高速で拳打を叩き込む。両足で地面を踏みしめ、その重みを一撃一撃にこめる。まず、ライガーファングは手がちぎれ、肋骨がくだけ、わき腹がちぎれ飛び、頭部が陥没し、顎が消し飛ばされる、そしてついに魔石が破壊される。その間0.2秒もかかっていない。最初の打撃で、叩き飛ばされた前足が地に落ちる前に、ずたぼろの肉塊となり最後には灰となった。明らかにオーバーキルである。だが、死体を爆発四散させることなく破壊するため必要な方法であった。

「アイズー!」

 そこに同じファミリアであるアマゾネスたちがやってきた。

「アイズさーん」

 と叫んでアイズに抱きつこうとしたのは、ロキファミリアが誇る魔法使いの一人、エルフのレフィーヤである。それをアイズは左手でさばき、最小限の動きで華麗にかわす。もちろんレフィーヤがこけないように支えて着地させるのも忘れない。

「ロキから、アイズを手伝うようにいわれたんだけれど、もしかしてもう終わった?」

 来たのはティオネ、ティオナ、レフィーヤの三人である。

「ロキの護衛は? モンスターは9匹倒した。カラテの足しにもならぬ敵だった」

 まずは主神の心配をするアイズ。

「護衛はラウルがしてるわ。じゃあ残り1匹なのね」

「いや違う」

 ティオネの言葉を否定するアイズ。逃げたのは10匹なのにどうしたのだと三人はいぶかしむ。

「アイズ。算数、わかるよね。10-9は1よ?」

 ティオナは両手の指で数を示してみせる。それを無視してアイズが指摘する

地面(した)から来る」

 そのとたん、石畳を下から突き破り、緑色の蛇のような物体が何体か飛び出してきた。そして、アイズやティオネたちに飛び掛る。

「なぁ!?」

 驚きながらも、アマゾネスたちは、拳をふるい、その物体を弾き飛ばす。レフィーヤは反応が遅れるが、横からアイズが間に割って入り、飛び掛ってきた物体、いやモンスターに手刀を叩き込み、動きを強制停止させる。

「何よこれ蛇!?」

 ティオネが叫ぶ。長さ3m程度で太さもそれに見合ったものだ。先端がやや膨らんでおり、緑色の蛇に見えなくも無い。それが五体。石畳の上をのたくりながら、再度襲い掛かってくる。

「攻撃が効いてない?」

 再度殴り飛ばしたティオナが叫ぶ。

 魔法使い(レフィーヤ)が詠唱を始める。とたん。一斉にモンスターがレフィーヤの方にぐいっと鎌首を向け、飛び掛ってきた。

「ひいっ」

 狙われることは覚悟していたが、まさか全モンスターに飛び掛られるとは思わなかった。レフィーヤは悲鳴を上げ、うかつにも詠唱を中断させてしまう。だが、アイズがレフィーヤをかばい、モンスターを拳で殴り、手刀で打ち払い、蹴り飛ばす。

「あ、ありがとうございます!」

 かばわれて嬉しかったのか、少し赤い顔になるレフィーヤ。ティオナも蛇型モンスターを殴りつける。

「硬い! あー、お祭りだからって武器もってこなかったのは失敗だった!」

 レベル5であるアイズやアマゾネスが容易く反応できるが、レフィーヤが反応できない素早さから、レベル自体は4相当だと考えられる。だが、耐久が異常に高い。素手とはいえレベル5の攻撃に耐えられるのが不思議なほど高い。

