お姉さんなら大丈夫   作:蕎麦饂飩

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 あの提督(ヒト)とすれ違ったとき、何処か懐かしい匂いがした――――気がした


艦娘の反逆? …そうね、筋力で何とかなるわ

 そこは、戦果においては最高の、そして、人間としては最低の提督がいた鎮守府だった。

 指揮官とは、最小限の損害で最大限の成果を出す事を求められる。

 それは言い換えれば、『効率よく配下を使い潰す』とも言えるだろう。

 

 その鎮守府の前任者はそれを正しく実行していた。

 そう、正しく艦娘を使い潰していた。

 桜花・回天・伏竜――――――禁じられた最終兵器『特別攻撃(トッコウ)』。

 極秘裏に開発した装備を使い、前の提督は深海棲艦を倒すために、妖精を自爆させる事で驚異的な命中率を生み出していた。

 

 艦娘達はその装備の力を発揮する事で、損傷を最大限に抑える事が出来るはずだった。

 しかし、肉体より先に心が壊れてしまった。

 その心に設定されたストッパーさえも歪んで壊れ、以前の提督は決して反逆するはずが無い筈だった艦娘により殺害された。

 

 下手人は赤城型一番艦赤城――――その提督の秘書艦であった艦娘だった。

 

 

 

「どうして赤城さんが…すみません、私のせいで」

 

「仕方ないわ。当然のことだもの」

 

 駆逐艦吹雪が申し訳無さのあまり目を合わせることもできないまま謝罪していたが、

当の赤城は、提督を殺してしまった自分が処分されることを真摯に受け止め、寧ろ毅然とした様子だった。

 そのアルカイックスマイルは、何処か禊を済ませて自刃する武士に通ずるものがあった。

 

 敵の艦隊を壊滅する手段として、練度が低く提督のやり方に着いてこられなかった艦娘自身を特別攻撃(トッコウ)にしようとして、

そして最早疲れ切った艦娘達はそれに抵抗する気力も存在しなかった。

 

 そして、その実行の日の前日、提督は殺害された。

 他ならぬ彼の秘書艦の手によって。

 

 結果として作戦は実行されず、成果は果たされることは無かった。

 それにより、犠牲によって獲得した海域と拡大していた戦線は敵の侵攻によって一気に収束した。

 

 

 それまで成果を出し続けた期待の星の失墜。

 彼に多くの投資をしていた軍司令部が、その事について問いただそうとした時、秘書艦の赤城の側から提督殺害の報が入った。

 

 護国の守護者たる栄光の一航戦は、逆臣の徒と成り果てた。

 

 

 これまでの提督の所業を鑑み、艦娘の名誉を回復すればそうならない可能性もあった。

 だが、秘密主義の提督が生み出した断片的な事実を、国民に向けて大々的に発表し、彼を英雄扱いした手前、

大本営はその判断を下すことが出来なかった。

 

 故に、代わりに国民に向けて出された公式(・・)発表は、『英雄の病による早すぎる死』であった。

 天才の神がかった指揮を引き継げる者がいなかったことで、一代限りの輝きは失われてしまった事に国民達は嘆いた。

 殺害された提督を神格化することは大本営にとって、国民の意を得るためには必要なことだった。

 

 そして、軍内では反逆した危険な艦娘の処分が検討されていた。

 勿論このことは国民には内密にされている。

 もし情報が漏れても、軍神に依存した艦娘が後を追った程度の内容を流布すれば良い。

 司令部の中にはその様な意見すらあった。

 

 

 苦渋の決断で指揮官を殺した赤城や、赤城によって救われた艦娘達の意志を踏みにじるような判断だった。

 

 

 

 しかし、上官の殺害を赦しては軍の秩序は保たれない。

 その上、人間より遙かに戦闘力の高い艦娘が、絶対服従する相手である提督を殺害するという事に脅威を覚えた者も多かった。

 

 故に、当初は同じく一航戦の加賀による爆撃で沈めるという案が最大派閥を取っていたが、

元帥の鶴の一声で、赤城が暴れたとしても鎮圧できる提督を差し向ければ良いという事に決定された。

 

 新しい提督は、女性でありながら並の艦娘を越える圧倒的な怪力の持ち主(・・・・・・)と有名な軍人だった。

 曰く、艦娘と腕相撲をして勝ったとか、艦娘と徒競走をして勝ったとか、そう言った逸話に事欠かない女性だった。

 弓道に関しても天才的な技の冴えを見せるが、ただ一つ、海で泳げないという欠点が玉に瑕だったが。

 

 

「もし、『反逆者(赤城)』が襲ってきたらどうする!?」

 

