何処にも救いは無い。けれど想いは願いは欲望は世界に溢れている。
信念で立ち向かう者を勇者と呼ぶとすれば、信念に溺れた者を鬼と呼ぶのだろう。
堕ちた勇者の居場所は、護国の鬼に受け継がれた。
最初は誰だって、綺麗で強い自分でいたい。
けれど、どちらか片方しか持ち続けられないなら、選ぶしか無いのだ。
誰よりも自分を律し、誰よりも強い。
その点で言えば見た目通りな提督は、秘書艦を帰らせた後、一人である資料に目を走らせていた。
それは、以前の提督の記録だった。
それは偶然見つかった。
艦娘の誰もその存在を知らなかった。
それは、苦悩と諦めと絶望に育まれた弱い人間の常勝記録だった。
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四月二七日
ああ、嘘みたいだ。
士官学校に入れたものの、入るだけが限界で周りに漸くついて行った俺が『提督』になれるとは。
士官学校のしごきで妖精が見えるようになって、周囲に馬鹿にされていた俺が、
その妖精が見えるということで、対深海棲艦決戦存在『艦娘』を唯一従えられる『提督』になれた。
不謹慎だが、俺はこの悪夢の時代に少しだけ感謝する。
この時代なら、俺はきっと馬鹿にされること無く、憧れられる存在になれるかも知れない。
艦娘には無理はさせない方針でいこうと思う。
五月一日
秘書艦の赤城は極めて優秀だった。
俺一人では終わらない書類を殆ど赤城が終わらせる。
そして、その手柄を主張しない。
おまけに美人だ。親交を深めていけば今まで彼女もいなかった俺にもその時が来るのだろうか?
六月三十日
俺の艦隊には駆逐艦が増えていく。
数が増えれば、もっと賑やかになるだろう。
今より指揮する数が増えたら、今後はどのような運用をすれば良いのだろうか?
八月二十二日
また駆逐艦か。
どうせなら戦艦とかが増えて欲しいな…はぁ。
十月十三日
共同演習で、他の提督に負けた。
正直、俺以外の提督が羨ましい。
高い能力、少なくとも俺の艦娘よりは強い艦娘が揃っている。
また、俺は提督達の中では底辺という扱いになるのだろうか?
かつて、士官学校でそうあったように。
十二月二十四日
敵に危うく鎮守府を潰され掛けた。
死ぬと思った。殺されると思った。恐かった。
だが、あの演習で俺を破った提督が助けに来て俺を救った。
…奴は出世して、俺はお叱りを受けるのだろう。
もし、『提督』の資格を持つ者が増えたら、俺は捨てられるかも知れない。
一月一日
去年と違って、俺に休みは無い。
失敗が続く提督に、休む余裕なんて与えられない。
本部からの電話で上官達になじられた。
失望されるのにはなれていたはずだが、堪えるな。
二月七日
どうしてあそこで敵に攻撃を当てられないんだ!?
しっかり狙ってしっかり当てるんだ。それだけの筈だろう。
もっと、最後まで敵に攻撃を与える手段が無いものか。
神でも悪魔でもいい。俺をヒーローにしてくれ。
九月九日
ははは、神か悪魔か知らないが俺を見捨てない者はいた。
俺は遂に完成させた。妖精自身を敵に当たるまで攻撃と共に同居させる自爆兵器『
これは俺の手柄だ。俺だけの秘密にして、俺だけの賞賛にならなければならない。
九月十六日
艦娘達が俺の大発明に対して難色を示す。
何だよ、お前達が弱かったから、俺は怒られ続けなくちゃいけなかった。死にそうになった。
今更何を言っているんだ。
十月十一日
やった。やった。大成功だ。
敵の大部隊を圧倒的少数で撃退した。
初めてかも知れない。上官達に褒められた。
演習で俺を負かした同期にも、見事だと言わせた。
此処から漸く俺の本当の人生が始まる。
十月二十四日
これだよ。これこそ、この勝利こそ俺が求めていたロマンだ。
そう思うだろうと赤城に聞いたが、澄ました顔で流しやがった。
…確かにアイツは美人だが、これからの俺なら
十一月一日
結果を出せば出すほど、どんどん艦娘の配下が増えていく。
資材や資金をどんどん優遇して貰えるから、何だって思うようにいく。
これが、勝利の椅子に座る感覚だ。
もうすぐ金剛級も全て揃うだろう。
十一月二十八日
新たな特攻兵器『桜花』が完成した。
以前の『回天』や『伏竜』を越える俺の最高傑作だ。
最早、航空攻撃の時代だ。
戦艦は以前よりは壁としての役割を増やしても良いのかも知れないな。
十二月二十九日
大戦果に続く大戦果。
俺だからこそやれた。誰もそれを否定できない。
非力な艦娘を有能な俺が引き上げて成果を出した。
一月一日
遂に言わせた。
この国にいなくてはならない英雄だと。
軍が、メディアが俺を賞賛する。
これだ。この感覚だ。
艦娘は最早俺と話すどころか目も合わせたがらないが、お前達がその態度を取っても俺を認める奴は沢山いる。
俺はこの国の
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そして、その借金して手に入れた大金のような幸せのツケを払うときがやってきた。
その1年後に、秘書艦赤城に殺され、前提督は死亡。
その記録を読み終えた彼の後を継いだ女性提督は、資料を裁断機にかけると窓の外に広がる蒼い海を眺めながら、小さく呟いた。
「貴方は、弱かった。
ただ、それだけのことだったのでしょうね」