 そして、あたりが地響きを始め周囲の屋台の柱が倒れて崩れていく。

「今度は何よ?」

 地面が一直線にひび割れ、そこから土砂がもりあがって行く。何が出て来るのか。

 それに対して注意を払いつつも、アイズは、大量の手裏剣(スリケン)を放ち、蛇型モンスターを一匹切り刻んで絶命させる。それを確かめると腰の剣をはずし、ティオネに放る

「打撃耐性があるが、斬撃なら攻撃が通る。使うのだ」

「わかった」

 アイズには手裏剣(スリケン)があるから問題なしと判断したティオネ。剣を鞘から抜き放つと、一匹に斬りつける。胴体を半分ほど切断したところで刃が止まる。

 妹はモンスターを殴りつけながら、ぶーたれる。

「私の分は・・無いよね・・うん、知ってる・・・」

 そんな妹をアイズは慰める。

「10の打撃で倒せぬなら、1000の打撃を叩き込むのだ」

「いや、それができるのはアイズだけだからぁっ!」

 そうして話をしている間にも、裂け目から土砂を撒き散らしながらモンスターの全身が現れる。土砂の中から出てきたのは、巨大な蛇型モンスター。先ほどの蛇型と同種であるが、サイズが違う。全長30m、太さは2mほど。そして鎌首をもたげると、それに裂け目が入り、ぐばりと開く。

「蛇と思ったら花ぁ? 最近新種が多くない!」

 先ほどからいる小型のモンスターも頭部が花開いている。ただの花ではない、花弁の中心には口があり、口の周囲には、鋭いさまざまなサイズの牙が無数に生えている。

「アイズはあの大型を相手して。私とティオナはレフィーヤの護衛。レフィーヤは魔法詠唱を! まずは大型を倒して、それから、小型をつぶすわよ。レフィーヤ、わかってるとは思うけど、炎はだめよ。火事になるから」

「大丈夫です。氷系統行きます!」

 これだけ巨大だと、スリケンや、剣で倒すのは難しいと判断して、魔法攻撃を本命にすることにしたティオネが指示を出す。

 

 すでにアイズは大型に接近し、攻撃を開始している。手刀、蹴りを放っているが、効果はあまり無いようだ。

 そんなアイズに対して、花蛇は尾を振り払い、花弁での打撃、噛み付き攻撃を繰り出している。その巨体のため動くだけでも脅威である。ティオナは尾のなぎ払いを受け取めようとして失敗し、崩れ落ちた屋台に叩き込まれている。レベル3の魔法使いならば、容易くつぶれてしまうのではないかと思われる力強さだ。そしてレフィーヤが詠唱を始める。

 そして、またもや小型の花蛇?型モンスターがレフィーヤに飛び掛る。アマゾネスたちが、1匹は拳で打ち払い、1匹は剣できりつける。だが、その二人の護衛の隙をついて1匹が屋台の残骸から飛び出し、レフィーヤに肉薄する。

ウカツ。

ティオネは、モンスターが偶然にも連携をとっているような行動をする可能性を見逃していた

レフィーヤは詠唱に集中していたため、避けることもできず、咄嗟に杖をあげて防御するが、それも間に合いそうに無い。

ティオネは、間に合わないと思いつつも全力で剣を投擲しようと振りかぶる。

護れ(プロテゴ)ォ!」

 花蛇モンスターはレフィーヤの手前1m程で見えない壁にぶつかり、そして、それを破壊してさらにレフィーヤに襲い掛かる。だが、手前30cほどでもう一枚の見えない斜めに傾いた壁(・・・・・・・)にぶつかり、滑るように壁沿いに軌道を変えて、レフィーヤの頭上を飛び越えていく。

裂けよ(ディフィンド)切り裂け(セクタクセンブラ)!」

 見えない刃が、追い討ちをかけ、ダメージを与える。そこへティオネが素早く近寄って剣を振り下ろし、絶命させる。

「大丈夫ですか?」

 杖を構えたハリーが、走りよってきた。

「やあ、ハリー。今の魔法、あなた?」

「ええ、防御魔法と、攻撃魔法です。なんだかよくわからないけど、危なそうだったので咄嗟に」

「助かったわ。後は、危ないからあなた(レベル1)は離れて見ててちょうだい」

「アッハイ」

 プロテゴにモンスターがぶつかった瞬間、まじかで花弁の中心の刃を見たためか、詠唱をとめそうになったが、なんとか持ち直しレフィーヤは詠唱を続けていた。

 

