エアコン(すずしい)   作:薄いの

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エアコン(おまけ)

 今日は背中でポニーテールに結ばれている少しだけくすんだ銀に見える灰色の髪。

 平時ならば穏やかそうな相貌をした少女。

 

 それが、今は俺の服の袖をきゅっと掴み、ひとつ、声をあげた。

 

「―――ひどいっ! やっぱり若い子がいいんですねっ!」

 

 新居に引っ越して来て早々である。

 

 なぜ。

 なぜなのか。

 

 異国の美少女然としたエアコン(仮)はずずっ、と鼻水をひとつすすり上げた。

 その瞳には荒れ狂う激情らしきものを宿した雫が湛えられている。

 

 灰の髪の美少女(エアコン)は抱き着くような距離でごしごし、と俺の服の袖で涙を拭った。

 

「すいません、排水が……」

 

「……ねぇ。せめて涙って言ってくれない? 涙だよね、この液体。変な雑菌とか混じってないよね? 俺、このシャツ、ハイターとかで殺菌しないで普通に洗っていいんだよね……?」

 

 俺は内心戦々恐々としながら半笑いで告げる。

 

「……えへへ♪」

 

「はっはっは」

 

 "怒っているのにもう、こんな時まで冗談言わないでくださいよぉ~♪”的な表情でエアコン(仮)が笑っていたが、俺は割りと冗談で言っている訳ではなかった。俺もとりあえず笑って見せたけど。なぁっ! これ、衛生的に大丈夫な液体なんだよな! これ!

 

「でもっ、そうじゃないんですっ! そうじゃないんですよぉっ!」

 

 エアコン(仮)は“ぷんぷん”と口で言いながらあざとい言動を繰り返しているが、それでも可愛い。萌える白物家電だ。

 

「なにがだよ」

 

「見てくださいよぉっ! あれっ!」

 

 部屋中に積みあがった引っ越し屋が持ち込んだ段ボールの山のそのまた上。

 前の部屋でエアコン(仮)になる前のエアコン(真)状態だった頃のそれよりも、広くなった部屋ランクとともに何段階かランクの上がっているだろうエアコン様が鎮座していた。全然経年劣化も、日焼けもしていないようで、もしかしたら結構新しい機種のものなのかもしれない。

 

 そんなことをぼんやりと考えていると、エアコン(仮)はなおも怒り、冷気をびゅぉんびゅぉん吐き出した。結構寒い、というか冷風が目に吹き込んできて微妙に痛い。

 

「あんな若い子を連れ込むなんてっ!」

 

「エアコンの老い若いは俺にはちょっと早すぎる。あと連れ込んだんじゃなくて新居に乗り込んできた側だから、俺ら」

 

 エアコン(仮)の日本人離れした翠の瞳がきっ、と引き絞られて、俺に向けられる。

 しかし、あれだ。家電にここまで言われるのも納得いかないものがある。

 

「……くっ、そんなにセンサーとフィルターお掃除機能が付いた若い子がいいんですかっ!」

 

「むしろお前のフィルターどこについてんの」

 

「そっ、そんな恥ずかしいこと、聞かないでください……」

 

 エアコン(仮)は頬をわずかに染め、ポニーテールを揺らしながら俺から視線を逸らした。

 マジでどこについてんの(迫真)

 

 そんなこと言われるセクハラしたくなる。――よし、セクハラしよう。

 俺は極めて合理的な結論に至る。それは、誰だって至るであろう当然の帰結であった。

 

「ククク……」

 

 口の端を固く結び、悪そうな笑みをひとつ浮かべてやる。そうするだけで、ぴくり、とエアコン(仮)は少しだけ怯えたような表情で俺を見上げてくる。その様子を視界に収めた俺は、静かにNewエアコン(真)のリモコンのやたらと多いボタンの中からエコモードなるボタンを押し込み、運転させる。しかし、ぜってーこのボタンのうちのいくつかは俺が住んでるうちは使わないやつだろこれ。

 

「流石、201x年製の新機種だなァ! 弱、中、強しか運転設定ないお前とは大違いじゃねぇか!」

 

「…………ひどい。私がSANY〇製だからってそんな……」

 

 なにそれ、初めて聞いた。

 っていうかSANY〇ってお前の会社もうないじゃん。というか、どこに電話すればサポートで修理してくれんの……? SANYOが白物家電売ったのって何年だっけ? もしかしてお前、俺とあんま歳変わんない可能性すらあんの? エアコン(年上ぽんこつお姉さんヒロイン)なの……?

 

 一瞬にしてセクハラモードから素に引きずり降ろされそうになった。それだけ衝撃的だったとも言える。このタイミングでなんて凶悪なカードを切ってくる白物家電なんだ。……だが、舌を噛みしめ、その荒れ狂う感情を喉の奥で呑みこんだ。

 

「に、人間様舐めんなよ。こちとらコンビニでもスーパーでも近所びドラックストアでも市営図書館でも通りすがりに涼み放題なんだからなぁ! はははははっ!」

 

 げひゃげひゃ、と意識して下品な嗤い声をあげる俺。

 職場の同僚とかには死んでも見られたくない。マジで。

 

 聞きたくない、とばかりに、両の掌で顔を覆い、顔をいやいやするように首を振るエアコン(仮)。そして、感情の発露とともに撒き散らされる強力な冷風。

 

「そんな……私以外の……行きずりのエアコンとなんて……あぁっ…………ダメですってばぁ……」

 

 その冷風で巻き上がった彼女の前髪、そこから僅かに覗かせる興奮したように真っ赤に熱を帯びた表情。そして、その口元は、はっきりと三日月の形を、笑みを描いていた。

 

 うちのエアコン(仮)が俺には理解出来ない高次元のなにかに目覚めていらっしゃった。思わず、意図的に作っていたゲス顔が引き攣って崩壊しそうになった。

 

 

 

 

 

 夕方になって、エアコン(仮)で遊んでいたせいで寝具すら殆ど荷解きが進んでいないという現状に気づき、俺は苦しめられることになった。




 ◇

(GoogleH〇me miniを見ながら)

「ほぇ~。最近のたまごっちは喋るんですねぇ」つんつん

男「……」
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