 元帥の親戚であるというその女性提督に、将官の一人がそう問いかけた。

 元帥も、その両腕と言われる部下もまるで心配していないように振る舞っていることが、彼には理解できなかった。

 相手はあの艦娘だ。人間を片手でひねり上げられる生きた暴力だ。挙げ句に制御装置が機能しているかも怪しい『赤城』が相手なら尚の事だった。

 しかし、うら若く艶のある髪を帯で巻いて留めている女性は、それを事も無げに、その大人びた容姿に反した屈託の無い笑みで答えた。

 

「その時は、お尻を叩いて反省させますよ」

 

 そういう問題でも無いのだろうが、陸上で殴り合えば深海棲艦にも勝てるのではとも噂される怪力の女性である故に、満更無い話でも無かった。

 艦娘を文字通りに力で押さえつけられる唯一の提督である彼女がそう言うのであれば、それ以上反論が出ることは無かった。

 

 

 

 

 かくして、その女性提督は問題の鎮守府に到着した。

 清潔過ぎるほどに美しく清掃が行き届き、余計なものが無く片付いた鎮守府はとてもでは無いが惨劇の現場とは思えなかった。

 

 しかし、彼女を出迎えた艦娘達は皆、何処か絶望が漂っていた。

 瑞鶴などは新たな上官を睨み付けてさえいた。

 

「新しい提督です。宜しくね。

色々あるだろうけど、お姉さんに任せなさい」

 

 可愛いと言うよりは美しいと呼ぶに特化したその容姿とのギャップが大きな、毒を抜かれるような笑顔ではあったが、

前提督を殺害した鎮守府に派遣される新提督という存在に、艦娘達は警戒心を解くことは出来なかった。

 

「…あらあら、大変そうね。

ーーーーところで、『赤城』は何処かしら?」

 

 聞かれたくなかったことを聞かれた艦娘達に衝撃が走った。

 いつか聞かれることは間違いなかったが、そのいつかが来なければ良いと皆が願っていた。

 

「『赤城』さんは、独房に入っています。

…己の意志で、そこにいます。国家への反逆の意志は全くありません」

 

 沈黙の中、唯一、口を開いた加賀は、そう告げた。

 その能面のような無表情の裏には、憤怒と、絶望と、懇願が入っていた。

 

「案内してちょうだい」

 

 その命令(・・)に加賀は従わざるを得なかった。

 従わなければ命令違反が蔓延したと取られ、他の艦娘まで危険物の扱いを受けることになる。

 それは彼女の親友の本意で無いことを加賀は良く理解していた。

 第一、提督の命令(・・)に艦娘は通常従わないことがあり得ないのだ。

 

 

 音の無い鎮守府で、足音だけが響く。

 次第に先導する加賀の歩幅が小さくなっていくが、提督は咎めなかった。

 

 そして、加賀にとっては永く、そして短すぎる時間が過ぎ、遂に寂しい地下の独房へと提督は辿り着いた。

 

「赤城かしら」

 

「はい」

 

 赤城は、提督を此処に連れてきてしまった事で良心の呵責に耐えきれず目をそらす加賀とは対照的に、まっすぐに新しい提督を見た。

 

 

 

 

――――その時、何故か赤城にはどこか懐かしい香りがしたように感じられた。

 

「此処に新しく赴任した提督よ。宜しくお願いするわね」

 

 赤城は、己に処分を科す死神に出会ったというのに、言葉も出なかった。

 先程まで、全てを諦めて、しかしせめて誇り高く消えようとしていたのに、今彼女はその決心が消えてしまったように呆けていた。

 

「…加賀、鍵を開けて赤城を牢から出しなさい」

 

 加賀はその言葉に即答できなかった。

 遂に、その時(・・・)がやってきたと思った。ずっと悩んでいたが、本来悩むことも赦されない反逆者の処分命令。

 それが来たと悟ったのだ。

 

「今一度御一考をっ!! 赤城さんをどうか…」

 

 己のために頭を下げる加賀の姿を見て、赤城は漸く我に返った。

 このままでは親友まで係累が及んでしまう。それは、彼女が望むことでは無かった。

 それは、加賀も理解していたが、それでも己を律することが出来なかった。

 

「そうね…」

 

 新たな女性提督は頬に手を当ててそう言った。

 赤城の命の重みをまるで意識していないようなその余裕に、加賀は悔しさを禁じ得なかった。

 

 

 

「大丈夫。お姉さんに任せなさい。私、とっても力があるんだから」

 

 二隻の空母がそれぞれの想いを抱えている中、お姉さんと自称する提督はそう笑った。




提督(新)
一人称は私、お姉さん
あらあらまあまあな典型的お姉さんキャラ。
好きな飲み物はプロテインで、苦手なものは炭酸飲料な典型的な大和撫子
身体は細いが、摂取するタンパク質の量は男性にも負けない。
ビタミンは髪のツヤになる。
炭水化物はエネルギーとして消費される。
脂質は胸に付く。

提督(旧)
故人。国民には某銀河の英雄な伝説の金髪さんのような扱いを受けている。
実際は義眼すらドン引きのクソ野郎。
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