「アイズー、もう少しの間、がんばって!」

 ティオナに声をかけられたアイズは、空中で大型の相手をしていた。

 のたくり、うねるモンスターの体の上をチーターのように走り、花弁まで到達し、手刀で攻撃していた。もちろん黙って殺られるモンスターではない、自身の体を振り回し、暴れ周り、アイズを振り落とし、花弁で殴り飛ばし、口で噛み付こうとする。だがアイズは、トリモチめいた粘り強さで花弁に取り付き、振り落とされても、鉤付ロープを口に引っ掛けて、落とされないようにしていた。だが、これでは埒が明かない、街の被害が広がるばかりだと考えたアイズは詠唱を開始する。

「殺す!」

 アイズは叫ぶ

「モンスターは殺す!」

 アイズは吼える。

「すべて殺す!」

 そしてアイズの体から、赤黒いオーラがほとばしる。それはアイズに濃密にまとわりつき、戦闘装束に姿を変える。黒い鋼のブーツ。赤黒い上下の巣本の独特の装束。両手にはめられた鋼のブレーサー。頭巾を目深にかぶり、黒い鋼の仮面で顔の下半分を覆っており、見える部分は両目だけである。そして右目は異様にみひらかれ赤い光を放つ。仮面に記されたのは奇怪な二つの象形文字。右頬には『怪』。左頬には『殺』。だが共通語(コイネー)ではないため、識る者はいない。

極東出身の識る人が見ればニンジャ・ショウゾクとわかっただろう。しかも、アイズの魔法によって顕現した、ステイタスを爆発的に向上させ高い防御力と耐異常能力を得るマジック・クロース・アーマーなのだ。

「忍者?」

そして、ハリーはその『識る人』であり、アイズの姿を見て思わず呟いた。

 

 空中でアイズは右拳を腰だめに構え、モンスターに殴りかかる。

「イイイィィィィィヤァァァー」

 花弁の付根に突き刺さり、そして力任せに引きちぎる。

「GWAHAAAAA」

 花蛇が悲鳴を上げる。その超音波めいた響きは、あたりのガラスをすべて粉みじんにする。おお、なんということか、ハリーの眼鏡も砕けてしまった。

 そして、新たな蛇が数匹、地中から現れ、詠唱中のレフィーヤに襲い掛かる。

護れ(プロテゴ)ォォォゥ」

 よく見えないまま、ハリーがまたも防御呪文を唱える。

「詠唱早いね、そこの魔法使い」

 感心したようにティオナが褒める。

「私もここまで短文詠唱だとは思わなかったわ」

 護れ(プロテゴ)にぶつかり、スピードが鈍った花蛇を切り刻みながらティオネも呆れる。

 その間にもレフィーヤは、詠唱を続け、ようやく詠唱が終わった。魔法発動の合図のために、持っていた杖を振り上げる。

「アイズー、呪文行くわよー」

 ティオネがアイズに呼びかける。ハリーはあわてて、レフィーヤを守っていた護れ(プロテゴ)を解除する。

 一方アイズは、大型花蛇の花部分から頭上に飛び上がっていた。脚力に任せて高く高く飛び上がる。それを追って花蛇も頭を上へ上へと伸ばしていく。それに従い、体全体が、上へ上へと伸びていく。そして、身体がもうこれ以上伸びない限界点に到達する。

 

 そして、レフィーヤが魔法を開放する。

「【ヴァース・フィルヴェルト】」

 瞬間!

 風に吹きすさぶ氷雪が辺り一面に現れ、それが花蛇へと収束する。

「どりゃぁぁぁぁぁ」

 ティオナが、小型花蛇の尻尾をつかむと、その吹雪の中に放り込む、たちまち凍りつき、真っ白な霜におおいつくれ、さらに表面がひび割れていく。

 収束していくに従い、冷気は増大していき、辺りの気温もどんどんと低下していく。中心にある花蛇の尻尾も当然氷ついてく。そして急速に動きが鈍くなっていく。

 レフィーヤは、杖を両手で蛇へと突き出し、懸命に魔力の制御をしていく。ここで彼女が気を抜き、制御に失敗すれば、冷気が辺りにはじけとび、満ち溢れ、オラリオのこの一体が氷原になってしまう。懸命に制御し、花蛇へと冷気を集中させる。

 急激に冷やされ、ひずみができたせいか、大型の花蛇の尻尾部分にヒビが入っていく。すでに全体が凍りつき、巨大なアイスフラワーになってしまった。

「モンスター! 殺すべし!」

 アイズが頭から急降下し、振りかぶった右手刀を叩き込む。そのままの勢いで花蛇の頭から尾までを一気に地上まで手刀で切り裂いた。

 魔石も砕かれ、凍りついた灰が辺りに舞い落ち、もうもうとした灰煙に覆われる。

 そしてその中からアイズが歩み出てきた。

 忍者装束の解除され、先ほどまでの格好に戻っている。

「ちょーとアイズー、派手じゃーん」

 ティオナがからかう

「あの凍りついたまま、倒壊したら辺りの建物に被害が出る。状況判断したに過ぎない」

「さすがアイズさんです! 今のコンビネーション、今度、深層でも試してみましょう! 体の表面だけでも凍らせて動きを止めてみせます」

 合体技で倒したという認識なのか、とても喜んでいるレフィーヤである。

「そういえば、ハリー、魔法ありがとうね。団長にも伝えておくわ」

 ティオネの言葉に、ハリーが尋ねる。

「あー、それは、いいんだけれど、今のモンスターってダンジョンのモンスター? なんで出てきてるの?」

 そして、みんなは顔を見合わせるのだった。

「では、最後の10匹目を退治してくる」

 そういうと、アイズは走り出した。

「ちょっとアイズ、場所はわかるの」

「先ほど降りてくる前に、騒ぎが起きている場所に目星はつけた。問題ない」

 こうしてロキ・ファミリアメンバーはすばやく立ち去った。疑問にも答えてもらえず、取り残されたハリーは、しばらくの間は呆然としていたが、我に返ると無言呪文で眼鏡の破片を集め(アクシオ)修復(レバロ)した。

「予備の眼鏡がいるかな・・」

 ハリーの呟きを聞くものは居なかった。

 

 

 教会地下室にもどったハリーが見たものは、ベルとヘスティアが逃げ出した最後の10匹目シルバーバックと戦い打ち破り、疲労困憊してで寝ているという書置きだった。明日迎えに来てほしいとあったので、ハリーは疲れを癒すべく眠りにつくのだった。

 

 




まあ、なんというか・・・

アイズのステイタス--かなり適当
レベル5
力:C
耐久:E
器用:B
敏捷:B
魔力:C

発展アビリティ
忍者
奈落

魔法
【奈落】
詠唱文-「殺す。モンスターは殺す。すべて殺す」
効果-全ステイタスを向上。高防御と耐異常能力がある魔法装束の生成。

スキル
【怪物全殺】
強敵モンスターとの戦闘時に、ステイタス向上
【憎悪一途】
ステイタスに補正。モンスターに対する憎悪の丈に応じてステイタス向上。
手裏剣(スリケン)
手裏剣(スリケン)を投擲できる


パゼプトからの補足
【忍者】
--狩人、耐異常、快癒、精癒、状況判断等の内容を含むが、アイズたちにはそれが判明していない。そのため、意味が分からない謎アビリティ扱いになっている
【憎悪一途】
--ベルなどが持つ成長促進スキルではない。戦闘時のステイタス向上スキル。戦闘が終わると向上も終了する
 このステイタスだと対人戦闘よりも対モンスター戦闘のほうが向いてますね
 あと短めの剣を装備している理由ですが、えんがちょなモンスターに触らないで済むようにです。アイズ自身は、『えんがちょだろうが、そうでなかろうが、モンスターは殺す! 慈悲は無い!』な人です。ただ周囲のリヴェリアやラウル達から『いや、そうだけれど、お願いだから少しは気にしてください』ということで装備させられています。
次回は『新しい武具と、リリルカの問題』です
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